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ブサメンとニンジャ

  サラマンダーとの死闘から数日経った頃、街中が騒がしくなりどうやら勇者が帰って来るので大通りでパレードをするらしい。 正直俺は気乗りしなかったがラヴやん達が観に行きたいと言ってきたので観に行くことにした。 パレードの山車の上で剣を高らかに突き上げてる馬鹿面を見る限り知性はあまり成長していないらしい。 そんな馬鹿を見ていると何やら誇らしげに薄汚い石板を民衆に見せつけて大声で叫び出す。


「これはエルフの里を襲ったドラゴンの体内から発見された石板である! 鑑定の結果、古代文字で書かれた予言の書という事が判明し、内容としてはこの私勇者が魔王を討ち滅ぼし世界に光を取り戻すという予言が彫られていた! 皆、魔王はこの私が倒してみせるから安心してくれ!」


「おぉー! 流石勇者様だ! この戦いは人類が絶対に勝つんだ!」


「勇者様―! 夫の仇を討ってください! そして世界をお救いください!」


 アホなプロパガンダに流されて勇者にすがる民衆を横目に石板の写し絵を水晶でこっそり撮ると拡大してみるがぼやけてよく見えない。 やはり直接石板を見なければ何が書いてあるのか分からないし、ドラゴンの体内に隠されていたという事は魔王に関しての有益な情報なのは確かだろう。 何とかしてあの石板を読み解かなければ…… そう思っていた矢先にギルドから出てきた酔っ払いの男が山車に向かって何かを叫び始める。


「なぁーにが勇者だ! ドラゴン相手に手こずりやがってよぉ~、大体魔王の手下の四天王だって大賢者とかいう奴が三人倒したって言うじゃねぇか! そんな女ばっかのパーティで仲良くお散歩してて魔王なんて倒せるのかよ、大体勇者とか言ってもどうせ教会がでっち上げた嘘っぱちだろ? こんな細っちい女が魔王を倒せる唯一の選ばれし者だなんて誰が信じるかよ!」


「この不信心者! 誰かあの者をひっ捕らえなさい! 教会を侮辱した大罪人ですよ!」


「何が教会だよ、こないだだって神父が小さな子供にいかがわしい事して問題になっただろ! 大体回復魔法や蘇生魔法を独占してきた汚い連中が王国で未だにのさばってるのが気にくわねぇ! 魔術の不可侵聖域を撤廃しようと努力してきた先代のクッテソー様の方が真に国民に崇められる対象だろ!」


「教会を公衆の面前でここまで侮辱して…… 裁判を待つ必要もありません、ここで死になさい! 炎魔法ホーリーフレイム!」


 教会を馬鹿にされた僧侶が男に炎魔法をぶつけそうになった時、既に俺の身体が土魔法を放って庇っていた。


「こ、この魔法は! えぇい、衛兵を呼びなさい! 教会侮辱罪で逮捕よ、逮捕!」


「闇魔法モクモクモザイク! オッサン、今は逃げるぞ!」


「なにっ!? あ、アンタは! あぁ、ここは逃げるしかねぇか!」


 闇魔法で煙幕を張った後に透明化の魔法で姿をくらますとひとまずオタク街へと逃げ込む。


「助かったぜ、思わず教会の悪口を言ってたらヒートアップしちまった。 俺はサミュエル・テル・ハゲトンネン。 元傭兵で今は戦士をやっている、アンタは?」


「俺はチーギュウ、アンタさっきクッテソーって言ってたけどクッテソー家って王宮魔術師のクッテソー家と知り合いなのか?」


「あぁ、俺は元々クッテソー家お抱えの傭兵団の団長だったんだが、教会が先代のクッテソー家当主オンタマ・クッテソー様を暗殺した時に解散しちまってな? それ以来冒険者をやって暮らしてるってわけよ。」


「なるほど…… 俺は…… クッテソー流魔術の黒帯だからクッテソー様の名前が出た時に何か奇妙な縁を感じて助けてしまったんだ。 クッテソー様の関係者だったから良かったよ。」


 ここで俺の素性がバレては面倒だと思い、適当な嘘を並べるとサミュエルが俺の顔をしばらく見て、話を切り出す。


「もしかして、アンタ大賢者チーギュウか? 四天王を三人も倒したっていうギルドで噂の有名人!」


「あぁ、皆はそういうけど実は倒した四天王は二人なんだが、どうやら話に尾ひれが付いてるらしいな?」


「二人でもすげぇよ! そんなアンタに折り入って話があるんだが…… さっき勇者が掲げてた石板の事なんだが……」


「あれか、俺も気になってはいたんだが一体どんな代物なんだ?」


「アレは先代のクッテソー様が研究していた魔族の遺跡で発掘した石板の片割れだ。 クッテソー様が見つけた石板にはある魔法についての警告が彫られていたんだが……」


「大方、古代魔族が使っていた伝説の大魔法で使うと辺り数万キロが焼け野原になるとかって危ない代物だから絶対に使うなよって警告が書いてあったんだろ?」


「その通りだよ! 何で分かったんだ!? もしかして俺の頭の中を読んだのか?」


「いや、危険だから使うなってモノは大体危ないから使うなってパターンだから読めたんだよ。」


 もちろん、パターンを読めたのは嘘で殺された爺さんは確か死ぬ直前まで「魔族が大魔法で辺り数万キロを吹き飛ばす魔法を使ってきたらどうすんじゃ! もっと結界の強度を上げろ!」って親父やお袋に言っていたのを思い出しただけだ。 俺の魔法の師匠でもある爺さんは人格者では無かったが魔法の腕は死ぬまで俺より上だった化け物だ。 まぁ、爺さんは俺にいつか追い越されるのが嫌で「お前がワシより強くなる前にトラウマを植え付けてワシの前で魔法が使えなくなるまで追い込んでやるから覚悟しとけよ小僧!」とかいつも言ってたなぁ…… そんな事を思っているとサミュエルが話を続ける。


「だから勇者の手元にある石板はなんとしてでも破壊しなければならない、そのためにアイツらが予約しているホテルの設計図を用意したんだが正直俺は潜入する系のミッションが苦手だ……」


「あぁ、これは盗賊とかに任せた方がいいな。 しかし盗賊の知り合いなんてどこかにいるかな……」


 俺はサミュエルから図面を受け取るとこのミッションに相応しい人選を考えるが正直俺も思いつかなかったのでギルドに戻って皆に相談する事にした。


「んー、遊び人の私でもガチの不法侵入はちょっと経験ないですねぇ……」


「ワイも今誰がどのくらいチーギュウの事気になってるとか、女の子の好みしかアドバイス出来へんで。」


「そもそも我は招かれないと家屋に入れないから論外ね。」


「だよなぁ~、でも早くしないと勇者は馬鹿だからそこら辺のダンジョンで試し撃ちして辺りの人間が巻き添えになったりしたら大問題だぞ!」


「では、潜入スキルのスペシャリストを雇うというのはどうでしょうか?」


 話を聞いたのか受付嬢が急に会話に割り込んでくる。 コイツの存在を忘れていたが一応コイツも仕事をしているのだ、話ぐらいは聞いてやろう。


「ギルドでは一緒にパーティを組んで冒険するパーティ契約とは別にクエストごとにパーティを組む臨時契約という制度がありまして、丁度潜入のスペシャリストが空いてますよ?」


「本当か? ソイツ本当に信用していいのか~?」


「心配いりません! 勇者様にいきなり人口が少ない賢者を出せとか言われたのでたまたまジョブチェンジしたばかりのシズさんを紹介した前回とは違って今回は人材豊富な盗賊ですから!」


「なんで盗賊とか荒くれ者が人材豊富なんだよ! その時点で治安最悪だろ! まぁ、いいや。 とりあえず臨時契約で誰か呼んできてくれ。」


 受付嬢に臨時契約料を渡すと呼んできたのは、背の小さな眼帯をした褐色の少女でこれが潜入のプロかと問い詰めたい気持ちを押さえて自己紹介させる。


「待たせたでござるな! 拙者ははマッタリ・ハンゾウ! 盗賊クラスの上位ジョブ、ニンジャの称号を持つ女! どんな場所にも潜入して破壊工作も出来るし何より乳がデカい! そんな拙者が何故モテないのでござるか……」


「多分、結婚適齢期だと思われてないんじゃないんですか?」


「なるほど! では忍び装束に25才と書いておくでござる。 これで背格好で敬遠する男にもバッチコイという拙者の意志が伝わるでござるな!」


 シズに提案されると早速自分の無駄にピチピチした忍び装束に自分の個人情報を書き始める。 ははーん、さては頭に行く栄養が全部乳に吸い取られたな? ていうかこのギルドに期待した俺が馬鹿だったわ、契約料はドブに捨てたと思って大人しく透明化の魔法で潜入するか……


「それで今回のミッションはこの写し見の石板を勇者の部屋に忍びこんで破壊すればいいのでござるか、うむ簡単でござるな! とはいえあまり大勢で行けば目立つのでここは班を分けて行動するのが定石。 司令塔は親方様であるチーギュウ殿に任せて、司令塔の防衛と潜入班に分かれて行動するでござるよ!」


「いきなり冷静で的確な判断をするな! 馬鹿なのか賢いのかどっちかにしろ! じゃあ潜入班はハンゾウとシズとラヴやんで、俺とエリぴょんは勇者のホテルが見える宿屋からサポートしていくぞ。」


「あい、任された。 各々方、作戦の決行は今夜の深夜ですが潜入班の方には忍び装束をお渡しするでござる。」


 そう言うとハンゾウはシズ達にもピチピチ装束を渡すと煙と共に消えていった。 ていうか、そこは普通に外に出ろよ。 変なところで忍者アピールをするな! とか思いながら作戦決行の時刻が迫っていた。


「すみません、本当にこのピチピチの格好で潜入するんですか?」


「何を言うでござるか! 古来より里に伝わりしピチピチスーツを愚弄するとは…… いくら雇い主といえども許せぬでござるよ! 勝手に撮った恥ずかしい写真をばら撒いてやろうかでござるよ!」


「ワイはなんか動きやすくていいと思うで、ほな行くか!」


「安心しなさい、童貞は我がしっかり守りますから余計な心配はいらないわよ。」


「それじゃあ何かあったらこの水晶で連絡する事! 皆くれぐれも見つからないように気を付けろよ?」


「拙者がいる限り見つかる事など無いでござるよ、それでは行ってくるでござるよ!」


 夜の闇に紛れて三人が勇者のホテルに向かうと、先ずはかぎ爪ロープで屋上へ侵入し、そこから煙突を通って勇者の部屋に侵入する予定だが……


「では、このかぎ爪ロープを煙突に引っ掛けるでござるからそれを伝って屋上まで潜入するでござるよ。」


「え、手で掴んで登るんですか? 我々は素人なんで落っこちちゃいませんか?」


「ワイもちょっと自信無いで? ねーちゃんが登ってはしごか何かかけてくれたらええやん?」


「素人に期待し過ぎた拙者が馬鹿でござったな、では縄梯子を用意するのでしばし待たれよでござる。」


 ハンゾウがロープで煙突まで渡り切ると上から縄梯子を降ろして、後の二人が登っていくと、それだけで死にそうになるぐらいには疲れていた。


「ひぃ…… ひぃ…… このスーツマジで気密性高くて熱がこもりまくってちょっと動いただけで死にそうなんですが……」


「こんなん着るサウナやん! ねーちゃん、ワイらよりハードな運動しとるくせに何でそんな平然としとるんや……」


「え、ニンジャだから毎日これ着て任務するでござるよ? もしかしてニンジャだから常人の身体能力を測り損ねたのでござるか!? いやー、拙者またやっちゃいましたでござるかー?」


 それはお前が言う台詞じゃないんだが? なんか知らないけどこのニンジャすげぇムカつくな…… そんな事を思っていたら次は煙突へと忍び込むらしい。


「拙者が先に入るので、後に続いて入ってきて欲しいでござるよ。」


「はい、では私がしんがりを務めますのでラヴやん様が二番目ですね?」


「ええで、ワイの華麗な潜入でちょちょいとやったるで!」


「では、拙者から行くでござるよ! 忍法不法侵入の術!」


 いや、もう不法侵入って言ってるだろ、結局盗賊のスキルじゃねぇか! とはいうものの手際良く侵入する様子は流石ニンジャと言わざるを得ない。 続いて、ラヴやんもおっかなびっくり潜入する。 そしてシズの番になるが……


「すみません、あの…… お尻がつっかえて降りられません!」


「このピチピチスーツをもってしてもつっかえるお尻は初めてでござるよ…… 後で回収するのでしばらく待ってほしいでござる。」


「えぇ~!? この状態のまま待つなんて誰か来たら見つかっちゃうじゃないですか~!」


「スマン、ワイらがシズちゃんの分まで任務を遂行するさかい成仏してや。」


「まだ死んでないですよ~!」


 まさか尻がつっかえるとは思っていなかったので唖然としたが、二人が去った後にエリぴょんに引っ張って回収してもらった。 こんなんでこの先大丈夫かと不安になったが、見守るしかできないので諦めた。


「やっと勇者の部屋に潜入できたでござるよ。 目的のブツはどこでござるか~?」


「ねーちゃん、後ろ後ろ!」


「後ろ? なんかあるでござるか? それより一緒に石板を探してほしいでござるよ。」


「だから、後ろやっちゅうねん!」


「あー、後ろにあるでござるか! でかしたでござるよ、早速石板を破壊するでござ…… 見つかってるでござるー!?」


 勇者の部屋に侵入したはいいが偶々トイレから戻ってきた僧侶に見つかってしまった。 お前よくもまぁ今まで潜入出来てたな……


「アンタ達、どうせ魔術師の依頼で石板の回収に来たコソ泥でしょ? 悪いけど依頼主を吐くまで拷問させてもらうわよ?」


「ごごご、拷問は許して下され~! エッチな拷問の練習はしてたでござるがガチの拷問は練習してないでござるよ~!」


「アカン! このままじゃ口を割るのも時間の問題や! おい、ニンジャやったら自爆とかせぇ!」


「自爆とか痛そうだから嫌でござる~! 誰か助けて欲しいでござる~!」


 まぁ、そうなるだろうなとは思っていたがここまであっけなく見つかるとは…… 俺は仕方なく転移魔法を発動して勇者の部屋へ駆けつける。


「待て! ソイツらを解放しろ!」


「チーギュウ!? アンタ生きてたの!? そんな事よりコイツらを差し向けたのはアンタって事ね?」


「そうだ、あの石板を破壊して来いと言ったのは俺だ。 お前だって僧侶なんだからあの石板に書いてある事は分かっただろう。」


「ええ、古代魔族による大量破壊魔法。 それもとびきり強力な魔法! 世界は二つに分かれるわね、この魔法を知っている者と知らない者…… そして知っている側に教会は存在する!」


「蘇生魔法と回復魔法を爺さんに暴露されて慌てて暗殺した教会のやりそうな事だ…… そんなものいつまでも隠し通せるわけないだろ! あっという間に広まってそのうちどっかの馬鹿が使いまくった挙句に世界が滅茶苦茶になるぞ! それこそ魔族の思うつぼだ!」


「汚らしい好奇心で神聖なる回復魔法に近づいた罰だ! 愚かな男よ、たかが王宮魔術師風情が偉そうに教会の既得権益を破壊するですって…… 愚民は指導者に統制されるべきよ! 王宮魔術師や国王ではなく偉大なる教皇によってね! たとえ世界が滅茶苦茶になっても我々教会は不滅よ! なぜなら信仰心と神によって守られているのだから!」


「その信心、信仰を通り越してもはやカルトだぜ…… 悪いが石板は破壊する、そんな魔法はこの世に存在してはいけないっ!」


「馬鹿ね、石板は既に教会によって複製済み! オリジナルは教会本部で解析中よ! そして勇者にたてついた大罪人チーギュウ・クッテソー! お前と一族郎党は教会の命により皆殺しだっ!」


 しまった、教会も馬鹿じゃない。 そもそもこれは大量破壊魔法の危険性を知っている人間をおびき寄せる罠! すべては教会にたてつく俺や爺さんのような存在を疎ましく思っている奴の計画だったのだ。 万事休すとはこの事だが一体俺はどうすれば……


「ふっふっふっ…… 話は全部聞かせてもらったでござる…… 教会の陰謀、これが民衆の耳に入ったらどうなるでござるかな?」


「なっ!? アンタそれは一体どういう事よ!?」


「どうもこうも、拙者はもしもの時に外部に連絡が取れるように水晶を持っているでござる。 そしてその向こう側で今の会話を録音していたとしたら…… 権威を守る為だけに今まで多くの人命を犠牲にしてきた古臭い慣習まみれの脳みそで考えるでござるよ。 昨今の不祥事と合わせて今回の大量破壊魔法の独占未遂、それに比べて王国が民にもたらした繁栄やクッテソー家の万人に魔法を授けてきた功績。 民衆はどちらに味方するでござるかな?」


「アンタ…… もしかして王国のスパイね! クッテソーが回復魔法の秘術を解き明かして外部に広めたら教会はお払い箱って事!? 今まで散々戦争で怪我をした馬鹿共を癒してやったと思ってんのよ! 神を恐れぬその愚行! 死んで贖いなさい!」


「ふざけんな! 神を信仰しない者や教会の意にそぐわない人間には治療を施さないわ、貧しい者にも富める者にも容赦なく吹っ掛けてその上、真面目な信徒に黙って上層部は酒池肉林の乱痴気騒ぎ! お前らの今までの行いが教会の失墜を招いた全ての原因だ!」


「おのれ、大罪人共め! 教会の意にそぐわない愚民は全員粛清だ!」


 全ての悪事がばらされそうになった僧侶が魔法を放とうとした瞬間、今まで寝ていたと思っていた勇者や戦士が僧侶の後ろに立っていた。


「そんな…… 私は今まで自分が神に選ばれし勇者だと思っていたのだが…… 教会は私を騙していたのか?」


「教会なんてうさんくせーと思ってたけど勇者が頑張って引っ張ってっから今まで戦ってきたんだよアタイは、それをこうもベラベラと恥ずかしげも無く自分らを棚に上げて愚民を導いてやってるとか好き勝手言いやがってよ、反吐が出るぜ。 まだ顔面オークの言い分の方が正しいって学の無いアタイだって分かるぜ?」


「そんな…… 聞いてたのね? フフフ…… まぁ、いいわ。 戦士はともかく勇者はしょせん教会が作った人形ですもの、私に反抗なんて出来ないわ……」


「どういう事だ、私はれっきとした人間だ! 現にこうして今傷つき悲しんでるぞ!」


「清廉潔白な人間として愚民を率いるようにプログラムしているからそんな事を言うのよ、でも安心して? もうあなたに人間としての感情は要らないし、私の命令にだけ従えばいいのよ? だってあなたは私の作ったホムンクルスなのだから!」


「馬鹿な!? 私は人間だ! そんな事…… かしこまりました、マスター。 勇者モード停止、ホムンクルスとしてマスターの命令を実行します。」


「嘘だろ!? おい、勇者!? 操られてんのか!?」


「面倒くさいからこのデカブツを刺した後に脱出、私を抱えて拠点まで撤退よ。」


「了解しました、命令を実行します。」


「おい待てよ、まさかホントに…… ぐわぁぁぁっ!」


 目から光が消えた勇者は僧侶の命令通り、戦士を剣で突き刺すと僧侶を抱えて窓から逃げていった。


「ここは5階だぞ! 人間じゃ到底飛び降りれないぞ!」


「流石はホムンクルスでござる…… 飛び降りた後も人ならざる脚力で逃げていくでござるよ……」


「そんな事より戦士がヤバイで! はよ治療せなアカン!」


「俺がやる! 大丈夫か戦士!」


「へっ、こんぐらいでくたばるかよ…… 悪ぃなキモオタ、手間かけさせちまってよ……」


「落ち着くまで喋るな、元とはいえ仲間に死なれちゃ目覚めが悪いからな……」


 俺は戦士を回復魔法で癒すと騒ぎを聞きつけた憲兵に事情を説明した。 クッテソー家の子息や、王国のスパイといった肩書のおかげで話はすんなりと聞き入れられ、翌日には魔王討伐パーティの代理として任命されていた。


「凄いじゃないですか! 今までの扱いから一変して国の未来を託された勇者ですよ!」


「あぁ、でも手放しで喜べる事態じゃないからな。 幸い教会はあの事件以来異端認定されて国教から外され組織は解体、無事石板のオリジナルも王国が取り戻して今はクッテソー家で厳重に保管されているが……」


「問題は勇者と僧侶やな、アイツら国中探してもおらんっちゅう事は魔王の所に行ったんやないか?」


「もしかして、元から魔王の配下だったって事は無いかしら? 丁度四天王の一人で誰も顔を見たことが無い魔族がいるもの。 種族は確か魔女……」


「魔女か、確かに魔女ならホムンクルスぐらい作れそうだな…… 勇者の戦闘力そのままで敵に寝返ったとするとこれは厄介だぞ……」


「それよりチーギュウ様、魔王討伐のメンバーに新しい仲間が増えるって本当ですか?」


「あぁ、国王が推薦した二人が来るらしいけど一体誰だろうな?」


 俺がよそ見をしていると背中からドンっという遠慮の無い拳が突き刺さる。


「痛っ!? 一体誰だよ…… って、お前!?」


「よぅ、キモオタ! この国で勇者にパワー負けしない人間と言えばこのアタイを差し置いて誰がいるって言うんだよ! お前にゃ世話になったり迷惑かけたりしたからよ、その罪滅ぼしと…… それと勇者の奴は僧侶の命令なんてホントは聞きたくねーと思うんだよ。 アタイの勝手な憶測だけど腹の傷は急所を避けてたしなんか見てて辛そうだったからよ、多分話が出来れば元に戻せると思うからお前の旅に付き合わせてくれよ!」


「ダメって言ってもどうせついてくるんだろ? じゃあ一緒に行こうぜ、顔面オークのパーティでいいならいつでも大歓迎だ。」


「すまねぇ、恩に着るぜ!」


「そしてもう一人はある時は名も知らぬ義賊、またある時は潜入のスペシャリスト、その正体は王国直属隠密部隊所属のエージェント! マッタリ・ハンゾウ推参!」


「ハンゾウ! まさか王国の隠密だったなんて! 無能の役が上手すぎて気づかなかったぞ!」


「無礼でござるな! いやー、拙者もまさかチーギュウ殿がクッテソー家の方だと思わずつい無礼な事を口走ったでござる。 魔王討伐の旅でこの非礼、お詫びいたしたく候。」


「別に気にしてないぞ、これからは仲間同士よろしく頼む!」


「合点招致! 忍びの実力、今こそ見せる時でござるよ!」


 こうして、新たな仲間が増えて正式に魔王討伐の任を与えられた俺たちは魔王と残りの四天王である魔女の討伐の為についに魔王城へ攻め入る事となった。


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