表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽影の旅路  作者: ysk
16/37

第十二陣ー封じられた式神の名―

第十二陣 登場人物紹介


透牙とうが

陰陽師。依頼型物語における主人公で、式神を通して語られぬ記憶や祈りに向き合う役割を持つ。

•特性:式符を巻き、結界を張り、式神との対話や儀式を通じて依頼主の封じられた感情や記憶を還す。

•性格:冷静沈着で繊細、他者の感情や霊的な気配を読み取る洞察力を持つ。

•依頼型物語での動き:式神との対話を中心に、封じられた記憶の還元や依頼の成就を静かに遂行する。


透哉とうや

祈祷師。透牙の従者的立ち位置で、祈りと記憶の流れを読み解く役割を担う。

•特性:祈祷符を用いた風の流れの読み取り、儀式の補助。

•性格:穏やかで観察力に優れ、透牙の技と意思をサポートする。


ゆい

鏡の巫女。記憶や影を映す鏡を通じて、封じられた情報や過去の出来事を透牙たちに示す。

•特性:鏡を媒介として記憶や祈りの痕跡を可視化する。

•性格:冷静だが、秘めた感情を映す鏡を通じて仲間と共鳴することがある。


シロ

妖狐の式神。透牙と共に行動し、危険察知や霊的感知を担当。

•特性:霊感・嗅覚・俊敏な動きに優れる。

•性格:忠実で仲間思い。妖狐としての本能と人との絆の間で揺れることもある。


澄影すみかげ

封じられた式神。透牙の師・影澄によって名を封じられていた存在。

•特性:

•記憶の浄化と還元:依頼主や儀式の場に存在する封じられた感情や記憶を鎮め、光や風のような形で還す。

•静寂の護り手:戦闘向きではなく、精神的・霊的な調和を保つ役割に特化。

•名前の力:正式に名が呼ばれることで本来の力が発現し、記憶と祈りの橋渡しを行う。

•性格:寡黙で観察力が高く、透牙や依頼主の心の動きに敏感。儀式を通して信頼関係を築くことで、封じられた感情や祈りを安全に解放できる。

•依頼型物語での動き・演出:

•夜の依頼所での儀式において、霧や灯火の揺らぎとともに気配を漂わせ、封じられた記憶の還元を行う。

•透牙が式符を巻き直す際、澄影の残像や微かな光が式符に宿り、儀式の進行とともに封印が解かれていく描写が象徴的に演出される。

•儀式完了後は、依頼主の心に静かな赦しが宿り、透牙の“継ぎ手”としての役割が完成する。


影澄えいちょう

透牙の師匠。透牙に式神の扱い方と技の根源を伝えた存在。

•役割:透牙の技と心の深層を支え、封じられた式神の名に繋がる重要な記憶の指導者。

あらすじ 

光の都での巡礼を終えた透哉たちは、祈りの巡りから“依頼を受ける旅”へと歩みを進めていた。

訪れた山裾の町の依頼所で、彼らはひとつの奇妙な依頼を受ける。


――「名を失い、形を保つ式を鎮めよ。」


それは、主を失い、記憶を奪われた式神に関する封印依頼だった。

名を奪われた式神は、存在の意味を失い、やがて祈りの流れを乱す。


透牙は依頼文を見つめながら、胸の奥に微かなざわめきを覚える。

“名を奪われた存在”――それは、彼自身の過去にもつながる響きだった。


式神とは何か。名とは何を縛り、何を解くのか。

祈りと術の狭間で、透牙は“封じられた名”に秘められた真実へと近づいていく。


やがて、風が囁く。

「名を忘れた者は、何をもって世界に在るのか」――


祈りの巡礼の終わりに続く、“祈りを実践する者たち”の物語の第一歩。

透牙が、かつて封じた記憶ともう一度向き合う章が、静かに幕を開ける。


第十二陣・第一章 封じられた式神の名


朝の霧がまだ街を包むころ、透哉たちは旅支度を整えていた。

巡礼の果てに見た光の都を背に、次なる歩みは「依頼」という形を取ることになる。


「次の旅先はどうする?」

透哉の問いに、透牙は静かに式符を巻き取りながら答えた。

「……依頼所、行ってみよう。」


言葉は短く、それでいて確かな決意が宿っていた。

彼の掌にある符は、淡い青の気を帯びて震えている。

それはまだ呼応を求めている――語られぬ何かを。


街の外れにある古びた依頼所。

掲示板には“祈祷”“鎮魂”“封印”と書かれた札が並んでいた。

その中に、一枚だけ古紙のように黄ばんだ札が混じっている。


『封じられた式神の名を鎮めてほしい』


差出人の名はなく、印も曖昧。だが、その札からは確かに“気”が滲んでいた。

それは、かつて誰かが呼び、そして忘れられた存在の匂い。


透牙は指先で札をなぞり、小さく呟いた。

「……名を失った式、か。」


その声に、透哉が静かに頷く。

「放っておけないな。名前を失った存在は、記憶の淵に沈む。」


やがて四人と一匹は、札の示す山道へと向かう。

霧に包まれた山の奥、封じられた式神が眠る祠へ――。


それは、陰陽師・透牙が受ける最初の依頼。

語られぬまま封じられた存在との、静かな対話の始まりだった。


第二章 名を呼ぶ儀式


夜の依頼所。灯は落とされ、月光だけが床を淡く照らしていた。

透牙は静かに式符を並べ、掌を伏せて結界を張る。

結界が閉じると同時に、部屋の空気がわずかに震えた。


「……来てるな。」


透哉が低く呟く。

その声に、透牙は頷くこともなく目を閉じ、集中を深めた。

静寂の中、紙の符がひとりでに揺れる。風もないのに、まるで呼吸をしているかのように。


空気の層がゆがみ、結界の中央に黒い霧が滲み出した。

形を成さず、ただ「名を失った気配」だけがそこに在る。


「封じられた式神……呼ばれたことを、まだ待ってるんだな」

透牙の声は、どこか慈しむような響きを帯びていた。


透哉が問いかける。

「鎮めるのか?」


透牙は首を横に振り、口元にわずかな笑みを浮かべた。

「滅するのは、僕の性にあわない。」

「だったら――?」


「貰うよ。この式神は、僕が引き受ける。」


床に並んだ符が淡く光り、黒い霧が震える。

その奥に、一瞬だけ誰かの声が混じった。

――呼んでほしい。名を。


透牙はゆっくりと右手を掲げ、掌に残っていた古い印を描く。

淡い光が円を描き、空気が弾ける。


「……名を取り戻せ。」


その瞬間、黒い霧は一筋の風となって透牙の胸に吸い込まれた。

結界が静かに解け、部屋の温度が戻る。


透哉が小さく息を吐いた。

「……本当に、貰ったんだな。」


「うん。名前を失っても、存在は消えない。なら、僕が覚えておく。」


窓の外、風が静かに吹いた。

封じられた式神の名は、まだ完全には思い出されていない。

だが――その夜、確かに新しい主の元で、再び息をし始めていた。


回想章 影を継ぐ


式符を結界の中心に置いた夜。依頼所の灯が静かに揺れ、風もないのに紙がふと鳴った。

透牙はその音に、遠い昔の夜を思い出していた。

まだ、弟子だった頃の自分を。


湿った土と墨の匂い。山の庵の中、灯籠の光だけがゆらゆらと揺れていた。

師である影澄かげずみは、黙って筆を走らせていた。

紙の上に描かれていたのは、式の円――封印と解放、どちらにもなりうる複雑な式。


「透牙。」

名を呼ぶ声は、低く、穏やかで、それでいてどこか遠い。


「お前は“命を鎮める式”を覚えたな。」


透牙は頷いた。

「はい。でも、まだ……うまく“戻せ”ません。」


影澄は筆を止め、彼を見た。

「戻す、か。――それを望むのは、優しさだな。だが、時にその優しさが、誰かを縛る。」


師の視線は、結界の奥に眠る小さな影に向けられた。

半ば透けた存在。彼の初めての式神――カゲ。


命の一部を分け与えて生まれた、影のような式。

透牙はまだ幼く、式神に“別れ”の意味を知らなかった。


「……カゲは、もう限界ですか。」

「式は術者の心を映す。お前が迷えば、影もまた揺らぐ。」


影澄は静かに目を伏せ、続けた。

「封じることは、滅することではない。祈るように眠らせることもできる。」


透牙は唇を噛んだ。

「眠らせる……でも、それは、もう会えないってことですよね。」


影澄は筆を置き、透牙の手を取り、その掌に小さく印を描いた。

「――忘れなければ、まだ共にある。」

「記すことは、滅することではない。名を呼ぶこと、それが術の根だ。」


灯籠の光がゆらぎ、結界の内でカゲが静かに形を失っていく。

透牙の目から、ひとしずくの涙がこぼれた。


影澄はその涙を見て、微かに笑った。

「その涙を忘れるな。式に名を刻む者は、いつかその名に祈りを返すことになる。」


結界の灯が戻り、透牙はゆっくりと目を開けた。

掌に残る小さな印が、まだ微かに温もりを帯びている。


「……だから、滅さない。」

彼は静かに呟いた。

「名がある限り、式は生きている。封じるよりも、記す方が――ずっと、生きる。」


その声に、依頼所の灯が一度だけ強く瞬き、また穏やかに揺れた。

まるで、古い影がその言葉に応えるかのように。


第三章 名の残響


依頼所の夜は、静かな霧に包まれていた。

透牙は式符を前に座し、深く息を整える。結界の気配がゆっくりと周囲に広がり、空気に微かな振動を与える。


式符の表面には、かすかな焦げ跡と、微かな指紋が残っていた。

まるで、最後に触れた誰かが、名を呼ぶことをためらい、言葉を残せなかったかのように。


透牙はそっと手をかざし、指先で符の端を撫でる。

「……名を知れば、初めて話せるのか」

低くつぶやく声に、結界の光が微かに揺れた。


霧の奥から、かすかな気配が応える。

透牙は心を沈め、式神の存在に問いかけるように手を差し伸べた。

「あなたの名は……」


符がかすかに震え、淡い光が指先に触れる。

そして、その瞬間、式神の名が静かに透牙の胸に響いた。


名は封じられたまま、長く眠っていた存在の記憶を解き放つ鍵。

透牙はその名を繰り返し、心の中で静かに刻む。

「……これで、あなたと話せる」


霧の夜に、微かに光る結界の中心で、透牙と式神の新たな対話が静かに始まった。

名を呼ぶこと、それが、語られぬ影との最初の一歩であった。


第四章 名を呼ぶ儀式


夜の依頼所。

透牙は式符を前に座し、周囲の四方に護符を置く。微かな光が揺れ、結界の輪が静かに広がった。空気がわずかに震え、風・火・水・土――四つの気配が重なり合う。


透牙は深く息を吸い、指先で符を軽く弾く。

「……あなたの名を、今ここで呼ぶ」


低くつぶやく声に呼応するように、結界の中で淡い光が立ち上り、式符の表面を撫でる。式神の気配がゆっくりと姿を現し、長く封じられていた記憶が光の粒として舞い上がる。


透牙は式神の前にひざまずき、掌を合わせて静かに祈る。

「封じられたままのあなたの記憶を、今、還します」


光がゆらめき、空気が震える中、式神の名が透牙の口から穏やかに紡がれた。

名を呼ぶその瞬間、封じられた影が柔らかく解け、記憶が静かに空間へと広がる。


透牙の技と祈りに応えるように、式神は微かに頷き、長らく眠っていた力を取り戻す。

その夜、依頼所は静かな祝祭に包まれ、名を呼ぶ儀式は完了した。

語られぬ存在との対話――それは、陰陽師・透牙の技と心根が結実する瞬間であった。


第五章 還りの灯


儀式の余韻が、依頼所の空気に静かに漂っていた。

結界は解かれ、護符は淡く灰化し、微かな風に溶けていく。


透牙は式符をそっと巻き直し、式神・紡夜つむやの気配を宿した紙を胸元に収めた。光は穏やかに揺れ、室内の空気に温もりを残す。


紡夜の記憶は静かに還り、依頼主の胸には安堵と赦しの感情が芽生える。透牙の技は、師・影澄から受け継いだ精神と共に、祈りのように穏やかに誰かの命を照らす灯となった。


夜の依頼所には、静かで温かい空気が満ち、封じられた記憶と祈りが互いに和解する瞬間が訪れた。

透牙の手に握られた紙は、過去と現在、師の教えと技、祈りを繋ぐ証として、静かに脈動している。


第六章 式符の再編


夜が明けかけ、依頼所の空気は澄み、静かに霧が引いていく。

透牙は机の前に座り、巻き直した式符をゆっくりと広げた。


「紡ぐ……これが、俺の役目か」

透牙は小さく呟き、影澄の教えを思い出す。師の手ほどき、澄影との記憶、そして紡夜の存在――すべてが式符に息づいていた。


指先で符をなぞり、墨の香りを感じながら、透牙は静かに新たな線を加えていく。

黒と銀の墨が交わり、過去の祈りと現在の技がひとつの流れとなって、式符の上で光を帯び始めた。


「影澄……見ていてくれ、これが俺の繋ぐ力だ」

透牙の声に、依頼所の空気が柔らかく震える。光も風もなく、ただ符に込められた記憶と祈りだけが動き出す。


再編された式符は、紡夜の存在と師・影澄、澄影の記憶をひとつにまとめた“継ぎ符”として完成した。

透牙は深呼吸し、胸に抱えながらその重みと温もりを確かめる。


この静かな儀式は、透牙が“継ぎ手”としての本質を体現し、過去と現在、師と弟子、祈りと技を一つに結ぶ瞬間であった。


第七章 余白に残す


依頼所の朝は静かで、霧が晴れ、薄い光が窓から差し込んでいた。

透牙は巻き直した式符を胸に抱き、机の上に古い帳面を広げる。


「……ここに、残しておこう」

彼は小さく呟き、筆を手に取った。墨の香りが依頼所の空気にほのかに漂う。


頁をめくり、透牙は昨夜の儀式の記録を書き始める。

影澄の教え、澄影の記憶、紡夜の存在――そして、還された式神・澄影の微かな声や祈りの残響。

言葉にできなかった想いを、静かに余白に刻み込む。


文字は淡く、しかし確かに帳面に留まり、読まれることのない声たちがそこに宿る。

透牙は筆を置き、深く息をついた。

依頼所の空気は、今や穏やかでありながら、静かに鼓動を続けている。


この章では、透牙が技の余韻と記憶の灯を帳面に残すことで、語られなかった声や祈りを静かに後世へと繋ぐ瞬間が描かれる。


第八章 継ぎのみち


朝の光が依頼所の障子を透かし、淡く部屋を照らしていた。

透牙は静かに立ち上がり、巻き直した式符を懐に収める。

その紙には、影澄と澄影、ふたつの記憶が重なり、静かに脈動していた。


「これで、すべての声は届いた……」

透牙は小さく呟き、窓の外に目を向ける。

依頼所の外には、朝の霧が淡く流れ、まだ語られぬ式神や記憶たちの気配を運んでいた。


技とは術ではなく、記憶を結び直す灯であり、語られなかった声を聴くための道具。

透牙は“継ぎ手”としての役割を果たし、次なる技へ向かう決意を胸に、静かに歩みを進める。


これにて、第十二陣「封じられた式神の名」は幕を閉じる。

しかし、彼の歩みはまだ続く。語られぬ記憶と静かな祈りの道は、次なる依頼と試練へと繋がっていくのだった。

あとがき 第十二陣「封じられた式神の名」


本章では、透牙が陰陽師としての第一歩を踏み出す姿を描きました。依頼型物語として、封じられた式神の記憶に触れ、語られなかった声に耳を傾ける――その静かで繊細な過程が中心となっています。


透牙は師・影澄から受け継いだ技を用い、式神・澄影の名を正式に呼ぶことで、封印されていた記憶と祈りを還す役割を果たしました。その中で、彼が示した「滅するのではなく、継ぐ」という選択は、陰陽師としての姿勢だけでなく、物語全体のテーマである“記憶と祈りの継承”を象徴しています。


この章を通して読者の皆さんに伝えたかったのは、力とは押し付けるものではなく、そっと守り、結び直すことでもあるということです。透牙の歩みは静かですが、その一歩一歩が、封じられた声や祈りを解き放つ光となって世界に触れています。


次回、第十三陣では、透牙と仲間たちが新たな依頼へと赴きます。語られぬ記憶や祈りは、常に彼らの前に現れ、試練として立ちはだかります。しかし、透牙はもう“継ぎ手”としての覚悟を胸に、その歩みを止めません。


静かに、しかし確かに歩む陰陽師の物語――次なる章も、どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ