表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/88

幕間1-2:彼女の髪は何色だ?

 ゲームの『補正』といえば、こんなことがあった。


 ────────────────


「はあ……。使える雰囲気じゃなくなっちゃったわね」


 ローランの誕生日の数日前、準備中のことだ。

 わたしはセレストのために用意したソレを両手でいじっていた。


「綺麗なリボンですね! 随分と長いものですが、パーティの飾り付けに使うのですか?」


 ソレは水色のリボンだった。セレストの髪の色に合わせてわざわざ取り寄せたものだ。長さはたっぷり十メートル。


「だったら普通に使うわよ。これは、こうして……」


 背中を通してスルスルとリボンを体に巻きつける。

 手足にも適当に絡ませ、肩の辺りで大きく蝶結びを作れば、


「『プレゼントはわ・た・し』と言えば裸リボン、でしょ?」


「バ──、ええっと、その、思いとどまられてよかったです……」


「あんた今『バカ』って言った?」


「言ってません! 言ってませんよ? 未遂です」


「言おうとしたんじゃないのバカ!」


 こいつは本当に身分の違いを理解してるんだろうか……?


「まあ、いいわ」


 ぺこぺこと謝るメアリーを静止し、ふと思った疑問を投げかける。


「ねえ、このリボン何色に見える?」


「水色だと思いますが、違うのですか?」


 そうよね、誰がどう見ても水色よね、このリボンは。


「このリボンの色、セレストさんの髪色とよく似ていると思わない?」


「思います! そっくりです!」


 ふむ、ここまでは想定通り。次が本題。


「じゃあ、セレストさんの髪色は何?」


「青みがかった黒髪です」


「なんでよ!?」


 セレストの髪は青みがかった黒髪。『Magie(マジー) d‘amour(ダムール)』のテキストやキャラ設定にはそのように記述されている。

 しかし、実際のイラストでは、彼女の髪はどう見ても水色で塗られていた。全く黒髪ではない。


「なんでよ、見なさいよこのリボン。水色でしょ、みずいろ! 黒じゃないし、どっちかというと白寄りじゃない! なのになんで青みがかった黒髪(・・)なのよ!?」


「なんで、と申されましても、地の文にそう書いてありますので……」


 宥めるようにメアリーが続ける。


「ノベルゲーやラノベではイラストと地の文が食い違っていたり、誇張されたりするのはままあることです。テオくんの赤毛もそうですね。ですので、これはもうそういうものとして飲み込んでいただくしかないかと……」


「ええー、納得いかないんですけど」


 『そういうもの』で納得出来るほど、わたしは出来た人間ではないのだ。

 よし、もう少し検証してみよう。


「じゃ、行って来るわ」


「え、どこに行かれるのですか?」


「決まってるじゃない。他の人にもこのリボンとセレストさんの髪について聞いて来るのよ」


 後はよろしくー、と外に出て行く。

 扉が閉まり切る前に、メアリーの呟く声が聞こえた。


「もしかしてサボ──」




 パーティ会場。

 セレストとミリアが下見をしていた。


「どうしたエリザベット、そっちの作業は終わったのか?」


「いえ、それはまだなのですが……。つかぬことをお聞きしますが、お二人はこのリボンが何色に見えますか?」


「リボンの色? まあ、水色かな」

「空色、とか?」


「そうでよね、ところでセレストさんの髪色って何色なのでしょうか?」


「青みがかった黒髪とよく言われる」

「青みがかった黒髪」


「くっ……! わかりました、では」


 次の質問相手を探すべく足早に立ち去る。


「おい、ちょっと待──行ってしまった。なんだったんだ?」

「さあ?」




 適当に歩いていると廊下にローランがいた。


「ローラン様、丁度いいところに。このリボン、何色に見えますか?」


「水色だな」


「ところで、セレストさんの髪は……」


「青みがかった黒髪」


「くっ……!」




 薄々わかってきたけど、その辺にいた女生徒にも聞いてみる。


「ちょっとそこの貴女」


「イジャール様!? お久しぶりです。本日は──」


「そういうのいいから。このリボン何色に……」




 それから何人かに同じことを聞いて、メアリーのところに戻ってきた。

 なんだか疲れたわ、精神的に。


「エリザベット様。どうでしたか……と聞かなくてもそのご様子だと結果はわかりますね」


「もうみんな判を押したみたいに同じ答えよ。リボンの方は多少ブレたけどセレストさんの髪は誰に聞いても“青みがかった黒髪”。ここまで来ると誰に聞いても同じ答えって方がおかしくない?」


「地の文さんは絶対なのです」


 へたり込むわたしを見てメアリーも苦笑する。


「ところで……」


 彼女は笑みを濃くする。なんだか悪戯をしかける悪童のようだ。


「エリザベット様はセレスト様の髪は何色だと思われますか? リボンは水色、とおっしゃっていましたがセレスト様の髪に直接言及するのは避けておられますよね?」


 こいつムカつくわ!

 わたしは口を開きかけ、出かけた言葉を飲み込む。そんなことを数度繰り返してどうやら諦めるしかないらしいと悟る。


「……青みがかった黒髪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ