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2-2

店を出た後、僕らは街を歩く。

「このまま家に帰ろうか?」

姉にそう提案される。

「うーん、少し寄りたいところがある」

僕はそう言い返す。

「何処が良い?CDショップ?アニメショップ?」

「そうだなぁ、路地裏がいい」

「ろ、路地裏!?」

姉は驚いていた。

「変かな」

「変だよ、何だか危ない雰囲気だし。

襲われるじゃないの?」

「大丈夫だよ、昼間だし。

それに危なそうな人が居たら逃げよう」

「大丈夫かなぁ」

「ねぇ、行こうよ」

「うーん」

姉は迷ってるようだった。

「お願いだよぉ」

僕は何度もお願いする。

「危ない目にあったら逃げるからね。

それでいい?」

「ありがとう、お姉ちゃん」

僕はにこっと微笑むのだった。

路地裏は汚かった。

というより、綺麗な国はあるのだろうか?

不思議なもので、人は暗がりに行けば行くほど悪事を働きたくなる。道路のど真ん中には無いのに、こういう暗がりに行くとゴミのポイ捨てが目だつ。個人的に一番多いと思うゴミの種類は食べ物系だ。お菓子とか、肉まんの紙。その次に飲み物や、タバコの空き箱などが多い。近くにコンビニがあるからか、そこで購入したものを捨てに行かず面倒だからと思いその場で捨てるのだろう。

そして、空調の音が鳴り響く。

まだ肌寒い季節だからか、暖房をつけてるのかもしれない。

ファンの音が聞こえてくる。

「こんな場所に何で来たいって思うのよぉ」

姉は嫌そうな顔をする。

「そうかな、結構面白いよ」

「何処がさぁ」

「なんていうのかな、人の闇を垣間見るって言うかな。

まぁ、一種の人間観察だよ。人間そのものをじーっと見ると変な人に見られるけど、こういう壁や地面を見ても誰も変な目で見ないからね」

「私は変な目で見るけどね」

「えー?」

僕的にその言葉は不満だった。

「路地裏が好きってのは変わってると思う」

「そうかな」

「そうだよ」

「あれ、見てよ」

「ぎゃっ!」

姉は悲鳴に似た声を出す。

「びっくりしたぁ」

僕は姉の声に驚く。

「そりゃ、びっくりするよ。だって、あれって・・・その。

ゲロでしょ?なんで、あんなの見せるのよ」

誰が吐いたのか分からないが、路地裏に行くとたまにある。

人の吐しゃ物。いわゆる、ゲロだ。

胃液のすっぱい香りと、恐らく食べていたであろう物の香りが混ざり、独特の嫌な香りがする。

「そりゃ、面白いから?」

僕はそう答える。

「げーっ」

今度は姉が吐きそうだった。

それぐらい嫌そうな顔をする。

「あはは、嫌そうな顔」

僕は姉の顔を見て笑う。

「なんであんなの見て喜ぶのよぉ」

姉は不思議そうだった。

「そうだなぁ、僕はこう思ってるんだ」

「なに?」

「あのゲロはきっと新入社員の若い男性のものなんだ。

きっと、飲み会に誘われたけれど上司が相手だから断れなかったんだよ。仕方なく行ってみると、度数の高い酒を飲むように要求されてきっと気分が悪くなって帰り道に吐いたんだ」

「見てきたかのようだね」

姉がそんなことを言う。

「ううん見てないよ、あくまでも僕の想像」

「そうぞー?」

「そう、ここに来るとね。そういう想像力を掻き立てられるんだ。

それが僕の知的好奇心を刺激するって言えばいいのかな。

とにかく面白いんだ。僕にとってはそうだな・・・美術館で絵を見るようなものなんだ。どうしてこの人はこういう絵を描くのだろうと思うように、路地裏を見ると、ここで悪いことをしてる人たちはどうして、こんなことをするのかなって・・・そういう人の心の闇を覗くのが面白い」

「私はちょっと遠慮したいかな」

「日向お姉ちゃんもやってみてよ、きっと面白いって思うから!」

僕は勧める。

楽しいものは共有したいのだ。

共有した方が楽しいと思う。

「日陰ちゃんが楽しそうで、お姉ちゃんは十分かな?」

姉に遠回りに断られたような気がする。

「一緒に考えてよ」

「そうはいってもなぁ」

「ね、お願い」

「うーん、でも私、あんまり日陰ちゃんより面白い答え出せないと思うけどな」

「いいんだよ、別に僕だって特別面白い人間ってわけじゃないんだし。大事なのは一緒に考えてくれるって行為そのものなんだから」

「そう?じゃ、一回だけ」

「よく見て、お姉ちゃん。この路地裏から見えるものはある?」

「そうだなぁ・・・」

姉は少し考える。

「・・・」

僕はその答えを待つ。

「焼肉」

「焼肉?」

「そう、なんだか楽しそうに皆で食べてるのが見えるかも」

「いいね、その調子」

「4人組かな・・・多分男の子3人で女の子1人」

「何だか危ない感じだね」

「皆・・・狙ってる気がする」

「女の人は男性に奢らせようとしてる?」

「逆・・・かな」

「逆?」

「女上司で後輩3人を連れてきてる」

「おー、そういう答えか」

僕は面白がる。

「こういう感じでいいの?」

「そうそう、遊びなんだからいい加減でいいの」

僕は姉に笑みを向ける。

「ちょっと面白さが分かったかも」

「これでお姉ちゃんも路地ラーだね」

「ろ、ろじらー?」

「路地裏が好きな人のことだよ」

「初耳なんだけど」

「シャネラー、アムラー。

ときたら、次は路地ラーだよ。有名でしょ?」

「シノラーじゃないの?」

「僕的には路地ラーなの」

「そっか」

姉は苦笑していた。

僕があまりにも強引に言うものだから、

引いたのだろう。

「あー、面白かった」

「それじゃ、もう帰る?」

「うん、これ以上居たら黒猫が横切りそうで」

黒猫が居た。

暗闇の中でも怪しく光る満月のように、

丸い目がこちらを見る。

室外機の上で温まってるのかもしれない。

だから、この場所は渡さないぞ。

そんな睨みに見えた。

こちらが接近すると、地上に降りてきそうだ。

それはとても怖い。

「それは危ないね、急いで帰ろう」

僕らは路地裏を後にするのだった。








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