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町の自警団にメッチャ強そうな戦闘狂が入団してきたんだけど、残虐な戦いをしそうで心配です

 火山近くの町ボルカ。この町には自警団があり、事件の際は彼らが出動することになる。

 若き剣士ロイは恋人である女剣士メイリとともに自警団に所属し、ボルカの町を守っていた。


 そんなある日のこと、自警団駐屯所にて団長ビリーが団員全員に告げる。


「明日からこの自警団に一人、新人が加わることになった」


 新人が入ること自体は別に珍しいことではない。むしろ歓迎すべきことである。が、ビリーの顔は妙に深刻さを帯びていた。


「新人の名はガーランドといい、腕に覚えのある屈強な戦士だ。ボルカに移住するのと同時に、自警団に入団したいそうだ」


「いいことじゃないですか」とロイ。


「そうよねえ」メイリも続く。


「まぁ、そうなんだが……どうもこの男、“戦闘狂”と恐れられている戦士らしいのだ」


「戦闘狂……!?」


 戦闘狂とは、「戦闘を狂おしいほどに好む者」を指す言葉だ。戦いが好きなのだから、戦力として頼もしいことには間違いないだろう。しかし、自警団に相応しいかというと、また別問題となる。

 敵に対し必要以上の攻撃を加え、恨みを残すこともありえるし、あまりに残虐な行為をしたら自警団と町民との間に溝も生まれるだろう。なにしろ、戦闘“狂”なのだ。戦いを求めるあまり、何をするか分からない。


「とにかく……様子を見るしかない。各自、心しておくように」


 弱腰気味なビリーの指示に、団員たちも「はい」と返事する。


 メイリが隣のロイに不安そうに言う。


「ねえねえ、もしも危ない人だったらどうする?」


「なあに、その時は俺がガツンと言ってやるさ!」


 ロイは勇ましく胸を叩くのだった。



***



 次の日、ビリーの予告通り、新団員となるガーランドが駐屯所にやってきた。


 その風貌は予想通り――いや予想以上のものであった。

 体つきは自警団の誰よりもごつく、筋肉質。その太い腕のあちこちに傷があり、百戦錬磨を思わせる。

 そしてなにより顔つきが凄まじい。眼光は鋭く、男前といえる顔立ちながら、相手を威圧する雰囲気を隠そうともしていない。

 自警団の面々もざわつく。中には実物を見るまで楽観していた者もいただろうが、今やそんな気配は吹き飛んでしまった。


「ねえ……ホントにガツンと言えるの?」


 というメイリの問いに、


「コツンと、ぐらいにしとこうかな……」


 ロイも青ざめた表情でこう返すしかなかった。


「えー、ガーランド殿。みんなに挨拶を」


「ガーランドと申します。最近このボルカの町に移住してきまして、傭兵をやっていた経歴を生かし、自警団に所属させて頂くことになりました。よろしく」


 意外に礼儀正しい挨拶。が、「元傭兵」という肩書きが、「戦闘狂」という噂に説得力を持たせる。

 おそらくあちこちの戦場を駆け回り、この町にやってきたのだろう。

 自警団員たちは頼もしい戦力を得たと同時に、爆弾を抱えてしまった気分になるのだった。



***



「訓練はじめっ!」


 ビリーの命令で訓練が始まる。

 自警団の訓練は木剣を用いて、二人一組で行う。


 ロイは恋人メイリと組む。


「いくぞ!」


「いいわよ!」


 剣を合わせ、太刀筋や間合いの確認をする。


 一方、ガーランドは組む相手がいないのか、一人で素振りをしている。

 素振りも迫力満点で、「戦闘狂」の噂をさらに補強する。

 体の使い方はもちろん、目つきも気迫も、自警団の訓練とは明らかに一線を画していた。これがあちこちの戦場を渡り歩いてきた傭兵か、と息を飲んでしまう。


 普通ならば団員の誰かが新入りに「俺が相手してやろう」となる場面だが、誰もそんな気にはなれない。力の差を見せつけられるに決まってる。


 メイリがささやく。


「ホントにコツンと言えるの?」


「言えるわけないだろ……」


 ロイは今にも消え入りそうな声でこう答えた。



***



 自警団に出動要請が入る。

 町の中心部で余所者のならず者集団が暴れているというのだ。

 ボルカは火山が近いため、温泉や公衆浴場が多く観光地としても有名で、このようなことは決して珍しくない。


「出動だ。余所者を懲らしめてやるぞ!」


 ビリーが命令を下す。

 ロイとメイリも張り切る。


 すると――


「俺も出動していいですか」


 ガーランドの言葉に、皆が不安になる。

 「戦闘狂」と噂されるこの男を向かわせたら、どうなるか。戦闘を楽しみ、相手を血祭りに上げる光景しか想像できない。しかし、同行を拒否する正当な理由も思い当たらず、結局ガーランドもついてくることになった。



……



 町ではならず者たちが暴れていた。


「オラァッ!」

「土産もんがどれも高すぎるっつうの!」

「つまんねえ町だぜ!」


 想定よりタチの悪い集団のようだ。ロイを始め、自警団の面々も気を引き締める。


「これは……手こずりそうだな、メイリ」


「そうね」


 その時だった。ガーランドがビリーに申し出る。


「団長。ああいった連中の対処は慣れています。俺にやらせてもらえないでしょうか」


 入団初日でいきなり初陣を飾りたいという申し出。戦闘狂の噂は本当だったんだな、と皆が心の中で思った。

 ビリーとしては、新入りの出る幕じゃないと威厳を見せておきたいところであるが――


「ど、どうぞ」


 譲ってしまうビリー。無理もなかった。訓練でのあの素振りを見てしまったら、とても断ることなどできない。

 ロイも口を挟む気にはなれない。


「よし……こうなったら、あいつの戦いをガツンと見るぜ!」


 ガツンと傍観を決めたロイに呆れるメイリ。


 この場の対処を託されたガーランドがならず者集団に歩み寄る。


「失せろチンピラども」


「ああ?」


 集団の一人がガーランドを睨みつける。全く怯んでいない。

 一触即発。

 ガーランドが負けるとは思えないが、血の雨が降るような事態になっても困る。緊張の面持ちで見守る自警団。


 ガーランドがついに剣を抜いた。

 ロイはガーランドが「戦闘狂」と言われるゆえんをついに目撃するはめになるのか、と顔をしかめた。ならず者集団が滅多斬りにされる、と。


「ふんっ!」


 ガーランドは剣を振り、高速で地面に叩きつけた。

 大きく土が抉れる。これがもし人体だったら……と思わずにはいられない一撃だった。

 そして、ド迫力の顔で凄む。


「さあ……これを喰らいたいか、今すぐ謝って失せるか、どっちだ?」


 ならず者たちはたまらず怖気づいてしまう。


「す、すいませんでした~!」


 この場どころかボルカから逃げ出す勢いで逃げていった。

 ならず者を追い払ったガーランドに、その場にいた町の住民みんなが拍手をする。彼はたった一振りで町の英雄になってしまった。

 戦闘するどころか、一滴も血を流すことなく場を収めてしまったガーランド。戦闘狂というのは本当に噂に過ぎなかったのだろう。

 自警団の面々は彼を誤解していたことを知る。


「いやー、すごかったよ!」

「期待の新人だな!」

「見事だった!」


 口々に褒め称える。

 ガーランドもようやく自警団に認められたと思ったのか、嬉しそうである。


 ロイも――


「よーし、ガツンと褒めてくる!」


「もう、ロイったら」微笑むメイリ。


 ロイにもガツンと褒められ、ガーランドはさっそく気さくに声をかけてきた。


「あの、ロイさん」


「ん?」


「このボルカの町……いい銭湯ってありますかね?」


 ロイは笑いながら答える。


「そりゃあるさ。なにしろ火山の町だもの。名湯と言われる温泉や、名浴場と言われる銭湯がゴロゴロしてるよ」


 これを聞いたとたん――


「ヒャッホォォォォォ! この町に来てよかったぁぁぁぁぁ! かけ湯してしっかり体洗ってのぼせる寸前まで湯船に浸かって、風呂上がりにはパンツ一丁で腰に手を当ててミルク飲むぞぉぉぉぉぉ!!!」


 はしゃぐガーランドを見て、ロイはこうつぶやいた。


「銭湯狂だったか……」






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― 新着の感想 ―
[一言] オチ最高
[一言] 待ってました、ハイファン落語! これは素敵な地口オチ、小ゑん師匠にお願いしたい。 ちょっとバタバタしてたんで、やっと読めました〜。
[良い点] 身体を動かす機会が多くて生傷も絶えない。 そうした環境に身を置く傭兵稼業なら、銭湯や温泉が大好きになるのも自然な流れですね。 きっとガーランドさんは、平たい顔族と仲良くなれそうです。
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