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僕は家に戻る。

玄関の扉を開けて、リビングに入る。

すると、そこには2億のPVを達成した日向が居た。

「あれぇ、こうじゃないなぁ」

何やらPCと向き合ってるようだった。

「何してるの、日向お姉ちゃん」

「お帰り、日陰ちゃん」

美人天才ラノベ作家は僕の姉だ。

その太陽に似た笑みは僕へと向けられてる。

そして立ち上がり、ずんずんと近づいてくる。

「日向お姉ちゃん?」

「んーーーっ、お帰り!」

日向お姉ちゃんは僕のことを抱きしめる。

「苦しいんだけど」

「愛情表現って大事じゃない?」

「少しウザいかも」

「ちょっとだけ我慢♪」

「もぉ~」

姉は僕のことを抱き枕か何かと勘違いしてるのではないだろうか?

まぁ、でも、人に抱きしめられるのは悪くない。

人肌というのは落ち着く。

今の時代、人と触れ合うのに何かと許可が必要な時代だ。でも、人は何処かで体温を求めてる。

そんな気がする。だからこうして、抱き合うのは心を栄養不足を補ってるのかもしれないと僕は考えてる。

「ありがと、日陰ちゃん♪」

日向お姉ちゃんは僕から離れる。

「いいけどさ・・・別に」

それにしても、改めてみると姉は美人だ。

醜いアヒルの子を思い出す。

親は同じなのに、生まれてくる子は違う個体が生まれてくる話だったと思う。

人は何故、違うものを生み出すのだろう?

全く同じ個体であれば争いは起きないのではないだろうか?

そんなどうでもいいことを考えてしまう。

「どうしたの、私をじっと見て?」

「いや・・・その」

「ん?」

「綺麗だなって思って」

「ありがとう」

にこっと微笑む。

「あうっ」

思わず、ときめいてしまう。

あぁ・・・ずるい顔だ。

「日陰も可愛いよ」

「そんなことないと思う」

「なんでさ」

「だってさ、日向お姉ちゃんも知ってるじゃん」

僕はぎゅっとワンピースのスカートを掴む。

「肌のシミのこと?」

「そう・・・」

「私は気にしないけど・・・でも日陰ちゃんは気にしてるんだよね」

「まぁ・・・そうかな」

「シミくらい大したことないって思うのは難しいかな?」

「それは・・・難しいかも」

「そっか、でも・・・私は気にしないから。

そのことだけは伝えておくね」

「うん・・・分かってるよ、日向お姉ちゃんは僕と仲良くしたいってのは」

「それが伝わってれば十分かな」

「十分だと思う」

「この話は、おしまい、ね?」

「分かった」

あんまり暗い話をしてもしょうがないと思ったのだろう。だから早めに切り上げた。

僕もそうだと思ったので、話を終えることにした。

「今ね、加工やってるの」

「加工?」

「そう、見て?」

「これは・・・日向お姉ちゃん?」

「そうそう、こうして・・・私の写真に光を当てたり・・・悪い部分を消して・・・っと」

お姉ちゃんは気に食わない部分をPCの加工ソフトで消したり、足したりする。

「綺麗になってると思う」

「本当?加工した甲斐があるかも」

お姉ちゃんはにこっと笑う。

「でも、加工なんてしなくても綺麗だと思う」

僕はそんなこと思って告げる。

「ん-、一応念のためかな。

何もしないと、努力してないって思われるも嫌だし。それに、綺麗って言われるのは嬉しいしね」

「そっか」

モデルみたいなことをしてるからなぁ。

そういう美意識みたいなのはちゃんとしておかないとダメなのかもしれない。

僕は表舞台に立つことから逃げるように生きてるのだから。

「日陰もやってみる?」

「え・・・いいよ・・・どうせ僕なんて」

「そう?」

姉は直ぐにPCに向き直す。

無理に強制する気はないようだ。

「そういえばSNSの反響凄かった」

「見てくれたんだ」

「うん・・・お姉ちゃんのことだし」

「どうだった?」

「えっと、嫌なコメントもあるにはあったけど・・・でも殆どが肯定的って言うか」

「そっか、そっか、うん・・・良い感じ」

「僕も誉れ高いって言うか」

「やめてよ、何だか恥ずかしいなぁ」

「本当に、お姉ちゃんはキラキラしてるなって」

「えー、そう?」

お姉ちゃんは満更でもなさそうだ。

現にこうして売れに売れまくってるのだから、

少しくらい天狗になっても罰は当たらないだろうとは思う。

「やっぱり、人前に出るのって楽しい?」

僕は気になったことを尋ねる。

「そうだなぁ」

お姉ちゃんは考え始める。

「どうかな」

「いろんな意見があるし、やってて嫌だなって思うことはあるよ。でもね、下品かもしれないけど、承認欲求って言うのかな。そういうのは満たされる気がする。多くの人が私の名前を口にすると、特別なのかもって思えるし、生まれて良かったって心から思える」

「そっか」

「日陰ちゃんもどう?」

「僕は・・・ちょっと」

「そっか、まぁ、無理にとは言わないよ・・・でも気持ちが変わったら言ってよ、一緒に出よう?」

「うん・・・その気になったらね」

全ての人間がそうとは言わない。

でも、きっと多くの人が自分のことを何処かで特別なんじゃないかって思ってる。でも、多くの人が名前を読んでくれたのならば、その特別はきっと本物なんだ。それを味わえるのは、きっと幸せなんだろうなと思う。だけど、僕は臆病な性格だ。人前に出たら、このシミのことを何か言われるのではないかと不安になる。そのことを考えると人前に出る勇気は湧いてこない。逃げなければ・・・その幸せは味わえるんだろう。でも・・・僕は逃げるんだ。その方が楽だし・・・誰からも見向きされないかもしれないけど、逆に言えば誰にも関わらずに済むってことだ。恐ろしいことは起きない・・・それがきっと僕の生き方であり、無意識の幸せなんだろうなって思う。








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