チェリーセージの妖精
ヒナは、時々訪れる妖精界で妖精王のクロロと一緒に魔法の使い方を学んでいます。
弟のアキとキヨには、まだ内緒にしています。
だからお昼寝の時間に、そっと抜け出して妖精界にやってくるヒナです。
妖精界と人間界では時間の流れが違うようです。
帰るときは、ちょうど、お昼寝が終わるころに戻っています。
ヒナには仕組みがよくわかりませんが、これも妖精王の魔法なのかもしれません。
今日もお昼寝を途中でやめて、妖精界で妖精王と一緒に、魔法のお勉強中です。
好きなことを学ぶのは楽しいなとすっかり勉強好きになったヒナです。
ちょうど光魔法の治癒魔法を学んでいると・・
赤いものが目の前に飛んできました。
何だろう?と見てみると、ちぎれた赤い羽根の一部のようです。
「これは、チェリーセージの妖精の羽に似ているかも」とクロロが顔をしかめます。
「チェリーセージの妖精の羽は赤いの?ちぎれて痛いんじゃないかな?」
ヒナが心配そうにしていると・・
「あ〜〜〜、痛い〜〜。もうダメだ」とふらふらと目の前で妖精が倒れました。
「クロロ、この子の羽じゃないかな。大丈夫かな?」
クロロは顎に手を当てながら「う〜〜ん、多分大丈夫だと思う。羽を怪我しているだけみたいだから、魔法で助けることができるんじゃないかな」
そして思いついたように「治癒魔法で羽が元どおりになるか、ヒナ、やってみようか」
「え、そんな。いきなり。もし助からなかったらどうするの?」
「大丈夫、僕も治癒魔法は初めてなんだ、2人でやってみよう」
それを聞いたヒナは、「え、クロロも初めてなの?」
するとクロロが言います。
「うん、妖精王になってまだ日が浅いから、知識は受け継いでも経験が少ないんだ」
「何事も経験あるのみだよ」と自分に言い聞かせるように呟くクロロです。
「そ、そうだね。やってみよう」少し不安ながらも頷くヒナです。
ヒナは、学んだように、まず魔法の杖のウインを呼び出します。
[ウイン、この妖精さんの羽を元通りにする魔法だよ]と心の中で呟きます。
[あるじ、了解した。
確か、羽だから風妖精に協力を頼むといいのかな?]とウインの声が頭の中で響きます。
ウインの声を聞きながらヒナが「なんかもう1つ必要だったような・・」悩んでいます。
するとクロロが言います。
「羽の回復だから、風と光の妖精に協力してもらう必要があるね」
「あ、そうか!回復は、光妖精に協力してもらう必要があるから、風と光の妖精に協力を頼まないといけないんだった」と納得のヒナです。
急いでウインを手に持ち、呪文を唱えます。
「風妖精さん、光妖精さん、この羽の回復に力を与え給え!」
少しずつ少しずつ羽が元に戻りつつあります。
すると倒れていた赤い羽根の妖精がムクリと起き上がって
「お〜羽が戻ってきました。助けてくださってありがとうございます」とヒナを見ながら嬉しそうに頭を下げています。
しかし顔色が悪くなって倒れそうになっているヒナです。
どうやら、初めての魔法で力を使いすぎた様子。
ハッとしたクロロが、急いで呪文を唱えます。
「風と光妖精よ、ヒナの回復に力を与え給え!」
するとヒナの顔色がみるみるよくなり、大きく息を吐き出しています。
「助かった、クロロありがとう」
そこで改めて、赤い羽の妖精に向き直り「羽が戻ってよかったね。僕は、ヒナだよ。よろしく」
「ヒナさん、私は、チェリーセージ妖精のレッドです。改めましてありがとうございます」
「妖精王も、ありがとうございます。初めまして、レッドと言います」
「うん、妖精王のクロロだ。元気になってよかったね」
「はい、2人のおかげで助かりました」
「レッドは、チェリーセージのお世話をしている妖精なの?」ヒナが聞きます。
「はい、チェリーセージが、強い風で倒れていたので元に戻そうとしていたら、転んでしまって、枝にぶつり羽がちぎれてしまったんです」
「大変だったね。戻ってよかった」
「はい、ほんとうに助かりました」
そう言いながら、なにやら取り出しているレッドです。
「よろしかったら、このチェリーセージの花の蜜をどうぞ」
「これは蜂蜜?」ヒナが聞きます。
「いいえ、妖精が作った花の蜜です。
妖精界で食べることができます。人間界でも食べることができるかは、ちょっとわからないんですが、妖精界では魔力が回復して元気になると人気なのです」
「そうなんだ、どうもありがとう」
「ありがとう」と喜んでお礼を言う2人です。
レッドを見送ったヒナと妖精王は、チェリーセージの花の蜜を食べることにしました。
ヒナは食べながら「甘くて美味しい!これアキとキヨにも食べさせたい」と呟きます。
「2人も連れてくるといいよ。残った分は、僕が保管しておくから」とクロロが言います。
「うん、今度2人も連れてくるよ。またね!」
そう言いながら、ヒナは人間界に戻って行きます。
お昼寝から目覚めたばかりのアキとキヨに、今日の冒険を楽しそうに語るヒナです。
「僕も行きたかった〜〜お兄ちゃんばかりずるい!」と叫ぶ、弟達。
「うん、ごめん。ごめん。次は一緒に行こう」とヒナは笑顔で答えます。