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6-3

この日はちょっと変わった出来事があった。普段の姉もメイクしてるし、綺麗だとは思う。だけど、今日は何だか気合の入り方が違うと思った。

普段、お気に入りのバニラアイスを一日一個は最低でも食べるのに、昨日は食べないようにしていた。しかも、最初出かけたと思ったら、一旦家に戻ってきた。最初は忘れものでもしたのかと思ったら、そうじゃなかった。姉曰く美容院に行ったのだとか。言われてみれば髪の質感がいつもと違う気がした。光沢感が上がってるような、サラサラ度が上がってるような、そんな気がした。なんでまた、こんなに気合が入ってるのだろうかと僕は疑問に思って尋ねた。

「~♪」

姉は鏡の前で、ご機嫌だ。

まさかとは思うが、そのまさかかもしれない。僕は聞かずにはいられなかった。

「お、お姉ちゃん」

「どうしたの、日陰ちゃん」

「か、か」

「か?」

「彼氏!?」

「ぷっ、あはははは」

姉は吹き出す。

「ど、どうして笑うのさ」

「違う、違う。そんなわけないじゃない」

「だって、美容院なんて滅多にいかないのに今日は行ってるじゃないか。それって綺麗に見られたいからでしょ、そんなの彼氏しか思いつかないよ」

「別に綺麗に見せるのが異性だけとは限らないわよ」

「えぇっと?」

「日陰ちゃんも来れば分かるわ」

「ぼ、僕も?」

「行こう」

姉は僕の手を引く。

「行くって何処に」

僕は不思議に思う。

「テレビ」

「え?」

僕は姉と一緒にテレビ局のスタジオに入るのだった。

「許可証を」

警備員の人に言われる。

「はい」

姉はさっと許可証を見せる。

「どうぞ」

警備員の人に通される。

「あ、あの僕のも」

当然、僕も見せる。

「行っていいですよ」

「ありがとう・・ございます」

僕はテレビ局に通される。

今はネットの時代とは言うものの、

やはり、過去に栄華を誇っただけのことはある。豪華なセットは見ものだ。

「おはようございます」

「はい、どうもね」

姉は通りかかった人に挨拶していく。

そこには有名な芸能人やら、ユーチューバーとかも居る。元アイドルとかも居て、何だか皆キラキラして見えた。

こんな場所に自分が居ていいモノだろうか。そんな卑屈さを感じる。

姉がテレビ局に呼ばれたのは訳がある。それは何とラノベの原作者として多分、史上初だと思うが映画のヒロインになるということだ。ラノベが原作の映画はあるとは思うが、まさか原作者が女優デビューなんて聞いたことなかった。

「今日はよろしくお願いします」

姉はスタッフに挨拶をして回る。

「日向ちゃ~ん、君の綺麗な瞬間。ちゃんと抑えるからねぇ」

カメラマンの男が姉に絡む。

何だか見るからに軽そうな男だ。

「しっ、しっ」

僕は猫がトイレした後みたいに後ろ足で男に向かって砂埃を飛ばす。

「うわっ、げほっ、げほっ」

カメラマンの男はせき込む。

「こ、こら日陰ちゃん」

僕は姉に叱られる。

「えぇっと、この子は?」

カメラマンの男に尋ねられる。

「あ、私の妹なんです。

可愛いでしょ」

姉はそう説明してくれる。

可愛いと言われるのは嬉しいが、

期待値が上がりそうで不安もある。

「可愛いって言ってもね。

マスクしてるし」

砂埃をかけられたこともあるんだろうが、僕のことはあんまり良い印象ではなさそうだ。でもいいんだ、こんな男に好かれたいとも思わないし。

「そろそろ始まりますので、準備してください」

監督からの声が聞こえる。

姉は監督の傍に行く。

僕は出演するわけでは無いので、

見学だけ行う。

「あの、私はどうしたら」

「あぁ、君はね・・・ここのシーンなんだけど」

「32ページですね、了解です」

姉と監督が何やら話してる。

僕は苺ミルクを飲みながら、その光景を眺めてる。

「それじゃ、本番行くよ。

よーい、アクション」

話の内容はこうだ。

学校で一番のイケメンが女子高生とのラブストーリーだ。イケメンは学校のガラスを割って回る不良、そんな彼にヒロインはあまり良い印象を持ってなかった。しかし、彼が病気で、もうすぐ亡くなってしまうと知ると、その辛い気持ちを理解して欲しくてガラスの窓を割っていたのだと理解する。ヒロインはそんな彼の事が次第に気になり始めて、やがて恋に落ちる。そんなストーリーだった。今からやるシーンは、そんな主人公が病を抱えていたことをヒロインにだけは告白するシーン。

「ワシな・・・もうすぐ死ぬんだ」

相手の俳優は今をトキメク人気アイドルの長瀬裕也。

人気アイドルグループの1人。

日本ダンス大会で優勝経験あり。

有名なアイドルグループのバックダンサーを経験。ファッションショーにも出たことがある。

好きなものは料理、ハンバーグが得意。嫌いなものは人の夢を笑う人。

恰好はジャケット+パンツ+上半身裸。身長181cm。

体重71kg。

暇なときは足し算する。

そんな人だった。

「嘘、そんなのって」

「本当なんだ、ワシだって嘘だって思いたい。でも病気は真実なんだ」

「う・・・・うわああああああああああああああ」

姉は泣きだす。

今までそんな雰囲気じゃなかったのに急に泣き出すものだから驚く。

でも、そのスピードや、泣いてるときの姉の雰囲気は女優として何年もやっていた貫禄のようなものを感じた。

「ごめんよ、泣かすつもりはなかったんだ」

「いいの・・・私の方こそ・・・貴方の迷惑を考えないで泣いてしまって」

「これで泣き止んでくれるといいんだけど」

「え?」

俳優の男は姉に向かって近づく。

そして、あろうことかキスをした。

「・・・・!?」

う、うそだろ。

僕のお姉ちゃんが初めてか?

初めてのキスがこんな形で終わらせていいのだろうか。いや、分からない。

僕は姉の全てを知ってるわけではない。でも、恋人を家に連れて来た記憶はない。だとしたら・・・あのキスは・・・姉の初体験?

「はい、カット!」

監督の終了の声が聞こえる。

「ふぃ~」

姉は一仕事終えたという顔をして僕の方へ戻ってくる。

「お・お・お・お・お姉ちゃん!」

「なに?」

「何じゃないでしょ、き、キスなんて聞いてないよ」

「聞いてないって、小説に書いてあるじゃない」

「そ、そうだけど」

原作通りと言えば、原作通りだ。

でも、まさか姉がキスシーンをやるとは思わないじゃないか。

「やぁ、こんにちわ」

裕也が僕に向かって挨拶をしてくる。

「しゃーーーーっ」

僕は威嚇する。

「可愛いね、猫の真似?」

裕也にはまるで聞いてなかった。

しかも、ずっと笑顔。

「ごめんなさい、裕也さん」

姉は親し気に彼の名前を呼ぶ。

「ゆ、裕也さん!?」

あぁ、ダメだ。僕の気持ちが持ちそうにない。

「えぇっと、君は日陰ちゃんだね」

裕也は僕の名前を口にする。

教えた記憶は無いのだが。

「ひ、日陰ちゃん?」

どうして僕の名前を彼は知ってる?

「私が教えたの」

「お姉ちゃんが、僕の名前を?」

「そう、家にとってもかわいい子が居るって」

「そうそう、日向ちゃんからよく聞いてるよ。確かに噂通り可愛い子だ。ネコみたいで」

「があああああああああ」

僕は絶叫する。

「あはは、可愛いね」

裕也と名乗る男は僕の事をほめちぎる。そのことが気に食わない。

「僕は落ちないからな!」

僕が必死になって言えることはそれぐらいなものだ。

「別に落とそうなんて思ってないよ、可愛いからそう言っただけで」

「うぅう・・・」

顔が真っ赤になって辛い。

可愛いと言われるのは嬉しいが、

姉とこの男が親しいのが気にわない。

だから心を許そうという気にはなれない。という僕の複雑な思いがあった。

「それにしても顔が近づいてきたんで驚きました、まさかあのままキスされるんじゃないかって」

姉は笑いながら言う。

「あはは、しないよ。大人が学生にキスだなんて、あんまり良くないだろ」

裕也という男性はそう言って笑っていた。

「お、お姉ちゃんとキスしてないんですか?」

僕は大事なことだと思い尋ねる。

「君の大事な姉を傷物にするわけにいかないからね、カメラワークでキスしてるように見せてるだけだよ・・・こう・・・顔を凄く近づけるけどね」

裕也は説明してくる。

「でも、顔が近づいて来るんで本当にキスされるんじゃないかってドキドキしました」

姉は微笑む。

「まさか、しないよ。子供に手を出したら不味いしね・・・でも君は綺麗な顔をしてるからね。どんな大人になるか楽しみだ」

裕也はそんなことを言う。

「私が・・・私が大人になったら相手してくれますか?」

姉はそんなことを言う。

「え・・・?」

裕也という男は驚いていた。

「冗談ですよ」

姉はそんなことを言い放つ。

「これは、大物になりそうな人だ」

裕也という男は笑っていた。








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