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別の日の出来事だ。
僕は、PCを開く。
何気なく、動画を見ていたんだ。
何か面白い動画でも無いかなと適当に探す。そこに、動画の機能としておススメがあって、何の気なしに動画を見る。
それは言うならば、お気持ち表明系の動画だ。こういう動画の多くは特定の人間を批判することで、その人間に対して不満を持ってる人が共感する。だから伸びるのだろう、有名人が言うのだからと、自分の意見の後押しをしてくれるような気がして心強いってのもあるかもしれない。普段ならば気にしない、それどころか見ようともしない系の動画だ。犬や猫の動画を見ていた方が健全だと思うからだ。でも、この時だけは違ったんだ。
「高橋日向?あぁ~知ってる、あの有名なラノベ作家でしょ。正直、本を買ってみたけど全然面白くないよね、どうしてあれが売れるのかさっぱり分からないね。顔だけはいいからね、きっと才能で売れたんじゃなくてプロデューサーか何かに枕営業をしたんだよ、あははは」
僕は動画の主に怒り心頭だ。
姉はそんな人間じゃないし、それに一度も会話したことが無い奴がどうして姉の事をここまで自信もって言い切るのかが理解不能だった。
「こんにゃろ、お前に、何が、分かるって言うんだ!」
僕は動画サイトの下の方にあるコメント欄に怒りの気持ちをぶつける。
すると、同意してくれる人が現れる。
(高橋日向の小説は面白いよ、この人の意見は間違ってる)
そうだ、もっと言ってやれ。
そんな気分になる。
でも同時に、批判的なコメントも目立つ。
(つまらないものはつまらない、それは事実だ。だったらそれを改善するのがプロってのものじゃないのか?)
僕はこのコメントに腹が立ち、コメントを送る。
(お前は全然分かってない。
つまらない人は本の価値を理解してないからつまらないのだ。
勉強がつまらないと言ってる不良と同じ、やる気が無いからつまらないのだ。理解する気があれば、基本的に多くのものは楽しめる、だからお前は娯楽落伍者なんだよ)
僕は自分の言いたいことを言ってスッキリした。
ものの数分でコメントが出る。
返事があったので確認する。
(長文乙、こいつもしかして作家本人じゃね?)
そんなコメントだった。
この野郎、僕の闘争心に火をつけさせたな。
(バカには10文字以上は無理か。英単語帳すら覚えられ無さそうだもんな。すまない、君を賢いと誤解していた、今度からは子供に話しかけるように分かりやすくするよ)
僕はネット上で顔を合わせないと何処までも強気になれる女だった。すぐに返信が来る。間違えなく向こうも火がついてると思った。でも、互いに止められない。これはプライドを守る戦いだ。それは小さいことかもしれないが、これを守れるかどうかで幸福の度合いを左右するのだから人生において重要な感情だろう。
(長文が理解できないんじゃない、無駄に長い文章が嫌いなだけだ。例えて言うならば、パレットに絵の具を沢山乗せるようなものだ。どんなに美しい言葉でも無駄が多ければ汚くなるのだから)
もはや、小説の面白さ云々よりも互いにどっちが正しいかの言い合いになる。これは議論とは呼べないが、それでも止めることが出来ないのが人間の本能だろう。
(君の中では無駄なんだろうけど、僕の中では価値があるように見える。結局のところは君の好き嫌いが酷いだけじゃないか。その価値観で他人を傷つけるのだから救えない性格をしてるよ、君は)
コメントを打つ手が止まらない。レスバをしてる時が一番生き生きしてるかもしれない僕は。
(救えないのは君の方じゃないのか?こうして一個人とレスバトをし続けてるなんて、凄く馬鹿げてる。こんなことをしてる暇があるのならば何かしら人生において役立つ努力をする方がよっぽどいい)
何をと思う。
ここまで言われて黙って引き下がれるか、僕はこいつの尊厳を出来る限り下げて、下げて、下げまくってやる。それで顔を真っ赤にして、暗くなったPCの画面を見て自分の愚かさに気づかさせてやる。そんな意気込みで僕はコメントを打とうとしたその時だった。
「こーら」
そこに居たのは姉だった。
PCをぱたんと閉じてしまう。
「何するんだよ、今いい所だったのに」
「全然いい所じゃないでしょ」
「何で分かるのさ」
「悪いけど、少し見てたの」
「え・・・」
レスバは自分だけが見るのは全然いいが、他人に見られるのはかなり恥ずかしい。中学時代に書いたポエムを見られるよりも僕は恥ずかしさを感じる。
「人と言い合いしてたでしょ」
「だ、だって向こうが小説の悪口を書いてたんだ・・・お姉ちゃんの悪口だって・・・」
「私は気にしないよ」
「お姉ちゃんが気にしなくても僕が気にするんだよ」
「日陰ちゃん」
「何も分かってない奴が得意げになって批判するのが許せないんだ・・・お前に何がわかるんだって・・・だから言い返さないと・・・黙ってたら・・・どんどん悪い言葉が広がる気がするんだ」
「大丈夫、広がらないよ」
「そんなの分からないよ」
「日陰ちゃん」
「な・・・なに?」
姉は真っすぐ僕の目を見る。
「その悪意ある言葉って他人だけ?」
「え・・・?」
「自分も言ってるじゃないの?」
「それは」
「嫌なことを言われるかもしれない、でも言い返すのは駄目だよ。苦しいかもしれないけど、言い返して、もしも相手を傷つけたらどうするの?」
「あんまり良くない事・・・です」
僕は先生に怒られたような気持になる。
「言い負かされた相手はきっと恥をかかされたって思って、ずっと心の中でその人のことを恨み続けるわ・・・私・・・日陰ちゃんが恨まれるのは嫌だな」
「そう・・・かもしれない」
姉の言い分には一理ある。
つい、熱が入って言い返してしまった。ネットだから大きなトラブルにはなってない。でも、これが現実社会だったらどうだろう?きっと相手を怒らせてトラブルになる。姉はそうなって欲しくないのだろう。
「喧嘩をしないのが一番の勝ち。トラブルを起こしそうな人は距離を取るのが一番だよ」
「うん・・・そうだね」
「うん、そうだよ」
姉は微笑むのだった。
「ごめんなさい」
「いいの、理解してくれただけで凄く嬉しい」
姉は僕のことを抱きしめるのだった。
「・・・」
姉に対して申し訳なかったなと心の中で反省するのだった。
「PCはシャットダウンして、一緒にアイス食べよう?」
「うん」
僕はレスバトルには勝てなかったけれど、姉と一緒にアイスを食べていたら、次第にどうでもよくなってきた。多分、こっちの方が正しいんだろうなと思うのだった。




