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7-1

それは唐突な出来事だった。

人間は常に選択に迫られている。

それは、常にダイスを振ってるのと同じだ。数字が出て、マスを進む。そして、その止まった場所でイベントが発生する。僕は何の気なしに、ダイスを振ったのだ。そして、あるマスに止まった。それは嘘がバレるいうことだった。今まで褒めていた分の勢いがそのまま誹謗中傷に変貌する。

「ニュースの時間です、大人気ラノベ作家高橋日向にはゴーストライターが居た?という内容です」

テレビのコメンテーターが好き勝手話し始める。

「神は2物を与えると聞きますが、彼女の場合は1つだけでしたね。それは美貌だけ、まぁ、それで十分と言えば十分なんですが、欲をかきましたね。名声が欲しくなったのでしょう、だからゴーストライターに頼んで小説を書かせた。そして、自分は文才のある作家としての彼女を演じた、全く役者ですよ彼女は」

コメンテーターの男が嫌味たっぷりに話す。

「それで、ゴーストライターって何処の誰なんですか?」

コメンテーターの女性は興味津々に尋ねる。

「それはですね、なんと彼女の妹らしいんですよ」

「えぇ、妹さん?」

「記者の話ではそうらしいですよ。

怪しいと思ってたんですよね、美貌を持ちつつ文才もあるなんて。結局、化けの皮が剝がれたんですよ。素直にグラビアとか、アイドル活動でもしてればいいのに、誰も狙ってない顔出しラノベ作家の地位を狙うなんてね。よっぽど目立ちたかったのでしょう、承認欲求の強い女だ、顔は良いのに、性格がね、ちょっと」

「あはは~、そうですね」

コメンテーターの女は何の気なしに笑う。その顔が妙に僕は腹立った。

「こんな性格の姉だ、恐らく気の弱い妹を使って、脅していたんでしょう。文才のある妹に目をつけて、自分を目立たせる材料にしようと考えたんですよ、全く酷い姉だ」

「でも、違う可能性もあるんじゃないですか?ほら、例えば相談して決めたとか」

女性コメンテーターは否定する。

「いやいや、共謀はありえないですよ。その証拠に妹は一切表舞台に出てこなかった。才能があるのだから表舞台に出た方が得じゃないですか。称賛もされるし、最近は顔出ししない人だっているんだ、わざわざ自分の名前を隠す意味なんてありますかね」

「確かに」

女性コメンテーターは納得する。

「随分と図太い性格の姉だ。

妹の作品を乗っ取っておきながら、自分は原作者のフリをして、ドラマの主演女優になるんですから。全く大した女だ・・・あはははは」

コメンテーターの男は高笑いする。

「そうですね、言えてます」

女性コメンテーターも同意して笑う。そんな光景をテレビの前で見て、僕は憤る。

「お姉ちゃんのこと、誰も分かってない!」

名前を隠したのは姉の責任ではない。そもそもの原因は僕なのだ。表舞台に姉を立たせて、僕が陰で作家としての才能を発揮する。そういう契約を2人で交わしたのだ。ずっと嘘をつき続けなくてはいけない苦しみを僕が姉に強要した。それは・・・そうした方が売れると思ったし、何よりネットの誹謗中傷が怖かった。顔出ししてないから安心と考えてる人は多い、でも、実際は違う。固有名詞を出されてしまうと、それは僕のことだと分かるからだ。僕に繋がるのが怖かった。

そうだ、SNS。

僕は唐突に思い立って、ノートPCを開く。そして僕らに関する記事を覗く。文字で、こう書かれていた。

(やっぱり顔だけ)

(美人で才能があるなんてもてはやされていたけれど、嘘だったか)

(信じてたのに)

(ドラマに出る精神が理解できん)

(枕営業でもしてたんでしょ)

(いいなぁ、こいつと寝た男が居るなんて)

(妹を搾取する悪魔)

(どうしようもないクズだな)

(可哀そうな妹ちゃん)

(妹ちゃん、大丈夫かな)

誹謗中傷が止まらない。

それと同時に僕への哀れみのコメントが目立つ。どうして誰も真実を理解しようとしないんだ。テレビのコメントがそんなに正しいのか?姉の言葉も聞かず、僕の言葉も聞かず、何の根拠を持ってこの人たちは僕らを貶めようとしてるんだ、理解できない。怒りがどんどん湧いて来る。でも、何より悔しいのが僕自身何も出来ないってことだ。僕は恐怖を覚えて、自室の布団に潜り込む。

(気持ち悪い)

やめろ、そんなこと言わないでくれ。幻聴だって分かる、それは世界の誰も言ってない言葉で僕が作り上げた嘘の声。それでも現実の声のように聞こえてくる。

(マスクの下ってそんな感じなんだ。なるほど、隠したくなるわけだ)

(若いのに肌にシミって、年寄りみたいだね)

(気色のわるい女)

誰も、誰も僕を傷つけないでくれ。耳を塞ぎ、頭を抑えて心の声を消そうとする。それでも消えない。どうしてだ、どうすればこの声は消える?僕には分からない。布団をぎゅっと握りしめる。姉の服を掴むように。





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