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ブサメンと誘拐事件

  シズがパーティに入って、街の外や街の近くのダンジョンでレベル上げをしていると連携も取れるようになってきた。これなら次の目標であるダンジョンに潜っても大丈夫だろう。 そう思っていた矢先に勇者パーティが遠征に行くという情報が町中の噂になっていた。


「チーギュウ様、勇者様がエルフの里に現れた巨大なモンスターを討伐しに行ったという噂は聞きましたか?」


「あぁ、このタイミングでエルフの里にモンスターを送り込むなんてどう見ても罠か時間稼ぎとしか思えないんだよなぁ……」


「せやな、あんな田舎に送り込める巨大モンスターなんて羽の生えたドラゴンとかぐらいしかおらんし、ドラゴンごときで勇者がやられたら、それこそ選出した奴が恥を晒してしまうだけや。」


「でも、ドラゴンを勇者抜きで倒すとなると一個師団ぐらいの犠牲は必要になってくるし嫌がらせとしては充分過ぎるんだよな…… この計画を考えた奴はよっぽど性格が悪いと見た。」


「ですが他にこの街で噂になっている事としては美男美女の誘拐騒ぎぐらいですかね? この間も酒場でバイトしてた時にお店の方が大変だって言ってましたし……」


「なにか匂うな…… じゃあ手分けして誘拐事件について聞き込みをするか、シズは酒場を中心に捜索して、ラヴやんは商店街、俺はオタク街で聞き込みだ!」


 こうしてダンジョン探索とは別に誘拐騒ぎの調査に乗り出した俺たちは各自で聞き込みを開始した。 俺の担当するオタク街とは、主に秘薬の材料やマジックアイテムなどを売っている魔術職の専門街で、比較的ネアカが多い神職とは真反対の根暗な人間の多い魔法使いは他の職業の人間からはオタクとして蔑まれている事から自虐の意味も込めてオタクを名乗っているし、街の名前もオタク街として呼ばれている。 俺はオタク街の中でも情報が集まるとされている怪しげな魔術ショップ『ネコ耳獣人を愛でる会』の扉を叩いた。


「失礼します、ネコ耳獣人の薄い魔導書1部お願いします。」


「1部でいいのかい? こないだ入ったのは2部だが保存用と観賞用は要らないのかい?」


「いや、こないだ使った布教用の補充だから1部でいい。」


「今日はキジトラとハチワレ、どっちの毛並みで?」


「キジトラでお願いします。」


「ではこちらへどうぞ……」


 さっきのやり取りはいわゆる暗号みたいなもので一般客と情報を買いにくる客を選別する事で混乱を避けている。 店員の男が俺を奥のカーテンに案内すると、その先には大きな帽子を被った老齢の魔術師、この街の情報屋『ネコ耳すこすこ仙人』が座っていた。


「やぁ、来る頃だと思っとったよ。 今回来たのは誘拐騒ぎについてじゃろ?」


「流石は仙人、耳が早いですね。 今回の件、魔王側の手の者の仕業とみて間違いないでしょうか?」


「そうじゃの、面食いな魔族というとサキュバスや吸血鬼、こ奴らはまず除外される。 なぜなら奴らの好みは顔ではなく処女か童貞かなのでな?」


「すると、顔の美醜が比較的人間よりな魔族ですかね? そして、それらに収集癖が合わさり、外見が人間に近い……」


「そこまで分かったら後はどうにかなるじゃろ。 時にチーギュウよ、お主手鏡は持っておるか?」


「いえ、自分の顔が嫌いなので持ってないですね。」


「女性がパーティにいるならせめて清潔感のある恰好はしておけよ、ワシのを貸してやろう」


 そう言うと仙人に手鏡を渡されるが裏に巨乳のネコ耳獣人のイラストが描いてあるので、人前では絶対に使いたくない代物だが、仙人が何の考えも無く渡されれるとは思わないので持っていくことにした。 俺は仙人の店を後にすると水晶を使ってシズやラヴやんに連絡を取る。


「もしもし、二人とも何か分かったか?」


「シズです、此方はさらわれた人たちがその日の晩にとある酒場で飲んでいたという事が分かりました。 酒場の名前は『桃尻タイフーン』というちょっとエッチなお店です……」


「ワイもなんか最近変なマネキンを売りつけとる業者がいるぐらいしか分からんかったわ、まるで生きてるみたいな彫刻で体形も年齢も性別もバラバラやけど総じて顔の造形がいまいちらしいで?」


「なるほど、おおよその検討は付いた。 今日はみんなでその桃尻タイフーンで食事でもしようか、シズはおめかしして、ラヴやんは後で服を買ってやる。 あ、そういう高級でエッチなお店は身だしなみにもうるさいから手鏡を用意しておけよ?」


 そう皆に告げると、ラヴやんに余所行き用のお子様ドレスを買ってやり、俺も立派なスーツに袖を通してシズと桃尻タイフーンの前で待ち合わせをする。 約束の時刻は丁度ディナータイムが始まる前で結構人気なのか人が並び始めている。


「お待たせしました、チーギュウ様! あの、バイト用のナイトドレスなんですが似合ってませんよね? バニー衣装の方がいつも着てるんで逆にこっちは着慣れてなくて恥ずかしいです……」


「そんな事ないよ、似合ってるしいつもより輪をかけて綺麗じゃないか! 予約は事前に済ませておいたし店に入ろうか?」


「ワイもこんなヒラヒラした服着るの初めてや! 今日はチーギュウのおごりらしいからめっちゃ食べて明日の朝飯代浮かしたるで~!」


 シズのドレスはワインレッドのナイトドレスだろうか、すらっとした体形と黒髪に似合っていてセンスの良さが伺える、髪の毛も普段のロングからアップスタイルにしているのでうなじが見えてセクシーだと思う。 俺はこういうの好きだな! 予約のチケットを手に、並んでいる人を横目にスマートに入店するのは気持ちのいい事だ、現地で並ぶ必要がない手段があるって最高だな! と、思っていると俺の顔とシズの顔を見ながら入口のセキュリティが相談し始める。 しばらく話した後に「お客様はよほどのVIPとお見受け致しましたので特別席にお連れ致します。」と言って中へ案内してくれた。 やはり、溢れる気品の高さが発揮されたのか、それとも敵の思惑としてシズを気に入ったのかのどちらかだろう。 中にあるステージがよく見える最前列の席に案内されると三人で食卓を囲む。


「流石、チーギュウ様! VIP席に通してもらえるなんて凄いです!」


「VIPって事は出されるメシもVIPやねんな? ワイこんなん初めてや! 忘れんよう腹いっぱい喰うで~!」


「二人とも、こういう場所ではしゃいでたら追い出されるから程ほどにな? 鑑定魔法では毒は入ってないからたんと食べたまえ。」


 鑑定魔法では確かに毒は入っていないので、敵は恐らくこれから始めるショーに仕掛けをしてくるだろう。 料理を食べながら待っているといよいよ、ショーの開演らしく一人の女性がステージの上に現れる。


「皆さん、今宵は桃尻タイフーンにお越しいただきありがとうございます。 私はここの歌姫のサイレン・コーシェン。 そして本日のダンサーである、メデューサ・スッキャネンでございます。 皆様盛大な拍手で出迎えてください!」


 スポットライトが当たるとステージの上に一人、そして舞台袖の高さ10メートルはあるだろう台座からもう一人の女性が現れ、空中ブランコからブランコへクルクル回りながら飛び移る。 アクロバティックなダンスと聞く者を虜にさせるほどの美声で人々を魅了していく。 だが、何かがおかしい。周囲の人々は目が移ろになり、ショーを見るというより二人の女性を崇拝するように拍手や歓声を送る。 俺はあらかじめ自分にかけておいた解呪の魔法で意識は乗っ取られなかったものの、シズやラヴやんは狂気に憑りつかれたように二人に賛辞を送っていた。


「素晴らしいです! サイレン様の歌声を聞いたままメデューサ様に頭ポンポンされたいです!」


「いや~、やっぱええ唄や! 歌詞も共感できるしやっぱ好っきゃねんな~! 粉モン最高~!」


「なぁ、サイレン。 あの最前列の女の子、アタイのモノにしていいか? 隣の小さいのはアンタの趣味だろうから譲ってやるとして男の方はマネキンとして売るかい?」


「そうね、私はイケメンも好きだけどあの小さい子は可愛くて毎日ナデナデしてぎゅ~ってしておはようとお休みのキスをチュウチュウしたいぐらい好みだわ。 こんな退屈な生活してたら、たまにはこういうちょっとしたスパイスを加えないとやってられないもの。 隣のブサイクはマネキンにもならないから砕いて漬物石にでもしようかしら、私最近ぬか漬けにハマってるのよね。」


「よし、じゃあ決まりだな。 いくぜハニー達、土魔法スタチューガンド! 石になって永遠に愛し合おうぜ!」


 正体を現した二人の魔族が魔法をかけようとしたその時、俺は持っていた手鏡をメデューサに向けて魔法を跳ね返す。


「か、鏡!? 鏡なんて今向けられたらぐわぁぁぁぁっ!」


 魔法を鏡で跳ね返されたメデューサは自らの魔法で石になってしまった。 相方が石にされたサイレンが俺に向かって殺気立った表情で飛び掛かる。


「お前―! 何故私の歌を聞いて正気を保っている! しかも私の親友を石にしやがって許さん!」


「お前らが魔族だって事は分かってたからあらかじめ解呪の魔法を自分にかけてたんだよ、そしてお前らが魔族と分かった以上容赦はしない! お前も石になれ、土魔法フィギュアモエゾク!」


「か、身体が石になっていく…… いや、身体の関節は自由に動かせるようになって…… これはフィギュア!? 嫌ぁ! 私の美しい身体がブサイクなキモオタの何を弄ったか分からない手で弄られるのは絶対に嫌ぁ!」


「人を美醜で判断して、ブサイクは売り、自分好みの美男美女は大方どっかに保存して楽しんでるような奴にはお似合いの末路だ。 心を入れ替えて人類に危害を加えないと誓うまで永遠にフィギュアになるだろう。」


「おのれ~! 魔王様の命により、魔王城周辺の人間を減らすために美男美女を減らして生殖させまいとした長期的プロジェクトが~! 魔王様お許しを~!」


 こうして、街を騒がせていた美男美女誘拐事件は幕を閉じ石になっていた人はメデューサが石になった事で元に戻った。 石になった二人はと言うとオタク街のマジックアイテム屋に売られて物好きに買われたらしい。 勇者はと言えばエルフの里のドラゴンは倒したものの、帰り道で迷ってしばらく帰ってこられないという伝文がこの街にも伝わってきたので当分顔を合わせなくて済むだろう。 そして石になった二人の頭から水晶で情報を見た結果、魔王には強力な力を秘めた四天王がいてその内の一人はこないだ倒したリッチで他にあと三人の魔族を倒さないといけないことが分かった。


 そして、その内の一人の居場所は街の南東にある洞窟に潜むヴァンパイアだという事が判明した。 俺たちはヴァンパイアを倒すために特訓をして、勇者よりも先にダンジョンを攻略して強いパーティメンバーを募集するべく、より一層努力するのであった。


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