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ブサメンと革命

  ニンゲンッテイーナに潜伏してから五日後、とうとう宣戦布告がされてニンゲンッテイーナもドッチデモエーヤンに攻め込む準備を整えていた。 俺達レジスタンスは首都の守りが沿岸の警備に回されている隙をついてレジスタンスと共に一気に首都を陥落させる作戦を決行することになった。


「先ずは俺が大量破壊魔法で王宮にある立像を破壊する、そして洗脳が解けた現地の混乱に乗じて王宮に乗り込んで指揮官であるボーヤヨイコダや高官を捕縛して市民に降伏を呼びかける。 多少の戦闘は起こると思うが首都に回している戦力とレジスタンスのパワーバランスは大体同じぐらいだろう、この場合士気が高い方が勝つな!」


「ならば我々レジスタンスの方が勝ちますな! この腐った上層部さえ叩けば俺達は自由になれるんだ、この戦絶対勝つぞ!」


「チーギュウ様、アンタが訓練してくれたおかげでレジスタンスの皆も魔法が使えるようになってボーヤヨイコダの兵隊にも勝てるようになったよ。 このまま進軍していけばレジスタンスじゃない魔族や魔族混じり達も加勢してくれるから数は圧倒的に有利になるはずだよ!」


「作戦の指揮をする司令官が前に出るな! と言いたいところだが、命を賭して戦わなければここまで人はついてこなかっただろうな。 顔は人間じゃないが人格者であり優れた指揮官なのは認めよう、流石勇者の末裔と言ったところか。」


「褒めても何も出ないぞ、それじゃあ皆は手はず通り俺が立像を破壊したら一気に攻めこんでくれ! この戦いはあくまでも人々を圧政から解き放つ戦いであってここで死んでもらっては困る、後のより良い世の中を作る為にレジスタンスの皆の力が必要になってくるだろう、だから皆死ぬんじゃないぞ? それではこれより作戦を決行する、皆俺に続け!」


「オーッ! 皆でこの国を独裁者から取り戻すぞ!」


 スラム街から打って出てきたレジスタンスはそのまま王宮のある区画まで攻め込んでいく。 案の定、軍の殆どを海の向こうのドッチデモーエヤンに向けて展開していたせいで街中の警備は手薄になっていて憲兵もまばらに配置されていた。


「なんだぁ? 魔族共が人間様にたてつく…… うわぁぁぁっ! 反乱だ! 至急応援をよこしてくれぇ!」


「何が反乱だ、散々俺達をこき使いやがって…… 今日からこの国は俺達の物だ! 独裁者は出ていけぇ!」


「街で魔族共が憲兵に暴力を振るっている!? 大変だ、ドッチデモエーヤンが攻めてきた! 戦えない奴らは荷物を持って国から逃げろ! この国はもう終わりだぁ!」


「街の奴隷共も外の連中に感化されて暴徒と化しているぞ! 俺の飯屋も奴隷に奪われちまった、商売あがったりだ!」


「皆、今からレジスタンスのリーダーが立像を壊すぞ! それと同時に一気に城に攻め込むんだ!」


  だいぶ騒ぎが大きくなってしまったが予定通りに事を進める。 俺は息を大きく吸い込み、遠くの方にも伝わるぐらい声を張り上げる。


「俺の名はチーギュウ・クッテソー! ドッチデモエーヤンから魔族が虐げられていると聞いてはせ参じた! 俺の先祖である勇者ネギタマ・クッテソーの仲間だった男を先祖に持つミノバン・バンデラスと共にこの国に巣食っている邪知暴虐の魔王ボーヤヨイコダ五世を打ち倒すために皆の力を貸してほしい! この世界の秩序を乱すあらゆる悪は勇者の名の元に敗れ去る事をその身を持って思い知れ、大量破壊魔法一点集中キモオタバースト!」


 凄く芝居じみた口上だったが合流してきた元奴隷の魔族にも分かるように明確に正義は我にありという事を主張した後、大量破壊魔法で魔力のアンテナだったボーヤヨイコダの立像を破壊する。


「うぉぉぉぉぉっ! あの邪悪な像を一撃で破壊したぞ! このお方こそ真の救世主だ! 皆、あの王宮にいる腐った権力者を引きずり出せ!」


「勇者チーギュウ様万歳! 俺達は魔族の自由の為に戦う戦士だ! 今まで散々俺達を痛めつけてきた人間共に今こそ制裁を下すべきだ!」


 白熱した民衆は一気に王宮に攻め込み、城門を閉じる暇もなく放蕩三昧で腐っていた近衛兵も物ともせず数の暴力で王の退路をじわじわと奪っていった。 やがて、民衆の手で王宮が攻め落とされるとこの国の国王だった冴えないオッサンが俺の前に縛られて差し出された。


「チーギュウ様、コイツがボーヤヨイコダ五世です! 我々が来るまで女と酒に囲まれていました、こんなクズ早く処刑しましょう!」


「嫌じゃ~、マロはまだ死にたくないでおじゃる~! そちが反乱軍の長ならマロを助けてくりゃれ~! 金も女も全部やる! 全部やるから命だけは助けてくりゃれ~!」


「お前…… 多分無能だろ? 話にならないから今まで政治をしていた人間の名前を言え、そうしたら命までは取らないからな?」


「本当でおじゃるか? マロは政治に全然関与してないのじゃ、全部摂政であるマロのおじ上のネンネシナに任せておったのじゃ~」


「ありがとうな、じゃあこの後皆の前で『マロは国王じゃなくなって教祖でもなくなったからこれからはドッチデモエーヤンの軍門に下るでおじゃる』って宣言してくれたら生かしてやるよ。 ただしお前はもう人間じゃなくて豚として豚と一緒に豚小屋で過ごさせるからな? よし、コイツを豚小屋にぶち込んでネンネシナをこっちに呼んでくれ。」


「嫌じゃ~! や、約束が違うでおじゃる! そんな屈辱を受けるくらいなら死んだ方がマシでおじゃる! 誰か、誰か助けてくれでおじゃる~!」


 元国王の豚が連れていかれると同時にこっちは話が分かりそうな悪そうなオヤジが現れる。


「ドッチデモエーヤンの屑が! 我が艦隊が貴様らの艦隊を打ち倒して港に帰ってきた暁にはここにいる汚らわしい魔族共を皆殺しにしてやる……」


「艦隊戦だがこっちも被害が大きかったがお前達の船は全部海の藻屑になったらしいぞ? 水晶通信でさっき報告が来たぞ?」


「な……!? 我が無敵の艦隊が全滅だと……!? わざわざ首都の警備を手薄にしてまで全勢力を艦隊戦に注ぎ込んだのに…… 我が兄ボーヤヨイコダ四世が生きていればこんな事には…… いや、こんな事が続くとは思ってなかったがまさかドッチデモエーヤンに首都を陥落させられるとは思わなかった……」


「どういうことだ? お前達の仮想敵国はウチじゃなかったのか?」


「あぁ、元々マルカジリとの戦争に向けて海軍力を強化して我らとマルカジリの間にあるドッチデモエーヤン大陸を緩衝地帯として本国へのダメージを押さえようとしていたのだがこうなっては仕方ない。 気を付けろ、マルカジリの連中は獣だ! 弱肉強食を掲げて自分達より弱い小国の男をなぶり殺しにしたり、女をいたずらに辱めたりして併合する蛮族の国だぞ……」


「弱者を食い物にするのはお前達だってやってただろ! 自分の事を棚に上げて何を堂々と他の国の悪口を言ってるんだ!」


「ククク…… 人間なんてしょせん主義主張が違うだけでこうも簡単に暴力的になれるし、自分の生活が脅かされるくらいなら他人を虐げても何の感情も湧かないのだ。 そんな愚民を率いてまともな治世など出来るはずが無いのだ! 我らが国父も愚民を統制できるシステムを作らなければ人間をより良き世界に導くことが出来なんだぞ! それを貴様如き若造に破壊されて…… 貴様もせいぜい愚民に絶望するがいい! そして我らが正しかったと後悔するがいい、ハハハ!」


「俺は絶望しないさ、人の心なんてどうにか出来ないもんだから多少の意見の衝突はあるだろう。 だがそれを恐れて誰かの意見に一方的に流されたり自分勝手に暴れていたら獣と一緒だろ? 今は話し合いでどうにか出来なくてもいつかきっと話し合えると信じて手を差し伸べ続けなければ人はついてこないぜ?」


「お前のような若造に何が……っ! いや、お前のような人間を世継ぎに残せなかった時点で我々は負けていたのだろうな…… 我々は降伏する、処罰は甘んじて受けよう。」


「ネンネシナ、お前はお前でこの状況を何とかしたかっただけなんだな。 お前への処罰は本国で言い渡す。 話し合いのテーブルをもっと早く用意できなかった俺を許してくれ。」


 俺はニンゲンッテイーナの忠臣ネンネシナに敬礼すると事後処理の為に本国に戻る事になった。 本国で待っていたのは向こうの世界では死んでいた俺の爺さんだった。


「久しいな、チーギュウ。 此度の任務ご苦労であった。」


「いえ、俺は民衆の手伝いをしたまでです。 なにか御用ですか?」


「うむ、ニンゲンッテイーナの統治をお前に命じる。 とはいっても名前だけ借りて実際の統治はお前の父に任せるがいい。 奴はお前ほどの戦闘力はないが内政が上手い男じゃ…… して、話というのは他でもない。 マルカジリの件でお前に頼みたいことがあるのじゃ。」


「なんでしょうか?」


「マルカジリにはお前がニンゲンッテイーナを陥落した事を伝えにお前の妹であるエビチリを送り込んだのだがマルカジリの奴ら使者をもてなすという事を知らんようでな、行ったきり戻ってこないのじゃ。 ワシ自ら赴こうとはしたがあいにく歳でな……」


「なら、俺がすぐに行きます! エビチリは生意気だけど俺の大事な妹だ、敵に捕らわれたとなれば俺は母上に合わせる顔が無い!」


「そうそう、エビチリを案じたお前の母エビマヨも娘を案じてマルカジリに単身乗り込んでしまってのう…… 止めようとはしたがこんなジジイじゃ大魔導士であるエビマヨの転移魔法を妨害できんかった……」


「母上も!? 更に心配になってきましたね…… 普段は優しいのですが怒れば大量虐殺魔法も発動させるようなお方ですから……」


「じゃがお前まで失っては構わん、アリスと共にエビマヨ、エビチリの両名を奪還する任務をお前に命じる。 仕事の話はここまでじゃ、爺ちゃんお前の事も心配じゃから気を付けていくんじゃぞ?」


「分かったよ、爺ちゃんも心労が重なってると思うけど身体に気を付けてな! 母ちゃんとエビチリを助けて戻ってくるから心配すんなって父さんや弟にも伝えといてくれ!」


 マルカジリはニンゲンッテイーナよりは文明が進んでいないので転移魔法で行き来しても問題は無い。 問題がない分、母上が転移魔法でエビチリと一緒に帰ってこないのが不安だった。 俺はアリスと共にマルカジリに転移すると先ずは街に手がかりを掴むために潜入する。待ってろよ、母上、エビチリ! 俺が絶対救い出してみせる! そう思った矢先にギルドの張り紙が顔に貼りつく。


「チーギュウ様、顔に紙が貼り付いてる方がイケメンですよ。」


「うるせぇなぁ…… お前は仕えてるのか馬鹿にするかどっちかにしろよ…… なんだこの張り紙は…… 母上! エビチリ!」


 張り紙には母上とエビチリの人相書きと賞金が書かれていた。


『この者ら、マルカジリに仇なす者なり。 国王に献上されたドッチデモエーヤンの姫とそれを簒奪した者なので見つけ次第娘は王に献上してオバハンは好きにせよ。 懸賞金一億ゲンナマか相応の物資。』


 まだ張り紙があるという事は生きている可能性が高いのだが、一体何したらこんな凄い懸賞金かけられるんだ? あと母上の事をオバハンなどといった者はもれなくひどい目に遭うのでこの国は終わったな、マルカジリ滅亡の日は近い。 こうして俺達は賞金首になった母上と妹を探す旅を敵地で行うのであった。

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