滅殺パンチエルフ
滅!
紅茶の味が舌に絡まる。紅茶の風味を消すほど不愉快な甘さ。さすがに入れすぎた。
「君は善い人なんだからそういう事はできないと思うな」
ヨイヒト?
あー善い人か。
「君はぶっきらぼうに振る舞うけど本質は優しいじゃないか」
思い当たる節は無くはない。
「そういう気持ちがあるうちは復讐なんて到底できないと思うな」
「そんな気持ち、さっき捨てた」
「そう易々と人は変われないよ」
至極真っ当な正論だ。
「俺は復讐をする!」
「そうか、そう言うなら止めないよ」
「自分で選択することは大事だからね」
そう、彼女の言う通り、俺は自分でこの道を歩む。俺は後悔なんてしない。道は自分で選ぶんだ。
甘い紅茶をイッキ飲みし家を出る支度をする。
「あ、そうだ。お前に会いに来たのはこれが目的だったんだ」
「さっき昼飯がてらそこで狩ってきた猪の肉だ。俺一人じゃ食べきれんからな」
白い布に巻いた肉を投げ渡す。
クリスタは慌ててキャッチする。
「重っ!食べ物を投げるなよ」
「そんな上等な物じゃない。そんな扱い程度でいいんだ」
「劣悪な猪肉ってこと?」
「まぁ兎も角、冷蔵箱に保存しといてくれ。腐ると更に不味くなる」
「じゃあな!」
「またね」
シロはなぜか足早に去っていった。
「3kg程ある劣悪な猪肉、何に使おうか」
「お肉、最近食べるのキツイんだよなぁ」
クリスタは肉を冷蔵箱にしまった。
神導者、数人で構成される組織。先天的転生者と後天的転生者のみで結成された神都政府お抱えの戦闘部隊。神に導かれし者という意義。
先天的転生者とは魂のみの転生。
後天的転生者とは体と魂の転生。
どちらも経典では幸福を与える存在として讃えられる。
先天的転生者は本来、生まれてくるはずだった胎児の魂とすり変わる。それを受け入れられない両親が先天的転生者を殺す事件もよく起こっている。
そのため先天的転生者の数はとても少ない。
後天的転生者は衝撃による次元の歪みを通じ、こちらの世界に召喚される。彼らは現世に黄泉還る事もできる。
魔王城付近の森。いかにも勇者ですという格好をした男が泉の前に立っている。
「これが黄泉か」
安心しきった顔、彼は今までこの為だけに任務を遂行してきた。
「長かった。これで地球に還れる」
青年、フジミヤは泉に沈む。その後、異世界にて藤宮一郎を見た者はいなかった。
ドゴーン!!!
魔王城にて突然、爆音が響く。
小柄な男が逃げている。
「おいおい神導者く~ん?逃げんなよ~?」
きいてない!きいてない!あんな化け物相手にしろだなんて!
フジミヤはどうしたんだ?なんで助けにこない?アイツさえ入れば勝てるのに!
ドドドゴーン!!!
まるで大砲かのように瓦礫が後ろから飛来し、正面の壁に衝突し爆発する。
情けなく半ベソで逃げている神導者は袋小路に入ってしまった。
後ろを振り返ると巨漢のエルフがいる。
「よーし!一発で楽にしてやるよ!」
絶望的な状況。さっきまで魔王の椅子に座ってお偉いさん気分してたのになぁ。ああくだらない走馬灯だ。
「ちょッ!」
「タンマァ!」
「タンミァ」
スパァン
マイケルの身体から放たれた高出力のパンチが神導者の身体を木っ端微塵にした!
「神導者とはいえこの程度か。もっと強いやつは居ないのだろうか」
飛沫舞う中、血染めの男は去る。
「やはりエズキツ=シロ!お前だけだ!俺と並ぶ実力者は!!永遠の戦友!!!」
でかい独り言が部屋に響く。
「そろそろリトのヤツが復活させたはずだろう。アイツは察しがいいから違和感に気づいただろうな」
「さて」
男は真剣な表情で手についていた血を払う。
「戦闘しに行くか」
嫌、まずはシロを見つけないとダメだな。
「片っ端から探すか」
森から歩いて3時間。商店街に来ている。四天王達に復讐する為に準備は必要だ。俺は四天王の中でも1番最弱。マイケルに気づかれたらすぐに負けてしまうだろう。フードを深く被って注意しながら買い物をしよう。
「よぉ」
?
誰だ?知り合いか?
振り返って見てみると、どこかで見た事のある屈強な大男だった。まるで筋骨隆々という言葉が似合うような。
「シロくん。なにしてるんこんなとこで」
「え?」
間抜けな顔をしている俺に向かってくる死。
デカブツは腕をしならせ小柄な男に打ち込んだ!
パァン!
我ながらいい音だ。
「おっと一撃が強すぎたな。早く復活してくれ」
「ん?復活しないな」
無限地獄から復活したように、どこかの血溜まりかなんかで再生してるのだろうか?
となるとアイツはクリスタの家に居るんだろうな。四天王以外で頼れる存在はクリスタしかいない。
向かうか。
ゴトン!
どこからか大きな物音がする。
ゲホッゲホッ
長髪でエルフ耳の女は驚きで咳き込む。
「なんだなんだネズミか?」
クリスタは急いで音の発生源に向かうと冷蔵箱から裸の男が出てくる瞬間を目撃した。
「ただいまクリスタ」
俺は苦笑いで放つ。
「うわぁ!変態だ!」
猪肉と称して冷蔵箱に保存させたのは俺の腕である。ストックとして保存しておけばセーブポイントとして復活できる。腕くらいの大きさや多量の血液が無いと復活ができない。そういうデメリットもある。
「人の家に人肉を勝手に置かないでくれるかな」
「ごめん!」
以前この家に置いていった服を着ながら謝る。
「じゃ!殺ることあるんで帰るね!」
シロはそそくさと逃げていった。
「なんだったんだ全く。アイツなんで死んだんだ?」
マイケルに気づかれた俺はとりあえず迎え撃つ準備をしなければならない。四天王最強のアイツとタイマンでマトモにやり合える訳が無いのだ。
あいつの性格上他の仲間と徒党を組んで攻撃してくることは無い。絶対にだ。
だから今回はこの森でアイツを迎え撃つ作戦だけを考えれば良い。3時間もあれば対策はできるだろう。
殺!