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幕間 もう一つの開幕戦

2019年12月 春野総合運動公園球技場 <上本 悟郎>

 ついに開幕戦の日を迎えた。

 【Rising League】。当初は雷神リーグの予定だったが、加盟チームとの1年間の準備期間の中でこの名前に変更された。5チームだった予定のリーグは後に6チーム加盟となり、愛媛・徳島2チーム、香川・高知1チームの編成となった。将来的に8チームにまで拡大させて、リーグ期間は常に四国四県の各県で週末リーグ戦が開催される事を目標にしている。


 どうしても既存のプロリーグと年間スケジュールは重なってしまう為、リーグ開幕を他のラグビーリーグよりも2週間早めた。そうする事で少しでも集客に繋がればと言う狙いがある。

 計画段階では開幕戦は春野のメイン競技場で行うはずだった。しかし、運営を助けてくれているデポルト・ファミリアの杉山君から「2万人以上収容出来る会場でガラガラの開幕戦を迎えるよりは球技場クラスで超満員の方が間違いなくインパクトはある。」とアドバイスを貰い球技場に変更した。


 狙いはズバリだった。メインスタンドもバックスタンドもお客さんで溢れ、フェンス裏の通路にまで人が溢れていた。それでも見られない人が出るほどにはならず、見に来た人たちもその盛り上がりに興奮した様子だった。


 「こんにちわ。」


 声を掛けられ振り返ると冴木君と常藤君と社員の方が数名立っていた。今日は開幕戦に招待させてもらい関係者が入れるコート横の部屋で見てもらう予定だ。私は彼らと握手を交わす。一緒にいたリーグ運営スタッフやうちのチーム『アンゲルン高知』のスタッフとも握手を交わす。


 「来ましたね!凄いお客さんじゃないですか!」

 「本当に君達のおかげだよ。感謝している。」

 「この盛り上がりは各メディアも取り上げ甲斐がありますね。」

 「そうだろうか。やはりこちらに会場を移して正解だったな。杉山君には感謝してもし足りんよ。」


 今日はVandits安芸も香川で大切な試合の決勝戦があると聞いている。今日はデポルト・ファミリアの関係者には来てもらえないと思っていたが、こうして足を運んでくれた。


 「大事な決勝の日に申し訳なかった。」

 「いえいえ、昨日無事に四国リーグ進出は決まりましたから。それを見られただけでも幸運です。めでたい日が続きますね。」

 「そうだな。Vandits安芸さんの勢いをうちもお裾分けしてもらわなければな。」


 すると関係者室に父が入って来る。父は冴木君達を見つけると満面の笑みで握手をしながら感謝を伝えている。


 「冴木君!常藤君!本当にありがとう!これだけの集客でリーグ開幕を迎えられて本当に感謝している。これからもぜひ力を貸して貰いたい。」

 「もちろんです。会長。ここがスタートライン。いつかVandits安芸と共に春野のメイン競技場を満杯に出来るチーム・リーグに育て上げましょう!」

 「うん..うん....楽しみだなぁ....」


 父の目には涙が流れていた。それほどまでにラグビーに対して、野球に対して、父が思い入れがあったと知ったのは、リーグ創設を決めた後だった。本当はラグビーチームでプロを目指したかったが、アマチュア野球大国である高知では難しいだろうとの判断で野球チームを会社内に作った。

 父の夢が形になった時、あれだけ会社を傾かせた父をなぜか許せていた自分がいた。そうだ。結局、私も父のこの喜んだ姿が見たかったのだ。


 すると会場では選手紹介が始まっている。今回は施設に特別に許可を貰い、バックスタンド側に設置されているスコアボード横に大型のビジョンを設置させてもらった。そこに両チームが用意したスタメン紹介の動画が流れる。

 お互いに開幕戦と言う事もあり、分かりやすくしながらもお客さんを煽るような動画編集になっており、淡々と紹介すると思っていた観客は早くも手拍子で盛り上がり始める。


 父はスポンサーの方々とピッチ横まで出ていく。私は冴木君達と話を続ける。


 「今シーズンはホームは全節この球技場で行う予定だ。観客の動員具合を見て他の会場も来シーズンには考えたいが、恐らく3000~4000人クラスの観客席を構えた会場などなかなか見つからないだろうからな。」

 「もし、どうしてもお困りの時はお声がけください。」


 どう言う事だ?疑問を感じながら常藤君を見ると、まさかVandits安芸のホームグラウンドを貸しても構わないと言う。聞けば12月以降はシーズンも終わっており、練習試合は他の会場でも組めるので、全試合と言う訳にはいかないが年間で2試合くらいなら貸せると言ってくれた。


 「良いのかね?」

 「はい。我々もJFL昇格を前に観客席の増設が必要になります。今のところは立ち見を合わせて5800名を予定しています。Rising Leagueさんの規模としてもちょうど良いのではないでしょうか?」

 「それだけの観客を常に呼べるチームにしなくてはな。デポルトさんに恥をかかせてしまう。」

 「そこまで気負わず。そうですね。最初はVandits安芸とアンゲルン高知の合同イベント兼リーグ公式戦はいかがでしょう?スポット参加のスポンサーや協賛も集めやすいのではないでしょうか?」

 「ふふふ....さすがは冴木君だな。一社員になってもその発想力は頭が下がるよ。」

 「常藤さんには迷惑かけまくってますが。」

 「えぇ。かけられまくっておりますよ。」


 そう言って皆で笑う。

 あぁ、彼らが、Vandits安芸に参加した元社員達がうちを出て行った時には、こんな光景は想像できなかった。全ては彼があの日、私の隣に座ってくれた事が始まりだ。


 まだまだ私だって若い彼には負けておれんよ。高知は野球やサッカーだけでないと見せてやろうじゃないか。

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