4-1
それはある日の出来事だった。
やはり、気になるものは気になる。
そう思い、書店に入る。
全ての書店に存在するわけではないと思うが、書店にはランキングなるものが存在する。そこで姉の本が1位かどうか気になる。どんなものなんだろうか。僕のチェックが入る。すると、ランキングは何と2位だった。
1位ダンジョンが無ければ魔王は何したらいい?
2位看護師の沈黙(高橋日向著)
「がああっ」
1位じゃないことに落ち込む。
しかし、ここで僕に邪な考えが思い浮かぶ。
そうだ、目立つ所に姉の本を置いてしまおう。
そうすれば売り上げがあがり、姉の本が1位に返り咲くのだ。
入り口に置くのはありきたりかもしれない。となると、何処が良いだろうか?皆が見るであろう場所で、かつ他の人があまり注目してない場所。それは何処だろうと思った時にパッと思いついたのは消毒液の手前だ。今の時代、手の除菌は欠かせない。間違えなく見るだろう、僕は消毒液の傍に本を置く。
「そこで何してるの?」
「ごめんなさい!」
陸上選手のクラウチングスタートよりも早く謝罪する。
僕は悪事が見つかり、謝罪する。
許してもらえるだろうか?
僕は見上げて、相手の顔を確認。
「あれ・・・何処かで」
少年は見覚えがあった。
「吉井純太」
ネームプレートに書かれた名前を思わず読み上げてしまう。
恰好はTシャツ+パンツ+ドクロのネックレス。
身長170cm。
体重60kg。
そんな人物だった。
「やっぱり、河川敷に居た人だよね」
「あぁ・・・はいそうです」
間違えない。
明美さんが説教した人だ。
「いやぁ、再会するなんて。
自分たち縁があるなぁ」
純太君は笑っていたけれど、僕はおっかなびっくりという感じで話す。
「そ、そうですね」
「元気ないなぁ」
「こういう性格なもんで」
「ふぅん、まぁ、自分もそんなに明るい性格って訳じゃないしね。あんまり気にならないかな」
「そう・・・ですか」
「そうそう」
でも、何だか僕よりもハキハキ喋ってて、接客は何だか上手そうだった。
「あの、顔腫れてるけど大丈夫?」
僕は思わず聞いてしまった。
「あぁ、これ」
「やっぱり、虐められて」
「違うよ」
「でも」
「自分も最初は虐められるって思ったけど、いざ喧嘩してみたら互角の勝負でね。結局さ、決着つかなかったんだよ」
「そう・・・だったんですね」
「でも、喧嘩したら不思議なもので仲良くなっちゃって」
「えっと、それはおめでとうございます?」
「いやぁ、ありがとう」
純太君は笑っていた。
あの不良と結果的に仲良くなったのならば、喧嘩そのものは悪いことだけど、仲直り?出来たのなら良いことだったのかもしれない。
「それにしても何で喧嘩なんて」
「好きな人がいてさ、それでどっちが先に告白するか~なんて馬鹿みたいだよね」
「そんな、別に」
「それでさ、勝った方が先に告白出来るって…ほんとにねぇ。
相手が居ない場所で喧嘩してるんだからほんとにバカだったよ」
「は、はぁ」
同意するのも失礼な気がして、僕は曖昧な返事しか出来ない。
「結局さ、自分たちは喧嘩しても決着がつかなかったわけで、それって答えが出てないわけだろ?だからどうにか落としどころを見つけようって話になって、それで2人同時に告白することにしたんだ」
「なるほど?」
「しかもさぁ、これが傑作なんだ」
純太君は可笑しそうに笑う。
「何が傑作なの?」
僕は聞き返す。
「2人で同時に告白したらね、喧嘩するような野蛮な人は嫌いってさ・・・あはは!なんのために喧嘩したんだか」
純太君は笑ってるけれど、僕は一緒に笑っていいモノか迷う。
「それは、その辛かったね」
「だろう?だから自分たちはコーラでも飲んで彼女の悪口を言い合ってたんだ。喧嘩が嫌いなら早く言ってくれよってさ」
「あはは」
僕は愛想笑いする。
「まぁ、でも・・・それで彼と仲良くなれたんだから全てが悪い結果じゃないと思う」
「そう・・・だね・・・きっとそうだよ」
少しでも前向きになれるのならばそれに越したことは無いだろう。
僕はささやかながら応援する気持ちだった。
「それはそれとして、本を勝手に移動させるのは良くないよね」
純太君は急に真顔になる。
それが少し怖かった。
「やっぱりお気づきで・・・」
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいいなる。
「他の本もあるのに1つだけ目立たせるのはズルいよね」
「はい、おっしゃる通りで」
僕は何も言い返す言葉が無かった。ただただ、叱りの言葉を受取るしかできなかった。
「でも、いいよ」
「え?」
「君とは縁を感じるからね。
きっとまた、何処かで会うと思う。だから、その縁を祝福すると思って、この本を目立つところにおいてあげよう」
「いいの?」
「あぁ、その代わり友達に
なってくれるかい?」
「なるなる、置いてくれるなら友達になるよ」
「それじゃ、契約成立だ」
「よろしく・・・えぇっと純太君」
「こちらこそよろしく、そういえば君の名前は?」
「僕は高橋日陰、よろしく」
「よろしくね」
僕らは互いに握手するのだった。




