第8話:王都到着
すー。すー。
揺れと音でアリシアが起きない程度の速度で馬車が進んでいると、微かに聞こえる馬車の進む音とともに、隣から寝息が聞こえてくる。
そこには俺の肩にもたれながら寝ているアリシアがいた。寝顔が可愛い...
「...おおっ」
馬車の窓を覗き込むと前には王都があった。さっきまでは嘔吐してたのにね...
出てきたダジャレが面白くなくてすみません...
とまあ、自分で作ったダジャレを自虐していると、王都の門が見えてきた。
馬車の小窓が開いて、そこから一人の男が出てくる。この男は俺達を学園まで乗せていってくれた馬乗りの人だ。そして、話しかけてくる。
「アリシア様、リオ様。一度止まりますので、少し揺れます」
「大丈夫ですよ。フィンさん。」
俺はそろりとカバンから1つの魔法の書をだす。
その本は表紙に基本魔法[特殊]と大きく書かれた本で、やや厚めの本だった。
そして、俺の口は少し小さめの声で、呪文を詠唱する。
「ディフェンス・シールドⅠ」
すると、アリシアの身体に、バフがかかり、
ベーシック魔法であるディフェンス・シールドⅡを付与する。
この魔法の効果は、簡単に言えば防御力を上げることだけをしてくれる付与系統魔法だ。
前世でのゲーム設定では数字ごとにが数字×10%の防御力を付与できるため、おそらく20%を付与しているのだろう。
続いて俺はもう一つの魔法を詠唱する。
「インパクト・バリアⅠ」
アリシアの身体が一瞬だけ黄色く光った。
この魔法は衝撃吸収という効果があり、物理攻撃をを吸収してくれる。
「おお。これは凄いですね。付与魔法をかけると急激に反発力が上がるのに、それでも付与魔法を二重にかけるなんて私にはできないですよ」
「ありがとうございます。これ、すごく練習して覚えたんです。」
まあ、もちろん嘘だがな。気になってやってみたら出来ちゃったレベルだ。
前世のゲームのヒロインがこのスキルを覚えるためにダンジョンに何時間潜っていたことか...この身体だったら一瞬だったけど。
恐らくだが結構この身体が本当に優秀なんだな...
てかそうだな。もしも前世のゲームの知っている地域に来たら、ゲーム知識をふんだんに使って効率的な強くなる方法を模索してもいいかもしれない。
例えば隠しダンジョンや古代図書館だな。
ガタッ
馬車が止まったことで、軽い振動が俺達に襲ってくる。だが、さっきに防御系のバフなどをかけたおかげで衝撃があまり伝わらず、アリシアは未だにすやすやと寝ている。
「さすがは伯爵家の書斎だな。ああいう本がまだ何千冊もあるんだな」
俺の手には基本魔法の本が一冊と、カバンには基本魔法と標準魔法の本がそれぞれ二冊、応用魔法が一冊入っている。つまりは合計六冊も借りてきたということだ。
この世界の本の価値は一冊で銀貨6枚。前世の母国の通貨だとすれば日本円6000円といったところか。
だが、それでも全然平気という...さすが伯爵家だと言わざるを得ない。
感謝を現在不在のファナックさんに伝えていると、フィンさんがまたこちらに戻ってきて。
「ここからは国家規定によって馬車が使えないそうなので、徒歩でよろしいでしょうか」
「わかりました。アリシア...起きれるか?」
アリシアが起きて大きくあくびをすると、彼女はこちらをずっとまじまじと見つめる。
「おはようアリシア。よく寝れたかな?」
「......あぇ。さっきまで...リオとスライムと私と?帰ってきて?蒸しパンを食べて?」
アリシアは起きたばかりで夢と現実がよくわからなくなっていた。
だからよくわからないことを発言している...
「アリシア。私達はいま学園で試験をするために王都まで来ているんだよ」
「嘔吐?吐いたの?」
「....確かにさっき吐いたけど」
アリシアはその瞬間目がカッと開き覚醒する。
「あ、ごめんね。確か入試試験で...」
「別に大丈夫だよ」
ちょっと悪いこと言うけど、アリシアは起きた直後は脳が4んでいる...と。
面白いアリシアの姿を見れたな。
すると扉が開き、フィンさん馬車の中に入ってくる。
「お嬢様。もう一つの馬車が後ろから来ていますのでお早めに...」
フィンさんがちょっと困ったように言うと、アリシアは「すみません。今準備します」と、言ってさっさと馬車を出る準備をしていた。
だが、後ろから馬車も迫っているので、俺は馬車の外へ出る。
すると、開いている大きな門が目の前にあり、門の両側には鉄の甲冑をつけて立っている兵士がいた。
この光景...それは前世のゲームで仲間と何度も見た景色だった。
後ろを見れば、大きな橋が一つと、人工で出来た堀が掘られている。堀には水が入っており、俺の可愛らしい顔が反射していた。
懐かしい...と思いながら...仲間の顔を思い出す。
......あれ。仲間ってどんな顔だったっけ?
それに...どんなやつだったんだっけ。誰も思い出せない.......
「リオ。待たせてごめんね。準備できました!」
「うん。行こうか」
「では、行ってらっしゃいませ。お嬢様、リオ様」
俺達は、フィンに見送られ、門をくぐり抜けていく。フィンが見えなくなったころ。
俺は仲間の顔がとうだったとか、どんなやつだったとかなどの気になる感情を忘れ、アリシアと王都の中心へと向かっていった。