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第三十話 『想定外の一手』




 九月に入り、面倒な体育祭準備に賑わう時期になった。


 瑛陵高校は九月末に体育祭を行い、十月下旬に文化祭を開催する。

 私にとってはどちらも面倒で、特に文化祭はあちこちで引っ張り凧にされて疲れることこの上ない。


「そう言えば麗花の住む場所が決まったそうですが、本当に大丈夫か怪しいですね」


 ぼんやりとニュースを眺めながら私は由ヶ崎麗花のことを頭に思い描いた。


 リデルは羅奈の策略によって殺された。そして、サルビアと呼ばれていた由ヶ崎麗花を私の道具として使うことにした。

 けれど、麗花を道具にするのは羅奈と比較すると遥かに難しい。


 身寄りがないのはどちらも同じだ。

 単純に施設に預けられれば楽でいいが、由ヶ崎麗花を施設に預けることは絶対にできない。

 施設に預ければ、当然彼女の身元は割れる。それはつまり──二十年前の一家連続殺人で誘拐された少女が見つかったと知れ渡ることになる。


 由ヶ崎麗花が見つかったとなれば日本中が彼女を追い回す。

 相手の心中など気にもせず、ずけずけと根掘り葉掘り彼女に起きた出来事の全てを無理やり聞き出そうとする。話す様子をテレビやネットでひたすら流され、数年は静かに暮らせなくなる。

 故に由ヶ崎麗花を光の下へは出せないのだ。厄介は話だ。


 しかし、生活の心配は不要と他でもない麗花本人が口にした。

 曰く、


「実は、兄の『女の子』の中にたった一人、わたしにすごく優しくしてくれた人がいて……その人が一緒に暮らそうって」


 とのことだ。


 リデルが有していた女奴隷の中に、唯一サルビアである麗花に優しくしていた存在がいたらしい。

 詳しく聞いたが麗花と同世代の女性で、他の女奴隷とは異なりリデルのことは好きでも狂愛ではないそうだ。殺人に関与したことはなく、監視やリデルの食事の管理を主に担当して彼からも気に入られていたようだ。女性の理由としては単に恩を感じて接していたとか。


 女性は普通の一般家庭を持っているシングルマザーで子どもと二人と暮らしている。家は祖父母の遺産で買ったため広く、麗花一人増えても問題ない居住スペースもある。仕事もしていて、ちょうど子どもの面倒を見て欲しかったと喜ばれたと麗花は話していた。


 麗花の話だけを聞けば善良な人間に思える。

 でも、麗花の目から見た世界での話であり実情がどうかはわからない。

 何人かリデルの使う『女の子』を見たが、私が見た中では全員壊れてしまっていた。

 リデル本人から聞いた話からも、あの異常者を狂愛していた女が多いのも察せる。

 麗花を養うと言った女性が嘘をついていれば、麗花が背を向けた瞬間に刺すのではと私は思えなかったが、


「洗脳、されてるから……サルビアを殺すと、倍になって自分が苦しむことになるよって……」


 麗花の話によれば、全ての女奴隷にリデルはそのように伝えて洗脳していたそうだ。

 洗脳された側が洗脳者が死した後も有効なのかは疑問だが、女性の善良性と洗脳の効果を信じる以外に私にできることはない。


 最悪麗花が死んでも私的にはどうでもいい。

 使える手駒は多い方がいい。色々と楽になるから。

 しかし有している駒が大きな爆弾を抱えている以上、扱いの慎重さが使い手に求められる。


 そもそも私は誰かと一緒になんて考えて始めた殺人ではない。

 殺人鬼にあるのは孤独と地獄だけ。私のような狂気的な殺人鬼は特に。

 それが共犯が二人もいるなんてそうそうあり得る話じゃない。偶然の産物。運命の巡り合わせだ。


 殺されたならそれまで。

 また上手く知恵を振り絞ってやりくりすればいい。


『続いてのニュースです』


 トースターに食パンを入れて、ぼーっとニュースに目を向ける。


 依然として、メディアは『刎ね子』のニュースを取り上げている。

 犯行は続いているし、得体の知れなさが興味を惹き続けているのだろう。だが、私が最初に人を殺してから既に五ヶ月が経過している。


 埼玉県警を始め、警察は未だに成果を上げられずじまい。『刎ね子』が与えた恐怖や犯行目的の考察、陰謀論や都市伝説などの話も三ヶ月を目処に話題にならなくなった。

 当然の流れだ。


 なにせ、警察が進展を掲示できないのだから。



『──九月二日、埼玉県警は『刎ね子』の共犯者だと名乗る女性を逮捕しました』



「──っっ!?」


 ニュースキャスターが口にした一言に、私はテレビに釘付けになった。


 共犯者?

 まさか羅奈か麗花が私を裏切った?


『逮捕されたのは都内に住む二十五歳の女性、渡井楓奈容疑者です。容疑者は捜査一課の刑事である大沼蓮二さんに対して警察署の駐車場で待ち伏せをし、刃物を使用して命を奪ったとされています。現場に居合わせた別の警察官によって渡井容疑者は現行犯で逮捕されましたが、大沼蓮二さんは搬送先の病院で死亡が確認されました』


 おかしい。おかしいおかしいおかしい。

 渡井楓奈? まったく聞き覚えのない名前だ。

 羅奈か麗花が裏切った心配が消えたのはいいが、それ以上に不可解さに頭が痛くなる。


『その後渡井容疑者の取り調べにおいて「『刎ね子』に指示を受けて行った」として容疑を認めましたが、取り調べ中に自殺を図り、意識不明の重体で病院に搬送後死亡が確認されました。警察は、自殺の原因について詳しく調査を進めています』


「────」


『また渡井容疑者は、二十年前の一家連続殺人事件の犯人が『刎ね子』により殺害されたと……』


「ああ……そういうことでしたか」


 一通りニュースを聞いてから私はテレビを消した。


 理解した。

 これは、リデルからの最後の嫌がらせだ。

 女奴隷の誰かに対して、リデルは私に殺された後に誰かを殺すよう指示した。

 わざと現行犯で逮捕させ、取り調べで『刎ね子』に関する情報を与えるために。


「死んでまで私を……」


 死んでまで私に害を為すとは思いもしなかった。

 殺しても殺さなくても、あの男は私にとって災厄そのものだった。


 出会ってしまった時点で──否、見つかってしまった時点で私の未来はリデルによって踊らされていたと知り、不快感に気分が悪くなる。


「問題は、警察にどこまで情報を与えたか」


 共犯者がいることは知られてしまった。

 これはバレたところで元から予測されていたことだし、些事たる問題ではない。とはいえ、羅奈や麗花には一層警戒心を持ってもらうよう注意を徹底し、私自身も道具を使う立場の人間として場所や時間、人の流れの精査は徹底する必要がある。


 まさか共犯者がいるだけを伝えたわけがない。

 警察が報道規制を行い、明るみに出ていない情報が他にもあるはずだ。


「考えても無駄な上に知る術がない」


 今私がどんなに思考を凝らしても、女が何を答えかは確認できない。

 報道の仕方からして、私に関する情報に進展があった程度で、明確に『刎ね子』=三芳芽亜とは伝えられていないのは敢えてなのだろう。

 私に対する配慮ではなく、リデル自身の口から警察が嫌いだと口にしていたし、警察嫌いが理由だと思うが。


「少し、欲を抑えた方が良さそうですね」


 地位の高い警察官が殺され、二十年前の事件の犯人が殺害され、殺した容疑者が『刎ね子』の共犯者且つ指示を受けた者だった。

 落ち着き始めた『刎ね子』事件が、国中で話題を再燃させられた。


 現時点でも夜間のパトロール強化や監視カメラの増加など私に対する警戒度が高くなっている。

 しかし、リデルの死後の嫌がらせで更に警察の警戒度が引き上げられたのは間違いない。


 今まで通り短期間に何人も手をかけるのは自粛するのが妥当だ。

 いや、そもそも殺人自体一時的に辞めた方が身のためだ。今誰かを殺せば私が『刎ね子』だと知られるのも時間の問題だ。


「後で羅奈と麗花にも連絡しておきましょうか」


 ここから数日間、あるいは数ヶ月間。

 私の忍耐力によるけれど、首を刎ねるのを我慢する日々が始まる。

 既に長続きする気がまるでしていないが、自分の未来のためだ。


 頑張らないと。




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