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桜の樹の下、ただ傍観

冒険家で有名なアリス=アリスさんから「小説を翻訳してみないか?」とのことでやってみました。原作の「僕らは不死身で惨め」も異世界語で綴られていますがとても面白いのでオススメです。以下訳文です。

「ごめんね」


焼ける村夕日も刺して燃えている。


誰だったか、母の言葉だったか。なぜ謝ったのだろう。


人間は醜い。人間は暴力が好き。人間は裏切る。人間は下等だ。差別に囲まれて生きてきた当時五歳の俺は赤い村でそんな思想を持った。




ゲニギス暦51年6月13日、辺境の村にて一人の忌み子が生まれた。その赤子は不死の身体をもっていた。不死身の子が生まれるということは災禍の訪れを意味する。その村にはたちまち不幸が舞い降り、魔王軍によって滅ぼされた。31人の住人は恐怖の魔族によって全員惨殺、家屋は全て燃やされていた。神都政府(しんとせいふ)が調査をしたところ忌み子は既に、そこにはおらず魔王軍によって連れ去られたと考えられている。


そんな風に歴史の教科書に記述されている。俺が生まれた年は46年、5年ずれているじゃあないか。この教科書は校閲されていないのだろうか。まぁ正直こんなことはどうでもいい。ただ単に自分の過去がどのように書かれているのか気になり、本を手に取ったのである。


「シロ!集まるぞ!」


凛とした声が部屋に響く、振り返ると仁王立ちしている四天王のマレリ=リトがいた。口元の黒いフェイスベールが息で揺れている。四天王と権威は高いのに毎日ノルマに追われているサキュバスだ。ノルマが達成できないと上司にしごかれるらしい。


「ういうい、今行きますよ」


と俺は返事をし、リトの後ろにつき移動する。


歩くと共に金色に輝く長い髪がフワフワする。ダボダボパーカーから生えた大きな羽は小さくパタパタと羽ばたく。それによって作り出された微風が顔にかかる。少し前に歩きリトの横につく。


「テメェーその癖なおせよ」


「癖だからなぁ~仕様がないね~」


「はぁ」


「前髪が崩れたりする強風じゃないんだからさぁ」


「はぁ」


「もしかしてナルシスト?」


「違う」


「盛ってんねー」


「違うぞ」


「私が搾ってあげよっか?」


「お前は男だから嫌だ」


サキュバスは成人するまでは両性具有である。成人前に性別を選び独自の性器を再獲得する。コイツ(マレリ=リト)は基本的に男側の家系らしい。そのため俺はコイツのことを生物学的に男として扱っている。


「え~男じゃなかったらいいんだ~」


「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーー」


といつものように小言を言いつつ、魔王城の廊下をコツコツと音を鳴らしながら歩く。隣でリトは蒼い目をキラキラ輝かせながら煽っている。俺、コイツ嫌い。


「カプーーーーーーーーーー」


突然、首元に刺激が走る。


「ッーーーーー!!!」


リトが首を噛み、吸血している。


「テメェ!噛むなら言えよな!」


「なんとなく噛みたくなっちゃってさ!メンゴメンゴ!」


少しクラっとする。コイツといるといつも調子が狂う。


集合部屋の前まで来た。息を大きく吸い、深呼吸をする。いつも慣れない、いつも緊張する。今日はそこまでだけど。


「ど?緊張ほぐれた?」


自慢げな顔で俺を見つめてくる。


「少しはな」


今日はいい意味で調子が狂う。


ドアを開けるとチクチクとした視線が俺に刺さる。


仏頂面で俺を睨む身長195cm、四字熟語で表すと筋骨隆々。スポーツ刈りで威圧的なオーラを感じるこの男が四天王のマスル=マイケル。こいつが四天王のリーダーだ。何を考えているのか全くわからないし普通に怖い。俺が毎週の定例会議で緊張するのはこの人が原因だ。


「おい、遅いぞ二人」


「あ、すいません」


「は~い、すんませ~ん」


あ。と吃る俺とは対照的にリトは軽くいなした。こいつのそういうところ、少し羨ましいなと思う。俺には絶対できない芸当だ。


俺は緊張で首を触る。さっき噛まれたところが妙にヒリヒリする。蛇に噛まれた時もこんな痛みだったな。


「定例会議はじめるよ」


そう冷徹に言ったのは参謀兼、人事担当のユキオリ=テンカ。彼女も四天王である。種族は鬼。マイケルの方が鬼っぽいのにアイツはエルフだ。意外だろう?俺は意識せずに上から下まで舐め回すように見てしまう。彼女はスラッとした細身の美人だ。


胸に厚みはない。


視線を感じたのかテンカは俺に対しギロリと睨みをきかす。俺は少し気持ちが悪かったなと内省する。


全員が席に座ったことを確認すると彼女は息を吸い、長い黒髪を靡かせる。珍しく緊張しているのだろうか。


「では。これから定例会議を始めます」


「今回も魔王からの勅令はありませんでした。ので改善すべき点、憂慮すべき点、その他もろもりょ、コホンその他もろもろがありましたら提案よろしくお願いします」


魔王、ラスカ=バング。四天王を統括する言わば社長である。魔王は外仕事が多いので顔を出すことは滅多にない。この組織は魔王がいなくても軍がしっかり回るように編成されているので、魔王の指示なく自由に活動ができる。だが、たまに軍の活動方針として手紙を送り、軽く指示を出すことはある。1ヶ月前の定例会議では勅令書が来ていたような気がする。


四天王とは魔王が気に入った者の集まりらしい。俺は四天王としてそこまで頭は良くないが、不死身という性質があるからこの立場にいる。他の人物はあの筋肉バカそうなマイケルも含め、全員地頭がいいと俺は感じる。


「はい」


マイケルが挙手した。


「どうぞ」


「神都政府支配下にあるメドラ村についてなんだが─────」


視界がぼやける。



「られ?意識ぎゃぁ───」


呂律が

回らない



だんだん




ねむく





なる






なんだ












「おいリト、部屋に入ったらすぐ眠らせろと言ったはずだが」


「効きが悪かったんだよ、マイケル。とっと運んでくれ」


そう言われるとマイケルはシロを肩に担ぐ。


「よいしょっと。テンカ、空間移動で地獄扉(じごくと)まで移動してくれ」


「はい」


テンカが能力を発動させ、彼らを門の前まで移動させる。


重厚で禍々しい扉が目の前に一瞬にして現れた。


然るべき時に現れるその扉は無限地獄に繋がっている。


「ごめんな。勅令なんだ」


そうリトが呟く。


扉が開かれるとヌメっとした異質な雰囲気が辺りに漂う、そしてシロは人ならざるナニカが蠢く地の獄に放り込まれる。


「よし、済んだな。俺は魔王のところに報告に行く」


「じゃあ僕は私用があるので」


「じゃあ2人ともよろしくね。私は変わらずココに残るわ」


それぞれの任務の為に彼らは解散した。







ドンッゴッ


鈍痛が身体を伝う。


「痛ッ、背中の骨折れたなぁ。クソイテぇぇぇ」


「んだここ」


辺り一面は影、暗、黒、闇。何も見えない。


手探りをすると地面はボコボコしており、熱をもっている。36~37℃あたりで人肌くらいの温度だ。そんな呑気な事を考えるのは後回しにし、なぜここにいるのかを考える。


眠くなるあの能力。過去に1度味わった事がある。紛れもないマレリ=リトの能力だ。


出来の良くない頭をフル回転させ状況を整理した。結果、一つの結論に辿り着く。


「あれ?もしかして裏切られた?」


5歳くらいの時の記憶がフラッシュバックする。考えたくも、思い出したくもない内容だ。


嫌な予感しかしない。


「これより儀式を執り行う」


暗闇の中、鈍くただひたすらに低い声が聞こえる。


いや、まさか。ここ、もしや無限地獄(むげんじごく)なのでは?


地平線すら存在しないこの次元は俺の心を不可思議な気持ちにさせる。まるで明日地球が滅ぶかのような不安感。それに似ている。


「獄に放り込まれし惨めな男、エズキツ=シロ。其方はここで無限に苦痛を味わうのだ」


不愉快な声が絶え間なく俺の鼓膜に刺さり、頭が痛くなる。


どこからか聞こえる声は(じゅ)を発する。


「豁、閠?函雍?↑繧翫縲?遲我閠?↓荳弱∴縺怜髪荳?縺陜穂九?撫縺逡上∩譛峨j髮」縺榊縺帙?上縺驕句多縺轤縲」


意味不明で趣旨不明な儀式型の魔術が唱えられ、周りの地面だった物が号哭する。さっき感じた生温かさは生物特有のモノだった。地面が揺れ、それぞれが形を創る。床は顔で形成されており、それぞれが血を求め喚き出す。数多の自我を持った指が空から落ちてくる。指の毛虫それぞれが変態し、新たな姿へと変貌する。指がぱっくり二つに割れ、中から何かが羽根を広げる。最初は小さかったけど、そうじゃないみたいだ。


目が闇に慣れたところで目の前の物体に気がつく。


顔のない悪魔が剣を構えていた。


スンッと風の音がする。


俺の頭は意識を持ったまま宙に浮き、地獄の床に落ちる。床の顔が首から出た血を飲んでいる。


上の方に視線を向ける。今にも落ちてきそうで落ちてこない花弁で形成された天井は人間だった物で造られている。恐らく彼らは無限地獄に放り込まれたのだろう。滅多に現れないこの空間になぜあれほどの人間だった物がいるのだろう。


天には花見をしたくなるほど綺麗な花が咲いている。これは推測なのだがあの花は人間の爪で出来てる気がする。地獄に綺麗な花なんてないからな。毛虫もあそこから落ちてきたんだろう。悪魔は悪趣味だ。


横に目を逸らす。


あ。と思う。今回は吃った訳では無い。久しぶりに見る光景に驚いただけだ。


俺の性質である不死身は不便で身体の最も大きな部分から再生してしまうらしい。


俺の身体だった物から新しい俺が生えるのを見た。


そして、また身体の前に立つ悪魔が俺の首を切る。


生命は神秘的だ。諸説あるが人間の脳とは切り落とされても酸素がある限り動き続ける。つまり少なくとも2〜3分程度は活動できてしまうのだ。


活動ができるということは新たに再生する自分の身体をこの目で見れるのだ。


なんちゃらの思考実験だ。いやテセウスの船だったか?嫌、そんなことどうでもいい。


体感10秒に一頭切り落とされている。


気づくと俺の目の前には俺の頭がある。どうやら個の意識を持った俺の頭で視界を埋め尽くされたみたいだ。俺の頭と目があう。やぁ元気かい。向こうの俺は目をソッと閉じた。見たくないのだろうこの自獄を。


目の前の事象に思わず笑いそうになるが首から下がないので声すらでない。


顔をニヤつかせ光景を目に焼きつかせる。


俺の最初の脳は酸素不足で意識を失った。


頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭俺







「っ」


突如、野原にて復活した。俺の身体で遊んでいた悪魔が飽きて身体を木っ端微塵にしたんだろう。その結果、再生する部位(機能停止した脳からは再生できない)がなくなり、たまたま地上に残っていた体液か何かの部位から復活したのだ。俺は血溜まりから復活する事もできるが、地獄の血溜まりは悪魔が血を飲み干したのだろう。とにかく俺は運がいい。地獄から帰ってきたことを誰にも知られずに復讐ができる。俺はこの煮ても煮え切らないこのドス黒い感情をもって復讐をする。


関わりがあるから許せるだろうか?結局は人は人、他人とは分かり合えないのだ。


俺は不死身で惨めな男、エズキツ=シロ。裏切った四天王と魔王、待っていろ。


必ず復讐してやる。

コラム・無限地獄とは?

有名な冒険譚「アリスの書」に記述されていた想像も絶する地獄。無限地獄。時を凌駕し、全ての次元と繋がっている半径100m程度の球体構成空間であり、666層と多層次元構造となっている。ここに足を踏み入れ、儀式が使者によって行われると666に精神を分割され、各層における地獄の苦痛を1層で一斉に味わうことになる。


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