タンポポの妖精
ヒナとアキ、キヨの3兄弟は、妖精王クロロのところで、一緒にチェリーセージの花の蜜を食べています。
「美味しいね!」アキも大喜びです。
「おいしい〜」キヨのほっぺが緩んでいます。
「このパンケーキにぴったりだから、この前より美味しく感じるよ」ヒナが呟きます。
「うん、パンケーキを作るのは得意なんだよ」とクロロも嬉しそう。
「パンケーキの作り方、教えてね」
「今度一緒に作ろう」クロロが答えます。
「僕もお手伝いするよ〜」アキが言います。
「ぼくは、食べる係〜」キヨが笑います。
笑い声が響く妖精王の部屋です。
すると急にバタバタと音が聞こえてきます。
「すみません。こちらに妖精王はいらしゃいませんか?」
「誰だろう?」
「ここにいるよ」
「初めまして、私はタンポポ妖精のポポです」
「妖精王のクロロです。どうしたの?」
「実は、タンポポの成長が止まってしまって、綿毛ができなくて困っています」
綿毛ができないと、困るのかな?と横で聞きながらヒナが首を傾げます。
「それは困りましたね。新しい土地に種が飛んでいけませんよね」クロロが丁寧な言葉で頷いています。
なるほど、綿毛に乗ってタネが飛ぶんだと理解して頷くヒナたちです。
「はい、花が咲いたままなんです・・」悲しそうなポポです。
花が咲いたままだと綺麗なのは綺麗だよねと考えるアキです。
「よし。確認してみよう」クロロが腕を組みながら言います。
「ヒナ達も一緒に来る?」
その時、初めてヒナ達に気づいたポポは、びっくりしながらも
「大変失礼しました。お客様だったんですね」
「遊びに来ていただけなので、大丈夫だよ」ヒナが言います。
「ポポ、紹介します。ぼくの友達のヒナ、アキ、キヨです。
彼らは人間です」
「人間ですか!ぼくが見えるんですか?」
「うん、見えるよ。妖精界だからかも」ヒナが言います。
「なるほど」と頷くポポです。
「僕も一緒に妖精界のタンポポを見に行きたい。いいかな?」ヒナが言います。
一緒に頷くアキとキヨです。
「じゃあ、一緒に行こう」
そういうとクロロがすぐに呪文を唱えます。
「みんな一緒にタンポポ畑へ転移せよ!」
すると一瞬で景色が変わります。
黄色いタンポポが風に揺れて、どこまでも続いています
うわ〜タンポポ畑だ!とヒナはびっくりしています。
「タンポポの花、キレイ」とアキがつぶやいています。
「見ただけでは、わからないな」と言いながら、クロロがタンポポの花に近づきます。
タンポポの茎や葉っぱを見ながら首をかしげるクロロです。
「病気ではないみたい」
その時、タンポポの花びらに手を伸ばしていたキヨが
「わ、冷たい」パッと手を放すと、花びらがパリンパリンと落ちていきます。
「凍っているの?」みんな一斉に叫びます。
「花びらだけ凍っている?」
「だから綿毛にならないんだ」ポポがびっくりしながら言います。
「蕾は、大丈夫かな?」蕾を触ってみるアキです。
「蕾は凍っていないよ」
「どうしよう」キヨが割れた花びらを見て悲しそうです。
「困ったね」ヒナが呟きます。
「花が凍っていたから、綿毛にならないんだね」アキが言います。
「でも、葉っぱも茎も蕾も無事だから、まだ間に合うと思うよ」クロロが言います。
「どうやって?」ヒナが聞きます。
「今咲いている花は、仕方ないから諦めて、蕾が咲いた時に凍らないように、ここだけ春にしよう」
「え、そんなことができるのですか?」ポポがびっくりしました。
「狭い範囲なら、できるはず・・暖かい春の風で自然に溶かすと良いと思うんだ」
「難しそうだね」アキが首を傾げます。
「春風が必要なんだ。ヒナも手伝ってくれる?」クロロがヒナを見て言います。
「うん、良いよ」
「え!お兄ちゃん、魔法が使えるの?」びっくりするアキとキヨです。
「そう、クロロに教えてもらっているんだ」照れるヒナです。
「じゃあ、僕が春の女神に協力を頼んで春の光魔法を唱えたら、ヒナは、風の妖精に協力してもらって風魔法の呪文を唱えてね」
「わかった、やってみる」
「私も手伝います。風魔法は得意なんです」ポポが言います。
「じゃあ、ポポは、ヒナの風魔法が強くなりすぎないように、後から優しい微風に調節してくれるかな?」
「はい、任せてください」
「では、始めよう」
クロロの合図で順番に呪文を唱えていきます。
「春の女神よ!春の光をタンポポ畑に与え給え」
すると春の明るい光がキラキラと輝きだします。
「風の妖精さん、暖かい風をタンポポ畑に与え給え」魔法の杖ウインを出して呪文を唱えるヒナです。
「優しい微風になりますように・・」ポポが目を閉じながら唱えます。
暖かい風が大きく流れてきそうになった瞬間に微風に変わり、ゆらゆらとタンポポの花が揺れ始めます。
「わぁ〜〜」アキとキヨが喜んでいます。
クロロ、ヒナ、ポポも、氷が溶けていく花びらを眺めながら、ホッとしています。
その様子を空から優しい笑顔で眺める春の女神です。
タンポポの花の上を飛んでいた風の妖精が「多分、花びらも復活しましたよ」と教えてくれます。
「本当だ、風の妖精さん、春の女神さま、協力ありがとう」
「はい!」
「どういたしまして、空高く舞い上がれ」
春の女神が、笑顔でタンポポ畑に向かって息を吹きかけます。
すると花びらがあっという間に綿毛に変化して、ふわふわと空高く舞い上がります。
見上げて大喜びするみんなです。
「ありがとうございます。おかげで冬が来る前に、綿毛たちも無事飛び立ちました」ポポが嬉しそうです。
「よかったね」とニコニコのヒナ。
「じゃあ、また」アキも笑顔です。
「そうだ、パンケーキを食べている途中だったんだ」キヨが思い出します。
「ポポも一緒に食べようよ」クロロが言います。
「はい、ありがとうございます。そうだ、タンポポ茶を一緒にどうぞ」とポポがお茶をプレゼントしてくれました。
「タンポポのお茶なの?」アキは興味津々です。
「はい、飲むと健康になりますよ」
「パンケーキと一緒に飲もうか」クロロが言います。
妖精王の部屋で、みんなで仲良く、おしゃべりしながら飲んで食べ始めます。
「香ばしくて美味しいお茶だね」ヒナが目を細めて喜んでいます。
「はい、自慢のお茶なんです」
「でも、なぜ、花だけが凍っていたんだろう?」ヒナが言います。
「確かに謎ですね・・」とポポ。
首を傾げながら考えるみんなです。
「氷妖精のいたずらかもしれない・・」クロロが顎に手を当てながら考えるように言います。
「でも、なぜ、そんなことしたんだろうね?」首をかしげるヒナたちです。
***
ちょうどその頃、氷妖精は、冬の女神に怒られていました。
「タンポポの花びらが綺麗で保存したかったのはわかるけれど、タンポポ畑全ての花を凍らせるのは、ダメでしょ」
「ごめんなさい。綿毛のことを知らなかったんだ。綺麗なままで喜んでもらえると思ったんだ」落ち込んで真っ暗な表情の氷妖精です。
「誰だって、間違うことはあります。
良いと思ってしたことが、迷惑になることもあると知ったわけです。
落ち込む代わりに、きちんと謝って、次から気をつけるといいのです。
行動する前に、知識を増やして考えることです。
そして相手に、確かめることも、とても大事ですよ。
さぁ、妖精王とタンポポ妖精に謝ってきなさい」
「はい、わかりました。行ってきます」深々とお辞儀をする涙目の氷妖精です。
***
そのすぐ後に、妖精王とタンポポ妖精に謝っている氷妖精の姿が見られました。
タンポポ妖精のポポや妖精王クロロに謝って許してもらった氷妖精です。
次からは間違えないと拳を握り締めています。
その様子を見て「知識はとても大事だね。僕も間違わないように気をつけよう」と呟きながら勉強を再開するクロロです。
「知識は大事。行動する前に考えたり、相手に確認することも大事」とヒナも頷きながら呟きます。
アキとキヨもそれぞれ考えながら頷いています。