表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/179

第149話 それぞれの躍進

2020年7月 都内某所 <熊井 美祢子>

 今日の仕事終わりの楽しみは週に一度のVanditsチャンネル更新日。運営会社が出来たのを機にチャンネル名がカタカナからアルファベットに変わりました。

 そしてVandits安芸関連の動画が週に一度の月曜日、シルエレイナ高知関連の動画が週に一度の水曜日に公開されます。その他のコンテンツは不定期に上がっている感じです。


 今日は先週公開予定になっていたこの四月から始まった新コンテンツ『山賊が来たよ!』です。ネーミングだけならインパクト大ですが、中身は四国リーグ昇格で県外での試合が増えた事により、アウェイで訪れた場所のお勧めスポットやグルメ、許可が出れば対戦相手のチーム紹介などをするコンテンツです。

 ナレーションは無く、BGMと字幕テロップだけで構成されてる動画ですが、これがまったりしてて仕事終わりにゆっくり見るには一番良いんです。しかも、相手チームの紹介なども公開練習してるチームなどは問い合わせ先を載せていたり、練習風景もあったりと盛りだくさんなんです。


 特に『スタジアムを見下ろそう』と言う、そのチームのホームスタジアム、四国リーグの場合は割り振られた会場を眺められる高台や山の上、高い建物の上から見下ろす意味不明なプチコーナーがあるんですが、これがまた面白い。ここは見下ろせるかどうか分かっていない状態で登っていくので、登った挙句見えませんでしたみたいなパターンも全然あるんです。


 そして動画全編を通して登場するのが、『せんじゅ丸』の手持ちぬいぐるみなんです。ぬいぐるみが旅してる設定で、字幕もちょっと武将口調になってて何とも可愛い。


 紹介してくれるグルメもカフェから居酒屋、スイーツ店やお土産物を買うのに便利なお店など多岐に渡って紹介してくれるんです。四国リーグとは言いつつも、高知以外の三県に関してはJリーグ入りしているチームが既にあるので、そのチームの応援や観戦に行った時にも使える情報だったりします。


 「徳島ラーメン美味しそぉ~!!」


 もう晩ご飯は食べてるはずなのに映っている徳島ラーメンの動画に喉が鳴っています。また撮ってるカメラも良いカメラ使ってるんだろうなぁ。画質綺麗なんだよねぇ。


 ホントにどんどん新しいコンテンツを提供してくれて、運営会社が変わった事でチャンネルも今まで以上に力を入れてる感じがします。


 来月に仕事で休みが取れる予定なので現地観戦に行く予定です。あぁ~!毎試合行きたいぃぃ!!

 私も移住しちゃおうかなぁ。以前に配信で有澤さんが言ってたんだけど、有澤さんもデポルト・ファミリアで働く前は只のサッカーファンとして高知に遊びに来てて、Vandits安芸にドハマりして移住を決めたって。


 しちゃう?私も。いやいやいや、無理だろうなぁ。公認会計士や税理士がいきなり違う土地いってすぐにお客さん捕まえられる訳無いしなぁ。はぁ、お金はあっても暇がない。何でこんなに忙しいんだろう?私。


 ・・・・・・・・・・

2020年7月 北川村冴木ゆず園 <冴木 和馬>

 今日はアルバイトスタッフも休みでのんびりと草刈りをしている。7月ともなると日中は暑さが厳しく、早朝5時から草刈りを始め9時頃で午前の作業を終わり、午後は15時くらいから始める。そうしないと本当に命に関わりそうなほど暑い。


 休憩所や俺や作業員が急遽泊まる事になった時の為に購入しリフォームした古民家でのんびりと暑さを逃れていると玄関から誰かが呼んでいる声がする。


 「はぁ~い!すぐ行きまぁ~す。」


 寝転がっていた体を起こし玄関に向かうと北川村役場のアキヒロさんだった。苗字は何だったっけ?お互いに和馬君、アキヒロさんと呼び合う仲になったので名刺も貰ったはずだが苗字は忘れてしまった。それくらいにしょっちゅう顔を合わせている。

 ちなみに最初の農園を手に入れる際に尽力してくれたり、もう一つの農園の所有者を紹介してくれたのもアキヒロさんだ。


 「あれ?アキヒロさん、どうしました?」

 「休憩中ごめんね!ちょっと時間良い?」

 「どうぞどうぞ。」


 アキヒロさんを中に招き入れ、冷たい麦茶を出すと旨そうに飲み干した。


 「いやぁ~!美味い!!!」

 「ほんっとに暑いですねぇ。作業なんか出来ませんよ。」

 「いやいや、ホント!和馬君も気を付けてよ。一応、見回りとかしてお年寄りには注意してるけど、皆自分の齢忘れたみたいに昼間っから作業するからさぁ。」


 自分で作業するようになって思う事だが、本当にお年寄りと言うのは一日中働いてるんじゃないだろうかと言うくらい畑にいる。それが温かい陽気の頃ならば良いのだが、6月中旬を過ぎたあたりからは昼間の気温も高くなり、7月に入れば危険なくらいに暑い。


 役場の職員の仕事ではないのかも知れないが、アキヒロさんはこうして仕事が空いた時に集落を回って暑い時間帯に作業しているお年寄りに声掛けをしている。俺も最近は同じ地区内だけだが、昼間の時間帯に作業している人には挨拶がてらお茶に誘うようにして昼間の作業をしないように誘導している。


 「で?何か話があるんじゃないですか?」

 「実はさ、すげぇザックバランに失礼な質問になっちゃうんだけど良いかな?」

 「ザックバラン過ぎる問いかけですけど、内容次第です。」


 アキヒロさんは俺よりも5つ程年上だが、高校時代に司以外にアキヒロさんのような友達がいたらもっと楽しい学生生活だったろうなと思わせてくれるほど馬が合う。それはアキヒロさんも感じてくれているようだ。


 「実はさぁ~、小島(こしま)のキャンプ場分かる?」

 「分かりますよ。ってか、あれ跡地じゃないんですか?」


 うちの農園がある平鍋地区からもう少し奈半利町方面に行くと、北川温泉がある。そこが小島地区なのだが、北川温泉の横を流れる奈半利川を挟んだ対岸にキャンプ場?がある。


 と言っても、キャンプ場と言われているだけで、実際は整地された後に放置された只の空き地だ。俺が小学校くらいの頃にはトイレもあり水道設備もあったようだが、数年前に平鍋よりも上流で鉄砲水が起こり、その勢いを増した濁流がキャンプ場を施設諸共流してしまった。

 その後、以前のキャンプ場よりも2mほど土を持って斜面を石と金属ネットで補強し、川辺に下りられるように石の階段なども作った。しかし、そこからキャンプ場へと復帰させる工事は行われなかった。


 と言うのも、鉄砲水に流される以前からそのキャンプ場はほとんど利用者がいなかった。利用者のいない、いわゆる採算の上がらない施設に村の少ない予算を使う訳にはいかないので、そのままにしてあると言う事だ。

 だから、俺の様にこの村に最近来た者からすると、あの場所はキャンプ場では無く只の空き地なのだ。


 「まぁ、空き地みたいなもんなんだけどさぁ。和馬君、あそこにキャンプ場復活させるってのは無謀かな?」

 「採算上げるつもりなら無謀ですね。赤字出しながらでも作りたいって言うなら仕方ないですけど。」

 「やっぱ黒は無理かい?」

 「かなり厳しいと思いますね。」


 と言うのも、そのキャンプ場の広さはそれほど広い訳では無い。そして近くに駐車場がある訳でも無いので、もし始めるとすれば車ごと乗りこんでキャンプできるRVキャンプ場になるだろう。そうすると恐らく作れるサイトの数は多くて8つ。

 県内のキャンプ場の相場は3000~5000円。かなり都合よく考えて毎週金・土が埋まったとする。平日は1組か2組来れば良い方か。それで考えると一ヶ月の収入はざっとで30万強。


 「ね?無理っぽいでしょ?」

 「人件費すら難しそうだな。」

 「個人の敷地で老後の趣味でやるならまだしも、自治体管理でやるには広さが足りないし、施設を一から作るとなると数年は借金抱えるつもりでやらないと厳しいですね。」

 「いけると思ったんだけどなぁ。」

 「今は全国的にも大型のキャンプ場に関してはキャンプギアを生産・販売してるメーカーとタッグを組んで、メーカーにキャンプ場をプロデュースしてもらう形が増えてます。そう考えるなら、今の敷地の少なくとも3倍、出来れば5倍は欲しいですね。」

 「5倍なんて....小島の対岸地域全部じゃないか。」

 「まぁ、それくらいは欲しいって事です。」

 「やっぱ厳しいねぇ。ままならん。」


 アキヒロさんの口癖は「この村を柚子だけの村にしたくない」だ。気持ちは非常に分かるが、ほとんどの生産者が出荷を農協に頼って、独自で販売路を作る事をしないうちは間違いなく先細りになっていくだけだ。


 何か力になれれば良いが、こう言った事は焦って始めた所で良い事にはならない。じっくりこの村とも付き合っていく事が大事になるだろう。


 ・・・・・・・・・・

2020年8月 強化部ミーティング

 2020-21年シーズンもおよそ半期を終えて、各カテゴリーでのここまでの成績をざっくりと確認しておきたい。尚、安芸高校はVandits安芸の育成組織では無いが、スタッフが指導に関わっている観点から報告対象とした。


・Vandits安芸 四国リーグ

 8勝2分 勝点26(第10節終了時点) 一位

 二位徳島吉野川FCとの勝点差無し 得失点差6


・シルエレイナ高知 県女子サッカーリーグ

 前期優勝 3勝(後期9月より4戦)

 皇后杯高知予選 優勝(9月から四国予選)

 四国予選優勝で皇后杯本選の出場資格が得られる


・安芸高校サッカー部

 春季大会(インターハイ高知予選)

 準々決勝 対 土佐高 0対3 敗退

 チーム初のベスト8

 高円宮杯U-18高知3部Cグループ

 7勝1敗 勝点15 1位

 (9月より3部全グループで順位戦)


・Vandit Club(Vandits安芸ジュニアユース)

 高円宮杯U-15高知3部Dグループ

 3勝 勝点9 1位(全7戦中3試合消化)


 ・・・・・・・・・・

同ミーティング内 <原田 幹久>

 森がいつも通り進行をしてくれる。結果としては全カテゴリー非常に好調と言えた。確かにヴァンディッツの2引分けはあるが、それでもここまで首位を譲らずに来れている事はポジティブに考えるべきだ。


 何よりも評価して良いのは安芸高校サッカー部だろう。万年一回戦負けのチームが今年だけで9勝をあげている。高円宮杯に関しては順位戦次第では2部への挑戦も夢ではない。

 御岳さんの報告でも生徒達にも自信が見えて来ているそうだ。これから安芸高校のサッカー部に入ってくれる部員は負けが当たり前の時代を知らない世代だ。何とか今季で来年度の2部への自信を高めたい。


 「また、シルエレイナ高知ですがセレクションが無いのかどうか等の問い合わせが多いと広報部から報告を受けています。今季は全カテゴリーでセレクションは行わないと言う事で宜しいですね?」

 「私と原田監督で話した中では、とりあえず男女ともにトップチームのセレクションは大幅な選手入れ替えが起こらない限りは当面行わないと言う事で共有してます。」

 「ジュニアユースに関しては門は広く開けておくべきじゃろうな。ジュニアユースに参加するのに、原則東部地区へ引っ越し等をしてもらわなければ練習参加すら難しい。高知ユナイテッドの様に高知県内の各地区で曜日毎に行えれば良いが、そのような人数の余裕も無いのでな。基本的にはVandits fieldと安芸高校・室戸高校での練習に参加出来ない者は入団は厳しいの。」


 今季はシルエレイナ高知とジュニアユースがリーグ戦に本格参戦が決まって、練習も今まで以上に日数を取る事になった。ヴァンディッツとシルエレイナが週5日。早朝から午前にヴァンディッツ、夕方からシルエレイナが行い、ジュニアユースが週4日。

 はっきり言うとVandits fieldの補助グラウンドの使用予定はずっと埋まっている状態だ。今はトップチーム男女ともにVandits fieldのメインを使った試合が練習試合しか無いので構わない。しかし、これがJFLやなでしこリーグに参戦するようになれば、シーズン中はほぼ毎週公式戦で埋まる事になる。


 はっきり言って施設が足りない。あと人工芝のグラウンドが1面。出来れば2面あれば全カテゴリーが充分な練習スケジュールを組む事が出来る。


 そしてこれだけ過密日程になってきた事で、スクールへ参加出来るコーチ陣の確保にも頭を悩ませている。スクールも週に3日。しかもこちらはほかのカテゴリーと違って入会金と月謝を貰って開催している。こちらに人手が無いからと練習を中止にする事が出来ない。


 今は御岳さんの他にも選手達はもちろんだが、尾道や望月、入船など元ヴァンディッツのメンバーもコーチとしてスクール練習に参加してくれている。入船と尾道に関しては辞めてからコーチングCライセンスを取得し、望月に関しては将来的にはユースコーチのBライセンス取得を目指して勉強もしている。


 そして最後に森から報告があった。


 「最後にデポルトからの報告です。我々に関わると言えば関わりありますし、無いと言えば関係ない話題ですが一応報告を。」

 「はっきりせんのぉ。」

 「ははは、すみません。えっと、Vandits fieldの北側と北東部の山林、26haの土地の買収が終了したそうです。」


 えっ........もう?予定では今年いっぱい、もしくは来年になるって話じゃなかったのか。冴木さん、どんな魔法を使ったんですか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ