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終幕噺第三話 挑戦の入り口

2021年11月 <山口 葵>

 Vandits安芸がJFL昇格を決める二週間前。シルエレイナ高知はなでしこリーグ2部入替戦予選大会を一位で通過して、なでしこリーグ2部で最下位だった岡山レディースとの入替戦に挑みます。


 今シーズン、チームは日程の許す限り練習試合を申し込み、実戦経験を積み続けました。チーム発足当初から学生メンバーが実戦経験が乏しかった為、四国内はもちろん中国地方・近畿地方の大学・社会人チームに練習試合を申し込み2月から予選大会の始まる9月までの間に四国リーグも含めて24試合を経験する事が出来ました。


 そして夏の移籍で早苗(八木)ちゃんと彩芽(酒井)ちゃんが入ってくれた事でチームとして更に充実し安定感が生まれました。経験少ない若い学生の多いチームにとってなでしこリーグを経験している二人の加入はとても影響は大きく、二人も非常にコミュニケーションを大事にしてくれているので、今では学生の子達が休憩時間や練習終わりに私と優も含め四人を質問攻めにする事がしょっちゅうです。


 その中でもFWの由衣(中嶋)は誰よりも危機感を持って取り組んでいます。今まで1トップだったフォーメーションは、早苗ちゃんが入ってくれた事により2トップにシフトして3-4-1-2と言うフォーメーションで臨んでいます。

 FWのスタメンは早苗ちゃんと由衣が務める事がほとんどですが、由衣としてはもう一人なでしこリーグ経験のあるようなFWが加入したら自分のレギュラーは今以上に危ういと考えているようです。


 私達からすると由衣は創立メンバーの中では成長株でそんな心配は無いと感じていますが、原田監督はこの危機感を良い成長だと感じているようで、中には危機感を感じる事無く諦める選手もいたりする中で、しっかりと自分の課題が見えているのは良い事だと評価していました。。その中でもしっかり自分のアピールを出来ているのは私としても良い傾向だと感じています。


 そしてもう一人、本人には全く自覚は無いのかも知れませんが、注目を集めているのが彩羽(五百城)。今までに何度かどこかのクラブのスカウトらしき方は試合を観に来ていたりしました。女子のしかも地方リーグとなれば、関係者が観に来ていると周りの方とは雰囲気が違うのでさすがに分かるんです。


 本人はホントにサッカーをするのが楽しくてしょうがないんだと思います。学校も問題なく馴染めてるみたいだし、ホントに良かった。クラブだけじゃなくデポルト全体で注意深く見守っていた感じはありました。

 今のところは私達四人と原田監督の評価としては、高校卒業して来年には間違いなくU-21もしくはU-22の合宿にはお呼びがかかるだろうと言う判断です。シルエレイナの中で世代別を考えずに日本代表候補を挙げるとすれば間違いなく彩羽です。


 【なでしこリーグ2部入替戦 対 岡山レディース】

 入替戦はホーム&アウェイで二戦行われますが、ホーム&アウェイと言ってもVandits fieldで行う訳ではありません。Vandits fieldの戦場は現在改修工事中なので、別の競技場で行う事になります。今回は春野総合運動公園の球技場が選ばれました。


 第一戦目のアウェイ戦は3対1で勝利して、この試合を引き分け以上で終えられればシルエレイナ高知は来季なでしこリーグ2部で戦う事が出来ます。


 第二戦は相手のスタメンが大きく変わり若手中心となっていて、前半は体力とスピードに任せて早いプレッシャーを仕掛ける事でこちらの集中力と体力を奪いに来る作戦を取ったようでした。勝負は後半と言う事でしょう。


 しかし私達がこう言った戦術に対して対抗策を講じずに練習をする訳がありません。これはヴァンディッツも同じですが、パスワークとボール保持率を高める相手に対しては早く高い位置でのプレッシャーとそれを維持し続ける体力で、相手方のミスを誘い出す方法が最も思い付きやすく簡単な対応と言えると思います。


 原田監督はその対応への練習や取り組みをヴァンディッツのコーチ時代からずっと板垣監督とやってきた実績がありますし、私達もそこに対しての信頼があります。チーム発足の時からずっと私達への対抗策として一番考えられる戦術である訳ですから、取り組み続けてきました。


 パスワークの練習に関しては女子チームの中では一番厳しく集中した練習を積んでいる自信があります。そしてまだまだチームとしても選手層としても若いシルエレイナにとっては、きっとこの取り組みは数年後に大きく花開くと信じています。


 結局の所、相手もうちもどちらが先に集中力を切らせてしまうかと言う所が、カギになって来るのは間違いないと試合前から感じていました。

 それが形として出たのがシルエレイナが1点リードの前半42分、早いプレッシャーに来た相手の高校生MFの選手が由衣に対して激しく膝を当ててしまった上にそのまま足を絡めるような倒れ方をしてこれが一発レッドの判定となりました。


 由衣は上手く倒れてくれたおかげでプレイに影響が出るような負傷などはありませんでしたが、非常に危ないプレイでした。これには優がGKの位置から全力疾走で走って来て、相手キャプテンと当該選手に詰め寄る場面もありました。

 審判からも相手キャプテンにも口頭で注意が与えられ、この試合を通して相手が続けている少し当たりの強いディフェンスは主審としては「注意しなさい」と言うレベルだと判断されました。


 ハーフタイムでは彩羽が由衣に近寄り、誰よりも心配していました。由衣が笑顔で大丈夫だよと彩羽の頭を撫でて、一体どっちがチャージを受けたのか分からない光景に控室は笑い声に溢れていました。


 そうして迎えた後半は完全にこちらのペース。自分達のプレイを注意されただけでなく、人数的な不利と得点ビハインドも重ねてしまった相手チームとしては全員守備・全員攻撃のサッカーを取るしか方法が無く、それは前半に使い続けた体力を更に消耗する事に繋がりました。


 両チームともに交代枠は上手く使いましたが、人数的不利をカバーしきれなかった相手に対して私達はしっかりと追加点を重ね、結果3対0で勝利。文句なしのなでしこリーグ2部への昇格を決めました。


 駆け足以上のスピードで昇格を続けてきたシルエレイナ。ここからはトップアマチュアに向けて更なるチームの充実が求められます。自分達が求めてきた場所。そして新たに現れた頂。登り詰めると皆で約束しました。


 私達の挑戦はやっと入り口に立てたのかも知れません。

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