ブサメンと繋がる未来
勇者の瀕死になる度にレベルアップするという特性を活かしたレベルアップを行う事により、三日三晩俺とネギタマで殴り合った結果、レベルは俺とネギタマ共にレベル80の大台に乗る事が出来た。 レベル80といえば常人がレベルアップできる最大値であり、これを超えるには勇者の血統か、人を捨て魔族になるしかないという数字である。
「流石にこれだけやればもう魔王には勝てるだろ…… 後は一対一でお前がどれだけ魔王と戦えるかだな、ネギタマ?」
「はい、俺も負けるつもりは無いですが相手は魔王ですからどんな攻撃をしてくるか分からないですからね……」
「二人ともよく頑張ったわね、仕上げは充分。 後は実際に戦ってどれだけできるか試してみましょう、危なくなったら逃げられる準備だけはしておくわね?」
「ネギタマ…… 生きて帰ってきてね、アンタが村にいないと村の青年団の仕事を押し付ける相手がいなくなるから……」
「ワイも応援しとるで! 戦って嫁をゲットして無事子孫を残さんとワイも遺跡で封印されっぱなしやからな!」
「ありがとう……、じゃあチーギュウ先輩。 いや、チーギュウ。 俺を魔王の所まで転移させてくれ。」
「あぁ、ネギタマ。 いや、ご先祖様。 行くぜ、これが最終決戦だ!」
転移魔法で魔王城まで移動すると、禍々しいオーラに圧倒されそうになるが奥まで進んで行くとそこにはツノの生えた美少女が玉座にふんぞり返っていた。おそらくアイツが魔王らしい、ネギタマが魔王を睨みつけながら叫ぶ。
「お前が魔王か! 俺は勇者ネギタマ! 魔王を討伐しにやってきた、俺と勝負しろ!」
「オメェが勇者か、いやーオラ強ぇ奴と戦いてぇから人間にちょっかい出してたけどやっと来たか! オラわくわくすっぞ! 勝負っちゅーんは素手でいいんか? そっちは剣でも魔法でも何でも使ってくれていいからよ、なんなら全員でかかってきてもいいぞ!」
「いや、俺もお前と素手で戦う為に素手の修行を三日ぐらいしてきたから素手でやろう。 それに俺は一目見た時からお前の事を滅茶苦茶可愛いと思ってしまった。 タイマンでやるから俺が勝ったら結婚してくれ!」
「はぇ~、オメェも素手なんか? いいぞ、しかもオーガの掟を知ってオラに結婚を申し込むとは中々見込みがあるやっちゃな! いいぞ、そん代わりオラに負けたらオメェはオラの夕飯になっぞ? オーガの掟で結婚を前提にしたド付き合いに負けたオスはメスが食べなきゃなんねぇ事になってからよぉ…… 安心しろ、オラ好き嫌いはしないタイプだからオメェの事残さず食ってやっぞ!」
「厳しいな、オーガの掟は…… だが俺も負けるつもりは無い、行くぞ魔王!」
「いいぞ、来い勇者! オラにオメェの全力見してくれ!」
ネギタマが鎧や剣を脱ぎ捨てると鍛え抜かれた肉体を露わにする。 オーラも常人とはけた外れの量を出してはいるが、魔王もそれ以上のオーラで対抗している。 ジリジリと間合いを詰めながら近づく二人、拳の届く範囲まで近づいていくと先に仕掛けたのはネギタマだった。 左のジャブから始まった拳の応酬はお互いがお互いの拳を払い、受け流し、受け止めながら宙に浮いていく。
「あ、あれはモンクでも鍛え抜かれた人間にしか出来ないとされているオーラ飛行術!? 勇者って三日三晩殴り合っただけで専門職の上位スキルまで覚えるというの!?」
「実は俺もアレぐらいは出来る、ほら。」
「マジで浮いてる!? てかアンタも出来るとしたら勇者の血統ってチートじゃない!」
「そんな事より見ろ! 瞬間移動しながら戦ってるぞ! あれもオーラ飛行術なのか?」
「いや、あれは早すぎて見えないしそもそも何か分からないわ。 怖いし気持ち悪い。」
モンクであるモルガンですら見切れない速度で移動しながら戦うと常人には早すぎて見えないらしい。 俺は二人の気の動きで大体の位置を予測して目で追いかけているので何をやっているかは一応確認できた。 魔王が気をエネルギー状にして放つとネギタマも
撃ち返して、土煙の中から強襲したり…… お互いを殴り合いながら飛行していると、たまに地上に向かって相手を叩き落すなどの激しい戦いを繰り広げると結構善戦しているようだ。
「ひゃ~、オメェ人間にしては中々やるな! オラ、オメェの事気に入ったぞ、世界の半分やるからオラのとこに来ねぇか?」
「世界の半分よりお前の事が欲しい! 魔王、いやギューカルビ! お前と拳を交わして分かってきたがまだ何か隠してるな?」
「オメェ、そんな事も分かんのか!? あちゃ~、もうちょっと温存しときたかったがしょうがねぇ! オラも全力でやんないと負けそうだしいっちょやっか! あああああああっ!」
魔王が気を溜めていると金色のオーラが発生して魔王の髪が金色になっていく。 それに伴い、気の量も一気に増えて正に全力全開といったところだ。
「これがオラの本気だ、こうなると気を全部使うまで手加減できねぇからよ。 死にそうになっても降参は聞けねぇぞ!」
「俺も降参はしないつもりだ、全力のお前を受け止めてぶつかり合う事でもっとお前の事を知りたいんだーっ!」
魔王がパワーアップしてから若干押されているのか被弾が多くなり、地面に叩きつけられる回数も増えてきてネギタマのダメージが増えてくる。
「オラの本気が堪えてるみてぇだけど回復魔法かけてもらうか? 仲間に頼ってもいいぞ! 人間にしてはすげぇ強ぇ奴だけどオラに勝つにはまだまだ修行が足りねーぞ!」
「戦ってる相手に気遣われるなんて俺も無様だな…… だけどここで仲間に頼ったら俺は成長できなくなる…… まだここまで追いつめられるなんて上には上がいたもんだ……」
「そうだぞ、オラだってこの世の中にまだオラが知らねぇ強ぇ奴がいると知って早くこの大陸を征服して海の向こうの強ぇ奴に会いてぇんだ! だからオメェの気持ちは嬉しいけどオラにここまで手こずってるようじゃまだまだだな! じゃあな!」
力尽き、ギリギリで意識を保っているネギタマに対して最後の一撃として馬鹿でかいエネルギー弾を撃ち込むと爆発を眺めて魔王が勝ち誇る。
「え、嘘…… チーギュウ、アンタ身体が……」
「まずい! ネギタマが負けたからチーギュウが生まれなくなってしまった世界線になってしもうたんや! このままじゃお前死ぬで!」
「いや、気を感じて見てみろ。 ネギタマはまだ生きてる、そうか…… こんな時にさえお前は最後まで勝負を捨ててないんだな、ネギタマ!」
「ネギタマ? もうアイツはオラが倒しただろ…… なんだこの馬鹿でけぇ気は!? まさかお前も伝説のスーパーパワーを会得したんか!?」
魔王がエネルギー弾が爆発した地点を振り返ると土煙の中からネギタマが現れる。 その上半身は既に裸になってしまったが髪の毛が金色になり、魔王よりも大きなオーラを放出している。
「レベルアップに時間がかかったがもう大丈夫だ、俺の知らない技が出てきた時はダメかと思ったけど近くで観察して見よう見まねでやってみたら意外と出来たな……」
「はぇ~、オメェすげぇな…… オラもうワクワクどころかドキドキしてきたぞ! オメェとオラの子供がどれだけ強くなるか試してみっか! でもその前に決着つけっぞ!」
「あぁ、俺も会得したはいいが身体は限界だ。 この一撃にすべてを賭ける! キモオタ破―っ!」
「オラももう色々と限界だ、オメェの一撃に付き合ってやるとするか…… オーガボンバー!」
二人の放ったエネルギー波によって地上にいる俺達ですら吹き飛ばされそうな衝撃が飛んでくると勝負は一瞬で着いた。
「ダメだ、オラもうこれっぽちも力が入んねぇぞ…… オメェの負けだ、約束通りオラの事好きにしていいぞ!」
「俺の…… 勝ちだっ! それじゃ、俺達はこのままハネムーンに出かけるのでチーギュウよ、未来の子孫達によろしくな!」
「好きにしていいとは言ったが今からハネムーンとかオラ聞いてねぇぞ! でも強引に引っ張ってくれる男の人もオラのタイプかも……」
地面にへたり込んでいた魔王をネギタマが担ぐと、そのまま温泉街の方に飛んでいく。 俺はと言うと更に身体が薄くなっていってそろそろ本格的に消えそうになっている。
「どうして!? ネギタマが勝ったのに何でチーギュウが消えそうなの?」
「ていうかワイも消えかけとるやんけ! なんでや、阪神関係ないやろ!?」
「落ち着きなさい、童貞と有害図書。 貴方達が消えかけているという事は未来が変わってタイムトラベルをしてきた時に使った大量のエネルギーが放出されるような出来事が無かった事になったのよ。」
「なるほど、だから未来から来た俺達が消えるのか。 これで皆救われるかもしれないな!」
「良かったやん! それじゃモルガンもエリぴょんも世話んなったな、これがホンマモンのさいならやで!」
「私もアンタ達と旅が出来て良かったわ。 遠い未来に帰っちゃうからもう会う事は無いでしょうけど元気でね? 気が向いたらでいいけど私のお墓とかがあったらちゃんと墓参りには来てよね?」
「我はまぁ、200年後に会えると思うがその時はこの歴史がどうなってるか説明していると思うので楽しみにしていて欲しい、ではごきげんよう。」
段々と光の中に身体が解けていくとまた時空の流れに引き戻され、何とか俺が生きていたであろう時代へと戻る。 気が付くと俺は実家の自分のベッドで寝ていた。
「う~ん、今は何時だ……」
「今はお昼前でございますよ、チーギュウ様。」
「この声は…… シズ!?」
「はい、おはようございますチーギュウ様。 貴方の専属メイドのシズでございますよ?」
「メイド…… そうか、ここは実家で…… ラヴやんは!?」
「ラヴやん様はエリぴょん様と一緒にお茶をしていますが参加なさいますか?」
「あぁ、頼む。 どうもまだしっくり来ないな……」
向こうの世界で死んでしまったシズが生きていたのはいいのだが、この世界での俺の立ち位置がまだ分からないし、大体なんでエリぴょんとラヴやんが俺の家に居るんだ? パジャマから服に着替えてエリぴょんとラヴやんが待つ庭へと向かった。
「ごきげんよう、童貞。 まだ状況がつかめてないみたいね?」
「おはよう、で今はどんな状況なんだ?」
「あの後、人族と魔族の国が合併して大陸は平定されてこの国は平和よ? 今のクッテソー家は魔族側の統治を任されている貴族の一つね、我はクッテソー家の家庭教師として雇われてラヴやんは貴方のおじい様が発掘した事になっているわ。」
「そんで、シズとはもう会ったやろ? ハンゾウの奴もクッテソー家の隠密やし、戦士は近衛隊長や。 勇者はホムンクルスとして原型が200年前に作られてから量産されて合衆国の主な戦力になっとるで。」
「待ってくれ、平和になったって言ったのになんでそんな戦力が要るんだ?」
戦いが終わって平和になったというのに物騒な事を言ってくるエリぴょんに俺は困惑していた。
「この国は確かに平和になったわ、でも海の向こうでは人間至上主義の国家丸ごとカルト教団の『聖ニンゲンッテイーナ帝国』と、数では上回っている下等な人類など淘汰されるべきだと考えている魔族だらけの未開の地『オレオマエマルカジリ王国』という二つの国家に攻められているのが現状よ。」
「海の向こうにそんな国家があったなんて…… 確かに人類と魔族で争い合っていた前までの俺達には分からなかった情報だな。 で、そいつらと戦う為に何か手は打ってあるのか?」
「ええ、我々ドッチデモエーヤン合衆国は可及的速やかに少数精鋭の部隊を送り込み敵の中枢部である首都で破壊工作をして、内政干渉が二度と出来ないようにする電撃作戦を決行する構えよ。 先ずは比較的話し合いの余地がないニンゲンッテイーナを攻撃した後に、出方次第ではマルカジリも潰すわ。」
「随分物騒だな…… で、その少数精鋭の部隊って誰が行くんだ?」
「貴方よ、童貞。 ここでは貴方は勇者の末裔というより、合衆国魔術部隊の隊長として有名ね。 作戦の指揮権と任命権は貴方にあるから明日までに誰と潜入するか考えおきなさい。 あ、シズはこの世界では非戦闘員だから連れていけないわよ?」
正直、世界が元通りどころか平和になって皆生き返ってハッピーエンドだと思っていたが時空の歪みはそう簡単に楽をさせてくれないらしい。 とはいえ、見たことも聞いたこともない国の人間をいきなり襲撃しろだなんて俺には出来そうもない。 リストから優秀そうな人物を適当に見繕って適当に破壊工作をすればいい、そう思いながら作戦をなるべく非殺傷目的を主としたものに直して人材を適当にピックアップして後は現地に潜入するべく密入国するだけとなった。 運命に翻弄されながら掴んだ幸せも長くは続かずもっと過酷なものになっていく事に対して俺は憤りを感じながらもこの世界を生き抜くべく自分を奮い立たせるのであった。
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第二部が終わり、次回から第三部になります。