表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄血のユカラ  作者: 金鹿 トメ
カムイチュプのユカラ
28/28

27話 和解

 ベッドの中に猫塚。そしてそばの椅子に坂本。

そこに扉が叩かれる。

猫塚が迎え入れると、扉の先に居たのは武市だった。


「えーと。お取込み中でしたか?」


「いやそういう訳でも、なんだ? 坂本に用か」


「それがあの子のことでちょっと困ったことになってまして、まず坂本さんにお話ししましょうか?」


「いやいいよ。猫ちゃんに説明するのは二度手間だし、ここで話して」


 坂本の目がちょっと怖いのは気のせいなのかどうか。

武市はそれを聞くという蛮勇はせず、言った。


「あなたたちの同行者の少女。彼女の鉢巻と同じものを見たものが居るんです」


「ですがちょっと事情が込み入ってまして、長くなりますが聞いてください」


 そう断ると武市は話し出した。


「見た者はこの北光社に最近入植した者なのですが、ちょうど彼女のお父さんが失踪したころに釧路の船着き場で彼女と同じ鉢巻をした男性を見たそうです。アイヌだったので年齢はよくわからなかったそうですが、おそらくは中年の、男性だったと。そしてアイヌの男は船に乗り込んだのですが、その船の行先は苫小牧だったそうです」


「苫小牧か」


 坂本はそう言って考え込む。

猫塚は言った。


「妙な事言ってるか?」


坂本は答えようとしたが、何かを思い出したように武市の方に目をやる。意図を察した武市が言った。


「私は礼拝堂に居るから、また何かあれば呼んでくれ」


 そう言って悪い足を引きずりながら去っていった。

彼の足音が聞こえなくなったのち、坂本は言った。


「妙だと感じたことは二つある。一つは彼が苫小牧へ戻ったことだ。サロルンは釧路に慣れていないと言っていたろう。つまり、普段来ないこちらまでわざわざ来てから戻ってる。交易のためにこちらに来る理由がないんだよ。北海道の西側の方が発展してる都市が多いからね。最初から向こうで取引すればいいだけだ。釧路の辺境まで来る理由はないよ」


「そうなのか?」


 首を傾げている猫塚に坂本はほほ笑んで言った。


「君にはこの理由はピンとこないか、ならもう一つの理由なら納得いくかな」


「聞き込みで出てこないはずがないんだよこの話。人の多い港を無警戒で移動してる。その話が本当なら目撃者は腐るほどいるはずだ。巡査たちが見落とすはずがない」


「そりゃそうだ。じゃあ巡査共は」


「嘘の報告を上げてたんだろうね」


「何のために?」


 声のトーンを落とした猫塚に、坂本は自身も小声で話すために身を寄せる。


「そこは僕も今まで分からなかった。けど昨日サロルンの荷物を改めたら理由はハッキリしたよ」


「なんでそんなことしたんだ?」


「理由は今は置いとこうか。結論から言うと彼女。大麻の売人だったんだ」


「こんな近くにいたのかよ。クソッすまねぇ。もう少し早く気づいてりゃあ」


「それは僕も同罪だからそれも置いとこうか。問い詰めたら彼女が主体的にやっていたわけじゃなかったみたいだ」


「と、いうことは?」


「……一つだけ分かるのは彼女のお父さんの属するであろう麻薬組織と、釧路の警察が協力関係にあるってことさ」


 沈黙が辺りを包む。

そこに小さな足音がとたとたと迫ってきた。


*****


 小さな足音は扉の前で止まり、何やらまごついている様子だ。

小さな足音の主は扉を開けるのを諦めたのか、中にいる猫塚に鈴の音のような声で言う。


「猫塚が目を覚ましたって聞いて、昨日のシペを持ってきたぞ」


 サロルンだ。坂本が何か言おうとする前に猫塚が言う。


「俺はシャケは喰わねぇって伝えたはずだが」


「……シャケの皮が苦手なのかと思って、チタタプ団子にしてみたんだ。これなら皮が苦手でも食べられるだろう?」


「あいにくそんなことしても無駄だと思うがな」


 猫塚が冷笑を含んだ言葉を返すもサロルンは言った。


「試したのか? 試しもしないのにそんなことを言うのか?」


 食わず嫌いは良くないぞと、必死に食い下がるサロルン。


「はっ。扉も開けられねぇ癖に偉そうに」


 猫塚はほほ笑みのようなものを浮かべ、坂本に言った。


「坂本、頼めるか?」


 坂本は無言で扉を開ける。

するとサロルンが大鍋を持って駆け込んできた。


 その鍋には確かにつみれ状の団子にされたシャケが沢山入っている。


「色々考えたんだ。だけど、せめて、猫塚にはこれを食べてほしいんだ。私と別れる前に」


「大げさだな。箸どっかにあるか?」


「ここにちょうどお椀と箸があるよ。これ使う?」


 坂本が差し出した椀にサロルンは小さな体でシャケ団子鍋を盛り付ける。


「おいしそうだね。僕も貰ってもいいかな?」


 サロルンの返事も待たずに坂本がシャケ団子を口に放り込む。

彼の口の中にはシャケの味が広がった。

雑味も何もない。体の不調もない。変なものは盛られていないようだ。


 坂本が平らげた椀に新しく盛り付け、猫塚に差し出す。

猫塚はしばらく差し出されたそれを見つめていたが、


 意を決して口に運ぶ。

彼の返事はこうだった。


「これなら、喰えなくもねぇな」


そう言って二個目を口に放り込む。サロルンは顔をほころばせた。

この辺で折り返しして釧路に戻ります。

また何か起こるんですけどね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ