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第5話



 さっそく傭兵ギルドに訪れた九十九は、受付の女性にいくつか質問をすると、レミュクリュの翻訳を頼りに一つの仕事を請ける事にした。

 最下位のFランク。レミュクリュの見立てでは九十九の実力は軽く見積もってBくらいの力があると太鼓判を押してくれた。だが、事実だとしてもルールを曲げるわけにはいかない。そこには当然、傭兵ギルドの規約があるのだ。

 昇格には二種類の方法がある。一つは同じランクの仕事を十五以上こなしている事。

 もう一つは自分のランク以上の魔物や魔獣を倒し、それを証明、つまり換金用に捕獲してくる事だ。倒した獲物のランク次第で捕獲する数が増減している。

 どちらかの条件を満たす事で次のランクへの昇格手続きをする事が出来るようになるらしい。

 もちろん、FランクがいきなりBの仕事を請ける事は出来ない。仕事とは別に魔物退治するのであれば問題無いが、飛び越えて仕事を請ける事は出来ないのだ。

『ソレデ、ドウスルツモリナンダ?』

 北門を目指して歩く九十九が一軒の建物の前で止まる。看板には杖、剣、盾、鎧の絵が描かれており、武器屋なのだろう。

 店内に入ると、数人の客が商品の物色をしており、カウンターには店主らしき男が頬杖を付いて欠伸をしていた。

 じっと店内を見渡す九十九に怪訝な視線を送る店主だが、特に興味は無いようで暇そうに宙を眺めている。

 武器の棚には様々な物が売られていた。剣、細剣、重剣、儀礼用にしか見えない装飾の剣。隣の棚には大小様々なハンマーや鎖で繋がれたフレイルから鉄鞭、眼を惹いたのは鉄球に棘がついた明けの星。モーニングスターと呼ばれる殺傷鈍器の棚。

 さらに隣は木こりが使うような斧から、重量武器に分類する大斧。投げ槍に大槍、斧と槍を合わせたハルバード。

 店内の逆側の棚には防具が所狭しと並べている。

 ざっと見渡した九十九が一点を見て止まった。

 そこには鋼の棒が立て掛けてあった。おそらく槍の一部だろう。強固な鋼で作られ、これから切れ味の鋭い穂先を付けて完成だろう。その途中の棒だ。

 それを手に取り、ブンと振る。

 前の世界で得意としていたのが棍術であり、通常では硬い材質の木材の物を使うが、実戦で人間以外の生物を相手にする事を踏まえると今手にしている鋼の棒がベストだと思えた。

 取り扱いには不慣れな重さだと思っていたが、身体能力の向上により、鋼でも木製の時と同じように扱えそうだった。

 握り心地を確かめ、若干の撓りを見て満足そうに頷くと、カウンターに鋼の棒を持っていく。

「これ欲しいんですが〜……」

 製作途中の部品を見て、店主が訝しげる。

「槍を作ってくれという話なのか?」

「いや、これだけが欲しいんだけど、ダメですか?」

 ふむ、と思案気に唸る店主が、九十九の後頭部の白竜を眺め、ため息を吐き出す。

「銀貨三枚か銀貨二枚と銅貨五十枚のどっちかだ。それで良いならだが」

 店主の言葉に、じゃぁそれでと応え、支払いを済ませて店外へ。


 頭をしきりにぺしぺし叩くレミュクリュが、九十九の首に巻いた尻尾にぎゅっと力を入れた。

 むせ咽ながら尻尾を掴む九十九に、

『ソンナ棒ヲ武器トスルノカ?』

 レミュクリュが言うには殺傷能力が高い武器を使った方が生き残れるだろうと言うのだ。

「言いたい事は解るが、俺はこれが一番しっくり来るんだよ。使い慣れない武器よりも、使い慣れた武器の方が良いだろ?」

『九十九ガソウシタイナラバ別ニカマワンガ……』

 レミュクリュとしては九十九を心配しての言葉なのだ。欲を言えば怪我もして欲しく無い。ならばこそ、一撃でも当たれば倒せる、もしくは動きを阻害させるだけの力を持つ武器を持って欲しいと思うのだ。

 まぁまぁ、とたしなめながら北門を抜けて行った。

 数日後、レミュクリュの心配は杞憂に終わる事になる。




 九十九の初仕事は北門から出て北上する事、一日と徒歩数時間に位置する中規模の村。

 初仕事に初めての野宿、初めての保存食に胸を踊らせつつ、依頼書を何度も穴が開くほどに見ていた。

 ──目的地は村。近くに小川が流れ、東には大きな森が広がっている。畑だけでは無く、森と川からの恵みもあり、村民は餓えに苦しむ事が無い生活を送っていた。

 だが、最近は畑の作物を狙う魔獣が森を拠点として現れ、唯一安心して取れる川魚も数が減ったのか、何か理由があるのか獲れず、貧困に喘いでいるらしいのだ。

 そんな村からの依頼を九十九は選んだ。楽そうとは思えないが、最低ランクの仕事ならば経験を積むにはちょうど良いだろうと思ったからだ。


 朝早くに村の入口に差し掛かると、村の惨状がすぐに解った。

 王都に近いというのもあって、それなりに発展はしていたのだろう。道は石で舗装され、馬車が行き交える様に整えられ、その道に沿うように建てられた建物は大きく、宿から雑貨などを売る店が軒を連ねている。建物の裏手には大小様々な家が建てられ、依頼書には中規模の村と書かれているようだが、九十九からすると町と言っても差し支え無いと思えた。

 その村が荒れ果てているのだ。発展途上だからなのか、朝早いからなのか、荒れ具合がより酷く感じられる。道には人が居らず、建物も朽ちている。修繕する金が無いのか、修繕する者が居ないのか……。

 九十九はとりあえず宿へ向かう事にした。

 宿は表向きしっかりとしていた。だが、中は埃っぽく、天井は蜘蛛の巣が占拠している。酒場も兼用しているのか、奥にはテーブルと椅子があるのが見えるが、表面が白い。装飾では無く、積もり積もった埃だろう。

 入口カウンターに居るのは酷くやつれ、一瞬死体ではないかと思ったほどに存在感の無い男で、九十九を見ても客が来たという喜びも無ければ、頭に乗っている白竜を見て驚く事も無い。

 視線の先に人間が居ると認識してないのだろうか……。

「泊まる部屋はあっても食い物はねぇぞ。酒……は飲まないだろうが、水もほとんど無ぇぞ」

「えぇ〜と、傭兵ギルドから依頼を見て来ました。九十九と言います。村長さんはどこですか?」

 村長か、と気だるそうに口にして、やっと持ち上げた腕がある方向を示す。

 たぶん、あっちだと言いたいのだろうが、余りにも生気が無い。

 触れても無駄だろうと、九十九はお礼を言って宿を出た。


 指で示した方向には村の中で一番大きな建物があった。おそらくこれが村長の屋敷だろう。

 古ぼけた門を潜り、立派だが少し薄汚れた扉を叩く。

 中から出てきたのはやつれて細くなったメイドだ。声に張りも無く、幽霊屋敷の案内人と言った方がしっくりくるほど。九十九の頭に居る白竜を見て、その場に膝を付いて祈りを捧げ、やっと助かると呟くメイドを困り顔で立ち上がらせ、用件を告げる。

 最初のイメージを払拭するほど元気の良い返事で屋敷の中へ促した。


 ずっしりとした重そうな扉の前まで案内すると中へ声をかけ、先にメイドが入室。

 しばらく待っていると……。

「魔獣使い! それも白竜か!」

 驚き、喜ぶ男の声が部屋の外まで聞こえてきた。

 入室を許可されて中へ入ると、大きな机に男が座っていた。

 おそらく目の前の男が村長なのだろう。

 九十九を見るなり、訝しげな表情を作るが、すぐに消して柔和な表情へと移る。

「この村の村長を務めております。ナルド・マイクと申します」

 やはり食糧難で大変なのだろう。昔は張りがあったと思わせる頬が痩せこけ、疲労が取れないのか、眼の下が黒ずんでいる。

 全体的にブルドックのような顔をしているので、怒ると迫力があるだろう。今は柔和な表情のために尻尾を振って近寄って来ているようにしか見えないが。

「一昨日に傭兵になったばかりですが、解決出来るようにがんばります」

 だが、丁寧に挨拶すると途端に村長は動きを止め、すぐに落胆の色を浮かべた。一気に人相が悪いブルドックに変身だ。牙を剥き出しにして吠えれば完璧。

 見た目も若く、魔獣使いという二つ名を持っているためにそういう反応もあるだろうとは予想していたが、少しは隠そうとしてほしいものだ。地味にへこむ九十九である。

 傭兵ギルドには九十九よりも若く、名が通っている者も居る。有名で無くとも若く力のある者は居るだろう。

 だが、一昨日に登録したばかりの傭兵となると話は変わる。

「とりあえず、細かい情報があれば教えて欲しいのですが」

「……。仕事が完了しない限り、報酬は払わん。それと、何があっても我々に非は無いからな」

 九十九の眉がぴくりと動く。レミュクリュの尻尾もわずかに動いた。

 だが、そのまま話を促す。気が変わらない内に少しでも多く情報を引き出さないとならない。

「森に住み付いたのは魔獣だ。熊以上の体格のな。名前は知らん。昼でも夜でも姿を現す奴で森に入る者ならば誰でも襲いかかる凶暴な魔獣なのだ。村人の話では六匹以上いたそうだ。その熊のような魔獣を片付けて欲しいのだ」

 用件は解った。だが、村長の《何があっても》の部分に思いっきり引っかかりを感じた九十九だが、とりあえず触れない事にした。それ以上に何かありそうだが、明らかに情報を出し惜しみ、もしくは隠蔽しようとしている。それが村に取って都合の悪い事だと容易に推察はできる。

 下手に触れては巻き込まれると考えた九十九が出した返答は、

「解りました。その魔獣を倒します」

 その言葉だけで部屋を退出しようと立ち上がると、村長が声をかけてきた。

「怪我をしても、死なないようにがんばってくれ……」

 悲痛とも思える言葉尻に訝しげに思ったが、とりあえず笑顔で大丈夫ですと返答して屋敷を出る事にした。


『無礼ナ人間ダッタナ』

 屋敷を出るなり、憤慨しているレミュクリュは同意を求めるように九十九の頭を叩き、苛立たしげに話し掛けるが、苦笑するだけで返答する。

 仕事のため、解決するために来た自分達を値踏みし、侮った態度に無礼だと、失礼だと言葉にして吐き出しても良かった。嫌なら他の傭兵が来るまで待っていろと言っても良かった。だが、それではダメなのだ。

 目の前の現状は急を要し、尚且つそれを打破するために自分が来たのだ。

 自分の働き次第で彼等に絶望を与えるか、未来に希望を見出させるかが決まってしまう。

 だから九十九は宿の男にも、村長にも怒らなかった。

 結果を出せば良いのだ。これから傭兵として生きるためには失敗は赦されないと考えて行動しなければならないだろう。

 それだけの力があるはずで、そのために来たのだから。


 村の端から端へ歩き、村の様子を見て回った。その頃になると昼が近くなり、どれほど気分が沈み、生きる気力が萎えていても腹は減るのだろう。

 そこかしこの家から炊煙が上がっている。ただ、美味しそうな匂いはまったくしないが。

「なるほどね。んじゃ、森に行くか」

『他ニ情報ヲ集メナイノカ?』

 レミュクリュの意見は最もである。九十九のやった事はただ歩いて見回っただけで、幽霊のように歩く村人には誰一人として話し掛けていない。せめて目撃者くらいには会って話を聞くくらいはした方がいいだろうと思うのは当然だ。

「一昨日に傭兵なったばかりの子供が教えてと言って素直に話すなら、村長の話だけで十分だろ。村長が何かを隠すように話をする時点で、信用が無いし、村全体の総意って事だと思うよ。下手に嗅ぎ回って邪魔されても困るし、それに、村の様子と村長の態度を見て、何を隠しているか何となく予想は出来たよ。

 他の人にあたってこれ以上の情報がもらえるとは思えないんだが、レミュはどう思う?」

 少し首を傾げたレミュクリュがすぐにそれもそうかと返答を返した。

 悪政による統治で村人と村長の間に亀裂があるような状況ならば村人に接触して色々嗅ぎ回る必要はあるだろう。だが、村の状態を見るだけで村全体の危機だと察するに余りある状況だ。ならば、村長が隠している事は村全体で秘匿するべき事なのだろう。

『予想トハナンダ』

「行けば解るさ」

 鋼棍を握り締め、問題の森へ向かう事にした。


 大きな森だった。巨木ともいえる太さの木が生え、まるで映画に出てくる森だ。日差しが頂点から降り注ぐが、樹木の葉がそれを和らげ、森林浴にはもってこいの環境だろう。

 だが、数十歩中へ入ると、状況が一変する。獣臭いのだ。魔獣と思われる足跡が縦横無尽に地面を踏み荒らし、おそらく縄張りを主張する爪跡が大木の幹に深く刻まれている。

「自己主張の強い魔獣ですなぁ〜」

 爪跡を撫でる。硬い幹が容易に削られている。恐るべき力だ。

『随分ト余裕ガアルヨウダナ……。来タゾ』

 森の奥からのっそりと現れたのは……。

 体長は二メートル以上、茶色い毛皮に長さがナイフ並にある白色の爪。耳の上には螺子くれた角が生えている。直立しているが、足は短く太い所を見ると基本的には四足歩行だろう。確かに情報通り熊だ。色々と差異はあるが、全体的には熊で間違いは無い。

 口吻を上げ、牙を見せ付けて荒い息を吐き、威嚇するように唸っている。

 そして後ろからぞろぞろと同じ体躯の魔獣が八匹。

『らんくCニ該当スル魔獣ダナ……。名前ハ確カ《カウルドベア》ダッタカ。イケルカ?』

 レミュクリュが飛び上がり、かなり上にある太い枝に降り立つ。

「相手はやる気満々ですよ。レミュさん」

 口調はおどけてみせる九十九だが、すっと腰を落とし、鋼棍を構える。


 森の空気が一段重くなる。九十九の体勢を見た熊集団が一歩前に踏み出して止まる。

 隙だらけに見えた人間が棍を構えた途端に岩のような頑強さと、刃のような危うさを発散させたのだ。

 これが人間同士の闘いならばお互いに隙を伺うように牽制しあうのが普通だろう。だが、相手は魔獣である。

 一匹が叫びながら肉薄してきた。四足による突撃は予想以上に速い。

 爪による攻撃では無く、突撃の衝撃と頭部にある角を使っての殺傷力重視の攻撃。

 九十九はそれを冷静に見ていた。

 身体が生身で契約する前の状態であれば驚き、竦み、恐怖に動けず、死ぬだけだっただろう。

 だが、今は明確に相互の距離が解り、相手の動きが見える。理由は解らないが、集中すると周りの時間が遅くなるような感覚さえあるのだ。

 カウルドベアの突撃をサイドステップで避け、地面に足が付いた瞬間、通り過ぎていく頭部に鋼棍を突き出した。

 鈍い打撃音が響き、カウルドベアが足をもつれさせて大木に激突して止まった。

 一瞬の攻防だった。レミュクリュでさえ驚くほどの一撃。

 感嘆の声を掛けようと思ったが、それどころでは無いようだった。残っているカウルドベア達が扇上に広がり、九十九を取り囲もうとする。獣並の知能かと思ったが、もう少し高いようだ。

 ゆっくりと横歩きをしながら取り囲むカウルドベアを九十九はその場で動かず、じっとしていた。

 レミュクリュが不安と期待をない交ぜにして、声を掛けるべきかどうか悩んでいた隙に、戦場が動いた。


 九十九の後方右から一匹が躍り出た。さすがに突進は無駄と悟っているようで、鈍足ながらも安定した体勢からの爪撃。九十九が構えを解いて躱す事に専念する。

 右、左、すくい上げるようにと左右から連続の爪撃にまるで次の攻撃を知っているかのように悠然と身体を動かす。

 焦りがあるのだろう。カウルドベアが一歩踏み出し、右の爪撃を振るう。

 大振りの攻撃に九十九は左横へと身体を流し、戻そうとする腕を鋼棍で打ち据える。カウルドベアの身体は頑強な筋肉に厚めの脂肪、さらに剛毛の毛皮と打撃で傷付くような肉体では無い。

 棍で打たれた腕も若干戻すのが遅れた程度でダメージがあるようには見えなかった。

 その若干の隙が命取りとなったのだが。

 戻し遅れた腕の影より顎を目掛けて鋼棍が突き出された。前述のように打撃で傷付くような肉体では無く、例え皮下脂肪の薄い頭部を狙ってもダメージは期待出来ないと思うのが普通なのだ。


 ドン!


 鋼棍が顎下に当たる。それも渾身の一撃には見えないのだが、打撃音は酷く鈍い。

 すっと取り囲まれる中央部に戻った九十九はすでに襲ってきたカウルドベアは眼中に無く、周りの敵に意識を向けていた。

 顎に一撃食らい、動きを止めたカウルドベアが、耳、口、目から血を流してその場に崩れ落ちた。


 レミュクリュが驚愕に口を開けて呆然と見ていた。

 九十九が突き出した鋼棍は特別な魔法はかかっていない。武器屋で買ったばかりの品だ。丁寧な仕事をしたのか丈夫な作りをしているだけだ。

 その棍がカウルドベアの顎を突いただけで血を噴出して死んだのだ。

 棍が顎に当たる瞬間に回転しているように見えたのだが……。


 一対一では敵わないと判断したのか、もしくは仲間を殺された怒りに身を任せたのかもしれないが、残りが集団で襲いかかってきた。

 前後左右からの爪撃は猛攻という言葉では足りないと思わせた。それも味方同士の腕に爪が当たるのも構わず、それぞれが九十九を狙って爪撃を繰り出すのだ。

 屈み、捻り、仰け反り、時折跳ね、カウルドベアの足を踏み台に飛び越えて距離を取り、ほとんどカンフー映画の殺陣。見ていて危ういと思う瞬間も九十九本人からすると十分に避けられる攻撃。

 しばらくの間、取り決められているように繰り返された攻防があり、いくら九十九でも攻撃には転じられないだけなのかとレミュクリュが思った瞬間の事だった。

 少しだけ九十九の口吻が吊り上がり、笑ったように見えた時だった。

 突き出された鋼棍が頭部へ。

 カウルドベアの一匹が血を吐いて崩れ落ちた。

 仲間の死に怒りを感じたのか、より苛烈に爪撃を繰り出すカウルドベアの頭部を突く。血を吐いて倒れる。

 毒でも使っているのかと疑うほどに順番に一匹ずつ頭部を突いて倒していく。

 ついに全てのカウルドベアが動かなくなった。

 周りを警戒し、九十九の力に畏敬を感じながらもレミュクリュが肩に降り立つ。

『ツ、九十九……?』

 恐る恐るといった様子のレミュクリュにゆっくりと構えを解く九十九。

「ふぅ〜……。心が痛むのぉ」

『何ヲシタラコウナルノダ?』

「棍術って言う棒を扱う技術に《纏絲勁てんしけい》と呼ばれる技があるのだよ。その一種なんだけどね。それを使って倒したわけですよ」

 纏絲勁とは螺旋状の捻りを伴った勁力によって全身の勁力を一点に集中させて破壊力を高める身体運用法の一つである。様々な方法があり、一概には言えないが、基本的には歩法による力の集約とそれを身体の末端、もしくは今のように武器を所持している時は武器の先端まで集約した力を欠損する事なく伝達する技術である。

 簡単に説明すると棍を突き出す動作に捻りを加える事で、威力を拡散させずに一点に集中させて殺傷力を増幅させたのだ。


 九十九の説明に顎に手を置いていちいち頷く。よほど興味があるのだろう。カウルドベアの顎や頭部には鋼棍が穿った穴があり、その先にある頭蓋骨は粉砕されている。それだけの衝撃であれば脳髄も粉々になっているだろう。

 足元にあった木の枝を持ち、一生懸命に言われたまま実践し、なるほどなるほどと頷いている。

 その間、カウルドベアの角を棍でへし折り、束ね始めた。

「……うしっ、これで全部だな。レミュ、こいつらの肉って旨い?」

『コウミエテモ食ベ物ニハコダワリガアルノダヨ。コイツラノ肉ハ筋バカリデ旨クナイゾ』

「そーですか。んじゃ戻りましょうかね」

 他愛も無い話をしつつ、成功の報告と確認をするため、村長の家に向かうのだった。





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