下界へ下る
「ケイル・ルーカス!! 貴様は法皇様暗殺の嫌疑により 本日付で法皇騎士の身分を剝奪し 下級世界へ追放刑と処す。汚らしい魂を持ったお前にふさわしい場所だろう。感謝するのだな。」と大司教様がおっしゃる。
しかし今更下界でどうしろというのだろうか。生まれた時からこの場所にいた。親は知らない。俺を育ててくれた教皇様の為に、恩返しの為に法皇騎士を目指したが、その教皇様はもういない。殺されてしまった。いち早く駆け付けた俺が犯人扱いだ。神を信じていたわけではないが、今日まで神の名のもとに働いてきたのだ。報われたっていいじゃないか。それなのに下界への追放だと。死んだほうがましだ。不浄の者たちがすまう世界だ。もうどうしようもない。
「連れていけ!! グラニー神父 その者の見張り任せましたぞ」
その言葉で神父が俺の肩をつかみ連行する。俺は抵抗する気力もなくされるがままだ。下界とこの神域とを分ける門にたどり着いたとき神父が話しかけてきた。
「ルーカス君 僕は君が教皇様を暗殺したとは到底思えない。だから君を助けよう。 下界の最もここに近い町 アースへと向かいヴァルという女性を訪ねなさい。 きっと君の力になってくれるよ。」と神父は言ったが下界に落ちた俺は教皇様の仇を打つこともかなわない。
「今更遅いよ 神父。もう生きる気力もないんだ。俺は下界に汚されて死ぬのさ。」
「どうして下界が不浄の地だとわかるんだい? その目で見たこともないだろう 自分の目で確かめてからでも遅くはないさ。 それに… おっとどうやら時間切れのようだね。 君の冒険に神の祝福を!!」と門がしまる。これで俺も晴れて不浄の仲間入りだ。しかし神父の言葉を聞いてまだあきらめるには早いとも思った。下界にだって教皇様の仇を討つ機会があるかもしれない。
そう考えたら自然と足は前に向かって進み始めていた。神父に言われた町へと。いや ちょっと待て。
「どうやって アースに向かうんだよぉーーーー!!!!!!」と思わず叫んでしまう。知るはずがない、神域から出たこともないのだから。あてもなく彷徨う。とりあえず疲れたので立ち止まり周りを見渡す。なんと少し先に煙が見えるではないか。旅人などの焚火なら案内してもらえるかもしれないとそちらに向かう。到着するのと同時に俺の希望は砕かれた。家が燃えている。中に人がいるかもしれないと思い、声をかける。
「おーい!! 誰かいないのか。」と声をかけた時肩に女を担いだ男がでてきた。
「ああ なんだてめえ 俺様は今機嫌がいいんだよ。邪魔すんな。」
「その女はお前の知り合いか何かか」と問いかけるのと同時に剣に手をかける。
「馬鹿かお前 どうみても人さらいだろう? いい女だぜ たっぷり楽しんだ後奴隷商にでも売るかな。」と男は下卑た笑いをうかべる。
「外道が やはり汚らわしいな 下界は。 貴様は俺が浄化してやろう。 光よ剣に」
「なんだ お前 魔法剣士か? なめるなよ。」と虚勢を張っているが腰が引いている。その隙を逃すはずもなく一瞬で近づき首をはねる。女を担ぎ、燃えている家から離れ女を寝かせる。
「おい 大丈夫か おい 起きろ。」と呼びかける。どうやら無事のようだ。ゆっくりとこちらを見た。
「嫌 放して!!」と暴れ始める。
「おいおい よく見ろって お前を攫おうとした奴は俺が倒した。 俺は味方だ。」と弁明する。
「え? うそ? けど私の家が 神父さんから頼まれたものもあるのに」と女が言う。ん?今なんて言った?
「すまない名前を聞いてもいいか もしかしてグラニー神父が言っていた人って」
「グラニー神父を知っているんですか? あ 申し遅れました私ヴァルって言います。」
「ということは君が件の 俺はケイル ケイル・ルーカス 元法皇騎士だ。」
「それではあなたが グラニー神父からお話は聞かせてもらっています。 ですがあなたの助けとなるようなものはすべて燃えてしまいました。 今手元にあるのは少々のお金ぐらいです。」と小さなポーチを渡してくる。
「まあ 別にいいけど なんか口調変わってないか そっちが素なのか?」
「いえ 一応私よりも階級が上なので 敬意を表すのはとうぜんです。」
「何 お前 教会の者なのか。 なぜ教会の者が下界に?」
「聖職者にも色々ありますので」と突き放されてしまった。詮索してほしくなさそうだ。
「まあ 分かった。 取りあえずアースの町に案内してくれ 早く寝たい。」
「承知しました。 私についてきてください。」とアースへと向かい始めた。こうして俺の冒険は始まったのであった。