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4-3

その日、僕は学校に来ていた。

休み時間、図書室にでも行こうと考えて出向く。気軽に誘える友達が居ないのだから、1人で時間を潰すとなると、思いつくのは図書室しかなかった。スマホでもいいのだが、今日は本の気分だった。

「あれ・・・確か日陰さんだよね」

僕は誰かに話しかけられる。

「うぇ」

変な声が出る。

話しかけてきたのは純太君だった。

「やっぱり、同級生だったんだ」

「あぁ・・・そっすね」

僕が出会う人、皆この学校だ。

何か不思議な縁を感じる。

「やっぱり自分ら縁を感じるね」

「あはは」

愛想笑いだ。

本当に不思議だ。

「やっぱり、本を借りに?」

「まぁ、そんなところかな」

「どういうのがいいの?」

「そうだなぁ、冒険っていうか、ミステリー系?」

「分かる、面白いよね」

「純太君も本読むの?」

「あぁ、だって本屋で会ったじゃないか。本屋でバイトしてるのに本が嫌いって、日本が嫌いなのに来日する海外のアイドルみたいじゃないか。そんなの変だろ?」

「確かにそうかも」

「いい本を読んでる時は心地が良いよね。心が潤ってるのを感じる」

「分かるかも・・・」

素晴らしい本を読んでると深海に居る筈なのに呼吸できるような心地よさがある。

「これから先、AIの文学ってのが出てくるだろうと思うけど、それでもやっぱり人が書いた本に味を感じるよ。多分だけど、AIの方が面白い本を書けるかもしれないけど、でも、何て言うのかな。本を読む時って、何処かで作家を尊敬して居たいって思うんだよね。AIが書いたって分かると、文章の奥に潜んでる顔も知らない誰かを尊敬する心が薄れてしまう、そうすると何だか自分はその物語にあまり興味を感じなくなるんだよね。この文章を本気で理解したとしても、その奥に居るのは機械なんだ。分かり合うことが無いって分かってるからかもしれない。小説を読むってのは人を理解したいって気持ちから始まると思うし・・・まぁ、でも、この考え方はきっと将来的に古いって言われるんだろうな」

純太君は苦笑していた。

「そ、そんなことないと・・・思う」

僕は声がうわずる。

「そう?皆AIの方がいいっていうから。人間と違って疲れないし、望めばいくらでも文章を精製できるからね。気に入らなければ気軽に捨てられるし、気に入れば保存も簡単だろうしね。紙の本と比べて場所も取らないし便利は便利なんだ」

「場所をとってもいい・・・と思う・・・本棚に本が埋まってるのは楽しい・・・と思う」

「君、結構本好きだね」

「わ、わりと」

僕は何だか気恥ずかしくなり、顔を逸らす。

「是非とも、日陰さんにはこれを読んで欲しい」

「これ?」

僕は本を渡される。

「きっと、理解し合えると思うんだ。自分たちは」

「そうかも・・・しれない。

減ってきた本好き同士・・・で」

「あぁ・・・まだ生き残りが居たんだと嬉しくなる」

「うえへ」

「あはは」

僕らは笑い合う。

何だか通じ合ってる気がしてた。

「それじゃ、カードを」

「うん」

僕はカードを差し出して借りる。

今はPCで管理してるなと思う。

昔は紙に鉛筆で書いていた時代が懐かしい。

「これがその本だよ」

「ありが・・・と・・う?」

受取った本は純文学だった。

普段、僕が読む美少女盛りだくさん、ちょっとスケベなラノベではなかった。

「気に入ってくれるといいな」

純太君はにこっと微笑む。

その顔に一切の邪気は無かった。

「あー・・・」

どうしよう、困ったな。

僕が好きなのはラノベであって、純文学ではない。微妙ではあるが、この2つには差がある。どちらが上で、どちらが下という訳ではないのだが、何だか分かり合えない部分が根底にある気がする。

「面白いからぜひ、読んでよ」

「うん、読んでみる」

試しに読んでみるか。つまらなかったら、どうしようか。まぁ、その時に考えよう。話が盛り上がったのにラノベしか興味ないので、とは言いづらい。

学校が終わり、家に持って帰る。

「あれ、日陰ちゃん珍しいね純文学なんて」

姉が棒アイスを咥えながら話しかけてくる。寒いのによく食べるなと思う。

「まぁ・・・たまには」

試しに読んではみる。

でも、可愛い女の子が出ないと読むのが苦痛に感じるので、正直面白いとは思えなかった。純文学はヒロインらしいヒロインは出ないからな。どっちかって言うと社会派というか、堅苦しい感じがする。僕には合わなかった、さて、どうしたものだろうか?これをどう伝えるか迷う。とりあえず寝るか。僕は本を読み終えた後寝る。

翌朝、僕は再び学校の図書室に向かう。

「読んでくれた?」

「まぁ・・・」

「それで、どうかな。

自分的には傑作だったんだ。社会派って言うのかな、凄く知的好奇心を満たせるし、共感する部分が多いんだ。作者の頭の良さを感じて見ていて飽きない」

「えーっと、その・・・ああまりハマらなかったといいますか」

僕は正直に伝えることにした。でも、出来る限り相手を傷つけないように言葉は選んでるつもりだ。

「そうか」

やっぱり、純太君は落ち込んでいた。

「あ、でも、その人気なんだよね。僕はきっとバカなんだよ、うん、きっとそうだ。だから理解できないって言うかさ・・・だから面白いって感じる純太君の方が正しいよ」

「読んでくれて、ありがとう」

「え?」

「嘘を伝えられるより、良かった」

「そっか」

僕は安心する。

良かった、喧嘩にならなくて。この本の価値が分からない君はバカだと目の前で言われたら落ち込むし。そんなことがなくて良かったと思う。

「きっと、この作者は合わなかったんだ」

「えっと?」

純太君の目つきが変わる。

「コメディ、青春、ホラー名作は沢山ある、この中のどれかがきっと君に合うはずだ。大丈夫、君に合うのが見つかるまで自分も協力するから」

純太君はこれでもかと本を持ってくる。天井につくのではないかという勢いで本のタワーを持ってくる。これを全部読むのは一苦労だ。なので、僕がとった手段はこうだ。

「ごめんなさ~い!」

僕は図書室から逃げ出したのだった。

「あぁ、待って!」

純太君が大量の本を持って追いかけてくるのだった。

その日、夢で沢山の本に追い返られる悪夢を見たのだが、この体験が原因だろうと思った。















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