雨だれ
車の窓ガラスに雨粒が、散りばめられている。ウィンカーは、それを払っては、を繰り返す。
今年の六月の梅雨は、長いらしい。雨が好きな彼女は、喜ぶだろう。でも雨ばかりでは困る人も居る。
雨は、しとしとと降っている。よく詩人が、描写が苦手な理由について考える。けれど考えてもなかなか分からない。
呪い。ふとそんな発想が浮かぶ。それは、或いは、わたしが呪いを時々使うせいかもしれない。
この世界には、呪いが溢れている。よくスポーツなんかで負けても呪う人も居るし、恋愛に破れて呪う人も居る。
人間が、生きていると、どうしても恨みとか呪いとかが付きまとう。
車は目的地に向かっている。目的地?正確に言うなら、学校だ。わたしの通う私立S高校。そこに車は向かっている。
と、前置きは此処ら辺にしておきたい。車は学校に着いた。そうして、母に連れられわたしは、学校へと行く。
わたしは高校3年生だ。当たり前に高校に通い、当たり前に過ごしてきた。恋人は居ない。
友達は苦手だ。友達は、居るが、深く付き合うのは苦手だ。どうしてかは、分からない。この世の中にはどうしてか、分からないほうがいいこともある。知って傷ついてしまうこともある。
放課後になった。わたしは、友人の理恵と、校門を出る。理恵は、背丈がわたしと同じくらいで、歯がチャーミングな、女生徒だ。わたしは理恵が好き。
理恵はチャーミングだし、心も綺麗だ。よくカフェに一緒に行く。
「今日も行かない?」そう誘われる。わたしは、黙ってついていく。
カフェは森のような木の多い、駅前通りにある。
理恵と共にそこに入る。
カランと、店に入る時の音がする。
「2名様で」と店員が言い、私たちは、入ってすぐの紫の柔らかいソファに座る。
「つくしくん狙ってるの?」
「つくしくん?別に狙ってないよ」
そうわたしは答える。
「わたしは狙ってるの」
「そう。わたしは恋愛なんか興味ないし」
「でも、恋せよでしょ!」
そう彼女は、言う。やけに学校の制服が眩しい。
「だったら声掛けるの?」
「紹介してもらうの」
「そう。彼は付き合ってる子居るの?」
「居る。B組の可愛い子」
「そう。でも理恵なら張り合えるかなあ」
「うん」
「最初は友達から、始めるんだよね」
「うん」
「でも理恵って結構肉食?」
「そう!肉好き!」
「男も食べちゃうの?」
「男の子って可愛いから·····」
そこにブレンドコーヒーが2つ運ばれてきた。
ふと気配がする。誰だろう?店の外かな?わたしは、外を見る。外には、誰なのかは分からないが学生の男の子がいる。
不安そうな表情の子だ。大人しそうだが内に秘めている決意が見える。髪は短めで、傘を指していない。(外は雨降りだ)
「誰?」そう気付いた理恵が言う。
「さあ、知らない子だけれど」
その子は、去ってしまった。可愛い子だった。名前くらいは聞ければなあと思う。
その日は、そのまま過ぎていった。私達は家路につく。
きっと、君の名前が聞けないから、眠れないんだ。そうその子に文句を言いたくなる。お休みなさい、わたしの王子様。
☓☓☓
夜夢を見る。夢を見る時はわたしは少し違う人になる。顔も違うし、年も少女ではない。彼に会わなければ。そればかり思う。
連絡が取れた。彼に会う。彼は、夏の日差しの中、ベンチに居る。
「どうしてあの時·····」そうわたしが言う。「僕は、君を知っている」
「そう?違う学校でしょ」
「でも知っている」
「どうして?わたし有名なのかなあ」
「僕は、君に会うよ。友達から始めるけれど」
そうして私達はダンスをする。やがて夜が来る。その夜は語り明かした。永遠に明けない夜だったらいいのに·····
翌朝、目覚めるとなぜか泣いていた。どうしてか分からないが、泣いていた。さて、起きなくっちゃ。