二部 第9話
ナイフが空気を切り裂き、屈んで躱して投げナイフを投擲した男に肉迫した。
男は腰からショートソードを抜き、首筋を狙って薙ぐが、鋼棍で遮って右の中段蹴り。脚甲による蹴り足はまともに当たれば骨を折るに十分な威力を発揮するのだが、男は予期しているかのようにバックステップで避けた。
九十九は鋼棍を構えて気を張る。
無表情で人間の急所を狙う男達の攻撃は鋭いの一言に尽きる。特に人間を斬るというよりも殺すという感覚に忌避感を持っていないようで、一切の躊躇いが感じられない。
ただ、殺すという事に特化しているためか、狙いが全て人間の急所を狙ってくるため、守るべき場所が特定されて防御しやすいのが救いだ。
救いなのだが、殺気も敵意も無く、たんたんと襲い掛かる投げナイフやショートソードは避け辛い。それを一度でも当たらないように避け続けているのだ。
失敗が許されないために精神的にきつい。
特に今の九十九は他人を傷付ける事にトラウマを抱えてしまっている。
トラウマによる嘔吐感、油断無く襲い掛かる男達との内と外から攻め立てる二重苦に鋼棍を構える九十九は正直参っていた。
人形のように意思が感じられない十数人の視線が、隙を伺うように取り囲んでいた。
地面に転がるのは最初に倒した二人の男の他に三人。
他にも数人に攻撃は当たっていたが、致命傷を与える事は出来ず、軽症で戦闘不能にするという矛盾に挑戦中だった。
そんな九十九の事情を差し引いても、男達の連携は巧みで鋭い。
影のように近寄った男が、腰から抜いた剣で斬りつけた。躱し、反撃しようと鋼棍を持ち上げた瞬間に目の前の男が首を傾げ、空いた空間から不意打ちにも似たタイミングで投げナイフが迫る。
一歩間違えれば仲間の頭に刺さっていた投げナイフが、目標を九十九の額へ向けて突き進む。
反撃に転じようとした鋼棍を即座に盾として投げナイフを弾くと、それを隙だと判断した男が剣を突いてくる。が、九十九は身体を捻り、サイドステップで間合いを取って鋼棍を男の肩へ振り下ろした。鈍い音を響かせて膝を折った男の側頭部を鋼棍で強打し、意識を奪った。
やっと一人を戦闘不能に追い込んだが、周りにはまだまだ敵は多い。
遠近両面での連携を断ったと思っていたが、すぐに代わりの男が現れた。今度は二人だ。
左右から斬りつける剣を鋼棍で押さえ、流し、弾く。
左右の男に意識を向けていると判断した男が懐から投げナイフを取り出すと、九十九の首筋へ向けて投げた。
男達も形振り構ってられないのか、戦い方を変えた。
一撃必殺では無く、確実なダメージを負わせて弱らせる事にしたのだろう。
剣を振り下ろし、躱された後の追撃に蹴りを放つ。
九十九は腹部を狙った蹴りを押さえつけようとしたが、首筋に悪寒が走り、瞬時に鋼棍を地面に突き差して作り出した反動を利用して上空へと跳ねた。
眼下を投げナイフが通り過ぎ、蹴り足が鋼棍を薙いで支えを失った九十九が地上へと落ちる。
だが、何もせずにただ落ちるわけにはいかない。敵は攻撃方法を変えてまで殺しに来ているのだ。こちらも全力で隙あらば戦闘不能に持ち込まなければならない。
落下途中で右側の男の脳天に膝を突き刺し、身体のバランスを崩しながらも左側の男の喉へ拳を入れた。
脳への衝撃と呼吸不全によって二人の意識を刈り取った。
順番があるのか、停滞無く二人の男がショートソードを抜いて斬りかかり、残りが投げナイフを構えて隙を伺う。
頭上でホバリングしながら様子を伺うレミュクリュはやきもきしていた。
順調と言えば順調だった。だが、どれも紙一重の綱渡りのようなもので、一瞬でも天秤が傾けば地面に転がるのが九十九になりかねない状況だ。
どうしようかと悩んでいると、ビトーに動きがあった。
右手を挙げると、剣を振るう二人の男がバックステップをして大きく間合いを取る。
九十九は訝しげに取り囲む男達を警戒していた。
油断無く構える九十九に、
「何してんだ?」
ビトーが問いかけるが、九十九は返答出来なかった。警戒していたのもそうだが、実は驚いていたのだ。
視線を向けるビトーは別人と思うほどに顔を赤く染め、身体を震わせていた。
「てめぇは俺達を嘗めてんのかッ!!」
怒号。
ビトーは殺し殺される世界で今まで生き抜いてきたのだ。
勝ち続けているから生きる事ができる。一度でも負ければ死あるのみ。周りに居る配下にはそう教えてきた。
ビトーの世界ではこの二元論が全てだ。その中間は無い。
その生き方を侮辱されたと感じていた。目の前の少年は、配下の攻撃を避けるたびにその世界に泥を塗りたくっているように見えた。敗者には死を与えるのが勝者の義務だからだ。
「殺し合いの最中に敵に情けをかけて人助け、しかも殺さないように手加減しやがって……そんな覚悟で俺達に喧嘩を吹っかけたのかッ!」
ビトーの震えは止まらなかった。少年が裏の世界に身を置く大人に逆らう事すら万死に値するのに、目の前の少年は逆らう事だけではなく、力で退けもしたのだ。
ビトーは今までの人生で最も怒り狂っていた。
だが、少年はビトーの豹変した姿を見ても、交戦していた時と変わらずに棒を持ったまま動かなかった。
ビトーの射抜くような視線を受け続けていたが、不意に九十九は構えを解いた。
「おっさんがどう考えて、どうしたいのか理解出来た。だが、それを俺に押し付けてんじゃねぇよ。俺は俺の生き方がある。譲れない拘りもある。心に決めた事がある。
それを捨てるつもりはねぇんだよ。おっさんが、おっさんの理屈で俺と争うってなら、俺は俺の理屈で応戦する。それだけだ」
元より互いの立ち位置に歩み寄る道は無いのだ。片や裏の世界でも端にある闇とも言える居場所であり、片や表の世界ですら甘いと言われる稀少な場所に立っている。距離は圧倒的に離れている上に両者の間には埋められない、深い溝が横たわっている。
相互理解が出来るとは思えないし、歩み寄っても亀裂はどうにも出来ないだろう。
簡単に言うならば、この戦いは互いの立ち位置を力でねじ伏せて無理やり頷かせる、どちらかに服従させるための戦いだ。
怒りに満ちた視線と信念に満ちた視線がぶつかる。
そして、もう交わす言葉は無いとばかりに九十九は鋼棍を構え、忌々しげにビトーは睨み続けながら、配下へ再攻撃を命じた。
男達の猛攻が繰り返されていた。
すでに余裕を持って回避するほどの力が無いのか、ぐらりと身体が揺らぎ、剣を避けきれずに腕に裂傷を刻み付けられた。
精神的な重圧と肉体の疲労が重なり、体力が限界に近いのだ。
浮かぶレミュクリュはギリギリまで待つと言ったが、どこをギリギリと判断するか、悩んでいた。
すでに九十九の身体は限界。これは理解しているが、それでも戦おうとする意思を感じるのだ。
身体を支える足が震えているのも見えている。だが、それでも応戦し、退け、躱す。
一瞬、ほんの一瞬だけ九十九の視線がレミュクリュを射抜く。
明らかに手助けを拒否している。
レミュクリュは九十九の気持ちを優先したいという思いと、これ以上怪我をさせるわけにいかないという思いに挟まれて動けずにいた。
それからも数分間は同じ事が繰り返されていた。
身体には裂傷を増やし、新しく買ったばかりの黒革のジャケットは切り刻まれてボロボロになっている。
そろそろ我慢出来なくなっていたレミュクリュが降りようと考えていた時だった。
あれほど無表情だった男達の間に動揺らしき意識が見て取れた。
徐々に斬り刻まれ、足元もおぼつかなくなっていた九十九だったが、なぜか身体のキレが戻ってきていた。
数秒前までギリギリ皮膚を斬っていたであろう攻撃を難なく回避し、身体を捻って受け流していた攻撃を躱す。
レミュクリュの眼には見えていた。
九十九の身体を包み込む魔力がどんどん強くなっているのだ。普段は薄っすらと纏っているような魔力が分厚く、螺旋を描いて太く纏わり付いて行く。
男達の目にはどう映るだろうか。
先ほどまで体力を削り、そろそろ止めかと考えていた矢先に、最初の頃の体力があった時のような動きに戻ってきているのだ。
本気になったと思うのだろうか。何か別の力が加わったと思うのだろうか。
それはともかくとして、レミュクリュは薄ら寒く九十九を見ていた。
螺旋を描く魔力がロープのように太く、流れも濁流の如く速くなって身体全体を包み込んでいたのだ。
まるで動かなくなった身体を魔力が無理やり動かしているようにも見え、そしてそれが九十九の意思ではなく、魔力の暴走に見えたのだ。
右に居る男が振り下ろす剣を鋼棍で支え、一瞬の膠着状態を作り出し、がら空きになった男の左頬に硬く握った右の拳を叩き付けた。
押さえようとしたのだろう。空いた左手をかざしたのだが意に返さずに殴り付け、顔面に大きな衝撃を食らって仰向けに倒れた。
伝説の白竜の加護を受け、一角狼を一撃で葬る拳だ。左手如きで防ごうとするのは無謀でしかない。
左に居る男が剣を斬り上げたが、半身になって仰け反るように躱すと、お返しとばかりに後方宙返りと共に蹴り上げて男の顎を蹴り砕いた。
着地と同時に投げナイフが四方から迫るが、鋼棍を風車のように回して全て弾き飛ばした。
前衛の二人を打ち倒され、代わりの男が背後から剣を抜いて迫るが、とんと軽く跳ねながら振り向き、足を高く上げて振り下ろした。
九十九の母親が最も得意としたらしい必殺技で、一度九十九自身が受けた事がある技だ。
今まで剣の攻撃は回避するか、鋼棍で防いでいたために、カウンターで大技をかぶせてくるとは思わなかったのだろう。
脚甲を付け、白竜の加護も受け、さらに最大級の遠心力を加えた文字通り必殺の踵落としが、男の左肩へと打ち下ろされた。
明らかに九十九の信念に矛盾する攻撃だった。
当たれば左の鎖骨を折り、左の肺を裂き、心臓を押し潰し、顔面から地面に叩き付けるほどの威力があるだろう。
だが、現実は異なっていた。
左の鎖骨を折った瞬間に何かが足を支えたのだ。
人型になり、白銀の鎧に身を固めたレミュクリュである。
「くっ…………」
九十九の母が得意としていた技だと受けてから気づいた。そして、その威力に驚愕を隠せなかった。実際に受けて分かったが、この技が決まればたとえエルでも倒せてしまうだろう。威力を高めるという一点において利に適っているのだ。弱点としては予備動作がとても大きいというところか。
レミュクリュは両腕を交差し、振り下ろされる脚甲を手甲で支えながら思ったのだ。
脚甲と白銀の手甲がぶつかり、火花と共に不快な金属音がした。
鎖骨を砕かれるだけで済んだ男が起き上がろうとするが、レミュクリュが顔面を蹴り上げて意識を奪った。若干容赦の無い一撃で、鼻骨は確実に折れた。
「レミュ、手を出すな、離れろッ!」
「落ち着け九十九。これ以上は傷を広げてしまうぞ!」
身体の傷では無い。心の方だ。
レミュクリュの言葉に何か気づいた九十九は足を下ろした。
そして、周りに横たわる男達を見て、戦いで熱を持っていた身体が一瞬で冷えた。
死屍累々とも言えるほど男達が倒れている。誰一人として死んではいないが、九十九にの脳裏にあの出来事が蘇る。
無造作に投げ出された千切れた足が。
本来、見えるはずが無い、湯気を立てた内臓が。
床や壁一面を赤く塗り潰した血液が。
破られた服と共に転がる腕が。
虚ろな表情を貼り付けた首が。
込み上げるものを九十九は我慢出来なかった。
身体を折り曲げ、吐き出す。
レミュクリュがその背を撫でた。
撫でながら、レミュクリュがビトーを睨み付けた。
ビトーは驚いていた。
白竜の子供だと思っていたが、人型に化けるという事実に。最後の簡単に配下を沈めていく少年の姿とその後に耐えかねたように嘔吐する姿に。
そして、睨み付けられた瞬間に脳裏に逆らえば捕食されると強制的に思わされた事だ。
魔術の中には《催眠》や《暗示》といった呪いに分類される魔法がある。
だが、レミュクリュの一睨みはそれら以上に強力で抗えない命令を本能に叩き付けたのだ。
狩る者と狩られる者というものが心のどこかにあるのかもしれない。
「お、おまえらはいったい……」
縛り付けられたように動けないビトーがかろうじて声を出す。
「我々の事をおまえに教えるつもりは毛ほども無い。詮索は一切許さん。九十九の知りたい情報を教えよ。今回はそれで許してやる」
レミュクリュが威嚇するように喉を鳴らした。
食いしばる歯の隙間から硫黄臭い黒煙が上がっていた。
腹に据えかねているのだ。トラウマを抱えた九十九をここまで追い詰めた者が生きているという事実に。殺めたいと思った。だが、それは九十九の信念に反するために我慢せざるを得なかった。
「くっ……き、金貨二千枚でおしえ──」
レミュクリュが背を撫でるのを止め、立ち上がった。
「もう一度だけ言う。必要な情報を言え」
ただその場に立つだけだが、反射的に平伏しそうになり、ビトーは堪えた。
女王様然とした雰囲気は、玉座に座れば大国を統べていても違和感が無く、地下室など少ない明かりの中立って居れば、虐げられる事に無類の喜びを持つ人々の希望の星になるだろう。
ビトーはゆっくりと時間を掛けて歩み寄る女王から逃れられなかった。顔を背ける事が出来なかった。それでも情報を話す事はしなかった。裏の世界で情報を身の安全のためにしゃべる事は三流のする事で、自分は一流であると自負しているからで、組織で人を束ねる立場でもあり鉄の掟に順ずるという矜持があるからだ。
「その態度は人であれば褒められる事なのかもしれんが……愚の骨頂だぞ。
言わぬのであればそれで良い。直接お前の頭から情報をもらおうか。なに、死にはせぬよ」
しゃがみ込むと倒れている男の頭にすっと右手を差し出した。ゆっくりと頭に触れた途端、ずぶりと指が頭の中に埋没した。頭蓋骨の抵抗は一切無い。水に指を付けるような軽さだった。
気絶し、意識が無かった男の目が全開になり、口をだらしなく開け、
「あぁぁぁ…………あぁああぁぁぁ………………ぁぁぁぁあぁぁああぁぁあああぁぁぁあああああぁぁあぁああああああああああああああああっっっっ………………」
見ていられない光景だった。獣でもこれほどの声は出さないだろう。恐怖に怯える魔物でもあり得ない。レミュクリュの指が動かされるたびに身体を痙攣され、眼球が上下左右とせわしなく動き回り、舌がのた打ち回るように動き、言葉にもならない声を漏らすのだ。
「ふむ……。名前はたくさんあるの。レンツ、カナト、ミグズ……。裏街に気に入った雌が五人もおるようだな……。雌どももこの雄に媚を売っとるようじゃが、我にはこの雄のどこが良いのかわからんな……」
興味無く呟くと頭からずるりと指を引き抜いた。
ナイフやフォークといった高価な銀食器しか持った事が無いような細い指に粘つく透明な液体が滴っていた。
ビトーは歯の根元から振るえ、カチカチと鳴らしていた。
レミュクリュが立ち上がり、ビトーへと歩を進める。
美しくも冷酷な微笑を浮かべたレミュクリュ。
ビトーは突き出される指とレミュクリュの背後で痙攣している男を見比べる。
あれが数秒後の自分だと思うと震えが止まらなかった。
配下の男が口を開け、音を漏らしている。声では無い。もう人間として生きる事は絶望的だろう。そう思わせるに十分な姿だ。
組織の上には拷問に耐え、指を失い、腕を失い、足を失い、眼を失い、家族を失った者達もたくさん居る。そして、その姿を格好良いと思えた。それだけの苦痛に耐えて組織のために働いた先輩達である。畏敬の念を持って接する事が出来るのだ。
だが、あの状態になってまで隠してどうなるというのだろう。
口から誰も認識出来ない音を漏らす肉の塊になって誰が褒めるのだろう。誰が敬うのだろうか。
男を見ていたビトーの視界が遮られた。細く汚れを知らないと思える白い手が目の前にあった。
「さて、時間はさほど掛からぬよ」
冷たい微笑みを浮かべ、ゆっくりと指が髪に触れ、頭皮に──。
「ま、ま、ま、まて、まて、まて、まてよ、待ってくれ、待ってください。言うよッ!」
あらん限りの力を込めて叫ぶと頭皮から、髪から手が遠ざかった。
視界が広がると驚いているレミュクリュと右手を押さえる手が見えた。それは隣に立つ少年の手だった。
「レミュ。手を出すなって言っただろ?」
「でも、我は──」
言い寄ろうとするレミュクリュの手を握り、
「俺を止めてくれた事には本当に感謝しているよ。でも、手を汚して欲しくねぇんだ。俺の我侭だってのは理解してんだけどね。それでも俺が一緒に居る間は極力頼むよ」
苦笑を浮かべた九十九は憔悴しきっていた。口元には吐瀉物が拭いきれずに付いており、表情は人形のような土気色。体力もほとんど残されていないだろう。魔力の暴走と思われた現象は終息しているようだ。
そのような状態でも、レミュクリュを止めに立ち上がった。
「九十九は甘いッ! ……甘過ぎて我は……私はずっと安心して見てられないわ……」
冷酷だった氷の女王が溶けた。
口元に付いた吐瀉物を汚いとすら思わないのだろう。手で綺麗に拭い取り、頬を撫でた。
その甘い空気を纏った二人を目の前で見せつけられたビトーは、腰を抜かして落ちるように座り込んだ。
九十九は頬を撫でられ続けながらも、ビトーへと向き直る。見下ろす九十九と見上げるビトー。これが今回の戦いを如実に表す状況だ。座り込んだビトーが手を挙げると同時に配下だった男達は得物を納めた。
視界に映る男達の行動に九十九はほっと胸を撫で下ろした。これ以上は体力の限界で動けないし、レミュクリュが動くかもしれなかったからだ。
今は優しく頬を撫でてくれているが、本気になれば九十九以上の手馴れであり、怒らせれば容赦なく冷酷な殺意をばら撒くだろう。それは九十九の本意では無いのだ。
「負けだ。完全に俺の負けだ」
「そうか。それじゃ教えてもらおうかな」
疲弊しているからなのか、見下ろしていながらも嘲る様子も勝ち誇る様子も無い。隣には先ほどとは一転して優しく微笑む美しい女性が頬を撫でる姿に何か思う事があるのか、ビトーは肩を竦めて苦笑を浮かべた。
「一つ、俺が調べた情報じゃないんで確定では無いとだけ心に留めておいてくれ。それでも俺達が命を賭けて調べた情報だから、信頼に足ると自負はするがな……ベサイアってのは……」