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此処を先途と救済を  作者: よるのすきま
第一章 愛すべき日々の記録
9/22

A step towards the beginning

カルナス視点



オノロンとの報告会から数日。特にやることのなくなった俺は自室からラウンジへ耳を澄ましている。

ラウンジにはイゾルカをはじめ、ほとんどの奴が揃っていた。そこに居ないのは俺とオノロン、そしてアイルだ。

先日の報告会で俺達は、アイルに怪しまれないようあいつの動向を気にすること、他の子供たちには事実は伝えず、かつバレないようにすること、例の本はオノロンの部屋でしっかりと管理し持ち出さないことなどを決めた。これで何が変わるとかは期待していない。むしろ変わらずに、とりあえず今の生活をずっと続けていけるように。そのための、せめてもの努力だ。

そういう訳でオノロンはアイル探しを、俺は子供たちの動向を見守っているのである。俺の方はだいたいどこにいるかわかるため楽だが、オノロンはだいぶ苦労するだろう。何せアイルは滅多に見つからないのだ。自室にいることがほとんどだが、物音一つ聞こえてこない。確かめようがないのである。

(それにしたってあいつら……何の話してんだ?)

オノロンに比べいくらか楽な分、少しはまともな仕事をしなければ。そう思い扉の向こう側へと耳を澄ます。

ラウンジからは未だ楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。

「そういえば、この間のプラネタリウムすごかったね!キーナとクメリアだけで直しちゃうんだもん、びっくりしちゃった!」

イゾルカのそんな一言をきっかけに、話題はプラネタリウムへと移ったようだ。

「そんなことないよ……!なんなら殆どクメリアがやってくれて、私は何もしてないし……!」

「そんな事言わないでキーナ!キーナが図面書いたりどこをどう直すかって計画立ててくれたから手を動かせたんだから!」

キーナとクメリアはいつもこんな調子だ。やたらネガティブなキーナとやたらポジティブなクメリアは、常にお互いがお互いを補い合っている。双子のごとくずっと一緒にいる二人だからこそなんだろう。事実この二人がプラネタリウムを修復できるなんて驚きだった。後々見せてもらった図面は結構しっかりと作られており、機械修理を得意とする俺でも理解するのに少し時間がかかったほどだった。

考えれば考えるほど、こんな俺達が人間ではないことが信じられなかった。こうして今も普通に談笑して、勉強して、飯を食って眠っているだけの俺達が人間ではないなんて。人間ではないなら、俺達は一体何なのだろう。人間と俺達の間にある違いは一体何なのだろう。

壁一枚隔てた向こうにいる奴らにこの事実を伝えたら、どんな顔をするのだろう。人間ではないことに、やはりショックを受けるのだろうか。それとも案外普通にしているのかもしれない。少なからず事実を知った今それを脳内で反芻すればまあそんなことかと思えるが、さすがの俺でも少しショックを覚えた。

「……人間じゃなくても、別に幸せではあるんだけどな。」

自身の研究テーマでもあるくせに、幸福と不幸の匙加減は未だわからないままだ。わかったところで、今更仕方がないのだけれど。

そんなことを考えていれば、再びイゾルカの声がする。

「そういえばプラネタリウム見てて思ったんだけどさ。私達、星って見た事あったっけ?」

突然の発言に嫌な汗がどっと噴出す。別にその発言一つで全てが明らかになるようなことはないため心配する程のことでもないが、些かタイムリーな話題に驚きを隠せない。声を出さぬようじっと息を潜め聞き耳を立てれば、続いてエヴァンスの声が聞こえてくる。

「そう言われれば……。プラネタリウムとかは知識として知っているし、星と聞いて理解はできるけど……見たことはないかも?」

「でしょ?なーんか不思議だなーって思って。」

やはりプラネタリウムがトリガーとなり、皆同じような疑問を抱いたようだ。

正直、ここまでは想定内だ。オノロンと話し合った時、「本の内容さえ知らなければ人間ではないことはわからない」ことと「外を認知したところで出るための場所などどこにもない」ことは確かな事実であり、それさえ見つけなければ日常は変わらないという結論に至った。つまり、あいつらの会話においてこれ以上何かが進むことはなく、脅威となるものもない、はずだったのだが。

「ねぇ、外に出る扉探してみない?」

イゾルカの発言により、またも冷や汗をかく羽目になったのだ。

「外に出る扉……?なに、それ。」

「私達は星を見た事がない、でも星は存在しているんでしょ?で、星が存在するのは外の空の上で、本物の星を見るには外に出る必要があるじゃん?だから、外に出るための扉を探すんだよ!」

「でも、そんなものあるの……?研究所の中にそんなの見たことないんだけど。」

ウリムとイゾルカが話し合う声が聞こえてくる。確かにウリムの言う通り、そんな扉など見たことがない。きっと探すだけ無駄だ。けれどもし、もし本当にそんなものが見つかってしまったら?

「あ……私、もの探すの得意だよ……!扉となると、話は別かもしれないけど……。」

そこへキーナが名乗り出る。そう、キーナはもの探しの天才だ。どういう訳かは知らないが、どんなものでも必ず見つけ出す。扉を捜し出せるかはわからないが、もしかすると出来てしまうかもしれない。

「確かに、キーナは探し物の達人だもんね!なら探してみようよ!どうせ暇つぶしだと思ってさ!」

イゾルカはまるでこれから冒険に出る子供のようにはしゃいでいる。他のメンバーも異論は無いらしい。続々と椅子をしまう音が聞こえてくる。と、その時だった。

「おや、皆さんお揃いでどうしたんですか?」

オノロンの声が聞こえてきた。どこで何をしていたのかは知らないが、ナイスタイミングだ。

「あ、オノロン!私達ね、今から扉探すんだ!」

「扉、ですか?そんなのそこら辺にいくらでもありますけど……。」

「あぁ違うの!外に出る扉!見つけたら教えてあげるね!」

そう言いながら、バタバタと足音が去っていく。相変わらず、やる気満々のイゾルカはオノロンに話す隙すら与えないようだ。

やがて足音はこちらへと近づいてくる。それがドアの前で止んだかと思えば、コンコンコン、と三回、扉がノックされる。

「……開いてる。入れ。」

そう言えば、何も言わずにオノロンは部屋へと入ってきた。



「……どうでした、そちらは。」

そう言うオノロンの表情は暗い。

「ま、見ての通りだ。外へ向かう扉を見つけに行くんだとよ。」

「そうですか。」

「いいのか?あっちには探し物の天才がいるんだぞ?うかうかしてたら、本当に見つけちまうかもしれねぇぞ?」

オノロンは少し考えた後

「……いえ、それは有り得ません。」

とだけ答えた。

「へぇ。随分と自信があんだな。その根拠はなんだ?」

「さっき、この研究所を見て回ってきたんですよ。色んなところの壁を叩いたり、色んな部屋の中を見て回ったり。でも、そんな隠し扉なんてありませんでした。」

「そんな簡単に見つかるかよ。」

「ええ。だからくまなく探したんです。資料室の全ての棚を見ました。シアタールームの全てのボタンも押しましたし、倉庫も端から端までしっかり確認しました。けれど隠し扉どころか床のタイル一つとっても何もおかしなところがないんです。」

「そりゃお手上げだな。ならまぁ、とりあえずすぐすぐは見つからないだろ。」

「ええ。だと思います。……そうであってくれと願うしかないですね。」

そう言いながら床を見つめ、溜息をつく。

「……ちなみに、こちらは進展なしです。アイルはどこにも見当たりません。」

「やっぱりか。あいつ、マジでどこにいやがるんだ……?」

「わかりません。研究室にもいなかったですし……。」

今俺達の中で一番怪しいのはアイルである。あいつが見つからないのは結構な痛手だ。ちらと見れば、珍しくオノロンが疲弊しているのがわかる。

「……とりあえず、彼の部屋にも訪ねてみます。あとはキッチンとか風呂場とか……。地道にですけど、やらないよりマシでしょう。」

「そうだな。俺は……あいつらに着いていくかな。暇だから混ぜろって言えば喜んで入れてくれそうだろ。」

「そうですね。……では、各自出来ることをしましょうか。」

そう言って、オノロンは先に部屋を後にした。俺も部屋の電気を落とし後に続く。

先に行った子供たちの後を追いかけて、何となく声のする方へ足を向けた。俺達の胸中に巣食うざわめきが、現実のものとならないように。




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