while I wake up from my dream
アイル視点
「おはよう、アイル!」
一番最初に目覚めてくるのは、いつだってイゾルカだ。
「……おはよ。相変わらず早いな。」
「そういうアイルはどうしたの?いつもみんなより遅く起きるくせに、今日はやけに早起きじゃん。」
「腹減って目覚めたんだよ。朝飯作るから顔洗ってきな。」
イゾルカは「珍しい〜。」なんて言いながら、顔を洗いに行った。その背中を見送りながら、俺も朝食を作るためにキッチンへと向かう。
フライパンを火にかけ、油を少々。フライパンが温まるのを待つ間に卵をボウルに割り入れ、溶きほぐす。そこに牛乳と砂糖を適当に加え、これまた適当に切った食パンを入れる。パンが卵液を粗方吸う頃には、フライパンはすっかり温かくなっていた。ボウルから卵液が染み込んだパンをとり出してフライパンへ。じゅわりと音を立てながらパンに焼き目をつけていく。少ししてひっくり返せば、表面には黄金色の焼き目、辺りには甘い匂いが漂っていた。
八人もいるから凄まじい量だが、少しずつ順調に焼き上げる。ほとんど全てのパンを皿に盛り付けたところで
「アイルー!朝ごはんなあに?」
クメリアがキッチンの入り口からひょっこり顔を出した。後ろにまだ眠いのであろう目を擦っているキーナの姿が見える。
「フレンチトースト。」
「ほんと!?やったあ!」
朝から元気なものだ。両手を上に上げ飛び跳ねている。
「ほんとだぞー。てかお前ら、顔洗ったのか?」
「まだ!」
「なら早く洗ってこい。」
「はーい!」
「行こう!」とキーナの手を取り洗面所の方へと走っていく。今度廊下は走るなって言っておかないと、と思いつつ、最後の仕上げに取り掛かろうと瓶へ手を伸ばした時
「……それ、なんの瓶?」
「うわびっくりした……!」
突然背後から声がしたかと思えば、いつの間に入ってきたのかウリムが立っていた。
「……ごめん、黙って背後に立って。」
「い、いや、こっちこそめちゃくちゃでかい声出してごめん……。」
若干の沈黙の後、ウリムが口を開く。
「……で、それ何?砂糖なら私のはかけないで欲しいんだけど……。」
「あ、ああこれか。いーや、これは砂糖じゃない。」
そう言うと、ウリムが少し怪訝そうな顔をする。まあ見てろと言わんばかりに瓶を揺らし、出来立てのフレンチトーストの上へ少しだけ振りかけた。
「……結局何なの?砂糖にしか見えない。」
「これは塩。」
「塩?」
そう、これは塩だ。隠し味的にほんの少量振りかけると、フレンチトーストの甘さが際立つのだ。
「……美味しくなくなりそう。」
「そう思うだろ〜?それがびっくり、美味いんだな〜これが。」
そんな会話をしながら、全てのフレンチトーストに塩を振りかけ終えた。冷めないうちに運ぼうと皿を持ち上げれば、ウリムが皿を二枚持った。
「……手伝ってくれんの?」
「だって運ぶんでしょ?人手は多い方がいい。」
そう言いながら一足先にキッチンを出て行った。そこへ入れ替わるようにエヴァンスがやってきて「僕も手伝うよ。」と言いながら皿を二枚持った。エヴァンスは思い出したかのように
「オノロンとカルナス、起こしておいたからね。」とだけ言って早足でキッチンを後にした。大方ウリムを追いかけて来たんだろう。あいつも相変わらずだが、気の利くところは大変助かる。年長者二人をどう起こそうか考えていたが、これでその手間も省けそうだ。
残った四皿のうち、二皿を持てばバタバタと足音がして、キーナとクメリア、イゾルカがやってくる。手伝ってくれると言うからそれぞれに一皿ずつ手渡して、みんなでキッチンを出た。
机へ向かえば、オノロンとカルナス、ウリムとエヴァンスが揃って座っていた。みんなそれぞれ目の前にフレンチトーストが置いてある。
「珍しいですねアイル。あなたが私たちより早く起きるなんて。」
「ほんと。どういう風の吹き回しなんだか。」
いつも通り姿の整ったオノロンと、顔を洗っていないのであろう髪がボサボサのカルナスは俺が先に起きていたことが相当不思議かつ気に入らなかったようだ。仕方ないだろ、目が覚めたんだから。適当に誤魔化して席につく。
「んじゃ、みんな揃ったな。今日は俺特製フレンチトースト。おかわりはなし!皿に乗ってる分で全部だからな〜。」
そう声をかければあちこちから「いただきます」の声が聞こえる。俺も手を合わせ、ナイフとフォークを手に持った。
「美味しいじゃんアイル!フレンチトーストこんなに美味しく作れるなんて知らなかったんだけど!」
隣でイゾルカがそう言いながら一口サイズにしたそれを次から次へと法張っている。皿の上を見れば、後少しで食べ終えてしまうほどだった。
「……ま、俺のまじないがかかってるからな〜。」
「え、何それ。」
「それは企業秘密。」
そう言いながら俺も自分の分を一切れ、口へと運んだ。企業秘密のおまじない、もとい塩のおかげで甘さが引き立ちなかなかに美味い。今回は運が良かったようだ。
俺のフレンチトーストが後一切れになる頃にはみんなすっかり食べ終えていて、片付けようとキッチンへ向かう者もいた。俺も最後の一口を詰め込んで席を立とうとしたが、どうにもその一口が入らない。どうしたものかとそれを見つめていれば、クメリアと目があった。
「アイル?どうしたの?」
「んーにゃ、どうもお腹いっぱいになっちゃったみたいでさ。……これ、切っただけで口つけてないから食べてくれない?」
「え、いいの!?」
「うん。このまま捨てるの勿体無いしさ。」
「それもそうだね!じゃあ…いただきます!」
そう言うとクメリアはフォークに刺さっていた最後の一切れを思い切り頬張った。
変わらない日常、いつも通りの朝。ここからまた、俺たちの生活が続いていくのだ。俺はクメリアのおかげで空っぽになった皿に安堵して、席を立った。
了