3-5
明美さんと街中を歩いてる途中のことだ。
僕らは河原に辿り着く。
「何かやってんな」
「よく見えますね」
外はもう暗くなってる。
それなにも良く見えるなと感心する。
「行ってみるか」
「え、何か危なそうじゃないですか?」
「平気だよ、俺が居るんだ」
明美さんは斜面をずさーっと降りていく。
「うそでしょ」
僕は唖然とする。
よく、こんな暗闇の中を進んで行けるな。
「お前も来い」
「僕もですか?」
「当たり前だろ、俺だけ来させる気かよ」
「それじゃ、遠回りを・・・」
「何でもいいから必ず来いよ」
僕は斜面を滑り降りる勇気は無かったので、階段を探して、ゆっくり降りた。スマホに備わってるライトで地面を照らして行くのだった。すると、男性2人が揉めてると気づく。
「お願いです、誰か助けてください」
片方は不良っぽい見た目だった。
それに対して、真面目そうな少年が相手だった。普通に生きていたら関りが無さそうな2人だった。そして、助けを求めてきたのは真面目そうな雰囲気の方だった。
「助けてって言われても」
僕は運動神経が悪いことで有名だ。
自他ともに認めると言ってもいい。
「自分は虐められてるんです、可哀そうだと思いませんか!?」
真面目そうな彼は必死に訴える。
その気持ちも分からなくは無いが、
僕では力になれそうにない。
「えっと、ごめん・・・僕じゃちょっと」
僕は拒否してしまう。
「それじゃ、そっちのお姉さん」
「俺か?」
明美さんが自分を指さす。
「お願いです、助けてください」
真面目そうな彼は訴える。
「あのさ・・・敵って1人なの?」
しかし、明美さんは別の事を気にして居た。
「えっと・・・そうですね」
真面目そうな彼は辺りを見渡す。
そこには1人しか居なかった。
「俺は曲がったことは嫌いだ」
明美さんはそんなことを言う。
「それじゃあ・・・」
真面目そうな彼は目を輝かせる。
「だから虐めとか、そういうのなら助けてやる。
だけどな、俺にはこいつが虐めには見えないんだ」
明美さんは言い放つ。
「それはどういう」
真面目そうな彼は戸惑う。
「いいか、虐めってのは複数人で襲うものだ。
1人に対して複数で襲うってのはズルいって思う。
それは卑怯だなって思う、だから許せない。
けどな、敵は1人なんだろ。目の前に居るそいつだけだ。だったらこれは虐めじゃない、ただの喧嘩だ」
明美さんは冷たく言い放つ。
「それじゃ、助けてくれないんですか?」
真面目そうな彼は絶望の表情を浮かべる。
「あぁ」
明美さんの意思は固そうだ。
「そんな」
真面目そうな彼は落ち込む。
「相手は1人なんだ、俺に頼らずに1人で行け。
お前が必死になって戦ってみろよ。
武器を使ってもいい、自信が無いなら金とか話し合いで結論を出せ。じゃないと、1人で立ち向かってる相手に失礼だろ」
それが明美さんの考えなのだろう。
「・・・」
どうなんだろうか。
1対1でも、いじめは虐めだと考える人はいる。
どっちが正しいのか僕には分からない。
でも、今この状況で明美さんが助太刀に入るのはズルいような気がした。
もしも明美さんが助太刀に入って勝ったら向こうの言い分を殺してしまう気がして正しいのか疑問が残るような気がしたんだ。
だから今はきっと・・・明美さんが少し正しいのかもしれないと僕は思った。
「そう・・・だね・・・自分が間違ってたよ」
少年は不良に向き合う。
「おし、その意気だ」
明美さんはニッと笑う。
「初めから助けてもらおうってのは虫が良いよね。
まずは自分が戦わないと、じゃないと人は助けてくれない・・・行くぞ・・・おおおおおお!」
真面目な少年は不良に向かっていった。
相手の不良も何処か楽し気な顔をしていた。
「後は2人の問題だ、行くぞ」
「あ・・・うん」
僕と明美さんはそうして去っていった。
階段を上がって、元の道に戻る。
そうして2人きりになった時に話し始めた。
「卑怯な感じじゃなくて良かったぜ」
「卑怯?」
「あぁ、複数で襲っていたら参加しようって思ってたんだ」
明美さんはさも当然みたいな顔で言ってのける。
「参加って・・・喧嘩に?」
「そうだよ、変か?」
明美さんは不思議そうな顔をする。
「変に決まってるよ、だって喧嘩に参加したいなんて野蛮だ」
「野蛮って、ガキの喧嘩なんて遊びみたいなものだろ」
「ふあああああっ」
僕は価値観の違いに驚く。
僕には信じられない話だ。
「お前は小枝みたいなものだしな、すぐに折れそうだし」
「僕は・・・まぁ・・・そうだけど」
僕は気弱になって、明美さんの言葉を受け入れてしまう。
「あははは、小枝だ、小枝!」
明美さんは凄くバカにしたように笑う。その笑い方が何だか妙に腹立つ。
「バカにするな!」
僕はムキになる。
「おっ、そういう顔も出来るんだな」
明美さんは楽しそうだ。
「そういう顔ってなにさ」
「やってやるって顔だよ。
その顔は前向きな気持ちじゃないと出ない」
「ぐ・・・」
言われてみるとそうだ。
僕は明美さんと喧嘩しても100%と負けるだろうに、どうしてやってやるって気持ちになったのだろうか?
「そういう闘志ってのは大事だぜ、暗い顔するより良い。俺好みだ」
「別に好かれたいと思わないので」
僕はツンツンして見せる。
「生意気になってきたな」
「あでででで」
僕は鼻を掴かまれるのだった。
「それじゃ、俺こっちだから」
そう言って明美さんは走り去る。ようやく別れられた、胃が痛くなる時間だった。
「バイバイ」
「またな、日陰」
「・・・」
また・・・か。
きっと今夜で最後だろう。
僕はそう思っていた。
そうして1人で家に帰るのだった。




