6-4
昨日の撮影会が無事に終わり、数日が経つ。
そのころにはもうドラマが放送されていた。
メインヒロインということもあって、姉は食事会に誘われていた。
「日陰ちゃんも来る?」
姉に誘われる。
「う、うん」
なんとなく、そういう煌びやかなパーティーには憧れる。一度でいいから行ってみたいと思ってた。
「ドレスコードがあるみたい。
日陰ちゃん、持ってる?」
「い、いや・・・」
ドレスなんて普通は持ってるわけない。
大人ならば、将来使うかもと持ってる人も居るかもしれないが、僕は学生だ。
必要性を今まで感じてこなかった。
でも、これからは必要になるかもしれない。
「じゃ、私の貸してあげる」
「合うの?」
姉は168cmで僕は153cm。
身長差が10cm以上も離れてるのに合うのか不安だった。
「大丈夫、昔のお古だから。
あ、でも嫌なら無理に着なくても。
今のワンピース姿でも可愛いと思うし」
「い、いや、着る!」
ドレスかぁ、少し憧れる。
柄にもなくテンションが上がる。
「じゃ、着せてあげるね」
「お願いします・・・」
姉に着させてもらう。
「うん、いいね。似合ってる」
「うへへ・・・そうかな。
でも少し恥ずかしかも」
僕が着させてもらったのはバックレスドレスというものだ。一言で表すならば背中がら空きドレスとも言える。素肌を晒すのがセクシーという訳だ。
「それじゃ、私も着替えるから」
「分かった」
しばらく待つ。
そうして姉が着替えて出てくる。
「お待たせ」
「おぉ~」
姉が来てるのは僕との対比とも言えるものだった。バックレスドレスが背中ならば、姉が着てるのはフロントレスドレスとでも言おうか。胸の谷間を強調するようなセクシーなデザイン。
「似合ってる?」
「う、うん、凄くエッチだと思う」
「ありがとう」
姉は微笑んでいた。
僕らは正装をして、夜のパーティーに向かう。学生の身で随分と身の丈に合わないことをしてるなと思もうが、呼ばれてるのだから文句を言われる筋合いはないはずだ。驚いたのは迎えが来てるということだ。
「高橋・・・日向様ですね?」
執事らしき若いイケメンの男性が話しかけてくる。
「えっと、はい」
姉は返事する。
「そちらはお連れの日陰様で?」
執事は続いて僕に話しかけてくる。
「そう・・・です」
僕はそう返す。
「どうぞ、こちらにお乗りください」
そう言ってドアを開けてくる。
なんとリムジンだ。
家の前に停められていた。
「お、お姉ちゃん」
僕は経験の無いことで怖がる。
あまりにも高級すぎて売られるのではと不安になる。昨今、テレビ業界の女性問題を多く聞く。僕もその被害者になるのではと勝手に想像してしまう。
「大丈夫よ、何かあったら日陰ちゃんだけでも逃がすから」
姉はそう言って僕を安心させようとしてくる。
「あ、ありがとう」
「それでは、出発します。
この中のものは全て無料です。
ここにあるものならば、自由に食べても、飲んでもらっても構いません。もしも退屈ならば動画でも見てください」
執事はそう言って車を発進させた。
車の中はサイバーパンクのような雰囲気を感じた。青や赤色などをベースに薄暗いライトで照らしていた。窓ガラスが見当たらず、外が見えないのは少し不気味だったが。
「色々あるなぁ」
姉は物色する。
「い、いきなり」
「いいのよ、OKは貰ったんだし」
「そうだけど」
僕はまだ緊張していた。
別に人に会ってるわけじゃないのだが、
このギラギラした雰囲気が何だか無性に怖かったのだ。
「凄い、ハーゲンダ〇ツが沢山ある。
バニラだけじゃなくて、日陰ちゃんの好きな苺もあるよ」
「え」
それはちょっと嬉しい。
反応してしまう。
「ピザもある、えー、迷っちゃうな」
「そ、そうだね」
「ドリンクも豊富ね。
これはシャンパン?」
「学生なのに早いよ」
「それもそうだね、じゃ、こっちの苺ミルクにしよう」
「僕の好みを把握してる・・・」
せっかくなのでこの空間を楽しむことにした。姉との会話のネタに尽きたら、映画も視聴できるようで、車の中にあるモニターでネットフリ〇クスを楽しむ。韓国、アメリカなどの海外ドラマは勿論の事、日本のアニメなども自由に視聴できた。色々取り揃えていた。そのお陰か、あっという間にドライブの時間は過ぎて行った。
「お客様、目的地に到着しました」
執事らしき男が話しかけてくる。
「は~い、ありがとう」
姉はそう返す。
「ありがとうございます」
「今、開けますのでお待ちください」
執事はバンと扉を開けて、
外に出る。
「今、開けますのでだって。
何だか貴族になった気分」
姉はハシャイでいた。
まぁ、その気持ちも分からなくないけども。
「そ、そうだね」
これは何だか悪くない気分だ。
「どうぞ」
執事の男が僕らのドアを開ける。
「ありがとうございます」
姉は執事の男に挨拶する。
「あ・・・あ・・・ありがとう」
僕も伝える。
「帰りに、お迎えします。
それではパーティーを楽しんで」
執事は笑みを向けてくる。
その笑顔はとても素敵だった。
そして、車は去っていった。
「ここかぁ」
姉は見上げる。
そこは高級ホテルだと分かった。
「で、デカい」
僕は驚く。
恐らく東京スカイツリーほどあるのではないだろうか?こんな所に泊まる人が居るんだなと感心する。
「さっそく、入ろうか」
姉に連れられて、僕はホテルに入る。
「日向様と日陰様で?」
フロントに入ると、ホテルマンに尋ねられる。
「そうです、そうです」
姉は意気揚々と返事する。
「お待ちしておりました、それではエレベーターへ向かいましょう」
ホテルマンは僕らを誘う。
「分かりました」
姉は素直に頷く。
「えぇっと、何処に」
エレベーターに僕らは乗る。
何処に行くのか分からず、不安に思い何階かを尋ねる。
「お客様は160階層です」
「ひゃ、ひゃくろくじゅう・・・」
生きていて聞いたことない数字で僕は驚く。
「最上階なんですか?」
姉はホテルマンに尋ねる。
「いいえ、210階となってます」
「に・・・!?」
あー、もう訳わからん。
僕は考えることを放棄し始めた。
エレベーターには現在、今ここら辺と書いてある文字盤があるのだが、あまり見たことない文字盤だった。恐らく全ては書ききれないのだろう。10個単位で書いてあった。10階、20階、30階という感じだ。そして今僕らは160階に到着した。
「お待たせしました、お客様。
どうぞ、こちらがパーティー会場になります」
ホテルマンは開くボタンを押し続ける。
「ありがとうございます」
姉はぺこりと礼を伝えてエレベーターから降りる。
「あ、ありがとう」
僕も礼を伝える。
いきなりパーティー会場かと思ったが最初は廊下だった。けれど、奥には分厚い扉があって、恐らくここを通ればパーティー会場なのだろうと思えた。僕らは扉の前まで歩く。
「何だか緊張してきたな」
「僕もだよ」
「楽しいパーティーだと良いね」
「う、うん」
僕らは扉の前に立つ。
すると男性に話しかけられる。
「すみませんが、お嬢様方」
分厚い扉の前には警備員が立っていた。
屈強な男性で、そんな彼に話しかけられる。
「えぇっと、何ですか?」
姉は聞き返す。
「見た目は問題なし・・・あとは招待状だけですね。よろしければ拝見させてもらっても?」
「はい」
姉は2枚の招待券を渡す。
「確かに、本物ですね。
それでは、パーティーを楽しんで」
警備員に扉を開けられる。
「行こう、日陰ちゃん」
「うん」
僕らはパーティー会場に入るのだった。




