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第4話:見つけた

 あれからまた一週間が経ちました。


 わたしは様子見を続けつつ、謝罪の機をうかがう日々を過している。メアリーが本当に四六時中攻略対象の誰かと一緒なのがやっかいで、未だに謝罪は出来ていない。

 そんな感じでわたしは相変わらずなのだが、メアリーの方はそうでもない様で……。


「メッアリー!! おっはよー!」


「お、おはようございます、ノエル様」


 そう言ってノエルが元気よくメアリーに抱きついた。


「おかしい……」


 見た目こそ少年そのものだから微笑ましいものだが、ノエルの年齢は17歳。公共の場で付き合っても居ない女性に抱きつくのは流石に非常識だ。

 向こうでもそう思ったようで、カルバン様がノエルを引きはがした。

 そしてそのままメアリーの肩を抱くように引き寄せ言う。


「ノエル、急に抱きつくなんて失礼ですよ。メアリーも困っています。それに女性は丁重に扱うべきです」


「ありがとうございます、カルバン様。でも、その、カルバン様も近すぎるような……」


「これは失礼を」


 そう言いながらもメアリーに微笑みかけたまま離そうとしないカルバン様。それを今度はローランが引きはがす。


「ありがとうございます、ローラン様」


「いや、礼はいい。君を護るのは騎士として当然のことだ」


 見つめ合う2人にテオフィロが口を挟む。


「はは、ローラン君は堅いなー。もっと気軽に、砕けていこうよ。こんな風にさ」


 メアリーとローランに割り込むように身体を入れ、メアリーの手をを誘うように取った。


「明日は休日だろ?街を見て回ろうと思っているのだが、君もどうだい?」


「ごめんなさい、テオフィロ様。明日はローラン様に剣を見ていただく約束が──」


 とまぁ、彼らはこんな感じのやり取りをここ数日毎日のようにしている。


「絶対におかしい……」


 確かにメアリーは男性陣と距離が近かったが、あくまで仲のいい友達のような距離感で、こんな露骨にメアリーを取り合うような関係ではなかった。それがこの一週間で急速に色ボケ集団になってしまった。これではメアリーを囲む逆ハーレムだ。

 Magie(マジー) d'amour(ダムール)に逆ハールートはないし、そもそも5月の段階ではここまで好感度は上がらないはずなのだが……。

 原因はわからないけどとにかく攻略対象達は既にメアリーにメロメロで、何と言うか、もう見ていられない。頭を抱えて俯いていると、始業の鐘が彼らを解散させてくれた……。福音の鐘に聞こえたわ……。


────────────────


 昼休み。

 食堂に向かっていると珍しく1人で歩いているメアリーを見つけた。何やら考え事をしているようで、中庭を囲む回廊を歩きながらぶつぶつと独り言を呟いている。いつもは姿を見るなり逃げ出すわたしにも気が付いていないようだ。

 チャンスね。

 そろりと近づき、正面に立ってもまだ気付かない。気付かないままわたしにぶつかってきた。

 大丈夫かしらこの子?


「あ、申し訳ありま」


 咄嗟に謝罪しようとしたメアリーだったが、ようやくわたしの存在に気が付いたのだろう、途中で目を見開いて言葉を失った。

 我に返ったメアリーはあたふたと周りを見渡すが他に人は居ないし隠れる場所もない。


「このわたしから逃げられるとでも?」


 なんだか悪役っぽいセリフね。2週間逃げられ続けてきた相手をやっと捕まえたことが嬉しくて、つい口走ってしまった。これはいけない、わたしは悪役令嬢の役割なんか放棄したいのよ。これ以上余計な悪行を重ねる前に、さっさと本題に入ろう。


「貴女に話があります」


「は、はい!」


 もったいぶった前置きをして、逃げ出す機をうかがっていたメアリーの意識をこちらに向けさせる。


「ごめんなさい。身分で貴女をさげすみ、酷いことを言ったし、してしまったわ。許してくれなくてもいいから謝罪させてちょうだい。本当にごめんなさい」


 わたしは腰を直角に折って頭を下げた。よく考えたら今世でこんなに頭を下げるのははじめてかもしれない。前世の記憶のなせる謝罪(わざ)ね。日本人すぐ謝る。

 声をかけられるまで頭を上げないのが謝罪の基本、とはいえ少し待っても声が聞こえないので腰を折ったままメアリーを盗み見る。


「────」


 絶句。正に何も言えないといった様子で小さく口を開き呆けている。

 してやったり、少しいい気味だ。思わず口の端が上がるが、彼女には見えてないはずなのでセーフ。

 このままでは埒があかなそうなので勝手に頭を上げさせて貰う。そうするとメアリーも正気に戻ったようで、狼狽えながらも絞り出すように言葉を紡いだ。


「そんな、謝罪されるようなことはありません。エリザベット様は貴族のことをよく知らない私に助言を下さっただけで、謝られるようなことは何も!」


「そ、そう? そう言ってくれるとわたしも嬉しいわ」


 許してくれるなら有り難いけど、こちらとしてはかなりいびった覚えがあるので本気で言っているとしたら逆に怖い。それともこれが主人公特有の底なしの善性なのかしら……。

 ともあれ、筋は通した。これでもう二度と彼女とは関わらないでいい。立ち尽くす彼女を置いて、今度こそ食堂に向かう。去り際、別れの挨拶に捨て台詞の一つでも吐いていこう。


「じゃあね、もう関わることもないでしょう、()()()様」


 そう吐き捨て、振り返らずに手を振りながら立ち去った。

 意味の分からない皮肉に困惑するメアリーの姿を想像すると、少し憂さが晴れるわね。




 さて、食堂に着いたはいいが出遅れてしまった。この食堂ではフレンチと定食の合いの子とでも言うべき料理が食べられる。ゲームのイラストもそんな感じだった覚えがあるから、その再現なのかもしれない。

 学生向けの食堂ではあるが、生徒のほとんど貴族ということも有り、メニューは高品質で手が込んでいて、つまり提供が遅い。今からだと簡単な軽食しか食べられないかしらねえ。

 いっそ今日は昼ご飯を抜こうかしら、なんて考えていると正面からわたしに向かって歩いてくる人影がある。セレストとミリアのライバルコンビだ。セレストは何やら険しい顔をしていて、ミリアも無表情ながらトゲトゲしい雰囲気を纏っている。

 一体何が、と聞く前に、セレストから声を掛けてきた。


「エリザベット、今日の午後は空いているか」


「ええ、構いませんけど。どうされましたの?」


「……」


 ミリアが周りを窺いながら言い淀む。ここでは言いにくいことなのかしら。


「わかりました。では先週のようにお茶会の準備をさせましょう」


「ああ、助かる。では放課後」


 そう言って、セレストとミリアはどこか憤然と去って行った。

 何があったんだろう?


────────────────


 放課後、第2回ライバルズお茶会が開かれた。


「聞いて。メアリーが酷い、高慢、無遠慮。 わたしがノエル様を好いていると知りながら……」


 席に着くなりミリアが訴えてきた。興奮しているのかしら、淡々とした口調なのに圧があるわ……!


「ミリア落ち着いて。ゆっくり、順序だてて話してちょうだい」


「……はい。あれは、昨日。授業が終わって、()ぐ──」


 ミリアが語ったところによると、何やらメアリーがノエルを引き連れ仲を見せつけるように煽ってきたらしい。


「私のところにも同じようにメアリーとローラン様が来たんだ──」


 セレストが語った内容も似たようなものだった。


「頭に血が上って『殺す』とまで口走ってしまった。ローランに咎められたし、すぐに謝罪もしたが……。はあ、私も君のことは言えないな」


 そう話を結んで、2人してため息をついた。つまりメアリーは昨日対応した攻略対象を侍らしてライバルに見せつけた、ということらしい。


「おかしい……」


 昼間にわたしの謝罪を受け入れた彼女がそんなことをするとは思えない。いや、それ以前に、


「でも、それならどうしてわたしのところに来なかったのかしら?」


 尋ねられた二人は一度お互いの顔を見合わせると、無言でわたしの方を見てきた。心なしか可哀想なものを見る目をしている気がする。


「な、何よ」


 無言は痛いわ。何でも良いから何か言って欲しい。


「あ、あぁ……そう、君は彼女をいじめていたのだから、その、怖かったんじゃないか?」


 なんか濁された気がする。今度はミリアの方を見た、少し目力強めで。


「エリザベットを、カルバン様と仲のいい女性と、思っていない……」


「え、そんなはずは……な……あれ?」


 そう言われてみると、確かに学園に入ってからあまりカルバン様と話せていない気がする。


「私たちは半ば常識のように察しているが、彼女は学園でのことしか知らないからな……」


「…………」


 哀れみが痛い。彼女達は分岐次第では結ばれる程度に攻略対象と親しいけど、わたしはそうではないということか……。

 ヒートアップしていた場が一気に冷めてお通夜モードになってしまった。雰囲気に釣られてか、2人もぶつぶつと自虐モードになっていじけはじめた……。色々と辛い……。


「早いですけど、今日はもう解散しましょうか……」


「そうだな……」「そうですね……」


 傷を舐め合う気にもなれず、どんよりとした空気のままお茶会は早々にお開きとなった。

 楽しいお茶会とはいかなかったせいか、用意したお菓子もミリアが多少手を付けたくらいでほとんど残っている。もったいないから席に着いたまま一人でお菓子をつまんでいると、


「エリザベット様」


 可愛いマイメイド、サラがわたしを呼んだ。


「なぁに、サラ?」


「エリザベット様にとお手紙をお預かりしました」


 彼女は一通の封筒を手渡してきた。差出人は書かれていない。

 随分と質素な封筒だ。蝋封すらされていない。折られただけの封筒を開くと、手紙用の便箋でもない粗い紙に走り書きしたような文字が踊っている。余程急いでいたのか、時候の挨拶もなく用件だけが数行で書いてある簡素な内容だったが、


「……?」


「如何されましたか?」


 眉を顰めるわたしを怪訝に思ったのだろう、サラが心配そうに言う。

 側に寄ってきそうな彼女の様子に、わたしは慌てて後ろに手紙を隠した。


「何でもない、のよ。少し差出人が意外だっただけ。」


 この手紙を見られるわけにはいかない。

 それに差出人が意外だった、と言うのも嘘ではない。


 手紙には次のように書かれていた。


『本日、夜9時にお部屋に伺います。どうか私の話を聞いて下さい。メアリー・メーン』


 そっくりそのまま、一字一句違わず、この通りの文面だった。


 そう、その手紙は()()()で書かれていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲーム上のルート選択を意識して物語がコントロールされていくさまが新鮮でした。 こういうお話は初めて読むので、何がおこるのか予想がつかないという楽しみがあります。 ドラマがしっかりと描かれて…
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