ブサメンとラーメン
四天王を倒すために火山ダンジョンにやってきた俺たちは暑さにやられていた。 火山ダンジョンにはマグマの川や溶岩の沼など熱いモノが沢山ありすぎて冷却魔法を使ったところで焼け石に水といった感じでとにかく暑すぎる。 俺は今はパンツ一丁でダンジョンを探索しているが女性陣は中々暑いからと言って衣服を脱ごうとはしない。 オシャレは我慢だと言うが正に今我慢をしているのだろう。
「チーギュウ様…… 私はまだ裸みたいな格好なので少しはマシですが他のお二人が今にも死にそうです!」
「ワイはもう限界や…… こうなったら本に戻って暑さを凌ぐしかないやで…… シズ、悪いけどワイを運んでくれや……」
ラヴやんは元々魔導書だったおかげか本に戻る事で熱さを乗り切る事にしたらしい。 そしてシズは元々バニー衣装だったのでパンツ一丁よりは暑いだろうが耐えられる体感温度らしい。 問題はゴスロリ衣装のエリぴょんだがアイツは何してんだ?
「ファッキンホット(クソ暑い)…… 誰がこんなところに行こうって言い出したの! 殺すわよ!」
「落ち着け、ここに案内したのはお前だ。 お前もなんかこう…… 暑くない衣装に着替えたりとかしないのか?」
「ごめんこうむるわ、夜の貴族と呼ばれたヴァンパイアが他人に無暗に肌を見せるなんてあり得ない話! 何考えてる人類!」
「暑さで脳みそが沸騰してるな…… 早く四天王を倒さないと野垂れ死にしてしまう……」
しばらく歩いていると火山の中でも盛況な店があるのか行列の出来ている店を発見する。
「食べ物屋や! こんなところで行列の出来てるっちゅー事はきっと冷たいモノや!」
「チーギュウ様、ここは皆で栄養を補給しましょう!」
「そうよ、このまま歩き続けていたら干からびて死んでしまうわ! 童貞、アンタは財布なんだから一番先頭に並びなさいよ!」
「しょうがねぇなぁ…… なんの行列か知らないけどとりあえず並ぶか……」
謎の行列に並んでしばらくするとようやく俺たちの番が来て、席に通される。ラヴやんも人型になってしっかりと食べるつもりらしい。 席に座ると火山ダンジョンの住人らしきトカゲ獣人の店員が注文を取る。
「イラッシャッセー、麺の量と硬さどうします?」
「俺は大盛麺固め野菜マシマシで。」
「私は並み普通でお願いします。」
「ワイは小の普通や。」
「え、アンタ達この呪文分かるの? じゃあ私は並み普通でお願いするわ……」
どうやらここはラーメン屋らしく、しかも家系らしい。 常日頃からラーメンやチーズ牛丼を食べている俺とラヴやんとシズはスマートに注文を済ませるとラーメンが来るまで辺りを見回す。
「注文して料理が来るまで暇ね、水晶でも弄ろうかしら……」
「待て! ここでは料理が来るまでじっと待たないとマナー違反になるんだぞ!」
「えぇ~…… クソ面倒なマナーね、でもそれなら仕方ないわね……」
エリぴょんが水晶を取り出すのを制止すると、店のルールが書いてある張り紙を指をさして確認させる。
『ラーメンようがん屋のルールその一、ラーメンが来るまで大人しく待てない奴は燃やす。』
「燃やすって…… 物騒過ぎやしないかしら? まぁ、それほどのこだわりがあるのだから美味しいんでしょうね?」
「それは食ってみれば分かる、ラーメンとは男の生き様みたいなものだから食ってみれば店主のこだわりや何を重んじているかなんて丸わかりさ!」
そんな事を言っているとラーメンが到着して、俺たちは早速食べる事にした。
「よし、いただくとするか。 まずはスープを飲んで…… ファッキンシット(クソまずい)!」
「いやいや、チーギュウ様は舌が肥えてるからそんな事言えるんですよ。 庶民の私には合う味…… 不味い上に辛いっ!」
「なんやお前ら、辛いの苦手なんか? ワイは激辛好きやからこんなん朝飯前…… ドブやないかいワレぇ!」
「え、さっきまで玄人ぶってたのにあなた達そんなリアクションなの? 我も食べるのに不安になってきた…… まずニンニクが無理なのよねぇ!」
運ばれてきたラーメンは人間が食べられる代物ではなかった。 それもそのはず、俺たちのリアクションを見てニヤニヤしているトカゲ獣人の店主が厨房から現れると正体を現す。
「馬鹿め、そのラーメンはお前らをおびき寄せる為の罠…… じゃなくて俺が本気で作った結果クソ不味い事で有名になってしまった呪われしラーメンだ! そしてそんなラーメンを作って保健所に何回も厄介になっているラーメン屋の店主は仮の姿。 その正体は魔王直属四天王の一人、サラマンダー様だぁ!」
「いや、保健所に厄介になるとか食べ物屋やるなよ! お前のラーメンはラーメンに対する侮辱だ! 腹を切って詫びろ!」
「そうですよ、こんなものを割と強気な値段設定で出すとか世間が許しても私が食べ宝具でこき下ろして閉店まで追い込みます!」
「せや! こないなもんよう食わせたな! お前の尻尾ちょん切ってダシにした方がマシなスープが出来るわ!」
「そもそも、馬鹿みたいに辛くした挙句に馬鹿みたいにニンニクとアブラと野菜を盛りまくった挙句にコシもクソも無いゴムみたいな麺で個性を出そうとするのが浅はかじゃなくて? あなた本当にどこかで修行した?」
「うるせぇー! 本当は四天王だけじゃ食っていけなくて金でのれんを分けてもらった俺に指図するなぁー! お前らみたいな原価も商売も分からないラーメンマニアはラーメンじゃなくて情報を食ってるだけなんだよー! それにお前らはロットを乱すという最大の罪を犯した事に変わりはない! 罰として男は皿洗い、女は俺の趣味であるマイクロビキニでホール業務の刑だぁー!」
「しまった、ここはあくまでも奴の店だから奴のルールが適応される! か、身体が勝手に皿を洗っていくぅ~!?」
「私たちもなんか勝手に着替えさせられた挙句に注文を取らされてます! すみません、五番テーブル大ワン、並みツーです!」
「こんな不味い飯屋なんてまかないもゲロ不味いで、働きたくないのに体が勝手に食器を下げてしもうとる~!」
「箸より重い物を持ったことのない我にこのような屈辱…… お冷のピッチャーお持ちしましたぁ!」
「ガハハ! 見たか俺の領域結界『ラーメン屋やりがいワークス』の力を! こうして俺に挑んできた冒険者を使って無給で働かせているから未だに潰れんのだ! お前らには俺の奴隷としてお客様の笑顔だけで栄養補給できるようになるまで働かせてやるからなぁ?」
まんまと罠にはまってしまった俺たちは淡々と業務を終わらせていくことしか出来ないまま、やがて閉店時間が来てしまった。
「ガハハ! 今日は美人が三人もホールに出てたおかげで売り上げが滅茶苦茶上がったぞ! これからも俺の店の為に働いてくれ! まかないは期限の切れたチャーシューを乗せたチャーシュー飯だぞ!」
「……けんな」
「ん、どうした? おかわりもあるからいっぱい食べでいいんだぞ? 飯も古い米を安く仕入れてるから余ってるぞ?」
「ふざけんじゃねぇ! 業務時間が終わってるからもう俺たちは店員じゃねぇって言ってんだ!」
俺は思わずサラマンダーを素手で殴り倒してしまったが、サラマンダーの身にまとった炎で火傷してしまう。
「業務外だとしても俺は仮にも四天王の一人、お前ら冒険者ごときには負けんぞ! そして裏切り者のヴァンパイアを倒せば四天王としても俺の給料は上がるって寸法よ~!」
「馬鹿ね、アンタごときに倒される我ではないわ! 食らいなさい、水魔法リヴァイアサンプレッシャー!」
「ん~、いいシャワーだな? 俺が水属性が苦手だといつ言った? 炎を纏っているのは敵を欺く罠で実は炎と水の両方の特性を持った魔族なんだよ!」
水魔法で炎を消されても、水魔法を吸収して更にパワーアップしたサラマンダーはエリぴょんを肉弾戦で圧倒する。
「エリぴょん様! こうなったらこれを出すしか…… 遊び人剣法ビール瓶ストラッシュ!」
「飲み会で上司に殴られ続けてきた俺にそんなものは通用しないなぁ? 悪い子にはお仕置きだ、水魔法レロレロナメトール!」
「巨大な舌で何度もペロペロされて…… セクハラで訴えますよ! あぁっ♪」
シズが後ろからビール瓶で頭を殴打するが結局効果は無く、そのまま水で出来た巨大な舌のような触手で絡めとられてしまう。
「今度はワイの番や! 食らえ、闇魔法キガメイル・シュトローム!」
「俺は陽キャだから闇魔法は効かん! お前らと違って毎年同窓会に出席してるもんね! お返しの炎魔法アチチ・モエテルンダローカ!」
「あっちぃ~! マジで火はアカン! 水! 水! 水が無いと燃えてまう~!」
ラヴやんの健闘も空しく火を付けられてしまい、慌ててお冷のピッチャーで消火している。 その様子を見ている俺にサラマンダーが近づく。
「どうした、怖気づいたか? 一生俺の元で働くなら命だけは助けてやるがどうだ?」
「死んでもごめんだね、それにお前にはラーメンと一緒で信念というコシがない。 己の出世や保身、金儲けの為に店の経営や任務をこなしてるからずっと中間管理職のままなんだ。」
「なんだとぉ…… 社会に出たこともないようなキモオタニートが社会人であるこの俺に説教だとぉ? 舐めやがって、お前だけは絶対に許さんぞ! 死ねっ、炎魔法イフリート・フレイム! 水魔法コキュートス・ブレス! 合体魔法アンチマテリアル・バースト!」
「相反する属性の魔法を組み合わせて魔力を対消滅させて発生するエネルギーをぶつける魔術の高等テクニック!? やはり四天王は格が違うな!」
「今更褒めても無駄だ! お前はもう殺す! いや、この状況ではもう詰みだぁ! 大人しく死ねぇ!」
自分の勝利を信じて酔いしれているサラマンダーに手をかざすと俺は心の中で呪文を唱え始める。 迫り来る魔力のエネルギーに向かってある魔法を試す。
「光魔法シャイニング・クリスタル! 闇魔法ダークネス・オニキス! 合体魔法ダークマター・グラトニーシャイン!」
「無駄だ、光魔法と闇魔法ではそもそも発生するエネルギーが違う! そんな組み合わせの合体魔法では我が魔法は打ち消せぬわ!」
サラマンダーが勝ちを確信したその時、巨大な黒い渦が発生してサラマンダーの放った魔法エネルギーを吸い取り始めた。
「ば、馬鹿な…… どうして全く違うエネルギーが対消滅して魔法を吸収する闇を形成するんだ!? 理解の範疇を超えている!?」
「光と闇、すなわち正と負のエネルギーにしか過ぎなかったものをお前は全く別のものとしてでしか捉える事が出来なかっただけだ。 お前のラーメンも足し算しか出来なかったばかりにインパクトを与えたいがために足し算を続けて味のハーモニーが崩れてしまっていたんだ。 お前に本当に足りなかったのは素材や人材を組み合わせる為の掛け算だったって事さ!」
「掛け算だと!? そんなもの認めん、認めんぞ! そんなものの為に勇者でも何でもない男に倒されるというのか、俺はァ!?」
「そしてお前に対するトッピング、これがマストだ! 雷魔法トール・ハンマー!」
「ぐわぁぁぁぁっ!? おのれ、人間ども! どうせ貴様らでは魔王様には勝てないのだ! 先に地獄で待っているぞ、不味いラーメンと共に…… ぎゃぁぁぁぁっ!」
炎を無効化して水を貫通する雷魔法の一撃を放つとサラマンダーは黒焦げになって倒れた。 なんとかサラマンダーを倒した俺たちは次なる四天王を倒すために冒険の旅を続けることとなる。 そして勇者もまたドラゴン討伐から帰ってきたらしく街で鉢合わせる事になるかもしれない。 避けることが出来ない戦いが今、始まろうとしていた。
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