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第146話 提案とお願い

2020年5月 Vandits garage <杉山 富夫>

 水木さんからの提案はとりあえず事務所が了承する範囲内で続けていただく分にはこちらは言う事はありませんので、続けていただいて大丈夫だとお伝えしました。

 この話を常藤さんにお伺いしようと事務所に戻ると、ちょうど個室スペースで雪村さん、和馬さんと打ち合わせをしているとの事でしたので打ち合わせが終わり次第、お二人にも話を聞いていただく事としました。


 水木さんの提案では今後は雨宮美晴さんをファクトファミリーの高知事務所の所属として、お芝居の稽古やその他のレッスンを受けながら、ヴァンディッツの全試合を追いかける観戦日記みたいなものをSNSで挙げたいそうなのです。


 うちとしては有難いお話なのですが....


 「しかし、雨宮さんの妹さんとなると何かと言われてしまう可能性もあるのではないかと。そうでなくてもうちとファクトファミリーさんはズブズブの関係と言われるくらいお仕事をご一緒させていただいてますので。」

 「うぅ~ん....そうですねぇ。こう言ったお話もいずれ出てくるだろうとは思っておりましたが。どう対処したものでしょうか。」


 私と常藤さんでチラッと和馬さんを見ます。腕を組んで考えていた和馬さんが私達の視線に気づき、ため息をつきながら苦笑いします。


 「分かってますか?俺は一農園スタッフですよ。」

 「今更でございますね。それに部署の垣根を越えて意見を出し合うのが弊社の良い所でもありまして。」

 「物は言い様ですね。....と言うか、何か問題があるんですか?」


 和馬さんは不思議そうな顔で我々を見ています。和馬さんが言うにはあちらのタレント候補性を売り出す手段にVandits安芸を使いたい、出来ればヴァンディッツからの公式のOKがあると売り出しやすいと言う事なら、公式にOKしてあげれば良いじゃないかと言うのです。


 「今はその辺の女の子と同じレベル、なんだったら世の中のインフルエンサーと言われる人たちからすると無名の一般人がヴァンディッツ好きを公言したいと言ってるだけですから、良いも悪いも無い訳ですよ。うちが公式にその子と関りが出てくるとなればその子の登録者が万を超えて10万20万となってきた時の話でしょう。そうなれば公式マネージャーとか、タレントさんとして芽が出て来たら公式アンバサダーなんて関わり方も生まれてくるでしょうし。それまでははっきり言ってうちとしても旨味はゼロですよ?」


 相変わらず和馬さんの考え方ははっきりしています。自社に対してのメリットとそこに対するリスクを明確化する事。今回の事に関しても雨宮美晴さんがヴァンディッツの事をSNSで呟いたりしたとしても、その発言内容を精査するのは彼女の所属事務所であるファクトファミリーですし、その発言が問題視された所で今の段階ではチームにとって大きな痛手になるようなケースは起こりえないと言うのが和馬さんの考えです。ならば、好きにやらせてあげればどうかと。


 「もし初期段階から関りを持つのであれば、彼女があげようと思っている動画なんかの編集に参加してあげるとか、うちの社員やスタッフが表に出ない形での助力って言うのは大いにやってあげれば良いと思いますよ。」

 「良いんでしょうか?」

 「良いも何も、こちらが手を貸した所で売れるかどうかは事務所と本人の努力でしかない訳で、SNSの世界でバズるったってただ可愛いだけでバズれるほどもうSNSの世界は甘いジャンルでは無くなってると思いますし。プラスの何かを持ってないと競争相手はあまりに多い訳ですから。」


 確かに昨今のYtubeやSNSなどではインフルエンサーや配信者と言われる人達も独自色を求められる事が多く、ただアイドル出身だからとか元プロ選手とか言う事だけでは視聴者を集められなくなってきています。

 そこに何かの分野の詳しい知識や珍しさが無ければ、面白がられるのは最初だけと言う感じです。


 「なるほど。では、最初はあちらにお任せしておいて何かしら相談されるような事があれば対処するような形にしましょうか。」

 「そうですね。おそらく雨宮の妹と言う事はすぐにバレるでしょうし、バレて人気に火が点くかどうかも分かりませんから。」


 そうなんです。雨宮さんの妹さんと言っても、雨宮さんはただの運営スタッフで妹さんも現段階では芸能事務所に所属してる一般人と言う扱いです。それがバレたからと言って騒ぎになるようなレベルでは無いと言ってしまうとお二人には失礼になりますが。


 「有難うございます。それで対応してみます。」


 ・・・・・・・・・・

2020年6月 高知市営球場補助グラウンド <原田 幹久>

【皇后杯全日本女子サッカー選手権大会 高知県予選 一回戦 対 大方FCレディース】


 県の女子リーグも含め、現状でシルエレイナ高知は月に一度しか試合が無い状態だ。出来ればもう少し実戦経験を積ませたい思いはあるが、定期的に活動している社会人女子チームが県内には2チームほどしかない上に、そのチームとは皇后杯予選で当たる事が濃厚なのでそもそも練習試合を受けて貰えない。


 今年県リーグを優勝し来季から四国リーグに上がれば四国四県のチームにも顔は知れると思うので、もう少し練習試合などは組みやすくなるのではないだろうか。女子サッカーが広まらない理由の一つに裾野の一番の麓である最年少育成世代の選手数が少ない事もあるが、その育成世代、または社会人になってからでも趣味でサッカーを続けられるほど全国的にチーム数が無いと言う事もある。


 結果、都市部かサッカー熱の高い地域か、資金の有るチームに人が集まる。チームの一極化が進み地域での普及格差は更に広がる。極論、都道府県もしくは市町村が先頭となってスポーツ振興を行わなければ格差は埋まらない状況が出来上がってしまっている。


 まぁ、それは今は良い。試合に集中しなければ。選手達の意気は高い。と言うよりはリラックスし過ぎなくらいリラックスしている。今から練習でも始めるんじゃないだろうかと言うくらいのんびりとした雰囲気だ。


 相手の大方FCレディースは高知でも数少ない成人メンバーをメインとした女子サッカーチームだ。しかし、当然ほとんどのメンバーが社会人として仕事をしており、県リーグには後期日程のみ参加と言う形を取っている。どういった内情かは知らないが、恐らく一年を通して試合出来る人数を確保する事が難しいのだろう。


 こちらはリーグ戦のスタメンと変わらない。出来れば控えも含めて色々と試してみたい所ではあるが、皇后杯は予選もトーナメント制。一度負ければ終わりな為、さすがにここで試している余裕は無い。


 しかし、試合が始まってみて思うが、すでにシルエレイナ高知は高知県内においてはほぼ互角に戦えるチームがいないと言って良い。社会人チームに至っては週に複数回定期的に練習出来るだけのチームは無く、その環境を整えられているのは高校生チームだけ。

 そう言った中でシルエレイナ高知は週5の練習を行えるだけの施設と支援を行っている。高校生以下のメンバーに関してはチーム活動費は全てクラブが負担し、ユニフォームなどの用具費も支援している。言えば、シルエレイナに加入すれば年間通してサッカーに使う費用はクラブが持つと言う事になっている。


 高校の部活動であったとしても部費や遠征費などで強豪校になればそれなりの出費が必要になる。しかし、チームスポンサーでもある真鍋さんからの要請で、高校生以下のメンバーに関する必要経費は全て真鍋さんからのスポンサー費用で賄う事が約束されている。

 高知県で女性がサッカーを続けたければシルエレイナへの加入する事が目標になるようなチーム作りを。それが真鍋さんの願いだ。


 試合は圧倒的大差で勝利した。前半で6点獲得した事により、後半から初出場の選手を起用出来た事は嬉しい誤算だった。結果は11対0。開幕戦同様、こちらの予想以上の結果を見せてくれた。


 これで来月の高知予選決勝に勝利すれば四国予選へと進める。ここからは愛媛のJチームに所属する女子チームも参加してくる。ここと勝負になるかどうかがなでしこリーグ加盟後のチームの躍進を占う形になりそうだ。


 さて、今日は常藤さんから勝利ボーナス的なモノも預かっている。皆で高知市内にある焼肉店で祝勝会をして帰ろう。


 ・・・・・・・・・・

2020年6月 安芸市内 <秋山 直美>

 今日は外回りの用事が多く、帰りは夕方近い時間になってしまいました。最後は安芸市内にある企業へのスポンサーのお願いに来ていました。お話が終わり、駐車場で車に乗り込もうとした時でした。


 「ありゃ!?秋山ちゃん!!」

 「あっ!井上社長!!こんにちわ。」


 芸陽印刷の井上社長でした。いつも通りの元気な笑顔でこちらに歩いてきます。担当を飯島君に任せて以来、なかなかお会いする機会は減りましたが同じ安芸市内に事務所がある同士、ときどき思わぬ所でこのように顔を合わせたりします。


 「ご無沙汰してます。飯島、ご迷惑おかけしてないですか?」

 「いやぁ、もうあいつは立派に営業マンだよ。まぁ、その前に立派にプロ選手になって貰いたいがな。」


 井上社長の言葉にグッと込み上げるモノがあります。飯島君の努力は私達営業部だけでなく、常藤さんや冴木さんも認めてくれています。サッカーだけでなく、仕事でもしっかりと努力を重ねる。その姿に私も....いえいえ。違います。


 「いやぁ、実は常藤さんに相談があるんだけど時間取って貰えるようにお願い出来んかね?」

 「常藤ですか?どう言ったお話でしょう?」

 「実はな、・・・・・・・・」


 思いがけないお話でした。しかし、こればっかりは私の一存ではお応え出来ないのですぐに事務所に戻り、常藤さんからの返事を急ぎ折り返す事にしました。


 「あぁ、あとすまないがその話をする時に冴木君も呼んでおいて貰いたい。」


 和馬さんも?さて、どんな事になるんでしょうか。


 ・・・・・・・・・・

後日 <秋山 直美>

 芸陽印刷の井上社長からお願いされた件で事務所の個室会議室に常藤さん、和馬さん、飯島君、私、そして最近飯島君と一緒に芸陽印刷を担当している中村君が座っています。

 会議室がノックされるとサポート部の富田さんが「芸陽印刷の井上様がお見えです。」と会議室へ案内してくれました。いらっしゃったのは井上社長と芸西村役場の高橋さんと企画振興課の川下さん。お二人とも役場職員の中ではうちの都市計画勉強会に参加してくれています。

 お三方が席に着かれて挨拶した後、本題に入りました。


 「いやぁ、面倒なお話を持ち掛けてしまい申し訳ない。」

 「何を仰います。日頃からお世話になっている芸陽印刷さんがお困りとなれば、お力を貸すのは当然。普段から仕事でもスポンサーとしても助けていただいておきながら、ここで手の平返すような真似はいたしませんよ?」

 「いやぁ、そう言ってくれると冗談でも嬉しいです。ホントに困っておりまして。」


 芸陽印刷さんが困っていると言うのは従業員の問題、特に印刷作業を行う作業員さんが足りないと言う問題でした。芸陽印刷さんはうちとの取引が始まって以降、急激に業績が伸びそれに合わせて新たな機械の導入や新しい印刷物への挑戦も初めて、更に業績を伸ばしています。

 しかし、高知県と言う田舎でありながら更に郡部地域である事から、なかなか新規採用の人材に恵まれず、アルバイトを雇うにもなかなか応募が無い状態でした。


 そこで井上社長は役場の高橋さんと私に救いの手を求めた訳です。確かにうちは安芸市に事務所を置きながらも毎年10名以上の新規社員を雇い続けています。もちろんその中にはサッカー部のメンバーもいますが、それ以外の社員でも毎年5名以上は確保出来ている状態です。


 それもあって井上社長は何か良い手立ては無いかとアドバイスを求められたのです。まずは私が井上社長と役場の皆さんに提案をしてみます。


 「例えばですが、今年の業務に関してはアルバイトで乗り切るとして、来年度新規社員に関しては芸西村と安芸市合同で就職活動セミナーを開くのはどうでしょう?」

 「就職活動セミナーか。なるほど。」


 最初は安芸市で行う予定でしたが、うちの会社は安芸市に事務所は構えましたが本拠地としているのは芸西村です。この手の話をするに当たって芸西村を外して事を進めるのは不義理に当たると考えました。

 なので、少し方向性を変えてお話します。


 「うちとして考えたのが、『ヴァンディッツ就職支援相談会』です。」

 「....それは、普通の就職相談会とは違うんですか?」


 高橋さんが必死に考えを巡らせているのでしょう。思案している表情で質問してくれます。そうです。普通の就職相談会とは毛色が違います。


 「この就職相談会に参加していただく企業様は、全てVandits安芸またはシルエレイナ高知のスポンサー企業の皆さんです。」

 「えっ!?あっ、そう言う事ですか。」


 高知県内の企業様だけでも2チーム合計で60社近い企業がスポンサー・譜代衆として支援していただいています。ここまでのお付き合いの中でこちらからスポンサー企業の皆様へお返し出来るようなご提案が出来ていない事も懸念材料ではありました。


 そこで今回、十月を目標に出来れば15社~25社くらいを目標に就職支援相談会を出来ればと考えたのです。


 「そりゃ、うちは嬉しいけどなぁ。そちらの負担が大きくなるんじゃないかい?」

 「もちろん芸西村役場の皆さんにもお手伝いはしていただきますよ?会場はうちのVandits fieldの体育館で良いでしょうし。」

 「うちは有難い限りです。宜しければ芸西村のスポンサーではない企業さんも参加させていただけると嬉しいですが。」


 さすが、只では動いてくれませんね。


 「まぁ、それはこれからの話し合いと言う事で。」


 とりあえず開催する事でお互いに了承しました。

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