6-1
それは温かい気温だった。
湿度もそれほど高くなく、心地よい温度。僕は食事も済ませており、腹は満たされてる。そんな状況なのだ。眠くなっても可笑しくない、とても心地よい気分だ、この感覚に身を任せて眠ってしまおう。そんな風に思って、僕は目を閉じるのだった。
「おい、寝てるんじゃねぇ」
龍堂寺先生が起こってるような気がするが、きっと夢でも見てるのだろう。
「zzz」
僕は次第に意識を失っていく。
「先生の必殺チョークをくらえ!」
先生が僕に向かってチョークを投げ飛ばす。けれど、まどろんでる僕にはそのことには気づくことは出来ない。
「ふん」
しかし、明美さんがそれを阻止してくれた。
「おい、何で止める」
龍堂寺先生は不満そうだった。
「卑怯なのは嫌いなんです」
明美さんは言い放つ。
「どういうことだ」
先生は聞き返す。
「何か悪いことをして叱られるのはいいんです、チョークでも、三角定規でも好きなの投げてください。でも、それは起きてる間の話です、起きていれば、それは来るのが分かってるわけですから、罰を受けるかどうか決めるのは本人の問題です。けれど、寝てる間に襲うのは卑怯だと思うんですよね、俺はそう思ってます」
「あのなぁ、明美。先生はな、そういう話をしてるんじゃなくてだな。そもそも授業中に寝るなってことだよ」
「起こしてからチョークは投げてください」
「お前なぁ」
龍堂寺先生は呆れていた。
「はっ」
ここでようやく僕は目を覚ます。
「ほぉ・・・良い夢見れたかよ」
「やばっ」
先生がどしどしと僕に近づいて来る。
「日陰が起きたんだから、邪魔はしないよな明美」
龍堂寺先生は明美さんの方を見る。
「どうぞ」
明美さんは好きにしてくれとばかりに僕の方へ先生を寄越す。
「あ、あの」
僕は困惑していた。
眠っていたので状況が良く分からない。
いや、大体は分かってる。
先生が怒ってるのだから、それが全てだろう。
「何か言い訳はあるか、日陰」
先生は手にチョークを持ってる。
間違えない、言葉を間違えればあれが飛んでくる。何か、何かいいアイディアは無いだろうか。僕は悩んだ末に答えを出す。
「一瞬だけ、死んでました」
僕が閃いたのはそんな答えだった。
クラスの中で笑いが起きる。
「はぁ・・・もういい」
この状況で僕を殴ると悪者になると悟ったのだろう。先生は帰っていった。
「知恵比べで勝ったな、日陰」
明美さんは隣でにこっと笑う。
「ち、知恵比べ!?」
僕は知恵比べをしたつもりはなかったので驚く。
「あぁ、殴られなかっただろ」
「まぁ」
「中々いい頭の回転力だ」
「えっと、ありがとう?」
僕は一応、褒められたようだ。
ただ、うとうとしていただけなので何だか不思議な感じだ。まぁ、でも褒められたのだからそれでいいか。




