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第59話(上):魔法大試合、決勝戦

 放送局。

 まあ、局と言っても見通しのいい闘技場の上の方にある一角をパーティションで区切って魔道具を置いただけの場所なんだけど、とにかく、わたしたちはそこにいた。


「いよいよ祭りも大詰め。トーナメント決勝戦まで、もうちょっと待っててね」


 隣で話すノエルの声が放送部員たちの手によって闘技場中に拡散するのを、わたしは心ここにあらずで聞いている。

 カルバン様は大会を至極順調に勝ち上がっていた。

 新しい戦い方は切札として温存し、今までの(ワンド)を使った遠距離攻撃主体の戦法で決勝まで勝ち残る。これはこれで困難な道のりだったが、カルバン様は優雅に、華麗に、見事に成し遂げて見せた。


「決勝戦はロミニド様とカルバン様のロイヤル兄弟対決! 二人とも同じ火魔法を飛ばして制圧するスタイルで勝ち上がってきたね。決勝では激しい撃ち合いが予想されるよ。楽しみ!」


 あまりにも堂々と適当なことを言うノエルの態度に、わたしは内心でどん引きする。

 いやまあ、折角ここまで隠した新戦法を今明かすわけにはいかないからそれでいいんだけど、ノエルはカルバン様の特訓に付き合ってたというのに、白々しいにも程がある。


「解説のローランはどう思う?」


「あ、ああ、そうだな……」


 ローランもノエルの狐っぷりに引いていたようで、いきなり話を振られて軽くどもった。

 ミリアに解説の代打として引き摺ってこられたローランは最初こそ『会場中に向けて話すのは柄じゃない』と渋っていたが、やっぱり魔法戦について語るのは楽しいようで、すぐに解説としてばっちり活躍するようになっていた。


「注目すべきは、やはり前優勝者でもあるロミニド殿下だろう。彼はこの大会での全試合を開始地点から一歩も動かず(・・・・・・)勝利している。剣や槍の届かぬ間合いから一方的に攻撃し無傷で敵を倒す。あらゆる要素に秀でているからこそ実現可能な遠距離系の魔法使いの理想型だ」


「王道」


 わたしたちが倒すべき敵の強大さは、この大会だけでも嫌と言うほど分かった。

 ロミニドは圧倒的だ。

 戦いに疎いわたしでも分かる。一歩も動かない舐めプで危なげなく勝ち残れるってなんなの、ふざけてるの?


「だが、カルバン殿下だって負けてないぞ」


 ローランの意見に対抗したのはセレストさんだ。


「これまでの試合ではロミニド殿下と比べると苦戦もあったが、その分いい動きを見せている。花火大会じゃないんだ、魔法撃ちだけで勝負は決まらないさ」


 そうだ、もっと言ってやれ。

 女子の部を優勝したセレストさんと、準優勝だったメアリーも解説者として放送局に呼ばれていた。後ろには放送部員として働くテオフィロもいるし、いつもの面子って感じね。正直ちょっと手狭である。


「メアリーはどう思う?」


「そうですね……。どちらが勝たれるかは私には想像もつきませんが、お怪我をされたら全力で私や救護班の先輩方が治しますので、思いっきり戦って頂ければと思います!」


 メアリーめ、無難なコメントでお茶を濁したわね。


「よぉし、それじゃ、決勝まであと──」


「あら、ノエル。わたしには聞かないの?」


「えー、エリザベット、カルバン様だけを応援しすぎてさっきも注意されてたじゃん。これ一応公共の放送なんだから、ほどほどにしてよ?」


「はいはい」


 もちろん自重する気はない。

 もう決勝戦なんだし、この後でいくら怒られようが知ったことじゃないわ。


「さ、気を取り直して、選手入場だよ。まずは、前年度のチャンピオンにして今年も優勝候補ナンバー1! 圧倒的な制圧力はまさしく王者! ロミニド・アーサー!」


 歓声の中、威風堂々とロミニドが入場してくる。装備は黒く染められた革鎧と赤い宝石が嵌められた杖。魔法を補助する杖は大会規定で三等級以下のもに制限されているが、それでも彼が使えば大砲にも負けない立派な凶器である。


「続いては、」


「きゃぁー!カルバン様ぁー!!」


 黄色い声援が闘技場に響く。自分で言うのもなんだけど、キンキンしてて耳障りね。

 放送部員たちがわたしを睨むが気にしない。

 カルバン様はわたしに気付いてくれたようで、こちらに向けて、武器を掲げて見せた。

 それは今まで使っていた杖でも、特訓の序盤に使っていた剣でもない。


「おっと、あれは──ランスだー!」


 ノエルは全部知っているのに、というか、あの武器は彼が設計したんだからあれが何かは誰よりもよく知っているはずなのに、まるで初見のようにリアクションしていた。天晴な白々しさだ。

 伊達に私生活からずっと演技をしてないわ。


 カルバン様が手にしていたのは騎槍(ランス)だった。細長い円錐状の鉄塊に柄を付けたような形をしている。通常穂先はとがっていて、そこで突き刺すものだけど、一応試合仕様として先っちょは丸められていた。


「女子の部決勝のメアリーに続いて、また珍しい武器が出て来たね」


「ランス……騎槍とも言うが、この武器は本来騎乗して使うものだ。ランスは馬の走力をそのまま突貫力に変えるため頑丈且つ重厚に作られている。その分、重量があるため使用法も槍のように『振る』のではなく馬に『付ける』ようにして扱う」


 騎槍(ランス)は重たくてとても人間が扱える武器じゃない。まあ、ノエルの別邸で門番を振り回していたローランや女子の準決勝で対戦相手をホームランしていたメアリーなら別に使えそうな気がするけど、ともかく、常識では人間が手に持って振り回すもんじゃないとされている。

 しかし、カルバン様は騎槍(ランス)を普通の槍のように軽々と振って見せている。

 その秘密は、


「『軽化』ね」


「あ」


 ノエルたちが一斉にわたしを見た。

 ……言っちゃった。


「ま、まあ、その、なんだ。カルバン殿下が『軽化』を得意としていることはロミニド殿下も知っているだろうし、あのランス捌きを見ればその仕組みも自ずとしれよう。うん、今口を滑らしても問題はないんじゃないかなあ、たぶん」


 セレストさんが歯切れの悪い言葉を早口に紡いでフォローしてくれた。


「ごめんなさい……」


 反省して小さくなっていると、ノエルがマイク──正確にはマイクのような働きをする魔道具──を向けて来た。


「なに?」


「うんとね、利敵行為しちゃった後なら、多少は放送に私情を入れても許されるんじゃないかなって思うんだよね」


 どうぞ、マイクがくいくい動く。

 じゃあ、遠慮なく。


「がんばれー! カルバン様ー!!」


「わぁい! 今日の実況もカルバン贔屓でお送りするよー!」

次回も明日更新。(分路)

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