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第8話




 次の日。十分に身体を休めた九十九はレミュクリュをいつも通りに頭に乗せて街をのんびりと歩いていた。

 ダルデスに袋に入っている手持ちの貨幣を見せ、どの程度の事が出来るのか聞くと、驚きと共に呆れた返事が返ってきた。

 相場でも上下するが、金貨一枚で銀貨三十枚前後になり、銀貨一枚あれば小さくても家を持った四人家族が慎ましく生活すれば五日ほどは暮らせるらしい。

 色々と細かい買い物をしたので今現在は金貨二十二枚と銀貨二十五枚に銅貨が三十四枚。《竜の吐息》で引き篭もる生活をした場合、半年は余裕で生活出来るくらいらしい。ランクCの傭兵の稼ぎとはそれほどに違う。

 上位ランクの傭兵の中には主だった複数の都市に家を買っている者も居れば、その日のうちに酒と女に使い切る者も居る。それでも現役の傭兵であれば普通の生活に一切困らないらしい。

 ダルデスの話を聞いて、心に余裕が出来た。貨幣価値がピンとこないし、正直今までの支払いは言われるがままに払っていた。もしかしたら相場以上に吹っ掛けられているかもしれないのにだ。

 ある程度の指標を聞いたので、これからは恐々と買い物をする必要は無くなる。

 ならばと、しばらく世話になるのでダルデスには長期滞在を申し入れて支払いを済ませ、残金を持ってレミュクリュと買い物に出たのだ。

『ソレデ何ヲ?』

「まずは服と鎧だなぁ。制服は余り傷付けたく無いし、あの熊モドキみたいなのをこれからも相手にするなら、この格好じゃさすがに防御面に問題あるでしょ。

後は色々食べ歩きしたいな。ダルデスのとこも旨いが、酒のための料理って感じで、普通のが食いたい」

 レミュクリュは大いに喜んだ。特に後半部分に。


 大通りに面した服屋は二階建ての建物だった。一階には一般の服が陳列されており、使い古された古着に作ったばかりの新品の服。反物も置かれており、オーダーメイドもしてくれるらしい。

 二階は革製の鎧が並んでいる。こちらも中古品から新品まで並び、こちらも寸法を測って作ってくれるようだ。

 一通り見て回った後、一階に戻ると新品、古着関係なく、自分のサイズ似合っているものを選び、一着だけ身振り手振りで説明してオーダーメイドで注文。その足で二階にあがり、革の鎧を一式購入する。値が張ったが、黒一色の革鎧は好みにぴったりで即決だった。

 大量に買ってくれた客なので荷物は宿に届けてくれるらしい。オーダーメイドの服も夕方には出来上がるそうだ。

 《竜の吐息》に届けるように頼むと店外へ出た。姿が見えなくなるまで店員総出で見送ってくれたが、その行為は晒し者にさせられている、としか思えないのは心が歪んでいるのだろうか……。

 その足で鋼棍を買った武器屋へと向かった。目的は脚甲。鋼作りの物だ。余り好まないが、これから先戦うのであれば蹴り技は当然使う。その時に硬い皮膚の魔獣や魔物、鎧兜相手に普通に蹴っては骨が折れる可能性が高い。そのための防具であり、武器だ。

 珍しい買い物をした相手でもあり、珍しい格好をした者である九十九を見て、店主が呆れ顔で対応してくれた。またも部品で注文するので値段が付け辛いようだ。だが、それでも九十九の条件に合う品を見繕ってもらった。


 次は食べ歩きである。カフェテラスがあったのでそこでウェイターに色々聞いて郷土料理を頼んだ。国の中心にある都市であるため、九十九を遠方から来た人間だと認識したようだ。間違ってはいない。その間違いに大きな隔たりがあるが。

 紹介してくれたのはコルファという粉を練って伸ばしたものを茹で、野菜と肉を煮込んだソースをかける料理だ。

 九十九の世界で言うパスタに似ている。味は旨過ぎるわけでもなく、かといって不味いわけでもない。後引く美味しさでもない。まぁ普通なのだ。

 レミュクリュは口の周りにソースを付け数分で平らげたが、おかわりはしない。やはり味に不満があるようだ。

 どこかで飽きない味が主食になると聞いた事がある。ソースを変えれば色々楽しめるだろう。ただ、アルデンテでは無いので細身のうどんのような気もしないでもない。

 郷土料理に若干の期待が寄せられないと解ると、九十九は移動する事にした。

 中央通は様々な人々や馬車が通り、食事が出来る場所も多種多様にあるが、九十九が目指したのは大通りから一本外れた屋台が並ぶ一角だ。夜になれば酔っ払いしか歩かないと言われる場所も昼の時間は平和そのものだ。

 元々は広い道だったのであろう通りは左右に建ち並ぶ屋台で狭くなっていた。その数は四十とも五十とも言われ、九十九達の目を、耳を、腹を楽しませてくれる。

 濃い目の味と偏った栄養を誇る料理はやはり旨い。肉や野菜、飲み物に菓子類を金に物を言わせて買い歩く。屋台通りの半分に届かないうちに九十九は十分満足出来た。結局、ダルデスが出す料理と大差が無い事には気づいていない。

 見た目の数倍が消え去るレミュクリュのお腹もぽっこりと膨れ、九十九の後頭部に掴まるには邪魔になるために肩に座り、耳を掴んでバランスを取っていた。

『ヤハリ人間ノ作ル料理ハ良イ。焼イタリ蒸シタリ多種多様ナ味ヲ作リ出ス。美味ダッタ……』

 お腹を擦って幸せそうに呟く。

 幸せに目を横線一本にしていたレミュクリュだが、すっと目を開く。

『九十九……。ソコノ路地ニ入ッテミヨ』

 訝しげに思いながらも指差す路地を歩き、大通りと反対側の道へ。

 一本道を逸れるだけで人通りが一変する。

 閑散とした通りには昼間から酒瓶を抱いて寝ている男がおり、着飾った女性が蠱惑な笑みを浮かべ九十九を見ている。離れた所には空を眺めて常軌を逸した視線と言葉を吐き出している者も居る。

 どこにでも居る者だろう。九十九も少年の身ではあるが子供では無い。そういう人も居るだろうし、実際に目にした事もある。だが、治安という部分ではこの世界は余り褒められたものでは無いようだ。

「それで、何がしたいんだ?」

 レミュクリュへの問い掛けは無駄だった。返事を聞く前に状況が変わっていく。

 明らかに悪そうな顔をした男達が取り込んだのだ。下卑た笑い声とナイフや手斧をちらつかせているので大まかな用件は伝わってくる。

「どちらかと言えばこうならないように助言して欲しいなぁ」

『次カラハソウシヨウ』

 九十九の呟きにレミュクリュは重そうなお腹を気にせずに空へと逃れる。建物の屋根にちょこんと座る様子は可愛いのだが、毎回荒事を任せて高みの見物とはいかがなものか……。

「おっさん達の用件はなんでしょ……」

「色々と買い物したようだが、余ったならくれや」

「予想通りの展開だなぁ……」

 おそらく見張られていたのだろう。まぁ二十軒ほど屋台の買い食いをしていれば金があると教えて歩いているようなものだ。

 実は屋台通りを歩いていた時に二度ほどスリに遭遇していた。どちらも串焼きの串を刺して追い払ったが、その仲間なのだろう。穏便に済ませようとしたが、無理なので強硬手段に訴える事にした。そんなところか。

「ちなみに断ったら……?」

「裸でその辺りに転がるだけだ」

 前後に伸びる通りには、先ほどこちらを見ていた女性の姿は無く、地面に座り込んだ男は何に反応したのか空を見上げるのを中止してケヒャケヒャと笑って九十九を指差している。仲間だとは思って欲しくないし、仲間にはなりたくない。

 そもそも生きて転がるのかどうかも怪しいものだ。

 買い物にきただけなので鋼棍は手元には無く、あるのは串焼き肉が一本。

 とりあえず肉を頬張り、串が一本。

 串をじっと眺めている九十九に男達が腹を抱えて笑い出した。

「丸腰かと思ったら武器持ってるじゃねぇかよ」

「穏便に済ませようと思ったが、武器を持って抵抗するならしょうがねぇよな〜」

 口々に突っ込む男達。それに対して、

「んじゃ、やるか」

 震えるわけでもなく、恐れる様子は無い。九十九の中で過程と結果について懸念すべき事はある。

 ただ、深く思案する暇も無く、笑い転げていた男達も落ち着いてきたのか表情が険悪なものになっていった。

「舐めるなよ、ガキが。少し教育してやるしかねぇな」

 一人の男がナイフを突き出した。

 首を傾げるだけで躱すと九十九は一歩踏み出し、肩で押す。ただし、踏み込みと同時に突き上げている。

 肩による肺への打撃は強制的に排気させ、呼吸を乱す。

 離れる男の腕を掴んで一本背負い。その際に腕の逆関節を決め、地面に叩き付けると同時に腕が折れた。

 九十九の表情が歪む。

 男達は呆気に取られていた。少年の身で丸腰の相手なのだ。それが間合いを詰めた瞬間に仲間の身体が浮き、腕を取られて地面に転がされた。それに腕も折られたようだ。余りの痛みに声を失い呻くだけの男を見て、仲間達が一斉に怒りに殺気だった。

 先ほどまでの軽薄な雰囲気は無く、殺意を持って九十九を取り囲む。

「ん〜。こいつ連れて帰って欲しいなぁ〜……」

 呟く要望に答える気は当然無いらしく、じっと睨みながら隙を伺っている。

 目配せを送り、左右からの同時攻撃。

 一人はナイフによる腹部狙い。もう一人は手斧による頭部破壊。怪我をさせるつもりでは無く、明らかに殺すための一撃だ。

 九十九はナイフの男へ横蹴りで手元のナイフを払い、そのまま翻して顎を狙った蹴り。脳を揺らされた男が足元を揺らして転ぶと、その頭を踏み台にして手斧を持った男へ跳び蹴りを食らわす。

 予想を反する動きに反応出来なかったのか、勢い付いて近づいた男は避ける事無く、九十九の足を口腔へ受け入れ、仰向けに仰け反った。口元から赤い液体と共に白い塊をこぼしている。

 予測以上の苛烈な反撃に残りの男達が躊躇していた。だが、逃げ出す様子は無い。

 イメージでは、おぼえてろーっ、と言うある意味で有名な捨て台詞を吐いて逃げ出すと思っていたが、そうならない。

 そこに違和感があった。

 それから数分の間、男達は脅し文句を口にしながらナイフや手斧、剣をチラつかせて牽制するが、一向に戦おうとしない。まるで時間稼ぎをしているようだ。

(先生よろしくお願いします、なんて時代劇チックな用心棒が出てきたらどうすっぺ……)

 やる気だぞと思わせるようにあちらこちらに視線を向ける九十九。だが、さらに時間が経っても増援が現れる様子は無い。


 そういえばと今更ながら九十九は考える。

 魔獣使いは珍しく、さらに誇張されているのか恐怖の対象でもあったはずだ。

 男達が現れた時はまだレミュクリュが肩に居た。つまり金遣いの荒い少年では無く、金遣いの荒い魔獣使いだと認識は出来ているはずだ。

 そもそも金に困っているとしても、得体の知れない恐怖の対象を狙うだろうか。

 少年だから狙ったとしても今の攻防で三人の仲間がやられているのだ。見た目通り容易く強盗が出来る相手だとはすでに思えていないはず。

 だとすると、狙いはなんだろうか……。

 犠牲者が出ても手元に入る金額が高いと考えている……のか。

 狙いは九十九の財布だけなのだろうか……。


「レミュっ! その場から離れろ!」

 上を見上げ、レミュクリュが座る屋根を見上げると、レミュクリュが足をぶらぶらさせて見下ろしている背後に影が出来た。

 楽しそうに見ていたレミュクリュが何かに覆われて姿が消えた。麻袋のようなものなのだろう。もこもこと動く様子が見られたが、そのまま持ち去られた。

「くっ!」

 追い掛け様として足を止めた。

 周りを取り囲む男達が進行を遮る。

「どけ……」

 拳を握り、力を入れすぎて拳が震える。

「退く訳にいかねぇな……」

 ナイフを突き付け、凄んだつもりなのかもしれない。だが、それは表情を歪ませたとしか思えないだけの変化で、足元は震え、自身の事でも気づけないのか、今にも腰が砕けそうだ。つまり、今の九十九を制止するだけの効力はまったくない。

「そう……かいっ!」

 一歩前へ進んだ、としか認識出来なかっただろう。二歩目の時点ですでに目の前から姿が消え、疑問符が頭に浮かぶ前に天地が逆さまになり、首への衝撃と共に意識が途切れていた。

 説明をするならば簡単だ。ナイフを持った男の脇へと移動し、喉を掴んで地面に叩き付けた。それだけだ。

 ただ、その動きが闘い慣れしていない者には目に出来ない速さだったと言うだけ。

 目で追えなかった他の男達も気づくと衝撃と同時に視界が暗転し、意識を失っていく。

 誰一人として九十九の姿を見つける事は出来なかった。その場で取り囲んでいた男達は数秒もかからず、姿の見えない敵に昏倒させられたのだ。

「昼間っから集団で誘拐しやがって……。治安って言葉を知ってんのかよ。この世界は……」

 ぼやく九十九は逃げた敵の方向へと走り出した。


「ハァハァ……。これで何とか……、ハァハァ……」

 麻袋を小脇に抱えた男が大通りを抜けて小道へ入り、入り組んだ路地を走り、ともかく街の西へ。

 脇に抱えた麻袋はぐったりとしていて動きは無い。手渡された睡眠薬は魔獣捕獲用の強力なものらしい。間違っても人間に遣うなと念を押された事を考えると薬と言うよりは毒なのだろう。

 脇腹を押さえながらもやってきたのは南西側に乱立する工業地域。家具などを作る職人を取り纏める木工ギルド、刀剣や鎧兜を作る職人を取り纏める鍛冶ギルドがあり、それに関係する職人や、その家族が住む地域である。

 何人かにぶつかりながら息を切らせて走る男がいても、周りに居る人達は気にしない。地域柄、材料を持って走り回る見習いの小僧や弟子連中が多く、その中の一人だと思われているのだ。

「邪魔だっ! どけっ!」

 人を掻き分け、怒鳴り返されても無視して目的の場所へ急いだ。


 九十九はひたすら走っていた。姿は屋根で見た人影のみ。すぐに追いかけようとしたが、邪魔されて完全に姿は見失っている。

 だが、九十九は確信を持って走っていた。

 距離はまったく見当が付かないが、方向は漠然と伝わってくる。

 胸を細い糸で引っ張るような微かな感覚。それが契約主と契約者の関係を示すものなのか、それともレミュクリュが助けを求める声なのか……。

 焦りが募る。形振り構わず全力疾走を続けて数十分。大通りを西へ向かい、馬車の幌を足場に飛び、人混みを極力避け、足場が無ければ建物の壁を蹴りつけ、看板に着地し、壊れても気にせず、ただひたすら引っ張られる感覚に従う。

 それだけ破壊行為をしても誰も気づけなかった。幌への着地音、珍しい窓ガラスの破壊音、看板等の破壊音、驚きと共に視線を送った時点でその場には原因と思われる物体がないのだ。

 九十九は自覚していないが、一般人が目で追える速度では無くなっていた。

 壁を蹴り、看板へ着地、壊れるのも気にせずに跳躍。より遠くへと身体を送りながら九十九の脳裏に浮かぶのは、レミュクリュとの数日間の思い出。

 撫でられて目を細め、生肉を腹一杯に食べる姿。食べている思い出が大半という状況も幸せと考えた方が良いだろう。

 ぐっと歯を食いしばり、目を閉じる。

「縁起でもねぇ…………」

 呟きははるか後方へ置き去りに。

 少しでも早く前へ。


 工業地域に着いた頃には太陽が山にかかり、空は血を流したように紅い。詩人であれば何かを想い、吟じるかもしれない。時は夕暮れである。

 工業地域のとある場所で男は立ち止まり、懐から取り出した布で汗を拭き、脇に抱えた袋を見て動かない事を確認して大きく安堵のため息を吐き出した。

 男は裏の世界で幅を利かせている組織に属していた。上の方で依頼を受け、この仕事の指揮に抜擢されたのだが、内容が内容なだけに不安が拭えない。

 裏のルールで生きると言う事は表の世界では忌避する事も平然と行う。人を殺す事に躊躇いはすでに無い。盗み、薬物、詐欺、人身売買など。組織は金になるのであれば、どんな商売でも手を出していた。男はそれなりに長い年月を組織のために費やしており、組織の商売には一通り借り出され、様々な経験をしている。

 その経験豊富な男でさえも、今の仕事はどうしても落ち着かない。初めて人を殺した時よりも落ち着かない。

 今までの仕事は全て人間が相手だった。人間から盗み、薬物を売り付け、騙して金品を奪い取り、身体を売買した。

 だが、今回はちょっと毛色が違う。人間から奪い取ったのだが、脇にあるのは魔獣、それも神と崇める者も居る存在なのだ。

 麻袋に入った幼竜はかなり高額の商品にはなるらしい。

 依頼者の金払いが良かったのか、上の者からは必ず完遂しろと念を押されたので、かなりの量を詰まれたのかもしれない。組織の仕事で失敗は赦されないのは当然の話なので言われるまでもない。

 ないのだが、予測出来ないリスクがあるのも事実だった。


 男が居るのは職人達の休憩場所である公園だった。近くに陣取る大工や鍛冶屋の親父達が自分の技術の高さを証明するために様々なオブジェをそこかしこに立てている。石像群や遊具は子ども達には大事な玩具になっているようだ。

 そこのベンチに座る事数分。質の良い革で仕立てたコートを羽織り、眼鏡を掛け、杖を突いた老人が隣に座り、夕暮れ時にまだ遊び足りない子ども達を眺めて微笑んでいた。

「約束のモノは?」

 微笑む老人が口にした言葉。男は驚きもしないし、答えもしない。黙って麻袋を老人の方へ。

 老人は中身を確認する事無く、微笑む表情も変えずに、ただ麻袋を大事そうに抱えて去って行った。

 老人の後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、男が心の底から安堵した。仕事が無事終えたという理由にしては、今までに無いほど力が抜けた。しばらくベンチからは立ち上がれないだろう。

 懐から取り出した木製の箱から煙草を出すと口に銜える。

 暗殺の仕事も請け負う男は火を点ける事はしない。臭いでばれては支障がある。

 銜えた煙草を動かし、親に迎えに来てもらって後ろ髪惹かれる思いでこの場を去る子ども達を眺めていた。

 と、公園に息を切らせながら少年が現れた。

 男は唖然とした。遠目でしか確認していないが、白竜を連れていた少年だったからだ。険のある表情で公園を見渡すと引かれるように横切る。その方向は老人が去って行った方向。

 周りから見ると男は力仕事を終え、休憩しているように見えるだろう。それほどに冷たい汗を流し、呼吸が荒くなっていたのだ。

 動悸が激しく、別の意味でベンチから離れられない。すでに少年は老人を追って姿を消しているが、今日はまだまだこの場から動けそうも無かった。





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