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1-5

僕は学生だ。

だから、ごく自然に学校に行く。

「日陰ちゃん、ベットの中に入ってないで学校に行こう?」

「んー・・・もう少し寝てたい」

「休むの?」

「そうじゃないけど」

「学校は行くの?」

「一応、行く」

「分かった」

日向お姉ちゃんは部屋から出ていく。

僕は2度寝する。

少し休んだら、下に降りる。

「おはよう、日向お姉ちゃん」

「おはよ、日陰ちゃん。

ほら、苺ミルク作っておいたから」

「むぅ」

僕は姉が作った苺ミルクを飲む。

市販の奴とは違い、果肉がたっぷり入ってる。

自家製だ。

苺を細かく刻み、砂糖で煮詰めてジャムを作る。

その中に牛乳を流し込んで作ったのがお手製苺ミルク。

甘さがあって、果肉の触感が面白い。

市販のやつは、市販のおいしさがあるが、自家製には自家製のよさがある。

「美味しい?」

姉は僕の方を見る。

「お・・・おいしぃんじゃないかと」

声がうわずる。

見つめられるのは弱い。

思わず顔を逸らしてしまう。

「そっか、うん、良かった作って」

姉は微笑む。

「ほら、制服に着替えて」

「あー・・・うー・・・」

頭が回らない。

姉は先に起きてるから、きっと回るんだ。

僕は回らない。

動きが鈍い。

次はこの行動、その次はこの行動と作戦を考えるのが朝は苦手だ。

席に座っただけで満足してしまう自分が居る。

「遅れちゃうよ」

「それは、困る」

「早く、早く」

「うー・・・」

僕は仕方なく部屋に戻って着替えをする。

お気に入りの苺パンツを履いて、制服に着替える。

ブラも苺柄で統一してる。

洒落てるのはレースとかだろうけど、

僕にはまだ早い気がするので、これでいい。

大体、他人に見せるわけではないのだ。

文句を言われる筋合いは無いと思う。

「着替えた?」

扉の奥から姉の声が聞こえる。

「終わった・・・と思う」

「それじゃ、歯磨きしよう?」

「うん」

僕らは2人ならんで歯磨きを行う。

シャコシャコと磨く。

イチゴ味の歯磨き粉だ。

子供っぽいって思われるだろうから、

家族の前以外では使いにくい。

何を使おうが人の自由のような気がするが、

文句を言う人は文句を言ってくると思う。

デンタルフロスの糸巻きタイプを取り出して、

歯の間を掃除する。

「ヴぃーっ」

この時ばかりは姉も不細工になってる。

そう思って、ちらと見る。

しかし、元が良いからか綺麗なものは綺麗だった。

「ヴぃー」

僕も同じようにデンタルフロスをする。

ただ、僕は姉と違い不細工な気がした。

顔のシミが、そう思わせるのだろうか?

歯磨きも終えて、学校に向かう。

ローファーを履く。

そして、玄関から出るのだった。

学校にウキウキとスキップする人も世の中に入る。

でも、全ての人がそうではない。

僕のようにダッチロールの人も居る。

ローファーで、スキップは出来ない。

通学路というのは不思議だ。

決められた道に沿って僕らは歩いていく。

誰かが決めたレールに沿って。

自由を求めるのならば、

通学路以外の道で学校に行ってもいいかもしれない。

僕は何だか今日はそんな気分だった。

だから回り道をして、学校へと向かう。

ふと、駄菓子屋を見つける。

30円とか、そんな安い値段で食べれる。

小学校の時は、何だか無敵になった気分だった。

与えられるお小遣いは月に1000円で、それが世界の全て。

1000円で何が買えるだろう?

ゲームソフトは買えない。

定額の動画サービスも難しい。

広告アリならいけるかもしれないが、

無しの方が楽しいに決まってる。

僕はまず、最初にここで社会の壁を感じていた。

子供って安いな。

そんなことを思う。

でも、駄菓子屋に入った時だけは何だか大人になれた気がした。

ここに入ると欲しいモノの大半は手に入るからだ。

それは単に商品が安いだけだからなのだが、

当時の僕は買えるという行為だけで満足していた。

だから、駄菓子屋は好きだった。

お菓子が好きってのもある。

でも、何だか僕を大きな存在にしてくれるのは駄菓子屋の魅力だと思った。

寄ってもいいが、本当に寄ってしまうと遅刻しそうだ。

ここは我慢して学校に向かう。

帰りにでも寄ろう。

そうだ、それがいい。

そんなことを思うのだった。

次に僕が寄り道したのは喫茶店だ。

普通の人ならば経験して当たり前だと思うが、

僕は経験したことが無い。

喫茶店に入ったことが無いという話ではない。

そんなの、学校が無い休日にでも行けばいいのだから。

それじゃ、何を経験したことが無いのか?

それは友達と入るってことだ。

この喫茶店のガラスケースに入ってる苺パフェ。

これを皆で分け合うってのを経験してみたいなと思う。

そのためには友達を作らなければならない。

でも、僕から話しかける勇気は出ないのだ。

トランペットの少年のように、眺めていたら誰かが話しかけてこないだろうか。そこから友達に・・・なんてね。

「いらっしゃい」

店の前でホウキを持って掃き掃除していた。

喫茶店のマスターらしき初老の男性が話しかけてくる。

何処かカビ臭い服に、白髪の頭。

眼鏡をかけてはいるが、その奥に見える柔らかそうな顔が優しさを感じるのだった。

「ごめんなさい!」

僕は逃げ出した。

話しかけてくれたのに。

ここから友達の輪が広がった可能性もあるのに。

いきなり話しかけられて、その驚きが勝ってしまったのだ。

あぁ、何て弱い僕。

そして、思う。

どうせ寄り道をしても学校に行くことは変わらないのだ。

僕は結局、不良になれず社会の歯車になるしかないのだ。

部品として生きよう。どうせ取り換えられるだろうけど。





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