第十三話 『立ち上がる理由』
最初に名前を呼んで顔を上げてくれたものの、瀬波はすぐに下を向いてしまった。
昨日とは別人の様だった。
穏やかな雰囲気は消えていて、警察官としての矜持を重んじる正義感溢れた勇ましさも失われていた。
繋いでいた糸が千切れた瀬波碧斗の姿は、愛宮の知る彼の姿とはまるでかけ離れていた。
一目で失意の底に落ちているのだと理解した。
理解して、自分が声をかけることを躊躇っていると自覚した。
「あ、っ……」
一瞬声を発して即座に口を閉ざした。
今声をかけることが、本当に正しいのだろうか。
そもそも声をかけることが正しいのだろうか。
瀬波が自分の意志で成嶋の死を乗り越えるのを待った方が良いのではないか。
脳内で最適解が何かを自問する。
考える時間が必要だとわかっている。
けれど、今瀬波に寄り添わなければ彼は立ち直れなくなるかもしれない。
自分の言葉が瀬波の心に届かない可能性もある。
愛宮も心の傷が癒えたわけでも気持ちの整理がついたわけでもない。
でも、今後ろ向きになることを成嶋が望まないと思った。だから愛宮は、悲しみに負けずに立っている。
「──っ」
瀬波に寄り添えるのは、愛宮にしかできない。
たとえ声が届かなくても伝えることに意味がある。
瞑目して、三人で過ごした日々を思い出す。
愛宮の人生においてもっとも輝いている時間だった。
もう、三人での時間は二度と戻って来ない。
だが、過ごした日々が失われたわけではない。
乗り越えるのだ。成嶋の死を。
そして、成嶋を殺した犯人を捕まえて、新たな一歩を踏み出すのだ。
「瀬波先輩。お話があります」
「今は一人に……」
「嫌です。わたしの話を、聞いてもらいます」
瀬波の言葉を遮って力強く言った。
そうして、悲しみを堪えながら話し始めた。
「一課のみなさんは、悲しみを胸にしまって成嶋先輩の犯人を探して捜査を開始しました。瀬波先輩も、今は辛いと思いますが捜査に参加してください。成嶋先輩のためにも」
「僕なんていなくても捜査はできる……『刎ね子』だって、きっと」
今にも消えてしまいそうなほど小さな声で、瀬波は下を向いたままそう言った。
「それでいいんですか?」
「事実でしょ……過度な期待を向けられているけど、僕は大した警察官じゃない。友人一人も、まもれないんだから……」
友人一人も守れない。
その言葉に、愛宮の心が締め付けられる。
成嶋を守れなかったことの後悔が、瀬波の脆い心を打ち砕き続けている。
でも。
後悔しているのは、瀬波だけじゃない。
「わたしだって、後悔しています」
「…………」
「わたしは他の人たちのように賢くないし、血を見てすぐに気分悪くなるし、容疑者が目の前に迫ってきていても力がなくて捕らえられません」
全て愛宮の実体験だ。
過去の事件での捜査会議で多くの一課の警察官が推理する中、愛宮は碌な考えが浮かばなかった。
殺人事件は愚か傷害事件の軽い切り傷で流れた血を見れば吐き気を催す。
全力で走る逃亡犯が愛宮に向かってきた時も、構えて抑え込もうとしたが逆に突き飛ばされた。
いずれも愛宮の大きな後悔だ。
「でも、あなたは違う。全てにおいて、わたしを上回っている」
「そんなことは……」
「あります」
瞳を燃やして力強く瀬波に断言した。
「わたしが言いたいのは、瀬波先輩は誰かを守るための力がちゃんとあるということです」
「──っ」
「失敗したことを今も後悔しています。だからって、わたしには無理だと諦めたりはしません。二度と失敗しないように努力して、落ち込んでも頑張って前を向き続ける。それを教えてくれたのは、瀬波先輩じゃありませんか」
過去に一課に配属して始めての強盗事件の捜査に加わった愛宮が、向かってきた犯人を捕らえられず逃がしてしまったことがあった。
のちに逮捕されたものの、失敗に対する自責の念に心が折れそうになったことがあった。
そんな時、瀬波はこう言った。
『失敗しても後悔だけし続けるんじゃダメだ。次に備えて努力して、諦めそうになる気持ちをグッと堪える。警察官は、無理にでも前を向き続けなきゃいけないから』
あの時瀬波からもらった言葉を胸を今も大事にしている。
愛宮の警察官としての道筋を示してくれたのは間違いなく瀬波だ。
そして、歩く道を支えてくれたのが成嶋だった。
──今度はわたしの番だ。
「努力を怠らない。常に誰かのためを思って行動する、他の誰よりも正義感に溢れた人間。それが瀬南碧斗巡査です」
「……っ」
「いつまで下を向いてるつもりですか! ──あなたが正義を掲げるのは、たくさんの人を守りたいからじゃなかったんですか!」
瀬波の目の前まで詰め寄って愛宮は言い放った。
成嶋を亡くして辛いのは愛宮も同じ。
けれど、成嶋はもういない。
愛宮の道筋を支え、ずっと瀬波の隣に立っていた成嶋は、もういない。
それでも、二人は警察官として生きていかなければならない。
愛宮は成嶋の支えなしで歩めるように。
そして成嶋の代わりに、今度は自分が、瀬波の隣に立つのだ。
「──っ!」
愛宮の叫びに、瀬波は弾かれたように顔を上げた。
すぐ近くに、愛宮の顔がある。
彼女は小さく震えていて、両手の拳は力強く握られ、瞳からは涙を流している。
──愛宮の言葉に、魂が震えた。
そう、そうだ。
僕が警察官を目指したのは、悲しむ誰かを守りたかったからだ。
決して、惨めに泣き喚いて、現実から目を逸らして下を向くためじゃない。
自らが掲げる正義は、誰かを守るためにある。
そんな簡単なことをどうして見失いかけていたのだろう。
成嶋だって正義を見失い、悲しみに暮れ続けて諦める僕の姿は望まないと理解していたはずなのに。
「ダメだな、僕は……」
あまりの自分の弱さに呆れた。
一丁前に正義を掲げておいてそれが何度も陰る。
掲げた以上、せめて表面上だけは強く在ろうとした。愛宮にも無理にでも前を向くようにと言った。
なのに、言った本人ができていないじゃないか。
情けない。みっともない。
このままじゃ、成嶋に顔向けできない。
「ごめん、愛宮」
「先輩?」
気がつけば、辺りは暗くなっていた。
屋上を照らす月を見ながら、脳裏に成嶋の姿を思い描く。
亡くなっても、一緒にいた時間が消えるわけじゃない。成嶋との時間は、僕らの心の中に在り続ける。
成嶋の分も警察官として、誠心誠意生きていかなければならないのだ。
たとえ躓いたとしても、諦めることを成嶋は望まないはずだから──。
「成嶋を失って、僕は完全に周りが見えなくなってた。でもそれは、愛宮も他の警察官も同じはずだよね」
辛いのは僕だけじゃない。
考えればわかることなのに、愛宮に言われるまで、まるで世界で一番辛いのが自分かのように思ってしまっていた。
だけど、
「君のお陰で、何をしなくちゃいけないのか思い出せた。ありがとう、愛宮」
ベンチから立ち上がり、涙を流す愛宮と目を合わせて僕は言った。
すると、彼女の瞳からとめどなく涙が溢れた。
……堪えようとしてたんだ。
成嶋の死への悲しみを表に出せば、自分も僕と同じようになってしまうと考えていたのかもしれない。
溢れ出る涙が、僕が再び立ち上がるまで悲しむことを我慢していたと伺える。
本当に本当に情けない先輩だ。
愛宮にかっこ悪いところをたくさん見せてしまった自分が情けない。
尊敬している人の背が突然見えなくなって、愛宮は悲しみながらも何が最前かをこの数時間で悩んだに違いない。
もう二度と無様は晒さない。
ここから、底に落ちた僕を引き上げてくれた愛宮の期待に、守れなかった成嶋の願いに、応えないと。
「成嶋を殺した犯人を捕まえたい。手伝ってくれる?」
うっすら口元に笑みを浮かべながら、僕は愛宮に手を伸ばした。
嗚咽しながらも涙を拭う手を止めて、僕を真っ直ぐに見つめて彼女は手を取った。
「はい、瀬波先輩……!」
もし愛宮がいなかったら、僕はどこまでも落ちていたに違いない。
これ以上、僕と同じ想いをする人々を出すわけにはいかない。
絶対に。
──己が掲げた正義に誓って、人々の安寧を守るんだ。
◾️◾️◾️
翌日、捜査一課の室内にて。
「ご迷惑をおかけしました!」
開口一番、僕は部屋全体に響き渡る声で謝罪した。
本当なら昨日の内に謝罪したかった。
けれど愛宮が屋上に来て、話し終えた時点で二十四時を過ぎていた。未だ進展のない『刎ね子』の捜査に加えて、僕が朝から食事をとっていなかったのもあって翌日に持ち越すこととなった。
げっそりした顔で謝っても誠意が伝わりづらい。
一日とはいえ大勢に迷惑かけたんだ。
表面上だけでも整えてから謝りたい。
「……ん」
頭を下げたまま、誰かが反応してくれるまで静寂に身を委ねた。
時刻は十時前。もうすぐ捜査会議が始まる時間だ。
捜査一課の刑事全員が一緒に集う今しか謝罪の機会はない。
無視されるならそれでも構わない。
たった一日でも、心の弱さが原因で職務を放棄するような刑事は必要とされなくなって当然だ。
ましてここは警視庁捜査一課で、現在は歴史上最悪の事件である『刎ね子』の捜査の真っ只中。
そして、捜査一課の仲間が何者かに殺害された翌日だ。
なおさら、僕のような愚か者に構っている暇なんてない。
無視されたっていい。
その分だけ、行動で示して結果で返す。
もう二度と、正義に背くマネはしないって決めたんだ。
「──良かった良かった」
謝罪から五分程度が経過した後、一人の男性が僕の肩を叩いて話しかけてきた。
顔を上げると笑みを浮かべた髭が特徴的な刑事が僕の前に立っていた。
菜野剛伸警部。
和やかな雰囲気を纏い周囲の刑事にも慕われている。
その性格からは想像もつかないほどに勘が鋭く、頭がキレる捜査一課のベテラン刑事だ。
菜野警部は微笑を浮かべたまま「いやー」と前置きしてから話し始めた。
「戻ってきてくれて良かったよ、ホントにね」
菜野警部がそう言うと、近くにいた刑事も同様の反応をした。
その反応に心が温まる。
「よく立ち直ったな。瀬波」
太く逞しい声が僕を呼んだ。
振り返ると、そこには警視庁捜査一課のトップ、大沼一課長の姿があった。
「本当にご迷惑を……」
「友人を失ったんだ。悲しむのは当然のことだ。私たちも仲間を失って心を痛めた」
「────」
「年齢を交えて言うのは不適切かもしれないが。どんな警察官も大切な人をを失えば傷つく。場合によっては、立ち直れず署を去った者も少なくない」
僕から一瞬目を逸らした後すぐに再び目を合わせた。
その仕草はまるで、実際に大沼一課長が見てきたかのようだった。
「去ることも一つの選択だ。だが、お前は戻ってきた」
大沼一課長は一歩前に出た。
それから彼は、僕に右手を差し出した。
「これからも頼むぞ、瀬波巡査」
「──っ、はい!」
差し出された手を取り、僕は大沼一課長と握手を交わした。
直後、会議室内が拍手で満たされた。
……本当に良い人たちに恵まれた。
部下の僕を気遣ってくれる人たちのためにも頑張らないと。
拍手の音が心地良い気持ちになりながら、僕は室内に視線を巡らせて何度も頭を下げた。
その中に、冷めた視線を向ける刑事がいた。
「────」
伊津野刑事だ。彼はいつもと変わらない表情で僕を見ている。
彼だけではない。僕を睨む人もいれば、拍手せず口元を隠して何かを話している人の姿も視界に入った。
皆が皆、僕の謝罪を受け入れてくれるわけじゃない。
大変な時期に職務を放棄した事実は消えない。
それに戻ってきたと言っても僕はベテラン刑事じゃなく、経験の浅い若手だ。「若手が偉そうに」と思うのも、立ち直っただけで大袈裟すぎると捉えるのも普通の反応だ。
予想していた反応だ。
嫌な目を向けられたからって落ち込んだりはしない。
僕を良く思わない人たちにも行動で示していく。ただそれだけのことだ。
捜査会議が終わり、一課の刑事はそれぞれ与えられた職務に動いた。
僕もある事を確かめたくて鑑識課を訪れた。
「成嶋が殺害された現場の写真を見せていただけますか?」
確かめたかったのは成嶋の殺害現場の写真だ。
遺体が発見された当日、僕も現場に向かった。しかし、友人が殺害された事実に錯乱状態となっていてまともに現場を見れていなかった。
最初の捜査会議にも参加できず、現場の写真を見る機会をなくしていた。
大沼一課長の取り計らってくれたお陰で僕と愛宮は鑑識課にいる。
今日の捜査会議で気になることもあったし、それも確認しないと。
椅子に座る青い制服を着用した白髪の男性に声をかけた。
鑑識課員の瓜生喜一巡査部長だ。事件現場ではいつも顔を合わせている。
「はいはいー」
瓜生巡査部長は席を立ち、ファイルの置かれた棚の前へ。すると、棚のファイルに人差し指を当てて成嶋の現場写真が纏められたファイルを探してくれた。
「あった。さ、こっちこっち」
手招きされ、僕と愛宮は瓜生巡査部長が先ほどまでいたデスクの前に行った。
瓜生巡査部長の隣に僕たちが立つと、彼はファイルを開いた。
「背中に三つ、腹部に一つの刺し傷。酷い殺し方だよ」
うつ伏せで左腕を伸ばした状態で倒れる成嶋の遺体。
背中は血に染まり、遺体の周囲にも血液が飛び散っている。
複数の角度から撮影された写真に一通り目を通して、僕は捜査会議で聞いた情報について聞いた。
「たしか、現場に証拠が残されていたって」
そう。成嶋の殺害現場には二つの証拠が残されていたのだ。
証拠ゼロの『刎ね子』の完全犯罪とは決定的に異なる、犯人が残してしまったミス。
「これだね」
瓜生巡査部長がファイルのページをめくり、新たに幾つかの写真を僕たちに見せてくれた。
一つは女性サイズと思われる靴の形をしたゲソ痕の写真だ。
形状からして左足。サイズは二十三から二十四と言ったところか。
ゲソ痕の周りには少量だが泥が確認できる。
……犯人は女性?
断定はできない。
だけど、サイズ感からして女性の可能性が高そうだ。
もう一つは犯行に使われたと見られるナイフだ。
刃渡六センチ程度のナイフの刃に成嶋の血液が付着している。
ただ引っかかる点があった。
「持ち手が綺麗すぎる」
「よく気づいたねぇ」
ニンマリと笑って瓜生巡査部長は言った。
買ったばかりのナイフなのは間違いない。
それにしても、合計四度も差しているのに血液一つ付着していないのは不自然だ。
「指紋は検出できなかった上に、成嶋巡査の血液の付着も確認できなくてさぁ」
「てことは、偽の証拠の可能性があるということですか?」
「そういうことになるねぇ」
証拠の偽装は事件において珍しい話じゃない。
仮に殺害に使ったとされるナイフが偽装だとしたら、指紋などのDNAが特定できる証拠が残されていない点からも余裕をもっての犯行だった可能性が浮上する。
ゲソ痕も片足一つだけというのも不自然だ。
証拠隠滅し忘れであればいいけど、偽装されたモノなら厄介すぎる。
ただ、今回の事件は犯人近づくための大きな鍵が残されていた。
「話、聞いてるんだよねぇ」
瓜生巡査部長にそう言われて僕は深く頷いた。
瓜生巡査部長はファイルを捲り、該当のページを開いた。
そこにはうつ伏せで横たわる成嶋の遺体が伸ばした左腕の先──血で書かれたダイイングメッセージの写真があった。
「……成嶋」
命が尽きる瞬間まで何をすべきかを考えて、最後の力を振り絞って僕たちにメッセージを残してくれた。
その時の成嶋の気持ちを考えると、心臓が鍼で刺されたかのように痛む。
頭を振って意識を切り替えてから改めて写真を見た。
「『4』?」
人差し指の先には、地面に数字の『4』が書かれていた。
字は歪みぶれていることから、ダイイングメッセージは偽装ではなく成嶋が書いたものと見て間違いない。
「なにを意味しているんでしょうか」
「うーん。犯人の特徴かあるいは人数か……」
一つは犯人の特徴だ。
犯人の特徴を示していた場合、成嶋は犯人を知っていたことになる。
しかし、具体的に犯人のどの特徴を示しているのかまでは現時点ではわからない。
二つ目に犯人の人数だ。
成嶋を殺害した犯人が複数犯であれば、手際よく現場の証拠隠滅を図ることができる。証拠偽装が行えるほど余裕をもって行動していたことにも説明がつく。
ただ、直感が後者を否定している。
「成嶋なら多分、犯人の特徴を残すと思う」
「わたしも同じです!」
僕が言ったことに愛宮も同意してくれた。
「ん?」
現場写真に一通り目を通したところで、僕は一枚の写真に引っかかった。
「右手にも何か書こうとした?」
伸ばされた左腕とは違い、右腕は力なく地面についている。
僕が引っかかたのは右手の先だ。左手同様、血で何か書こうとした形跡があった。
不規則に書かれた三本線だ。
一番上が極端に短く、真ん中の線は長く書かれている。最後に三本目の線も真ん中の線同様に長いがこちらの方がやや短い。
「何を書こうとしたかって考えてた人もいたけども、自分には地面を引っ掻いただけにしか見えないねぇ」
「そうですか。愛宮は?」
「えっと、わたしも瓜生巡査部長と同意見です。特別意味があるようには見えませんし、何か書こうとしたようにもあまり……」
二人とも書こうとしたようには見えないか……。
早く事件を解決したい気持ちが強まるあまり、一つでも多くの証拠を欲する僕の願望なのかな。
『刎ね子』事件もそうだ。
僕に限らず多くの刑事は、証拠ゼロの現状から小さな点でさえ血痕ではないかと疑ってしまう。
この成嶋の右手の先の血の線も、ダイイングメッセージを書こうとしたのではなくて、引っ掻いたとか腕を動かそうとして触れただけとか──、
「そういえば、何を書こうとしたか考えてた人もいたって仰ってましたね。誰ですか?」
先ほどの瓜生巡査部長の発言を思い出した。
僕と同じように考えた人がいるなら是非話を聞きたい。
「伊津野刑事だよ」
「──っ」
伊津野刑事が僕と同じ考えを抱いた人だったとは。
いや、あの人なら僕と同じように考えてもおかしくないか。
常に他人とは異なる視点を持ち合わせている伊津野刑事なら。
「お忙しい中ありがとうございました、瓜生巡査部長」
「いいえ〜」
瓜生巡査部長に深々とお辞儀をしてから僕は愛宮の方を向いた。
「伊津野刑事、今日は『刎ね子』の八人目の被害者について調べてたよね?」
「はい。なので夜までは戻ってこないかと」
「わかった。僕たちは成嶋の事件の調査を優先する。夜になったら伊津野刑事も署に戻ってきてると思うし、そのとき話を聞きに行こうか」
そう言うと愛宮は元気よく「はい!」と返事をした。
冷徹を絵に描いたよう存在である伊津野刑事が、僕の問いに簡単に答えてくれるとは思えない。
でも、事件解決に伊津野刑事の考えを聞くのは必要な要素だ。
たとえ馬鹿にされたとしても、聞き出さないといけない。
そうして僕たちは、成嶋を殺した犯人を追うために行動を開始した。




