6-2
寝ていたにも関わらず、僕は殴られることなく授業を終えることが出来た。それは突破したと誇ってよいだろう、しかしながら別の問題が発生する。それは宿題を忘れたという事実だ。これだけはどうしようもない。
「日陰、お前宿題は」
龍堂寺先生が詰め寄る。
「えぇっと」
僕は目が泳ぐ。
「お前なぁ、忘れたのか」
「そう・・・です」
「はぁ・・・どうしてお前はこう」
龍堂寺先生は呆れる。
「あの・・・ですね・・・これには深い事情が」
「なんだよ事情って」
「僕は昨日、戦場を駆けまわってたんです。毎分毎秒のように銃弾の雨が襲い掛かって来て、退屈する暇がないほどなんです。そんな場所で僕は仲間に助けを求められたんです。同じ人間ならば助けたいと思うのが人情でしょう。助けに行かないなんて言えますか?」
「言えるだろ」
先生は冷たく言い放つ。
「この、人でなし!」
僕は怒る。
「ゲームの話だろうが!」
僕は出席簿で頭を殴られる。
「おぉお・・・角・・・がぁ」
まぁまぁ硬い長方形のプラスチックの板の角が僕の脳天にヒットする。
恐らくは脳細胞が3000万個死んだに違いない。
「明日宿題があるんで今日はもう続けられませんって言えるだろ、宿題は期日があるがゲームにはそういうの無いだろ」
「いいえ、最近のゲームはですね。
期日とかもあって没入感が高いと言いますか」
「お前は宿題終わるまで帰るな」
「そ、そんな」
「先生だって嫌なんだぞ、無駄な残業増えるわけだし」
「それなら互いのメリットを考慮して宿題は無かったことに」
「お前だけ特別扱いできるか!」
「うぅう・・・」
しょうがないので宿題をする。
タブレットを起動して、全く触れてない白紙の宿題にタッチペンで文字を記入していく。
「じゃー、先生お先」
明美さんは颯爽と帰っていく。
「明美さん、先に帰らないでよ」
僕は懇願する。
「何でだよ」
明美さんは面倒そうな顔をする。
「おかしいよ、だって僕らは友達じゃないか。その友達をおいて先に行くなんて・・・変だって思わない?」
「いや、俺・・・宿題ちゃんとやったし」
「ずるいよ、昨日一緒にゲームしたのに明美さんだけしてるなんて・・・何処にそんな余裕があるのさ・・・ハッ・・・まさか明美さんだけ時間が25時間とかあるのか?」
「そんなわけあるかよ、ゲームのローディング時間とか暇だろ。その間とかにちゃちゃっとやればいいんだよ」
「そ、そんな馬鹿な」
明美さんの上手な時間の使い方に驚く。
「俺だってな、やるときやるんだよ」
「僕と同じ学力なのに」
「関係ないだろ」
「関係あるよ、どうして宿題を答えられたのさ」
「学校の宿題なんてのは教科書に大体答え乗ってるんだから誰でもできるだろ、それをやらなかったお前が悪いんだからしょうがないわな」
「うぅう」
明美さんに正論を言われて何も言えなくなる。
「じゃ、そういうことで。
俺らはゲーセンでも寄ってるから後で来いよ」
明美さんは教室を出ていく。
「ごめんね、こればっかりは協力して上げれないよ」
「じゅ、純太君」
彼は当然のことながら宿題は完璧にこなしたらしい。僕と違って居残ってないのだから、それが証拠だろう。
「早く来てね、じゃないと遊べなくなっちゃうから」
そう言って純太君も教室から去っていった。
「おい、日陰。友達を待たせるわけにもいかんだろう、早く宿題を終わらせるぞ、教科書を開け。分からない所があったら教えてやる」
「うぅう・・・」
僕は涙目になりながら宿題の望むのだった。
「よーし、頑張れよ」
先生は僕の前にドカッと座ってくる。
先生の体格が無駄にいいので、
かなり圧力を感じる。
「あの、先生」
「なんだ」
「少し距離を取ってもらえると」
「なんでだよ」
「ぷ、プレッシャーが」
「それぐらい我慢しろ」
「・・・」
緊張感で胃が痛い。
帰りにはゲーセンじゃなくて胃薬を買いにドラックストアに行きそうだ。
「ほら、ここの問題。
お前なら解けるだろ」
「まぁ」
僕の理解してる範囲をあるていど把握してるようだ、そこは先生っぽい。
「ここの応用が少し難しいな」
「頑張ってみます」
「その調子だ」
「・・・」
僕はペンを回す。
「おい、それは頑張るとは言わん」
「ぼ、僕にはこれしか解く方法が無いんですよ」
「何言ってるんだ、考えることから逃げてるだけじゃないのか?」
「そぉんなことはぁ」
僕は目が泳ぐ。
「はぁ、お前は何処か逃げ癖があるからな。前に授業中に走って逃亡した時は驚いたよ」
「そ、そんなこともありましたね」
僕は以前に体育の授業中に走って逃亡した過去がある。が、運動神経が悪くて転んで結局すぐに捕まった。そして凄く怒られた記憶がある。
「お前は運動神経は全くないからな」
「そんなに言わなくてもいいじゃないですか」
「けど、賢さはあると思ってる」
「先生・・・」
「だから頑張って解け、お前なら出来ると思ってる。いいな?」
「わかりましたよ」
僕は渋々答える。
まぁ、校庭を何周も走れとか言われたなら絶対に無理だと諦める。しかし、こういう頭を使う系は何処か出来そうだと勝手に過信してる。
「お・・・筆が乗ってるな」
「どうも」
僕は宿題を進めていく。
「良い感じじゃないか」
「ほっ」
問題なさそうだ。
「これならあと少しで帰れそうだ」
「良かったです」
僕はどんどんと解いていく。
東大の受験なら無理かもしれないが、
高校生の宿題程度ならば出来なくもない。それぐらいの知能は持ち合わせていた。
「よし、出来たな」
「ふぅ」
僕は何とか終わらせることが出来た。
「お前はやればできる子だな」
「何ですか、その親が子供を褒める定型文みたいな台詞は」
「いいだろ、実際そうなんだから」
「そう・・・ですか」
まぁ、期待してくれるのは悪い気はしない。お前は無能だと思われるよりかはマシだし。
「おーし、帰っていいぞ」
「へーい」
僕は鞄を持って帰る。
「ゲーセンもいいが、夜が暗くならないうちに帰れよ。出ないと補導するからな」
「分かってますって」
僕はそう言って教室から出ていく。
「やれやれ、普段の授業もああいう真面目さを出してくれるといいんだがな」
龍堂寺先生は日陰の後ろ姿を見てそんな台詞を吐くのだった。




