6話 権力の犬か正義の人か
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一行は昼ご飯を食べ、おやつまで食べた。
その後、カッテンディーケ卿は患者の様子を見ると言って戻っていった。
坂本はサロルンと猫塚に言う。
「僕はこれから書類やっつけちゃわなきゃいけないから書斎に行くよ。猫ちゃんは夕飯まで自由にしてていいから」
「おい。こいつはどうするんだ。俺に子守させんのかよ」
子守という言葉にサロルンは明らかにカチンと来ているようだったが、坂本は猫塚に続ける。
「えっとそうだったね。じゃあサロルンはどうしよっか?」
「ハポを探しに町に行く」
その言葉に二人の表情が曇る。猫塚が溜息混じりに言った。
「はあ。結局俺が子守する羽目になんじゃねぇか」
「私は子供じゃない!」
再三繰り返された子守という言葉にサロルンは激昂するが、坂本が困ったように止めた。
「君、何されるとこだったかわかる? さっきの彼らがうろついてるかもしれない街に出るのは危険だと思うな」
「だからって何もしないで黙ってろって言うのか!」
先ほどまで怯えていた少女と同じ子とは思えない剣幕でサロルンは怒りをぶつける。
怒る少女に坂本は恐る恐る言った。
「あのさ。ごめん。変なこと聞くけど、もしかしてサロルンは、警察を知らなかったりする?」
「けい……さつ……???」
案の定というかなんというか、お決まりのやり取りに呆れてきた猫塚が言う。
「……お前の代わりに人探ししてもらえるんだよ。今回みたいな件は普通なら動かねぇだろうが、こいつが言えば話は別だ。街の名士の依頼を無下にできるような真っ当な巡査なんぞ、こんな僻地には配属されてこねぇだろ」
「そういうのは偏見じゃない? みんないつも親切にしてくれるよ。今から大急ぎで手紙書くから明日には何か分かるんじゃないかな」
そういう訳だから大人しくしててもらえる?
坂本は穏やかにサロルンにそう言ったあと、二階へ続く階段を上がっていく。
途中振り向いて言った。
「そうだ。サロルン。君に協力してもらいたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんだ?」
「一つは君のお父さんについて分かる事を教えてほしい。着てるものとか、何か体に特徴があるとか」
「そしてもう一つは、僕たちに同行して北見まで行ってほしいんだ」
サロルンはいきなりの申し出に固まるが、坂本は続ける。
「いつもこの時期に、北見にある北光社と取引しててね。その途中にあるアイヌ集落と取引をしたいと常々考えてたんだけど、そのためのアイヌ語の通訳がいた方が良いなと思ってたんだ。どうかな?」
「いいぞ。父を探してくれるならそれくらいは当然だ」
二つ返事で了承したサロルンは手招きされ、坂本の方に近寄る。
それにソファでくつろいでいた猫塚が嘴を突っ込んだ。
「前から言ってたあれか。こんな子供にやらせんのか?」
サロルンはまた子供扱いに猫塚を睨む。
「まあ見つかったならサロルンのお父さんでもいいんだけど。行商をやってたようだから彼女も十分適任じゃないかな?」
「警察も知らんような物知らずのガキがどんだけ役に立つかねぇ」
また失礼な事をいう猫塚にサロルンが怒り心頭なのを見て、坂本は彼女の手を取る。
「残りの話は上の部屋でしようか」
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