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第23話:歓迎

「ローラン様とセレストさんのお付き合い、ならびにローラン様の同盟参加を祝して、かんぱ〜い!」


「「かんぱーい!」」


 いつもの部屋、円卓を囲んでわたしたちは集まっている。

 ただし、いつもと違うことが二つ。

 一つは手に持っているのがティーカップではなくグラスであること。

 歓迎会には乾杯だろう、ということで飲み物を紅茶から変えた。グラスは芳醇な香りを放つ紫色の液体で満たされている。ワインではない、ぶどうジュースだ。本当の中世ではどうだったか知らないけど、この世界ではお酒は成年とされる18歳から。未成年飲酒、ダメ、絶対。


 もう一つはローランがここにいることだ。


「俺とセレストに何かしていたのはわかっていたが、同盟とはな……。“恋のキューピッド同盟”だったか」


「はい、“互射(こい)のキューピッド同盟”です!」


 なんてメアリーと噛み合わない会話をしている。

 あんた、ただでさえ無理めな当て字なのに、漢字のない世界でそのニュアンスは伝わらないわよ。絶対。


 無事セレストと付き合うことになったローラン。彼の性格上わたしたちの活動を知ってもセレストへの好感度が下がることはないだろう、そして恋人になったセレストを裏切るようなこともないだろう、と判断して彼もわたしたちの仲間に加えた。

 テオフィロは割と役に立ってるし、男性の協力者もいるに越したことはない。


 テーブルには二種類の焼き菓子。ナッツやドライフルーツがふんだんに入ったものとシナモンのスパイシーな香りを漂わせるものが並んでいる。テオフィロとミリアの提供品だ。

 セレストとローランの試合で賭けをしていた二人だったが、最後の試合で総合の勝敗も決まる接戦だったようで、それぞれ、


「武器を折ったのだからローランの勝ち」


「いやいや、押し倒したんだからセレスト様の勝ちではないかな?」


 と主張していたが、「間を取って引き分けで」というわたしの一言で決着した。

 彩の増したテーブルと、お互いの持ってきたものを頬張りながら笑っている二人を見ると引き分けでよかったと思う。

 にしても、ミリアはちっこいのによく食べるな……。

 摂取した栄養は一体どこへ行くのか、


「胸かな……」


「エリザベット様エリザベット様、大体何をお考えか分かりましたが、そこは頭脳だということにしておくべきだと思います」




 しばらく純粋にお菓子とおしゃべりを楽しんだ。リフレッシュも済んだところで、そろそろ次に移りましょうか。

 パンパンと柏手(かしわで)二つで注目を集める。


「宴もたけなわではありますが、次の話をしたいと思います」


 緩み切った空気が引き締まる。

 次の話、つまりはミリアとノエルの話だ。


「早速だけど、ミリア。貴女とノエル様は今どんな感じなの?」


「普通に仲はいい」


 即答だった。

 短い答え。これだけでは何も分からないけれども、待っていても補足はない。


「ミリア、もう少し詳しく話してくれないかしら?」


「これ以上の言葉が見つからない。ごめんなさい」


 申し訳なさそうに縮こまるミリア。

 あどけない彼女にそんな顔されたらわたしが悪いことをしてるような気になる。


「もう、仕方ないわね。じゃあ、あんた」


 隣に座るメアリーを指差す。


「あんたはミリアとノエル様とよく一緒にいるんでしょう? あんたが答えてみなさい」


「はい!」


 指名を受けたメアリーは少し考えて、


「普通に仲がいい、です」


「ふざけるな」


「アレアレ? ミリア様と対応が違いすぎませんか!?」


 拳を振り上げてやるとメアリーが「キャーッ」と言って逃げ出した。

 それを見たローランはセレストに顔を寄せ、手を立てて内緒話をする。


「この二人はいつもこうなのか」


「そうだローラン。名物だと思って諦めろ」


 はい、そこ! 人をダシにイチャイチャしない!


 ひとしきり走って満足したのかメアリーが席に戻ってきた。


「本当に『普通に仲がいい』というのがよく形容出来ているのです。ローラン様とセレスト様のような認識のズレもないですし、最近はじめられた共同の研究も楽しそうにされています」


「じゃあ、ミリアが告ればそのまま付き合えそうなの?」


「あ、えっと、うーん、それは……」


 ごにょごにょとはっきりしないメアリー。その様子を見たミリアは少し下を向き、その後すぐに顔を上げて言う。


「次の水曜日、空いてる?」


 一瞬、伏せたミリアの表情が少し悔しそうに見えたのはわたしの考えすぎかしら。


────────────────


 水曜日の放課後、わたしとテオフィロはミリアとメアリーに連れられてノエルのラボに来ていた。セレストとローランは所用とやらで抜けている。デートじゃないの、と後で揶揄ってやろう。


「ようこそ! 僕の研究室へ!」


 この部屋の主である銀髪の少年が両手を広げてわたしたちを出迎える。

 ノエルは学生の身でありながら学校に自分の研究室を持っているのだ。魔法院の院長を父に持つバックと昨年の若手優秀魔法賞受賞という実績の合わせ技で可能にした特例だ。


「見学の許可をいただき感謝します、ノエル様」


「ノエルでいいよー。珍しいね、エリザベットが魔法研究に興味を持つなんて」


「ええ、まあ。わたしも学生の端くれですし……」


 適当に返事をしながら部屋を見渡す。

 奥に伸びる細長い部屋。横幅は人が2人並ぶのがやっとか。ただでさえ広くない幅は両側に聳え立つ本棚で更に狭くなっている。

 本は棚から溢れており、床にも積み上げられていた。本だけでなく紙も散乱していて、ノエルの覚え書きなのか、魔法陣の一部と思わしき幾何学模様や魔法に関する理論、よくわからない数式っぽいものまで書かれている。本も紙も貴重品だというのにこの有様はある意味凄い。


如何(いか)にも、といった感じだね」


 テオフィロが研究室の感想を端的に言う。

 なんか天才の部屋って散らかってるイメージがあるわよね?


「ノエル様、散らかしすぎですよ」


 メアリーは慣れた様子で散らかった紙をまとめていく。

 お母さんか、あんたは。


「ノエル、これ」


「チェック頼んでた魔法陣? もう見てくれたんだ、ありがとー!」


 ミリアが持ってきた紙を部屋の一番奥にある机に広げて、二人して席に着く。

 二人で議論を始めるのかと思ったが、ノエルはこちらに手を振り呼びかけた。


「メアリーもこっち来てよー」


「私は、エリザベット様とテオくんを案内していますので……」


「……ふーん、そっか」


 わずかに間を空けて、残念そうにノエルが言う。

 一瞬わたしを見た彼の視線がひどく冷たく感じたのは気のせいだと思いたい。


────────────────


 メアリーが部屋にある物を紹介していく。

 といっても狭い部屋だ、案内はすぐに終わった。メアリーはノエルたちの方に行き、わたしとテオフィロは部屋の中央にあるテーブルに腰を落ち着けた。


「うーん、ここは前のままの方が威力出ない?」


「そうだけど、効果よりも複雑化するデメリットが大きい。誰もが貴方ほど器用じゃない」


「そっかー、題目に一般化って書いちゃったしね……。メアリー、ちょっと外の的に撃って比べてみて?」


「了解です!」


 魔法の開発らしきことをしている三人をわたしはただただ眺めている。

「初学者にもお勧めです!」とメアリーに進められた本は1ページで飽きた。まあ、勉強は建前で、そもそもここに来た目的は彼らの関係をこの目で確かめることだしね。

 メアリーが窓の外、数十メートル先の木にぶら下げられた的に向かって水弾のようなものを撃ち、ノエルとミリアがその速度や精度、発動までの時間について記録したり、メアリーが撃った感想を言ったりしていく。

 魔法の開発ってこうやるのね、なんて素朴な興味を抱きつつ、ノエルとミリアの様子を見た感想は、


「まあ、確かに、普通に仲が良く見えるわね」


「ふむ、しかし、これは厄介かもね?」


 わたし同様本を読む手を止め彼らを観察していたテオフィロが口を挟む。

 手招きする彼に近寄ると、ノエルに聞こえないよう声を潜めて彼は話し出した。


「気付いているかい? 6:4、いや7:3かな? ノエルはさきほどからメアリーに多く話しかけている」


「え?」


 それを踏まえてノエルの言動を注視すると……本当だ。メアリーに話しかける方が多い。


「たまたまじゃない? あるいは平民がミリアに気を遣ってあんまり話しかけないから、ノエルの方から話しかけてるとか」


「そうかもしれないけどね? 僕だったら両手に花なら平等に扱うよう気をつける」


「……」


 テオフィロの言わんとしていることはわかる。

 なるほど、ミリアとメアリーが微妙な反応をしていたのはこういうことか。

 ノエルはミリアと普通に仲が良い、でも、


「メアリーとはもっと仲が良い、と」


 確かにこれは、少し厄介かも知れない。

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