第10話 王都防衛戦⑥
『転送魔法陣、起動!』
「戦闘開始!」
2人の声と同時にシミュレーションルーム内に魔法陣が現れ、先程まで王都周辺にいた者たちが一瞬のうちにシミュレーションルーム内へと転送されてきた。よしよし、無事に転送魔法陣が起動したみたいだ。
「さっきの光はなんだったんだ?」
「急に足元が光ったぞ!」
「でも何も起こっていないぞ!?」
と敵も少なからずうろたえてはいるようだが、まさか自分たちが転送されているのだとは思っていないようだ。何しろ、先程まで自分たちがいた場所から見えていた景色と今見えている景色はほとんど同じなのだから、気が付かないのも無理はない。多くの者はただ足元が光っただけで何事も起こっていないように映っているだろう。
そのため、何事も変化はないと確信したのかすぐさま体勢を立て直し、仮想の王都内へと突っ込んでくる。
「お、来た来た〜」
「ここから先は俺たちが相手だよっと」
と先頭で待機していたヒカルとフウマが戦闘体勢に入る。彼らの右手の中指には内側に魔石が付いた指輪が嵌っており、その魔石に自身の魔力を注ぎ込むことで、死神を思わせる大鎌を出現させる。その自身の背丈ほどもある大鎌を軽々と振り回し、向かってくる敵の大群を次々となぎ倒していく。
「ふっ!はあっ!はぁ、何か斬っても斬ってもどんどん湧いてくるんだけど。どうなってんの?」
倒しても倒しても新たな敵が襲いかかってくる状況に苛立ちを覚えたのか、大鎌を振るう手を休めぬまま少し荒い口調でヒカルが叫ぶ。
「はっ!確かに!全然途切れる気配ないね!」
右手に握っている大鎌を大きく一振りし目前の敵を片付けると、一瞬視界が開けた気がしたがそれも束の間。また敵の大群が現れ状況は先程と変わらない。この状況にフウマも段々と苛立ちを覚えてきたようだ。
「っと、これはもう、一発やっちゃうしかないんじゃね?」
ヒカルが跳躍しながら一歩後ろに下がると、ちょうどフウマと背中合わせの状態となる。そんな2人を中心として周りをぐるりと取り囲むように敵の大群が迫ってくる。この状況を打開する策を考えた結果思いついたのがこれだったらしい。
「でもみんな画面越しに観てるんでしょ?大丈夫かな?いくら隊長とはいえやり過ぎだとか思われないかな?惨すぎるとか言われたらどうしよう。」
彼の"一発やっちゃう"発言が彼の固有魔法を発動し周囲の敵を一掃することだと分かっているので、フウマは即肯定することはできなかった。
この世界では魔力を体内に宿し、魔法を扱うことができる者は、種族を問わず魔法士と呼ばれ、鍛錬、研鑽を積むことでその者にしか扱うことのできない固有魔法を習得することができる。固有魔法はその名の通りひとそれぞれで自身の得意分野や長所と結びついていることが多い。従って、固有魔法を習得することが一人前の魔法士になる為のひとつの手段ともいえるだろう。
そんな自身の必殺技ともいえる固有魔法をこんな大勢の前で披露しようとするとは。普通はそんな特別な魔法を大勢の前で使おうとは思わないだろう。だって複製される危険があるのだから。誰だって自分が鍛錬、研究を重ねてあみ出したものを他人に真似されるのは気に入らないだろう。
フウマがヒカルの発言を即肯定できなかったのにはもうひとつ理由がある。それは彼の魔法の威力がとてつもなく大きいということだ。彼の言い方だと 自分も一緒に という文面が隠れている気がする。2人の固有魔法は共に攻撃系魔法であり、系統も似ている為同時に発動すると威力が上がるというオマケがついている。その為魔法が直撃した場合、敵の大群が消し炭になる恐れがあるのだ。いや間違いなく消し炭になる。塵一つ残らないくらいには。観衆の面前でそれをやるのはちょっと… 我ながら惨すぎて引かれそう…。
「大丈夫だって!それよりここで隊長格の強さを見せつけた方がいいだろ?それに今日は模擬戦闘なんだからみんな気にしないって!」
フウマが渋っていると、ヒカルが待ちきれないと言わんばかりにうずうずとしながら言ってくる。何が大丈夫なんだ。そういえばコイツはこういう奴だった。一度決めたら猪突猛進、実行しないと気がすまない。はあ、もうしょうがないか。
「それもそうか!じゃ、やっちゃいますか!」
考えることを放棄し、半ばヤケクソになりながら答えると、よっしゃー! というヒカルの嬉しそうな声が聞こえた。後のことはルカに任せるとしよう。何かいい感じに誤魔化しておいてくれ。
右手で握っていた大鎌に魔力を送るのをやめ大鎌の具現化を解き、両手を組む。お互いに背を向けているがそれぞれが自然とどういう動きをするかが分かる。
《大いなる雷の神よその大いなる力で刃向かう敵を一掃せよ!》
《大いなる風の神よその大いなる力で刃向かう敵に制裁を!》
2人が詠唱を始めると、大気中の魔力が段々と空に集まり、先程まで晴れ渡っていた空が雲に覆われ始める。
《雷神の》
《風神の》
《《鉄槌!!》》




