4話 猫にネズミ
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食事をしたのちはまっすぐ坂本家の商館に戻る。
上機嫌なサロルンといつも通りの坂本と不機嫌な猫塚。
存分にお腹を満たした二人と、満足に食べられなかった一人。
坂本商会の玄関先にその三人はいた。
洋式の館なので土足で上がる方式になっているが、律儀にも玄関で軍靴についた埃を落としている猫塚に坂本が言う。
「猫ちゃん。ごめんって。まさかあんなことになるとは思ってなかったんだよ。まあうちの魚の納入先だったから予想は付くと言えばつくんだけど、ホントごめん! 次は上物の肉を用意しとくから。北光社の方で羊肉も生産しててね。今年は上手くいきそうなんだ」
「……」
猫塚は明らかに不機嫌な様子で口を開かない。
坂本はさらにフォローを入れる。
「女中さんを呼んで何か用意してもらおうか。それで許して? ね?」
「……そういうことなら。頼むぜ」
「よかった。他に食べられないものはない?」
「何も。本当にヤバいときはネズミも食ったしな」
猫にネズミ。
後ろでサロルンが噴き出しているのは気のせいだろうか、いや現実だがあえて見なかったふりをする。
「サロルン、これから三人で大広間に行くよ」
歩き出そうとしたサロルンがぴたりと止まり、首を傾げた。
「ところで坂本。おおひろま?って何だ」
「大広間は広い部屋だね~。うちではくつろぐための部屋だよ」
「そんなところがあるのか、お前のチセは変わってるな」
「チセ?」
首を傾げる坂本にサロルンは言った。
「家のことをチセっていうんだ」
「なるほどね。まあ家といえば家かな? 商館は家ってことでいいんだろうか?」
「しょうかん?」
今度はサロルンが首を傾げた。
準備が終わった猫塚が口をはさむ。
「そのままだと伝わらねぇんじゃねぇか? 市場みたいなもんだって伝えろ」
「聞こえてる。市場。イホクスイか、お前たちの市場は家の中にあるんだな」
「そのものじゃねぇが、そう言うのが一番近いだろうな」
「市場に住むのか、和人は変わってるな~」
準備が終わった猫塚をひきつれて三人は大広間に向かった。
すると向こうから見知った顔がやってくる。
グレーのスーツの長身の男性は、三人に笑顔を向けた。
坂本は笑顔を返しながら彼に言う。
「カッテンディーケ卿。お疲れ様」
「オツカレサマです。今ちょっと一息つこうと思ったのですガ。ご一緒にドウデスカ?」
「もちろん。今から行くところさ」




