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それは僕にとっては試練の日だった。学校の教室で、皆は下を向いてる。それは僕も例外ではない。先生に怒られてるのかと問われると、そういうわけではない。でも、もしかしたら怒られるかもしれない。今、何をしてるのかって?それはテストである。タブレットに皆、文字を記入していく。支給されたタッチペンで、タブレット内に描いていく。先生と同期しており、誰がどんな回答をしてるかが随時分かる。そんな感じだった。
「おい、こら。そこのバカ2人」
「げ」
男子学生が2人指さされる。
「カンニングしてるだろ」
「いやぁ」
「こっちは分かってるんだ、可笑しいよな。人は考えることが異なる生き物だ、にも関わらずどうして全く同じ回答なんだ?」
「それは」
「どうした。言い訳してみろ」
「シンクロニシティとか信じてます?」
「信じる訳ないだろ!」
先生は男子生徒を2人殴る。
今の時代珍しいぐらいのパワハラである。
「いってぇ・・・殴ることないのに」
男子生徒は頭を抑えてる。
「1回は見逃してやる、次は退学だ。いいな?」
「はい」
生徒はバレたショックで落ち込んでる様子だった。
「ああはなりたくないな」
僕は真面目に回答するのだった。
人間、真面目に生きるのが大事なのだ。僕はテストを解く。
「おい、日陰」
先生に言われる。
「ひゃ、ひゃい」
どうしたんだろう、僕は何も悪いことはしてない筈。
「カンニングはしてないだろうが、ペンを転がしてるだろう」
龍堂寺先生に言われてしまう。
「それは」
僕がやっていたのは6角形のペンに数字を書いて転がすというものだ。止まった数字を記入するという勉強が出来ない人向けの技である。
マークシート限定だが。
作者の気持ちを答えなさいとかだと無理だけど、でも、作者の気持ちを答えなさいという問題は楽勝だけど。あれにどうせ正解とか無いのだから何を答えても正解になるだろうし。
「うるさいぞ、もう少し静かにやれ」
「ひゃう」
僕は反省する。
少し、うるさかったかもしれない。
そうしてテストの時間が終わる。
テストのデータは同期してるので、いちいち集めなくていいのが楽である。
「よーし、テスト終わりだ。
後で回答を送るから、それまで自習してろよ」
先生は職員室に向かった。
「で、どうだったよ、お前」
明美さんが僕の所に近づいて来る。
「えぇっと、真面目にやったよ?」
「あのなぁ、テストってのは真面目にやったらからいいってもんじゃないぞ」
「そういう明美さんはどうなのさ」
「俺か?勿論上手く行った」
「す、すごい」
明美さんは見た目はtheギャルという感じなのに頭は良いのだろうか?
「はぁ・・・」
純太君もやってくる。
「純太君はどうだったの?」
僕は尋ねる。
「僕は・・もう・・・だめかもしれない」
かなり落ち込んでる。
「気にすんなって、テストの1つや2つ出来なくても死なないって」
「死にはしないけど、将来を大きく左右するよ・・・はぁ・・・」
純太君は落ち込んでる。
「ま、まぁ・・・元気出して」
僕は励ます。
「あそこはもうちょっといい回答が出来たと思うんだけどなぁ」
「純太君はしょうがないなぁ、僕らはいい感じだったのに」
僕は自信満々だった。
「俺もいい出来だったな」
明美さんもだった。
「はぁ、じゃあ自分だけか。
調子悪いのは」
純太君は落ち込む。
「それじゃ、前みたいにバーガーショップでも行って元気出そうよ」
僕はそう提案する。
「いいね、俺は賛成だぜ」
「そう・・・ですね・・・励ましてくれるのならば行ってみたいです」
純太君も乗る気だった。
「よし、決まり」
僕は宣言するのだった。
「おーい、テストの成績返すぞ」
先生が教室内に入ってくる。
「席に座ろう?」
僕は提案する。
「そうだな」
そう言って明美さんが戻る。
「自分も」
純太君も席に戻った。
「タブレット開け」
先生が指示する。
一斉送信が行われた。
いちいち番号順とかじゃないので一瞬だ。
まぁ、そのせいで一瞬で成績も分かってしまうのだからドキドキが無いのが少し寂しいが。
「げっ」
僕の成績は28点だ。
「よっしゃーっ」
明美さんは喜んでる。
僕は気になってタブレットを覗きに行く。
「な・・・何点?」
「30点!」
明美さんは笑顔だった。
ちなみに50点満点中30点ではなくて、
100満点中30点だ。
つまりは平均より下ってことだ。
でも、あんまり気にした様子は無いが。
「うそ・・・でしょ」
僕は落ち込む。
「お前の成績はどんなよ?」
「だ、ダメ」
僕は隠す。
「俺の覗いておいて己のは無しってのは筋が通らないだろ」
「そうだけど」
「いいから、見せろ!」
花魁が帯を抜き取られるみたいな恥ずかしさが僕の中には合った。
「あぅ」
結局はテストの結果を見られる。
「あははは、俺の勝ちだな」
「2点の差だもん!」
「2点だろうが、勝ちは勝ちだぜ」
「うううう・・・・」
負けて悔しい。
ペンの運が僕には向いてなかったのか?
くそ、神社にお賽銭に行ったときに1円しか払わなかったのが原因か?5円にしておけば良かったのにと今更ながらの事を思う。
「あはは」
明美さんは高笑いを決める。
その行為に腹は立つが、僕にはまだ希望がある。
そう、純太君だ。彼はテストの結果に不満そうだった。きっと調子が悪かったはず。
「純太く~ん」
僕は甘い声で近づく。
「はぁ」
やっぱり、純太君は落ち込んでいた。
「テスト・・・どう?」
僕は尋ねる。
「やっぱり微妙だった」
「あは」
僕は笑ってしまう。
いかんいかん、人が落ち込んでる時に笑う何て最低だ。でも、つい顔が緩んでしまう。
「はぁ・・やっぱり自分は駄目な人間だ」
「そんなことないよ、テストで人間性は決まらないから」
「でも」
「見せてみてよ、そうじゃないと良い悪いが分からないし」
「見ても笑わない?」
「笑わない、笑わない」
「どうぞ」
純太君のテストを見て僕は大いに笑ってやろう。
そうしたら明美さんに負けた悔しさが解消される。どれどれ・・・げぅ。
僕はテストの結果を見て落ち込む。
「はぁ・・・98点しか取れなかった。
これだと母さんに怒られそうだ」
「すぅ・・・・」
僕は息を引き取った。
「日陰さん!?」
僕が死んだことで純太君は心配してくれた。
まぁ、死んでしまったのだから心配しても時すでに遅いのだけど。
「うわあああああ!」
他の生徒たちも驚く。
僕が死んだのだから当然だろう。
「とりあえず保健室だ!」
先生が僕を保健室まで運ぼうとする。
「いいや、俺がやっとくよ」
「明美、いいのか?」
先生が尋ねる。
「友達だからな、任せろ。腕力はあるほうだ」
そう言って明美さんは僕の事をお姫様抱っこする。そうして保健室まで運んでくれた。
「頼むぞ」
先生に頼まれる。
そうして僕は運ばれていったのだった。




