サンタクロースがやって来る!
「お姉ちゃん、サンタさんって悪い子のお家には来ないの?」
学校帰り、弟のジョナサンの質問にエマは狼狽える。去年まではエマはジョナサンと同じようにサンタクロースの存在を信じていたけれど、今年は違う。クラスメイトのアニーが「サンタなんていないんだよ。パパとママがプレゼントを用意してくれてるだけ」とクラス中に言いふらしたからだ。手にギュッと力を込めた。はらはらと降る雪は軽やかで、ジョナサンは大きくまんまるとした瞳でエマを見上げている。エマはジョナサンのサンタクロースを守りたいと思った。
「まああんまり悪いことばっかりしていたら来ないのかもね」
ブロロ、とエンジン音が聞こえた。郵便物を詰め込んだバイクがふたりを追い抜く。
「そうなの」
がっかりしたような、悲しそうな顔でジョナサンが言った。エマは首を傾げる。
「あんたは良い子なんだから心配する必要ないと思うけど」
「ケニーがね、言ってたんだ。あんたは良い子じゃないからサンタさんは来ないって、お母さんに言われたんだって」
ケニー。エマは茶髪のそばかすの少年を思い浮かべる。無愛想で目つきが鋭く、ジョナサンには似ても似つかない子どもだ。
「そうなんだ」
エマはそれ以外の言葉を見つけることができなかった。もしサンタクロースを心から信じていた去年のエマだったら、「サンタクロースはきっと心が広いからケニーにもプレゼントが来るよ」と言えていたはずだった。エマは心の中でアニーを責めた。
「そんなのいやだな」
ぽつりと呟いたジョナサンの吐いた白い息が消えていく。
「良い子にも悪い子にも、どんな子にもサンタさんが来てくれたらいいのに。クリスマスはみんなのものだから」
もしもジョナサンがこの世界の全てを決める神さまだったとしたら、きっと今よりずっと温かくて、優しい星になるんだろうなとエマは思った。エマの弟はきっと柔らかく世界を救ってみせるだろう。
「ジョナサンの言う通りだね」
エマは微笑んで、ジョナサンの頭を軽く撫ぜた。もしかしたらケニーのお母さんは機嫌をなおしてケニーにプレゼントを贈るかもしれない。もしくはただの冗談で言ったのかもしれない。或いは、お母さんは考えを変えず、ケニーの元にプレゼントは贈られないのかもしれない。それでもエマの弟のジョナサンは言う。クリスマスはみんなのものだから、良い子だろうが悪い子だろうがケニーの家にサンタクロースは訪れるべきだと。
「僕、大きくなったらサンタクロースになろうかな」
「あんたには向いてるかもね」
ふたりは手を繋いだ。郵便ポストを通り過ぎたので、家はもうすぐだ。エマは気がつく。ジョナサンは神さまではないし、神さまにはなれない。けれど、ジョナサンもエマもサンタクロースになることはできる。誰かの為に祈る心と少しの勇気があれば誰もがサンタクロースなのだ。アニーは間違っていたのだ。きっと今年もサンタクロースはトナカイの引くソリに乗って微笑みを浮かべながら、この町にやってくるのだから。




