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訳だけ! 十八史略+蒙求  作者: ヘツポツ斎
02-02 楚漢戦争

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02-02-02 漢一 楚漢戦争 2

 鴻門《こうもん》の会である。


 翌朝、劉邦《りゅうほう》はわずか百騎ほどを従えて項羽《こうう》の元に出向く。そして項羽に謝罪して、言う。

「将軍と自分とが別々に秦《しん》を倒すために戦い、巡り合わせで自分が、思いもよらず咸陽《かんよう》を落とすことになりました。しかしそのことをつまらぬ者が讒言したようでございます」

 その態度を見て項羽もひとまず怒りを収め、酒宴を開くこととした。この酒宴の中で范增《はんぞう》がしばしば項羽に目配せをし、腰に帯びていた玉玦を三度も掲げて劉邦暗殺を合図したが、項羽は動かない。そこで范増はいったん退出、項羽のいとこである項荘《こうそう》に、剣舞にかこつけて劉邦を殺害せよと命じる。その気配を察知した項伯《こうはく》もまた剣を取って舞う体で劉邦の前に立ち塞がった。

 これらの様子を見届けた張良《ちょうりょう》は「樊噲《はんかい》」に事態が急を要していることを告げる。すると樊噲、盾を持ち、髪を逆立て、目をいからせ入場。項羽の前にやって来る。その堂々たる態度に喜んだ項羽、樊噲に酒と肉とを勧めた。樊噲もそれを堂々と飲み、食べる。

「まだ行けるか?」

「死すら恐れておらぬ臣が、どうして飲食のすすめなぞ断りましょう」

 そう前置きした上で、更に言う。

「劉邦様の功は莫大なものであるにもかかわらず、報賞がもたらされぬままであります。しかも将軍は小人の戯れ言を真に受け、劉邦様を殺されようとまでなされた。斯様な振る舞いをなさるのであれば、それこそ秦の二の舞になるのではありますまいか?」

 樊噲がそう言いきると、項羽は、樊噲にひとまず自席に戻るように命じた。樊噲もおとなしく、張良の隣の席に戻った。

 その後劉邦はトイレに出るふりをして鴻門より脱出、霸上《はじょう》の自陣に撤収した。あとに留められた張良が、項羽に詫びを入れる。

「劉邦様は将軍のお相手も出来ぬほどに泥酔してしまったとのことで、暇乞いも叶いませんでした。よって白璧を項羽将軍に、玉斗を范増様に献上するよう、臣にお命じになられました」

「劉邦殿は何処に出られたのだ?」

「将軍のお心があくまで劉邦様の過失をおとがめになられるようでしたので、一足先に軍に戻られました。今頃は無事に到着しておられることでしょう」

 これを聞いた范増は剣を抜き、差し出された玉斗を打ち壊し、言う。

「ああ、この小僧め! 貴様とはとても天下を謀ることなぞ出来ぬ、将軍の天下を奪うのは、きっと劉邦であろう!」



蒙求《もうぎゅう》:

樊噲排闥《はんかいはいたつ》 辛毘引裾《しんぴいんきょ》

 劉邦《りゅうほう》が死にかけたとき、死の床には誰も入れるなと語っていた。が、樊噲《はんかい》、その禁令をぶち破って死にかけの劉邦のもとに押しかける。こういった果断さが鴻門《こうもん》の会において項羽《こうう》を前に一歩も引かない大立ち回りで劉邦を助ける原動力になったのだ、とする。

 曹丕《そうひ》が無茶な政令を施行しようとしたとき、辛毘《しんぴ》をはじめとした群臣が「なにオメー独断で進めようとしてんだおい!」と総ツッコミ。怒った曹丕が引きこもろうとしたところ辛毘がその袖を引っ張って連れ戻そうとした。それは叶わなかったのだが、しばらくして戻ってきた曹丕が「なんでそうお前らは俺の発案却下するんだ」と聞くと、「そりゃオメーの政策がクソだからだよ」とぶった切られたのだそうな。

 忠義のために主君の言葉もぶった切る剛直の士ふたり。

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