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此処を先途と救済を  作者: よるのすきま
第二章 真実への道
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Deep Sea Dilemma

オノロン視点


「さて……皆揃いましたかね。」

そう言って全員がこの場にいるかを確認すれば、アイル以外揃っていた。良かった。計画は上手くいったようだ。

「あの……。」

胸を撫で下ろしていれば、珍しくウリムが口を開く。

「どうしました?ウリム。」

「アイルは?まだ来てないのに揃ったって何?」

そうだ。計画を何も知らない彼女にはこの状況がなかなか理解できないだろう。

「あぁ……。それなら、眠らせておきました。」

「眠らせた?何で?というか、どうやって?」

「ふふ。聞きたいことは山のようにあると思いますが、順を追ってお話ししますよ。」

そう言って着席するが、ウリムの頭上には相変わらず疑問符が浮かんでいる。自分が気になったことはとことん知らないと気が済まないという気性は、やはり私達共通の性なのかもしれない。

「……それでは、一つずつお話ししますね。まずは、アイルについてですが……。」



「……おい、例のやつは手に入ったのかよ?」

話は数時間前に遡る。ここはキッチン。私の隣にはカルナスが立っており、私達は昼食の準備と共にとある計画を進めていた。

「……ええ、しっかりと。ここにあります。」

そう言って液体の入った小瓶を取りだす。薄水色のような液体が少量入った小瓶だ。

「しっかし、よくやるよなぁ。睡眠薬まで作っちまうなんて。」

「キーナの自信作だそうですよ。飲み物に少量混ぜれば、四、五時間はいけるんだとか。」

「へぇ……怖。味は?」

「それも問題ないそうです。大抵のものに入れても味の変化は感じられないようになっているそうですよ。相当苦労したとは言ってましたが……。」

「まじでおっかねぇな……。ま、計画に使えるもんならそれでいいか。」

「ええ、ですね。」

計画とは。先日、私達が得た事実をまだ何も知らないイゾルカ、ウリム、エヴァンスに説明すると共に、アイルの凶行を再び繰り返さないようにするための手立てのことだ。あの後キーナ、クメリア、カルナス、そして私で考えたものだ。

まず、私達が昼食当番の日にアイルの飲み物に睡眠薬を仕込む。薬はキーナお手製のもので、タイムリミットは四時間から五時間ほどだ。それが効いた頃を見計らって、アイル以外の全員を私の研究室に招集する。あとは全員に事の顛末を話すだけだ。

「一応確認したけど、研究室の中に監視カメラは無いみたいだ。……ま、万が一あってもあいつは寝てるだろうけどな。」

「そうですね。それでも、無い方がいいに越したことは無いですから。確認ありがとうございます。」

脅威であるアイルを寝かせることが出来るだけでも及第点だが、念には念を。予め自分の研究室の中をカルナスと2人がかりで徹底的に調べあげたし、それ以降は誰も研究室に入れていないので追加の監視カメラや盗聴器を仕掛けられたりなどということも無いだろう。

「んじゃ、行くか。今度こそヘマは出来ねぇからな。」

「ええ、大丈夫です。今度こそ、子供達を守りましょう。」

小さく会話を交わしながら出来上がった昼食を手に、私達はキッチンを後にした。

そうして今に至る。計画は順調。アイルは昼食後「……悪い、寝る。」と言って自室へ引っ込んで行った。恐らく今頃はキーナお手製の睡眠薬がよく効いている頃だろう。

「と、いう訳で……。アイルには睡眠薬を飲ませて寝てもらっています。なのでここにはいないんですよ。」

全ての事実は伏せたまま、まずはアイルがここに居ない理由を説明する。しかし当の三人は尚更意味がわからないといった表情だ。それも当然だろう。どうして彼だけ除け者にされる必要があるのかすら知らないのだから。

「ちょ、ちょっと待った!なんでアイルに睡眠薬……?どうしてそこまでしてあいつだけ避けるの……!?」

イゾルカは訳がわからないといった声色でそう尋ねてくる。

この子は文句は言いつつも、なんだかんだアイルのことをよくわかっているし慕っている。だからこそアイルだけがこの場に呼ばれず、ましてや睡眠薬まで飲まされたというこの状況が理解し難いのだろう。

ごめんなさいイゾルカ。あなたが信じているアイルは、もうどこにもいないのかもしれない。あなたが思っているほど、あの子はいい子じゃなかったんですよ。

「……その理由は今からお話しします。」

そう言えば、場の空気が少し重くなった。それも仕方あるまい。これから告げる事実は、皆がこれまで経験してきた何よりも地獄に等しいのだ。しかしここを乗り切らなければ、あの狂人を全員で抑え込まなければ、私達に未来は無い。

「……まず、私達についてですが──。」



自分達の行いは正義なのだと、信じることしかできなかった。




アイル視点


昼食を食べてからというもの、ものすごい睡魔に襲われている。一瞬でも気を抜けば意識が落ちてしまいそうな程に眠い。これまでこんなに眠くなることはなかったし、いくら疲れているとはいえ変わったことはしていないはずだ。体力を消耗しているわけでもないというのに、一体どうしたのだろうか。

「アイル?どうしたの?」というイゾルカの声が背後から聞こえた気がしたが、それにまともな返事を返す余裕もない。自分でも何と返したかわからないような声を出して、早々に自室へと引っ込んだ。

暗い室内にも関わらず、電気もつけずにベッドへ倒れ込む。呼吸をすることすらままならない程の眠気。この異常なまでの睡魔の原因は一体何なのだろう。先程の食事に何か盛られていたのだろうか。だとしたら誰が、何のために。しかしそんなことを考えるほどの余裕などあるはずない。視界はあっという間に暗闇に飲まれ、そうしてそのまま眠りに落ちた。



視界が明るくなる。突然の事に驚いてしばらくぼんやりとしていたが、次第に手元がはっきりとしてくる。その手は青く染まっていた。俺達にとっての血液、鮮血だ。真っ青になった自身の手から視線をずらせば、皆の死体が足元に転がっているのが見えた。それも七人分なんてものじゃない。七人の死体が、長い長い道のようにどこまでも遠くまで続いていた。あぁ、そうか。俺はまた悪夢を見ているんだ。

あの日の記憶が脳裏から離れず、目を閉じても必ず悪夢となって現れる。これまで犯してきた罪の数が俺の精神を蝕んでいることは明らかだった。それを都合よく忘れることも、抗うことも出来なかった。諦めることすら許されなかった。だから目を閉じるのは嫌だったんだ。こんな悪夢を見せられなくたって、自分が犯した罪への後悔は消えて無くならないというのに!

「……はは、随分派手にやったねぇ。アイル。」

ぱしゃぱしゃという音を響かせながら、いつものように奴が近づいてくる。

「……うるさいんだよ、0番。」

俺達の創造主。全ての元凶。俺に全責任を押し付けてどこかへ消えた、裏切り者。

「毎度毎度酷い言い草だなぁ。そんな風に口悪く創った覚えはないんだけど?」

そう言いながら、カラカラと笑っている。こいつの神経を逆撫でするような物言いや態度は心底嫌いだ。それでももう言葉を発することすら面倒くさくて、睨みつけるだけに留まる。

そんな俺を横目に、やつは一人で話し続ける。

「こんなに沢山、よくやるねぇ。君、心が痛まないのかい?」

「…………い。」

「あぁそっか。そもそも君、痛む心がないんだった!あはは、僕としたことが、創ったのは僕なのに忘れていたよ!ごめんごめん!」

「…………るさい。」

「心があろうがなかろうが、あんまり変わらないのかな?大事な仲間達を手にかけておいて、自分は悪夢に魘されてますーって被害者面?まぁ、それもある意味正しいのかもね。君が嫌なことから逃げるには、被害者になるのが一番なんだから!」

「うるさいって言ってるだろ!!」

俺の怒鳴り声を最後に、奴も言葉を発さなくなった。突如訪れた無音で耳が痛い。

「……君がそんなに声を荒らげる子だとは思わなかったよ。」

そう言うと、奴はどこかへと歩いていく。沈黙の中にぱしゃぱしゃという音が響き、青い足跡が伸びていった。

俺は後を追わない。いや、追わないのではない。追えないのだ。再び足元を見れば、俺が今まで殺してきた何十、何百という皆の屍が、俺の足にしがみついて離さない。そのどれもが皆こちらを睨みつけていた。そのまま足元が歪み、俺の身体は下へ下へと引きずり込まれていく。視界が青に染まっていく中最後に見えたのは、振り返り遠くの方からこちらを見ていた奴の姿だった。



どぷん、という音と共に、周囲が水のようなもので満たされていることに気づく。引きずり下ろされた後、俺は鮮血の中を揺蕩っていた。周囲を見渡せば、皆同様にしてあちこちに散らばっている。

手を伸ばして、一番近くにいたイゾルカの肌に触れる。するとぱちんという音とともにその身体が弾けた。弾けた後の泡沫を呆然と見つめる。そのどれもにイゾルカの姿はない。自分はまた一つ、罪を犯した。

急に恐ろしくなって他の皆の元へと向かうが、皆一様にして泡となって消えた。鮮血の中で溺れているのは俺だけになった。冷たくて、暗くて、寂しい。永遠の孤独の中で自分の罪と向き合う事しか出来ない俺は、いつになったら本当の眠りにつけるのだろう。いい加減、優しい夢が見たい。それすら、求めすぎなのだろうか。

ごぽごぽ、ごぽり。自身の口から吐き出される泡が、上へと上っていく。もしかすると泡が上っているのではなく、自身の身体が沈んでいるのかもしれない。どっちだって良かった。どっちにしたって何も変わらないなら、全てどうでもいいことでしかない。

それならいっそ沈んでしまえ。深く、深く。光も、声も、誰の手も届かない所まで。そうして水底で一人、化石になるのを待っていればいいのだ。



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