2-3
僕らは家に帰宅する。
「お帰り~」
母の声が聞こえる。
もしかしたら、料理でも作ってくれてるのかも。
「ただいまぁ」
姉の声が先に通る。
その声はとても透明感があって、よく通る。
「ただいま・・・」
それに対して、僕の声はとても濁ってるように思える。
顔が良い人間は声もいいのかもしれない。
姉は声優の声で、僕は素人の声。
そんな差を感じる。
「あぁ、あんたいたの」
お母さんは少し驚く。
「いたよ」
「そう、お帰り」
母は素っ気なく返事する。
別に僕のことを嫌ってるというわけではない。
僕自身、母を嫌ってるわけでも無い。
ただ、互いに素っ気ないと言うだけ。
まぁ、家族なのだからどこもそんなものかもしれない。
「あ、苺ミルク」
僕は苺ミルクを見つけて手を伸ばす。
市販のやつで、果肉は入ってないがこれでいい。
リビングに向かい、座る。
「テレビでもみよっか」
ふと、姉がリモコンに手を伸ばす。
別にネットで動画見てもいいのだが、
特別これが見たいというのがあるわけでもない。
なので、姉が見たいものを見せてあげようと思った。
「分かった」
僕は興味ないので苺ミルクを飲みながら惰性で見てた。
そうしてテレビの画面に電源が入る。
「それでは、日向さんはそのために?」
有名なテレビのMCが姉と会話している。
「そうですね、私がラノベ作家として表に出ることで作家の地位向上を目指そうと思ってるんです。将来は沢山ラノベ作家を読む人が増えたらなと思ってます。
そうすれば、人前で読むことに恥ずかしさを感じる人が減るんじゃないかなって」
「なるほど、それは素敵な夢ですね」
テレビのMCはそんな返事をしていた。
「ぶっ」
僕は思わず苺ミルクを吹き出す。
「ちょっと、汚いよ日陰ちゃん」
姉は苦笑する。
「だって、えー・・・?」
僕はテレビと姉を交互に見る。
「あはは、今日放送だったかぁ」
姉は笑ってる。
本当は分かってたんじゃないのか?
そんなことを思う。
「お姉ちゃん、狙ってたでしょ」
「いやぁ、まさかぁ」
そのわりには随分と楽しそうだ。
間違えなく放送時間に合わせて帰ったんだろうな。
まぁ、でも姉の活躍を見るのは悪くない。
「今後の展開としては、どのようなお考えで
?」
テレビのMCの男が姉に話しかける。
「そうだなぁ、女優とか声優業など挑戦してみたいかなって」
「ほぅ、それでは演技に興味が?」
「はい、いつかはやってみたいなって。
呼ばれるかどうか、分かりませんけどね」
姉は微笑む。
その顔は僕にはすでに女優に見えた。
「えーーーっ」
僕は驚く。
「そんな驚く?」
姉は不思議そうな顔をする。
「そりゃ、そうだよ。
だって、演技なんて・・・やっぱりやりたいの?」
「まぁ、少し興味あるかな。
ラノベ原作の映画なんて、私が原作者として主演するのもいいんじゃない?」
「そうだけど」
「日陰ちゃんは応援してくれないの?」
「うっ」
「日陰ちゃんが応援してくれないなら止めようかなぁ」
「そんな言い方ズルいよ・・・僕は応援するに決まってるじゃないか」
「ありがとう、日陰ちゃん」
姉はにこっと微笑む。
本当にずるい、芸能人スマイルだ。
すでに姉は人として完成されてる気がする。
僕は不完全な人形のように思える。
「いやぁ、将来が楽しみですね」
テレビのMCの男は軽やかに喋る。
「もしかしたら、貴方とキスシーンがあるかもしれませんね」
姉は冗談でそんなことを言っていた。
「あはは・・・そんな日が来たらドキドキしちゃいますね」
MCの男も冗談で言い返すのだった。
「何だかお姉ちゃん凄いなぁ」
僕はそんな感想を漏らす。
「そうかな、私的には日陰ちゃんの方が凄いって思うけどね」
「そんなことないよ・・・僕なんて」
「私は凄いって思ってる、本当だよ」
「でも」
「私の事・・・信じられない?」
「そうじゃないけどさ」
姉の事は信じてる。
でも、その一方で僕が凄いというのに疑問を隠せない。己を信用できないのは己が一番よく分かってる、悪い意味だけど、そう・・・感じてしまう。才能があるって、他の人とは違う何かがあるって・・・信じるのが難しいのだ。
「私の事を少しでも信じてるなら、日陰ちゃんは自分のことを少しでいいから信じてあげて。じゃないと、可哀そうだよ」
「可哀そうって誰が?」
「日陰ちゃんの魂が」
「・・・」
「その魂は日陰ちゃんじゃないと救ってあげれないんだから・・・ね?」
姉は真顔でそんなことを言う。
普通の人が言えばスピリチュアル的で、
変な風に聞こえるが、
声が綺麗だからか、何だか不思議な説得力があった。僕にはそう感じれた。
「少しだけだからね」
「うん、今は・・・それで充分」
姉は僕の方を見てにこっと笑う。
本当に良く笑う人だなと思う。
楽しいから笑ってるのではなくて、
僕を元気づけるためにいつも笑ってるんじゃないかなと時々思う。
僕の思い込みかもしれないが。
「アンタたち、そろそろ風呂に入ってきなさいよ」
母の声が聞こえる。
「はーい、行こうか、日陰ちゃん」
「分かった」
僕らは2人で風呂場に向かうのだった。
同性ってのもあるが、光熱費の節約という側面もある。家族の金銭的な負担を少しでも減らそうという心意気だ。まぁ、ただ単に姉と一緒に入りたいだけだけど。